桃太郎は、異世界でも歴史に名を刻みます

林りりさ

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何回目

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 熊の親子に、改めて謝罪をし終えると、さきほどは聞かなかったことを尋ねてみた。
「旦那さんは、いつ、どこへ向かってから戻ってこなくなったんですか?」

『この子が生まれてすぐの頃に、この先の泉へ餌を取りに行くと言って……そのまま帰ってきませんでした』
「泉というのは、この先にある洞窟の近くにあるのですか?」

『洞窟……? あぁ、あの崖の下の。あそこは凶暴な獣がいると聞いています。私たちは、決して近づきません』
「そうですか……教えてくれてありがとうございました。では、失礼します」

 ——あの洞窟に獣が魔物化する原因があると思っていたが、どうやらそれは見当違いらしい。
 だが、それ以上に気がかりなのは、あの洞窟には、あの大量の魔物以外にも、さらに恐ろしい何かがいる可能性があるという点だ。

「いったい、どうやってあれだけの魔物をやっつければいいんだ……」
 顎に手を当て、思考を巡らせながら歩いていると——
(グギッ!)

「い、痛ってぇ~……もぅ、何回こけたら気が済むねん!」
 浅いくぼみに足を取られ、変な方向に捻ってしまった。
「ん……? 窪み……穴……そうだ!」

 俺は、ふと妙案をひらめく。
 早速、それを皆に伝えようと駆けだそうとした——が。
「い……痛ってぇぇぇぇ‼」

 右足首に激痛が走り、その場に崩れ落ちる。どうやら、骨折してしまっているらしい。
「ど、どうしようこんな時に……。死ぬ前に、足元注意だよ~って自分に言い聞かせたばっかじゃんかよ、俺! ……はぁ、動けない。マジか……」

 そこへ、俺の帰りが遅いのを心配したティガが駆けつけてくれた。
「だ、旦那! どうしたっすか⁉ まさか、また魔物が⁉」
「しーっ! ティガ、ちょっと静かにしてくれ」

「ど、どうしてっす? 魔物だったら、早く応援を——」
「違うんだよ、魔物じゃない……」
「だったら、なんで怪我してるっす?」

 その問いに、俺は顔を背けながら、しぶしぶ答える。
「……こけたんだよ」
「え? なんすか?」

「だから、こけたの! 足元のくぼみに足突っ込んで、転んだの! で、骨折れた……」
 ティガの表情が凍りついた。「え……ダッサ」という言葉を飲み込む音が聞こえた気がした。

「……な、内緒だかんな。他の皆には絶対言うなよ!」
「は、はいっす……」
 俺は再び傷薬を分けてもらえないかと頼んだ。

「薬はまだあるっすけど、骨は……さすがに無理っすね」
 万事休す……。これからあの大量の魔物たちと戦わなければという矢先に、本当に何してんだ、俺は……。

「なぁ旦那。おいらを助けてくれた時に飲ませてくれた、あのすげぇ薬……あれ、もうないんっすか?」
 あの時のことを思い出す。俺は、ボロボロに傷ついたティガに、イーリス様からもらったアレを飲ませた……。

「そうか、エリクサーか! それなら、まだあるよ!」
 アイテムボックスからエリクサーを取り出し、一口飲んでみた。すると——
「う、うまぁ~‼ なにこの甘くてシュワシュワした飲み物!」

「味なんてどうでもいいっすよ、旦那! 怪我の具合はどうなんっすか⁉」
「あ、ごめん。あまりに美味しかったもんで……。イーリス様、この飲み物の作り方教えてくれないかな……なんて」

「なに、ブツブツ言ってるっすか?」
「あぁ悪い、独り言だ。ちょっと肩を貸してくれるか?」
 ティガに支えてもらいながら体を起こす。

「……うん、大丈夫、全然痛くない! よかったぁ~。これであの魔物たちともまた戦える!」
「………………?」

 ティガが怪訝そうに首を傾げる。
 本当は言うべきじゃないのかもしれない……だが、身を挺して俺の命を守ろうとしてくれたティガに、この力を秘密にし続けるのもどうかと感じる。

 少しの間悩んだが、アイテムボックスのことも知っているティガに、今さら隠し続けても仕方ないかと考え、俺は真実を打ち明けることにした。
「実はさ……俺、死んでもやり直すことができるんだ」

「……はぁ?」
 信じられないのも無理はない。
「さっきのベアファングとも、一度戦ったことがあったから、難なくやっつけられたってわけなんだ」

「……なら、そもそもベアファングに会わないルートを通ればよかったんじゃ?」
「それは……無理なんだよ。イーリス様の話だと、運命を根本から変えるのは無理らしくて。戦わないって選択は無理でも、どう戦うかは変えられる。それで、勝てる道を選んだってわけ」

「なるほど……でも、納得っす!」
「理解が早いのは助かるけど、そんな簡単に納得できる話か?」
「いやだってね、急に旦那が的確に指示出すようになったんですよ? おかしいじゃないっすか⁉ でも、一度戦ったことがあったって聞いたら、道理でってなったっす!」

 うーん、貶された感が否めない。でも、ティガの言う通りなので、その意見を否定できない自分が情けなかった。
 死に戻りの事実を伝え終えると、次に迫る脅威についても話した。

「……ってわけで、俺たちはあの魔物たちを一網打尽にする必要がある」
「一網打尽って……どうやるっす?」
「そこで、ティガの出番だ!」

「お、おいらっすか⁉」
 作戦はこうだ。
 まず、ティガに大きな落とし穴を掘ってもらう。

 それから、陽動でヴェルディや、足の速い人たちに、魔物をおびき寄せてもらい、落とし穴へと誘導する。
 首尾よく魔物が穴に落ちたところで、上から石や丸太をブチ込んで一気に叩く。

 我ながら、完璧すぎる作戦に武者震いがする。この震えは、いつぶりだろうか……。
「いいっすね、それ! だったら、その穴に竹槍でも立てといたら、もっと効果的じゃないっすか⁉」

「おお、それ採用!」
 こうして作戦の確認を終えた俺たちは、急ぎ仲間の待つ場所へと戻っていった。
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