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4章
10.サタリア・ラクトフェル
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俺とメラニー、そして彼女に付き従うようにアルヴェン、三人が向かったのは、会場内にあるテラスだ。
微かな風と外気は、今の俺には心地よい。テラスからは城下がよく見え、生活の灯りがあちらこちらから窺えた。石材で出来た手すりにそっと触れると、夜の冷たさを表すようにひんやりとしていた。
「それで、お話とは何でしょうか。先程も言いましたがアルヴェンはお返しできません」
俺の後ろについてきていたメラニーは警戒心を剥き出して、こちらを睨み付ける。そして、その近くにはアルヴェンも立っていた。
俺はその光景を見て胸の奥に小さな棘が刺さったが、今は無視をする。俺は夜景を背にしながらメラニーと向き合い、口を開く。
「貴方はキメラを、ご存知ですか?」
その瞬間、メラニーの顔が驚きに歪む。その反応からして、メラニーはキメラのことを既に知っているのだろう。そうであるなら、話は早い。
俺はなんでもないように口許を緩めて、手すりに体を預けながら言葉を続ける。
「我がラクトフェル家は、初代以後、祝福者が生まれませんでした。生まれなかった理由まではわかりませんが、その危機に生み出したのが人造魔法生物───ラクトフェル家ではキメラと呼んでいます」
呪術を解除しておいたおかげで、こんなことを口にしても俺には何の影響もない。好きに話せるのは素晴らしいことだと、改めて実感する。当然だが、メラニーは俺の唐突な告白に困惑した様子を隠せない。
「……何を言っているのか、わかっているのですか」
「ええ、もちろんです。これは皇女殿下だからこそお話しています。なぜなら、皇女殿下は……祝福者ですよね?」
原作を読んでいた時から抱いていた疑問、更にサイラの異常とも思える従順さと態度を見れば、疑問に思わない方がおかしい。そうなれば、皇族にも祝福者がいるという考えに至るのは自然なことだ。
そして、物語の一部まで読み終わった俺からすれば、その祝福者はメラニーで間違いないと断言できる。
多分、サイラとシンたちの違いは話をしなかったことだ。
俺が帰ってこないと聞いたシンとチークは慌てて舞踏会を後にした。ただ、サイラだけは先にメラニーと言葉を交わしていた。
だとすれば、話すことによって何らかの影響を与える祝福者である可能性が高い。ただ、なぜか俺にはあまり効かないのが少し気になる。転生しているから、とかなのか。
メラニーは俺の問いかけに対して眉一つ動かすことなく、平然としていた。
「……何を言っているのですか?」
心の底から不思議そうにこちらを見つめるメラニーの表情は、嘘をついているようには全く見えない。演技だとは思うが、優秀な役者といえるだろう。
まあ、認めないのはわかっていたことだ。皇族の秘密ならば馬鹿正直に答えたりはしない。
「まあ、いいでしょう。話を戻しましょう。私が言いたかったのは、今までラクトフェル家に祝福者はいなかったということです」
俺が徐に上げた手に握られているのは予め用意しておいた契約書だ。メラニーは怪訝そうに眉を顰めたが、俺が何をするかわかったアルヴェンの顔色はさっと変わる。アルヴェンはすぐさま俺に駆け寄ってくると、俺の腕を掴む。
「……サタリア、やめろ」
小さく名前を呼ぶ声は固く、俺を気遣っているように聞こえた。だから思わず、目元が緩む。
やっぱり、アルヴェンは俺を裏切っていない。
先ほど、落ち着いてアルヴェンと向き合ってわかった。あの獣のような美しい金色の瞳にあるのは、愛だけだった。
隠そうとしても隠しきれない温かさや寂しさが、その表情に滲んでいて、あまりのわかりやすさに思わず演技を忘れて笑ってしまったほどだ。むしろ溢れるばかりの愛が嬉しくて、少し擽ったかった。
「……アルヴェン」
アルヴェンにだけ聞こえるような小声で、短く名前を呼ぶ。すると、以前と変わらない熱量の籠った瞳に俺が映っている。
「───いつものように、黙って見ていろ」
自分が思う以上に柔らかな声が出てしまう。それでもメラニーに怪しまれないようにアルヴェンの手を乱暴に振り払うと、その肩を強く押して引き離す。
アルヴェンは驚いたように目を見開いて固まった。その隙を見て条件を指定し、力の行使を開始した。
すぐさま、掴んでいた紙に紫色の炎が灯り、手の中で燃え上がる。そして、すぐにそれを消すように力強く握り締めてから広げると、そこから現れたのは全身真っ黒の竜、ブラックドラゴンだ。
といっても、生まれたばかりのため全長は親指サイズしかない。それでも、ブラックドラゴンはこの世に存在することを許されたことを喜ぶようにその翼を激しく動かした。
そして、その存在を見せ付けるように、メラニーの方へ向けた。
「──改めて、ご挨拶を。初代以来初めて生まれたラクトフェル家の祝福者であり、契約者の力をもつサタリア・ラクトフェルです」
胸に手を添え、軽く頭を下げる。すると、それに合わせるようにしてブラックドラゴンが小さく鳴いた。
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