桃太郎は、異世界でも歴史に名を刻みます

林りりさ

文字の大きさ
32 / 73

色男

しおりを挟む
 人とコボルトとの世紀の初会談は、ひとまず良い着地点にたどり着いたと感じる。
 ここまで来るのに、この世で一番失ってはいけないものを一度失ってしまったが……まぁ必要な代償だった、かな? イーリス様のご加護様々だわ、あはは。


 昼食を終えた俺たちは、それぞれ別行動を取ることにした。
 ガストンさんは、すぐにギルドへ向かい、緊急クエストの発令と参加者の募集に取り掛かっている。
 エスピアさんも騎士団寮へ戻り、仲間たちに参加の意思を伝えている最中だ。
 二人とも、さすがの手際の早さだ。頼りがいがある!

 アビフ様はというと、日が高いうちは外出が難しいため、お待ちかねの『ガストン・コレクション』をじっくり鑑賞中だ。
 同行したティガ、ボアーズ、ヤーキンも、目を輝かせながら、食い入るように武具やマジックアイテムを眺めていた。

 一方で、アテナさんとララは、中庭で優雅に茶会を開いていた。
 ガストン邸のメイド長・レイラさんに礼儀作法を教わりながら、『紅茶』という香り高い飲み物と甘味を楽しんでいる。
 ——そして俺はというと、再び厨房へと足を運んでいた。
 きびだんごの代用品となる『団子』を作るためだ。

「あぁ、待っていましたよ桃太郎様。材料の準備、バッチリできておりますよ!」
「ありがとうございます、チャットさん。……あ、それと、敬語はいいですよ。名前も呼び捨てで構いません」
「そうですか? では、桃太郎……いや、太郎でも?」

「呼びやすいのでいいですよ」
「じゃあ太郎で! 太郎、材料は全て揃ってるよ。まずは何から始めようか?」
「ええっと……」
 前世で店の手伝いはしていたが、一から何かを作るのは初めてだ。あの時は、母ちゃんの指示に従って、動いていただけだったからなぁ。

 けど今は、頼れるのは自分だけ……何とかしなくちゃ。
 記憶の断片を手繰りながら、美味しい団子を作ってみせよう!
「ええっと、まずはアロスを挽いた粉(上新粉)と、砂糖、水を混ぜてください」
「オーケー! 分量はどのくらい入れるんだ?」

「分量……どのくらい……すみません、わかりません」
「わからないって、作ったことあるんじゃないのか?」
「実は、いつも母が作っていたのを手伝っていただけでして……一から作るのは初めてなんです……すみません」

 伏し目がちに謝る俺を見て、チャットさんはきっと怒っているだろう。
「ふざけるな」という罵倒が飛んで来るに違いない……そう思っていると——
「ワァオ、なんだって⁉ そいつは面白い! じゃあ、フィーリングで作っていこうぜ、兄弟! 太郎が目指してる団子のイメージを僕に教えてくれよ。一緒に試行錯誤だ!」

(ぽ……ぽわわわ~ん)
 怒るどころか、むしろこの状況を楽しんでる……だと⁉
 チャットさん……なんて優しい人なんだ!
 俺は紙に団子の絵を描きながら、ぷにぷにした触感で、ほんのり甘くて、丸い形をした菓子だと伝えた。

「ぷにぷに触感のデザートか……いいね! 他に特徴は?」
「食べると、少しびよ~んと伸びます」
「ワァオ! なんて楽しい食べ物なんだよ、団子ってのは! とにかく、まずは試作だ!」
「お願いします!」


 鍋に目分量で粉と砂糖、水を入れて火にかけてみる……が、一向に固まる気配がない。水を入れすぎたようだ。
 次は水の量を減らしてみたが、今度はカチカチに固まってしまった。
「またダメでしたね……」

「大丈夫! きっと上手くいくさ。……あ、アロス粉が少なくなってきたな。少しの間、鍋を見ててもらってもいいかい?」
「わかりました」
「焦がさないよう、こうやってヘラを鍋底につけたまま、優し~く撫でるように混ぜ続けるんだよ!」

 チャットさんは俺の手を取って、ヘラの動かし方を教えてくれた。
 ち、近いです……チャットさん——
「じゃ、粉を挽いてくるね。すぐ戻ってくるから!」
 チャットさんは走って蔵へと向かっていった。

 言われた通り、鍋の番をしていた俺は、さきほどから体が火照っているのを感じていた。
 にしてもチャットさん、めっちゃ優しくて格好いいなぁ~。ああいうのを『色男』って言うんだな! どうやったら、あんな色気が出せるようになるんだろう……?

 そんなことをぼんやり考えていると——焦げた匂いが鼻を突いた。
「あ、やばっ! めっちゃ焦げてる! 変なこと考えてたせいで、混ぜる手が止まってた……あちゃ~」
 臭いを嗅ぎ付けたのか、チャットさんが慌てて厨房に戻ってきた。

「太郎! すごく焦げ臭いけど、大丈夫かい……って、あ~あ。やっちまったなぁ」
「す……すみません!」
「ちゃんと見ててって言ったじゃんか~。あ、分かったぞ! 好きな女の子のことでも考えてたんだろ~⁉ もう、太郎はおっちょこちょいさんだなぁ」

 チャットさんはにやりと笑いながら、俺のおでこを指先で優しくチョンとつついてきた。
 な、なんだよ……チョンってすなよ……。
「す、すみません。少し体が熱くて、ぼーっとしちゃってたみたいで……って——⁉」

 チャットさんが突然、俺の髪をそっとかき上げ、額に手を当ててきた。
 ファッ⁉ な、なにごと⁉
「うーん、熱はなさそうだけどなぁ。太郎、少し休んでおいていいよ。あとは僕に任せて!」

 チャットさんのキラキラ笑顔と優しい声に、心臓がトゥクンと跳ねた。
 ああっ……その笑顔、まぶしすぎて逆に体温上がりそう……な、なんなんだこの気持ちは……!
「だ、大丈夫です! ちょ、ちょっとお水をもらえたら……」

「オーケー! ちょっと待ってな、すぐ持ってくるよ!」
 失敗も笑って許容してくれて、体調の変化にも本気で気遣ってくれる。あぁ、俺もあんな器の大きい男になりたい!
 ——そう切に思った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

【完結】異世界で神の元カノのゴミ屋敷を片付けたら世界の秘密が出てきました

小豆缶
ファンタジー
父の遺したゴミ屋敷を片付けていたはずが、気づけば異世界に転移していた私・飛鳥。 しかも、神の元カノと顔がそっくりという理由で、いきなり死刑寸前!? 助けてくれた太陽神ソラリクスから頼まれた仕事は、 「500年前に別れた元恋人のゴミ屋敷を片付けてほしい」というとんでもない依頼だった。 幽霊になった元神、罠だらけの屋敷、歪んだ世界のシステム。 ポンコツだけど諦めの悪い主人公が、ゴミ屋敷を片付けながら異世界の謎を暴いていく! ほのぼのお仕事×異世界コメディ×世界の秘密解明ファンタジー

過労死した俺、異世界で最強農業チートに目覚める。神農具で荒野を楽園に変えたら、エルフや獣人が集まって最高の国ができました

黒崎隼人
ファンタジー
「君、死んじゃったから、異世界で国、作らない?」 ブラック企業で過労死した俺、相川大地。 女神様から授かったのは、一振りで大地を耕し、一瞬で作物を育てる**最強の『神農具』**だった!? 右も左もわからない荒野でのサバイバル。 だけど、腹ペコのエルフ美少女を助け、頼れるドワーフ、元気な猫耳娘、モフモフ神狼が仲間になって、開拓生活は一気に賑やかに! 美味しいご飯とチート農具で、荒野はあっという間に**「奇跡の村」**へ。 これは、ただの農民志望だった俺が、最高の仲間たちと世界を救い、種族の壁を越えた理想の国『アグリトピア』を築き上げる物語。 農業は、世界を救う! さあ、今日も元気に、畑、耕しますか!

転生『悪役』公爵令嬢はやり直し人生で楽隠居を目指す

RINFAM
ファンタジー
 なんの罰ゲームだ、これ!!!!  あああああ!!! 本当ならあと数年で年金ライフが送れたはずなのに!!  そのために国民年金の他に利率のいい個人年金も掛け、さらに少ない給料の中からちまちまと老後の生活費を貯めてきたと言うのに!!!!  一銭も貰えないまま人生終わるだなんて、あんまりです神様仏様あああ!!  かくなる上はこのやり直し転生人生で、前世以上に楽して暮らせる隠居生活を手に入れなければ。 年金受給前に死んでしまった『心は常に18歳』な享年62歳の初老女『成瀬裕子』はある日突然死しファンタジー世界で公爵令嬢に転生!!しかし、数年後に待っていた年金生活を夢見ていた彼女は、やり直し人生で再び若いままでの楽隠居生活を目指すことに。 4コマ漫画版もあります。

1歳児天使の異世界生活!

春爛漫
ファンタジー
 夫に先立たれ、女手一つで子供を育て上げた皇 幸子。病気にかかり死んでしまうが、天使が迎えに来てくれて天界へ行くも、最高神の創造神様が一方的にまくしたてて、サチ・スメラギとして異世界アラタカラに創造神の使徒(天使)として送られてしまう。1歳の子供の身体になり、それなりに人に溶け込もうと頑張るお話。 ※心は大人のなんちゃって幼児なので、あたたかい目で見守っていてください。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~

はぶさん
ファンタジー
木造建築の設計士だった主人公は、不慮の事故で異世界のド貧乏男爵家の次男アークに転生する。「自然と共生する持続可能な生活圏を自らの手で築きたい」という前世の夢を胸に、彼は規格外の「木魔法」と現代知識を駆使して、貧しい村の開拓を始める。 病に倒れた最愛の母を救うため、彼は建築・農業の知識で生活環境を改善し、やがて森で出会ったもふもふの相棒ウルと共に、村を、そして辺境を豊かにしていく。 これは、温かい家族と仲間に支えられ、無自覚なチート能力で無理解な世界を見返していく、一人の青年の最強開拓物語である。 別作品も掲載してます!よかったら応援してください。 おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

処理中です...