【本編完結】ラスボス系悪役令息が望むのは、原作通りの没落ルート

司馬犬

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4章

11.最後の舞台

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 メラニーは、大きく目を見開いたまま固まる。しかし、その驚愕に染まった表情は、だんだんと陶酔するような微笑みに変わった。それは原作でも見たことのない笑みで、異様な空気を感じて背筋がぞくりと震える。
 
「やはり、貴方が契約者だったのですね」
 
 一瞬、メラニーの表情から感情が消える。いつものような落ち着いた淑女の姿は消え去り、藤色の瞳に歪んだ光を湛えながら俺を静かに見つめる。
 多分これが、メラニーの本性なのだろう。どういうわけかわからないが、メラニーは契約者である俺に興味があるようだ。そして、彼女はゆっくりと俺に近づいてくる。
 
「しかし、ラクトフェル伯爵が真の契約者であろうとも、ラクトフェル家がしたことは大罪です。父上もお許しにならないでしょう」
「……」
「安心してください。父上には、貴方の命だけは助けてもらうように、私からお願い致しましょう」
 
 メラニーは、言い終わると同時に俺へ向かって手を差し伸べる。どうも彼女からすると、俺は助けを求めに来たとでも思っているのだろう。
 確かにメラニーから見たら、俺は急に罪を自白し始めたわけだから、そう思うのは無理もないことか。
 だが、違う。
 俺がムルダムを部屋に押し込めた後に真っ先にしたのは、屋敷にいるキメラを集めることだった。ラクトフェル家を継いだからには、俺は彼らにしなければならないことがあった。
 ──それは謝罪と、自由にすることだ。 
 屋敷にいるキメラたちを集めて、彼らの前に立って自由だと伝えた。しかし誰一人として、その目に生気が戻ることはなかった。皆虚ろな目のまま淡々と聞き入れ、その顔には何の感情も宿っていなかった。
 俺が何度も自由にすることを伝えても、謝罪を伝えても、彼らが大きな反応を示すことはなかった。わかっていたつもりだが、これがラクトフェル家のキメラになるということだと改めて思い知らされた。
 アルヴェンが珍しいケースだっただけで、キメラたちは自由を与えられても動けない。命令され、動くことに慣れすぎている。
 その時、思い出したのがアルヴェンの言葉だった。
『俺はラクトフェル家がただ没落することが、最善じゃないと言ってるだけだ』
 俺はずっと、ラクトフェル家を没落させれば全てが上手くいくのだと思っていた。そうすれば、彼らは自由になって喜んで大切な人の元へ帰っていくのだろうと思い込んでいた。
 けれど、そうじゃない。
 彼らは自由を与えられても帰る場所はなく、帰る意思すらない。それは、まるで初代が創った魔法生物たちのようだった。
 それを見て、没落してキメラたちを放り出して終わりではダメなのだと理解した。ラクトフェル家の人間として、最後まで責任を果たさなくてはいけない。
 ───だから、今ラクトフェル家を没落させる訳にはいかない。
 そのためには、俺の演技にかかっている。ここで上手く演じることが出来なかったら、ラクトフェル家は終わりだ。
 そう痛いほどに理解しているからこそ、喉が渇く。それでも奮い立たせるために拳をぎゅっと握りしめて、胸を張る。そして、胸の奥の罪悪感を決して表情に出さないように意識する。
 ここからだ、これがきっと俺の最後の舞台になる。
 だから、笑え。自分の中で最高の演技で魅せて、騙し切れ。それだけを自分自身に言い聞かせながら、罪の意識など一片もないように口角を吊り上げ、綺麗な弧を唇で描く。出す声の大きさ、低さを意識しながら演技を続ける。
 俺は、メラニーから差し伸べられた手をそっと払い除けた。
 
「皇女殿下は何か勘違いしておられるようですが……お願いはそのことではありません」
「え……」
 
 メラニーの困惑した声に対して、俺は愉しそうに目を細める。
 俺がここに来てしなければならないのは、アルヴェンを止めて取り返すことと、ラクトフェル家の没落を防ぐことだ。しかし、それにはメラニーに、すべてを諦めさせなければならない。
 そのためには、何が必要かをここに来るまで必死に考えた。そして、その結果わかったことは彼女たちが契約者について、あまりにも何も知らないということだ。
 俺は、初代以来の契約者だ。つまり、今までこの国に住む人間は誰も本物の契約者を見たことがなく、どういう力を持っているのかさえ詳しく知らない。そして知らないからこそ、そこにつけ込むことが出来る。
 
「契約者は、契約書に従って生命の欠片と契約を結びます。そして、その契約書に書かれた文言は変更は出来ません。しかし、契約者は生涯で一つだけそこに文を追加することが出来ます」
「追加、ですか」
「はい。そして、私は最初に魔法生物を創った時から追加しておいた文があります」
 
 俺は掌にいるブラックドラゴンを指先で優しく撫でながら、何でもないように抑揚のない声で言葉を続ける。
 そこに焦りも、迷いも見せてはいけない。穏やかな微笑みを保ちながら、眉一つ動かさない。
 
「───私、サタリアをどんなものよりも愛するように、と」
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