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4章
8.ものとしてできること2
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これは俺の予想だが、この建国祭とは皇帝が寵愛者の力を貴族たちにかける為の場なのだろう。だからこそ当主しか呼ばず、彼らが無意識に皇帝を崇愛するように仕向けるのだ。そして、貴族たちは皇帝の言いなりになる。
だからこそ、俺はこの場にいる一人も逃すわけにはいかない。
俺が思い出すのは闇夜の中で立ち上る赤い炎だ。魔法生物たちが城を取り囲み、全てを燃やしたあの夜。
彼らがあれを起こしたのは、サタリアを殺した原因全てに復讐すると誓ったからだろう。城にいる皇帝、メラニー、そして騎士たち、その全てを消そうとした。だったら、あの光景を俺が起こせばいい。
冷めた瞳でこの場にいる面々の顔を、覚えるように一人一人見つめる。この国の腐った皇族も、操られるだけの貴族も。
──全て、今日俺が氷の中で眠らせてやればいい。
そのためには、建国祭は絶好の機会だった。そして、建国祭に入るためには皇族所持の魔法生物になるしかない。
だから、サタリアの元を去るしかなかった。
……でも、俺は知っていたし、本当はわかっていた。
メラニーとサタリアが出会った時に、俺はサタリアから離れて守る行動を取るべきだったのだ。
しかし、それをしなかったのは───ただサタリアの側にいたかった。
立場も、出会い方も変わったが、やっぱりサタリアは何も変わらなくて。
相変わらず、俺の体を心配して、俺のために怒って、俺のためにさえ身を挺して庇おうとする。いつだって人として見てくれたあの人が、欲しくて、大切で、おかしくなるくらい愛しくて仕方なかった。
でも、所詮〝もの〟でしかない俺があの人のために出来ることは、こんな血みどろなことだけだ。ただのキメラである俺は、権力も富も地位も持ち合わせていない。
けれど、俺はサタリアを助けるためなら、なんでもする。世界を敵に回しても、サタリアだけは助ける。
どうせ元から俺の手は血で汚れている。やり直す前は復讐のために、幾人もこの手にかけてきた。
前のサタリアが背負ったあの覚悟も苦しみも悲しみも、あの人にはもう二度と背負わせない。代わりに全部俺が背負う。恨みも、罪悪感も、手を汚すのも、俺だけでいい。
「それにしても、ラクトフェル伯爵はまだ来ないのか」
「ああ、まだですね。私も魔法生物の依頼についてお話したかったのですが」
キメラになったことによって、人より優れた聴覚は些細な話し声も拾うことができる。先ほどから聞こえてくる会話を拾う限り、ムルダムはまだ来ていないようだ。
──ああ。ムルダムだけは、サタリアを傷つけたあいつだけは……氷漬けにして終わりなんて生ぬるいことはしない。
それはムルダムに対する個人的な恨みというよりも、サタリアに手を出したことがずっと許せなかった。前の時も、サタリアの日記から幾度も手を上げられていたことは知っている。
小さい鞭で痛めつけられたことを何でもないようなこととして書かれていたが、父親が息子にすることではない。だからこそ、奈落の底へ突き落とす準備は出来ている。
「……ラクトフェル伯爵のご入場です!」
だからこそ、その名前が呼ばれた瞬間真っ先に扉へと目を向けた。そして、見つめる先でゆっくりと扉が開かれた瞬間、ざわめきが広がった。
そこに姿を現したのは──棘のような美貌と冷ややかな雰囲気を纏ったサタリアだった。
「……な」
俺が声を失っている間にサタリアは、堂々と会場に入ってくる。歩く度に彼の艶やかな黒髪はさらりと揺れ、身に纏う礼装は他の貴族のものよりも簡素で装飾は少ない。しかし、目を捉えて離さない圧倒的な存在感を放っているのは、気品を感じさせる立ち振る舞いのせいだろう。
多数の視線を受けながら怖じ気づくことなく優雅に歩む姿は、まるでこの場の誰も自分には逆らえないといったような自信と冷ややかな威厳が漂っていた。
──なぜ、サタリアがここにいる!
俺は思わず手すりを掴んで身を乗り出し、階下を見つめる。サタリアはある程度進むと、その足を止めた。
「皆さん、お騒がせして申し訳ありません。なぜ私がここに来たのかと疑問を抱く方もいらっしゃるかと思いますが、諸事情から爵位を父から譲り受けました」
サタリアは、落ち着いた声で語り出しながらこの場にいる者たちの顔をゆっくりと見渡した。その桔梗色の瞳は鋭く危険な色香を孕むような眼差しで、目が合った者は視線を逸らせない。
「改めまして、私サタリア・ラクトフェルが伯爵となります。若輩者ですが、どうぞよろしくお願いいたします」
サタリアは、作法に従ったお辞儀を堂々と周りに見せつける。その大勢の貴族を前にして、若き当主が狼狽える様子などおくびにも出さない姿に自然と拍手が向けられる。
サタリアは、その拍手を当然のように受け止め立っていた。そんな彼を見た魔法生物たちが、自分たちの主の登場に歓喜しているのがわかる。
そんな姿を目にしながら奥歯をぐっと噛み締め、俯く。まずい、このままではメラニーを殺すことができない。
個々を凍らせていては、誰かに逃げられる。この場にいる全ての人間を一気に凍らせてこそ、この国を終わらせることができるのだ。
そして、それほど大規模な力を使うと調整が難しいため、ここにいるサタリアも巻き込む危機がある。
とりあえず、サタリアの位置を把握しようと階下へ視線を戻すと、その時桔梗色の瞳と目が合った。
そうサタリアは、なぜかまっすぐにこちらを見つめていた。
だからこそ、俺はこの場にいる一人も逃すわけにはいかない。
俺が思い出すのは闇夜の中で立ち上る赤い炎だ。魔法生物たちが城を取り囲み、全てを燃やしたあの夜。
彼らがあれを起こしたのは、サタリアを殺した原因全てに復讐すると誓ったからだろう。城にいる皇帝、メラニー、そして騎士たち、その全てを消そうとした。だったら、あの光景を俺が起こせばいい。
冷めた瞳でこの場にいる面々の顔を、覚えるように一人一人見つめる。この国の腐った皇族も、操られるだけの貴族も。
──全て、今日俺が氷の中で眠らせてやればいい。
そのためには、建国祭は絶好の機会だった。そして、建国祭に入るためには皇族所持の魔法生物になるしかない。
だから、サタリアの元を去るしかなかった。
……でも、俺は知っていたし、本当はわかっていた。
メラニーとサタリアが出会った時に、俺はサタリアから離れて守る行動を取るべきだったのだ。
しかし、それをしなかったのは───ただサタリアの側にいたかった。
立場も、出会い方も変わったが、やっぱりサタリアは何も変わらなくて。
相変わらず、俺の体を心配して、俺のために怒って、俺のためにさえ身を挺して庇おうとする。いつだって人として見てくれたあの人が、欲しくて、大切で、おかしくなるくらい愛しくて仕方なかった。
でも、所詮〝もの〟でしかない俺があの人のために出来ることは、こんな血みどろなことだけだ。ただのキメラである俺は、権力も富も地位も持ち合わせていない。
けれど、俺はサタリアを助けるためなら、なんでもする。世界を敵に回しても、サタリアだけは助ける。
どうせ元から俺の手は血で汚れている。やり直す前は復讐のために、幾人もこの手にかけてきた。
前のサタリアが背負ったあの覚悟も苦しみも悲しみも、あの人にはもう二度と背負わせない。代わりに全部俺が背負う。恨みも、罪悪感も、手を汚すのも、俺だけでいい。
「それにしても、ラクトフェル伯爵はまだ来ないのか」
「ああ、まだですね。私も魔法生物の依頼についてお話したかったのですが」
キメラになったことによって、人より優れた聴覚は些細な話し声も拾うことができる。先ほどから聞こえてくる会話を拾う限り、ムルダムはまだ来ていないようだ。
──ああ。ムルダムだけは、サタリアを傷つけたあいつだけは……氷漬けにして終わりなんて生ぬるいことはしない。
それはムルダムに対する個人的な恨みというよりも、サタリアに手を出したことがずっと許せなかった。前の時も、サタリアの日記から幾度も手を上げられていたことは知っている。
小さい鞭で痛めつけられたことを何でもないようなこととして書かれていたが、父親が息子にすることではない。だからこそ、奈落の底へ突き落とす準備は出来ている。
「……ラクトフェル伯爵のご入場です!」
だからこそ、その名前が呼ばれた瞬間真っ先に扉へと目を向けた。そして、見つめる先でゆっくりと扉が開かれた瞬間、ざわめきが広がった。
そこに姿を現したのは──棘のような美貌と冷ややかな雰囲気を纏ったサタリアだった。
「……な」
俺が声を失っている間にサタリアは、堂々と会場に入ってくる。歩く度に彼の艶やかな黒髪はさらりと揺れ、身に纏う礼装は他の貴族のものよりも簡素で装飾は少ない。しかし、目を捉えて離さない圧倒的な存在感を放っているのは、気品を感じさせる立ち振る舞いのせいだろう。
多数の視線を受けながら怖じ気づくことなく優雅に歩む姿は、まるでこの場の誰も自分には逆らえないといったような自信と冷ややかな威厳が漂っていた。
──なぜ、サタリアがここにいる!
俺は思わず手すりを掴んで身を乗り出し、階下を見つめる。サタリアはある程度進むと、その足を止めた。
「皆さん、お騒がせして申し訳ありません。なぜ私がここに来たのかと疑問を抱く方もいらっしゃるかと思いますが、諸事情から爵位を父から譲り受けました」
サタリアは、落ち着いた声で語り出しながらこの場にいる者たちの顔をゆっくりと見渡した。その桔梗色の瞳は鋭く危険な色香を孕むような眼差しで、目が合った者は視線を逸らせない。
「改めまして、私サタリア・ラクトフェルが伯爵となります。若輩者ですが、どうぞよろしくお願いいたします」
サタリアは、作法に従ったお辞儀を堂々と周りに見せつける。その大勢の貴族を前にして、若き当主が狼狽える様子などおくびにも出さない姿に自然と拍手が向けられる。
サタリアは、その拍手を当然のように受け止め立っていた。そんな彼を見た魔法生物たちが、自分たちの主の登場に歓喜しているのがわかる。
そんな姿を目にしながら奥歯をぐっと噛み締め、俯く。まずい、このままではメラニーを殺すことができない。
個々を凍らせていては、誰かに逃げられる。この場にいる全ての人間を一気に凍らせてこそ、この国を終わらせることができるのだ。
そして、それほど大規模な力を使うと調整が難しいため、ここにいるサタリアも巻き込む危機がある。
とりあえず、サタリアの位置を把握しようと階下へ視線を戻すと、その時桔梗色の瞳と目が合った。
そうサタリアは、なぜかまっすぐにこちらを見つめていた。
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