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4章
5.世界中に悪と呼ばれようとも
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「私の本気を理解していただけましたか?」
フェアリーは俺の肩に座ると、俺の頬に擦り寄る。そして、開きっぱなしの扉からぞろぞろと姿を現したのは、俺が創った魔法生物たちだ。そして、互いの魔法生物が執務室で対峙する。
「……なるほど。お前には、躾の痛みが足りなかったようだ。リティ」
ムルダムは呆れたような声を上げると、リティを一瞥する。すると、リティの体は小さく跳ね、そのまま俯く。表情は変わらないが、俺には躊躇っているように見えた。
「──リティ」
俺が名前を呼ぶと、すぐにこちらを見る。その瞳の奥は深い悲しみに染まっており、それが段々覚悟を決めたような表情へと変わっていく。
そうだ、リティは従うしかない。ムルダムの言葉に逆らうということは契約違反になる。
ムルダムは冷えた目を黙って俺に向けている。こうして俺が魔法生物を連れて、敵対しても彼に焦りはない。当然だろう、ムルダムの優位は一切揺らいでいない。
俺が魔法生物を味方につけたところで、この屋敷にいる魔法生物の数には到底及ばない。俺が創り続けたこの屋敷にいる魔法生物たちは、全員がラクトフェル家の当主であるムルダムに仕えている。そういう契約を彼らと結んだ。
──それでいい。別に、俺も今いる魔法生物たちだけで勝てるなんて思っていない。
彼らは目的を果たすまでの間、俺を守ってもらうためのいわゆる護衛だ。
「リティ。お前が契約で仕えている相手は誰だ」
「……わ、私が契約でお仕えしているのは旦那様……ムルダム・ラクトフェル様です」
「違う」
俺が間髪入れずに否定すると、リティは困惑したような表情を浮かべた。
今にも倒れそうな体に鞭を打って一歩だけ、前へ進む。そして、リティだけではなく、この場にいる魔法生物全てに言い聞かせるような声を出すためにぐっと腹部に力を込める。
「──お前たちが、契約した相手はラクトフェル家の当主だ」
俺の言葉に誰もが耳を傾け、目を離さない。
俺が書いた契約書だからこそしっかり覚えている。ラクトフェル家にいる魔法生物たちが契約しているのは個人ではなく〝ラクトフェル家の当主〟なのだ。
これは永い時を生きる魔法生物との契約だからこその文面であり、ムルダムさえ気にしていない一文だ。しかし、これが俺にとっては唯一つけ込むことができる箇所なのだ。
「リティ、お前に問おう。お前は何をもって、ラクトフェル家の当主として認める?」
同じラクトフェルの名を持つものが揃っているとして、選ぶ基準は何か。それは、頭脳か? 爵位か? 歳か? 見目か?
きっとどれも正解で、どれも間違いだ。なぜなら彼らは、自分の意志で選ぶことができるからだ。
これが初代ラクトフェル伯爵が創った魔法生物であれば、話は違っただろう。彼らは意志もなく何も考えることなく、ただ事実として今伯爵の座についているムルダムを選ぶはずだ。
けれど、彼らは違う。
俺は、創った魔法生物たちに初代ラクトフェル伯爵でさえしなかった自分の意思を与えた。それは自分で嫌なことを言えるように、多くある選択肢を自分で選び取れるようにしたかったからだ。
俺は、この場にいる魔法生物全員に目を向けてから、自分の存在を誇示するように両腕を上げる。
「お前たちは、主を選べる。その権利を私が創り、与えた。この場にラクトフェル当主になれる資格を持つ者たちがいる。自分で考え、自らの意志で答えを出しなさい」
選ぶことは、契約違反にはならない。しかしこれらは、きっとこの国では許されない行為と言葉だ。魔法生物は機械と同じ存在であり、自ら判断することは許されない。その在り方を今、俺は変えようとしている。
いつの日か、彼らに意志を与えた許し難い大罪人として俺が裁かれる日が来るかもしれない。それでも俺は、世界中に悪とされても、手を伸ばしたい人がいるから。
──俺は退かないと、もう決めたんだ。
その覚悟を決めて、目に映る全てを睨みつける。そして、自分の胸に手を当てて、大きく息を吸う。
「──さあ! お前らが仕えるべきラクトフェル当主は、誰だ!」
執務室に、覚悟と断固とした意思を込めた俺の声が響き渡る。背筋を真っ直ぐ伸ばして、俯くことは決してせず、魔法生物たち全員に視線を向ける。
俺の言葉の後に続くのは静寂だ。一瞬の静けさの後、それを破ったのは笑い声だった。
「っふ、ははは……」
フェアリーは俺の肩に座ると、俺の頬に擦り寄る。そして、開きっぱなしの扉からぞろぞろと姿を現したのは、俺が創った魔法生物たちだ。そして、互いの魔法生物が執務室で対峙する。
「……なるほど。お前には、躾の痛みが足りなかったようだ。リティ」
ムルダムは呆れたような声を上げると、リティを一瞥する。すると、リティの体は小さく跳ね、そのまま俯く。表情は変わらないが、俺には躊躇っているように見えた。
「──リティ」
俺が名前を呼ぶと、すぐにこちらを見る。その瞳の奥は深い悲しみに染まっており、それが段々覚悟を決めたような表情へと変わっていく。
そうだ、リティは従うしかない。ムルダムの言葉に逆らうということは契約違反になる。
ムルダムは冷えた目を黙って俺に向けている。こうして俺が魔法生物を連れて、敵対しても彼に焦りはない。当然だろう、ムルダムの優位は一切揺らいでいない。
俺が魔法生物を味方につけたところで、この屋敷にいる魔法生物の数には到底及ばない。俺が創り続けたこの屋敷にいる魔法生物たちは、全員がラクトフェル家の当主であるムルダムに仕えている。そういう契約を彼らと結んだ。
──それでいい。別に、俺も今いる魔法生物たちだけで勝てるなんて思っていない。
彼らは目的を果たすまでの間、俺を守ってもらうためのいわゆる護衛だ。
「リティ。お前が契約で仕えている相手は誰だ」
「……わ、私が契約でお仕えしているのは旦那様……ムルダム・ラクトフェル様です」
「違う」
俺が間髪入れずに否定すると、リティは困惑したような表情を浮かべた。
今にも倒れそうな体に鞭を打って一歩だけ、前へ進む。そして、リティだけではなく、この場にいる魔法生物全てに言い聞かせるような声を出すためにぐっと腹部に力を込める。
「──お前たちが、契約した相手はラクトフェル家の当主だ」
俺の言葉に誰もが耳を傾け、目を離さない。
俺が書いた契約書だからこそしっかり覚えている。ラクトフェル家にいる魔法生物たちが契約しているのは個人ではなく〝ラクトフェル家の当主〟なのだ。
これは永い時を生きる魔法生物との契約だからこその文面であり、ムルダムさえ気にしていない一文だ。しかし、これが俺にとっては唯一つけ込むことができる箇所なのだ。
「リティ、お前に問おう。お前は何をもって、ラクトフェル家の当主として認める?」
同じラクトフェルの名を持つものが揃っているとして、選ぶ基準は何か。それは、頭脳か? 爵位か? 歳か? 見目か?
きっとどれも正解で、どれも間違いだ。なぜなら彼らは、自分の意志で選ぶことができるからだ。
これが初代ラクトフェル伯爵が創った魔法生物であれば、話は違っただろう。彼らは意志もなく何も考えることなく、ただ事実として今伯爵の座についているムルダムを選ぶはずだ。
けれど、彼らは違う。
俺は、創った魔法生物たちに初代ラクトフェル伯爵でさえしなかった自分の意思を与えた。それは自分で嫌なことを言えるように、多くある選択肢を自分で選び取れるようにしたかったからだ。
俺は、この場にいる魔法生物全員に目を向けてから、自分の存在を誇示するように両腕を上げる。
「お前たちは、主を選べる。その権利を私が創り、与えた。この場にラクトフェル当主になれる資格を持つ者たちがいる。自分で考え、自らの意志で答えを出しなさい」
選ぶことは、契約違反にはならない。しかしこれらは、きっとこの国では許されない行為と言葉だ。魔法生物は機械と同じ存在であり、自ら判断することは許されない。その在り方を今、俺は変えようとしている。
いつの日か、彼らに意志を与えた許し難い大罪人として俺が裁かれる日が来るかもしれない。それでも俺は、世界中に悪とされても、手を伸ばしたい人がいるから。
──俺は退かないと、もう決めたんだ。
その覚悟を決めて、目に映る全てを睨みつける。そして、自分の胸に手を当てて、大きく息を吸う。
「──さあ! お前らが仕えるべきラクトフェル当主は、誰だ!」
執務室に、覚悟と断固とした意思を込めた俺の声が響き渡る。背筋を真っ直ぐ伸ばして、俯くことは決してせず、魔法生物たち全員に視線を向ける。
俺の言葉の後に続くのは静寂だ。一瞬の静けさの後、それを破ったのは笑い声だった。
「っふ、ははは……」
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