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学校の名は
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領主邸へと戻り、広間の扉に手をかけた時だった——
(パチパチパチパチ!)
中から拍手の音が聞こえてきた。なんの拍手だろうか?
「ただいま戻りました!」
「おお、ちょうど良いところに! 朗報だぞ、学校の名前が決まった!」
「学校の……名前? え、まだ建ってもいないですよね?」
「ふふ、そうとも。愚息からこれまでのいきさつを改めて聞いたぞ。君が関わってくれたおかげで、我がテソーロは大きな一歩を踏み出した。その感謝の気持ちも込めて、な」
「そんな大げさですよ。俺なんて、ちっぽけな存在です。ただ、運良く素晴らしい人たちに出会えただけですから」
「そう謙遜するでない。運もまた実力のうちだ」
「そう……なんでしょうか?」
「さて、学校の名前だがな。驚くなよ……その名も——『エスクエラ・デ・メロコトン』だ!」
頭の自動翻訳機能により、『桃の学校』と訳された。桃って……まさか俺の名前⁉
「あの……もしかしてですが……俺の名前に由来してる……なんてことは——」
「その通りだ! 君の名にあやかってな。桃はこの辺りでもよく栽培されておって、我々にとっても馴染み深い果実だ。それに、豊穣の象徴でもある」
「でも、俺なんかの名前を……そんな大事な施設に——」
「謙遜はもうよい。もっと胸を張りたまえ!」
領主様にも怒られた。大人って、やっぱコワイ……ぴえん。
「未来の世代を育む場所。その象徴として、この名はふさわしいと考えておる。どうだ、気に入ったか?」
「……はい。そう聞くと、すごく誇らしいです。ちょっと恥ずかしいけど……ぜひその名前でお願いします!」
「うむ、それで決まりだな。『エスクエラ・デ・メロコトン』を、スラム街開発の目玉にしよう。君にもいろいろと協力してもらうぞ」
「はいっ、全力で頑張ります!」
領主邸を後にすると、冒険者たちはギルドへと報酬を受け取りに行くために、ここで解散となった。
最後まで残っていたフィンが、名残惜しそうに声をかけてくれた。
「リーダー君。お疲れさま。またどこかで一緒にクエストができたら、そのときはよろしくね」
「こちらこそです。フィンさんからは、学ぶところも多かったです。いい経験をさせていただきました。ありがとうございます」
「うん、じゃあ僕たちはポトゴに戻るけど、近くに来たら寄ってよ。食事でもご馳走するから」
「ポトゴって……たしか、港町ですよね?」
「そうだよ。ここらじゃ味わえない、新鮮な魚介類が山ほどある。きっと気に入るよ」
「絶対行きます! その時はよろしくお願いします!」
「楽しみにしてる。じゃ、頑張ってね!」
Aランクパーティか……やっぱかっけぇ~。俺もいつかは、もっと強くなって、誰かの役に立てるような存在になりたいな。
俺は、コボルトたちと一緒にガストン邸へと移動した。今日は、ここに泊めてもらえることになっている。
「チャットさん、ただいまです」
「おかえり、太郎。よく頑張ったみたいだね!」
そう言って、俺の頭を優しく撫でた。
……もう、なでなですんなよぉ~。でも、ちょっぴり嬉しい。
「あ、ありがとうございます」
「疲れただろ? 甘いものでも食べるかい?」
「いえ、今は大丈夫です。でも、あの……チャットさん」
急に言葉が詰まってしまった俺を、チャットさんは心配そうに見つめる。そして、あの時と同じく、額に手を当てようとしてきた。
「ん? どうしたんだい? もしかして、また熱でも——」
「ね、熱はないです! 元気です! 元気ですから!」
「そっか。じゃあ、なにか言いたいことでもあるのかな?」
「はい。あの……」
俺は思いのたけを精一杯込め、チャットさんに向かって叫んだ。
「チャットさん! 俺を、弟子にしてください!」
「で、弟子だって⁉ ……ふふっ。何事かと思ったら、そんなことか」
「そんなことって、俺は本気でチャットさんの下で、もっと学びたいと思ってるんです!」
「うーん……、気持ちはありがたいけど、僕は弟子を取るような立派な人間じゃないから——その申し出は、お断りします」
(ガーン!)
ふ……振られた——
「それに、太郎にはもっとやらないといけないことがあるんじゃないのかい?」
「それはそうかもですが……」
「弟子とは認めないけど、友達としてなら、これからも料理のこととか、色々と教えることはできるだろうけどね」
「チャットさん……」
友達。その言葉が、胸にじんと染みた。師弟関係ではなく友達として、これからも一緒にいられる。それが、すごく嬉しかった。
「あっ、そうだチャットさん! コボルトのみなさんが、屋台街で店を出すことになったんですよ!」
「本当かい⁉ 信じられないね……。でも、君が関わっているんだ。今さら驚いても仕方ないか。それで、何を売るつもりなんだい?」
「団子と……これを」
俺は持参していた『アクイーリス』の瓶を差し出した。チャットさんに味を見てもらおうと思っていたのだ。
「ジュースか。味見してもいいかい?」
「はい、ぜひお願いします!」
「じゃあ、いただきます」
領主様には美味しいと言っていただけたが、チャットさんのお眼鏡にはかなうだろうか……。
ゴクゴクと、小気味よく喉を通っていく音が聞こえる。
「ぷはぁーっ。……これはすごいね! シュワシュワとした軽やかな刺激と、甘味と酸味のバランスが絶妙なハーモニーを奏でている。よくこんなもの思いついたね!」
「い、いやぁ……俺が考えたんじゃないんですけどね……」
「なら、コボルトさんたちの特製かい?」
「……まぁ、そんな感じです」
違うんです、女神様から教わったんです! なんて言える訳がなかった。
でも、コボルト特製という謳い文句は、ありだなと思った。
「また僕にできることがあれば、いつでも言ってね」
「はい! これからも、よろしくお願いします!」
(パチパチパチパチ!)
中から拍手の音が聞こえてきた。なんの拍手だろうか?
「ただいま戻りました!」
「おお、ちょうど良いところに! 朗報だぞ、学校の名前が決まった!」
「学校の……名前? え、まだ建ってもいないですよね?」
「ふふ、そうとも。愚息からこれまでのいきさつを改めて聞いたぞ。君が関わってくれたおかげで、我がテソーロは大きな一歩を踏み出した。その感謝の気持ちも込めて、な」
「そんな大げさですよ。俺なんて、ちっぽけな存在です。ただ、運良く素晴らしい人たちに出会えただけですから」
「そう謙遜するでない。運もまた実力のうちだ」
「そう……なんでしょうか?」
「さて、学校の名前だがな。驚くなよ……その名も——『エスクエラ・デ・メロコトン』だ!」
頭の自動翻訳機能により、『桃の学校』と訳された。桃って……まさか俺の名前⁉
「あの……もしかしてですが……俺の名前に由来してる……なんてことは——」
「その通りだ! 君の名にあやかってな。桃はこの辺りでもよく栽培されておって、我々にとっても馴染み深い果実だ。それに、豊穣の象徴でもある」
「でも、俺なんかの名前を……そんな大事な施設に——」
「謙遜はもうよい。もっと胸を張りたまえ!」
領主様にも怒られた。大人って、やっぱコワイ……ぴえん。
「未来の世代を育む場所。その象徴として、この名はふさわしいと考えておる。どうだ、気に入ったか?」
「……はい。そう聞くと、すごく誇らしいです。ちょっと恥ずかしいけど……ぜひその名前でお願いします!」
「うむ、それで決まりだな。『エスクエラ・デ・メロコトン』を、スラム街開発の目玉にしよう。君にもいろいろと協力してもらうぞ」
「はいっ、全力で頑張ります!」
領主邸を後にすると、冒険者たちはギルドへと報酬を受け取りに行くために、ここで解散となった。
最後まで残っていたフィンが、名残惜しそうに声をかけてくれた。
「リーダー君。お疲れさま。またどこかで一緒にクエストができたら、そのときはよろしくね」
「こちらこそです。フィンさんからは、学ぶところも多かったです。いい経験をさせていただきました。ありがとうございます」
「うん、じゃあ僕たちはポトゴに戻るけど、近くに来たら寄ってよ。食事でもご馳走するから」
「ポトゴって……たしか、港町ですよね?」
「そうだよ。ここらじゃ味わえない、新鮮な魚介類が山ほどある。きっと気に入るよ」
「絶対行きます! その時はよろしくお願いします!」
「楽しみにしてる。じゃ、頑張ってね!」
Aランクパーティか……やっぱかっけぇ~。俺もいつかは、もっと強くなって、誰かの役に立てるような存在になりたいな。
俺は、コボルトたちと一緒にガストン邸へと移動した。今日は、ここに泊めてもらえることになっている。
「チャットさん、ただいまです」
「おかえり、太郎。よく頑張ったみたいだね!」
そう言って、俺の頭を優しく撫でた。
……もう、なでなですんなよぉ~。でも、ちょっぴり嬉しい。
「あ、ありがとうございます」
「疲れただろ? 甘いものでも食べるかい?」
「いえ、今は大丈夫です。でも、あの……チャットさん」
急に言葉が詰まってしまった俺を、チャットさんは心配そうに見つめる。そして、あの時と同じく、額に手を当てようとしてきた。
「ん? どうしたんだい? もしかして、また熱でも——」
「ね、熱はないです! 元気です! 元気ですから!」
「そっか。じゃあ、なにか言いたいことでもあるのかな?」
「はい。あの……」
俺は思いのたけを精一杯込め、チャットさんに向かって叫んだ。
「チャットさん! 俺を、弟子にしてください!」
「で、弟子だって⁉ ……ふふっ。何事かと思ったら、そんなことか」
「そんなことって、俺は本気でチャットさんの下で、もっと学びたいと思ってるんです!」
「うーん……、気持ちはありがたいけど、僕は弟子を取るような立派な人間じゃないから——その申し出は、お断りします」
(ガーン!)
ふ……振られた——
「それに、太郎にはもっとやらないといけないことがあるんじゃないのかい?」
「それはそうかもですが……」
「弟子とは認めないけど、友達としてなら、これからも料理のこととか、色々と教えることはできるだろうけどね」
「チャットさん……」
友達。その言葉が、胸にじんと染みた。師弟関係ではなく友達として、これからも一緒にいられる。それが、すごく嬉しかった。
「あっ、そうだチャットさん! コボルトのみなさんが、屋台街で店を出すことになったんですよ!」
「本当かい⁉ 信じられないね……。でも、君が関わっているんだ。今さら驚いても仕方ないか。それで、何を売るつもりなんだい?」
「団子と……これを」
俺は持参していた『アクイーリス』の瓶を差し出した。チャットさんに味を見てもらおうと思っていたのだ。
「ジュースか。味見してもいいかい?」
「はい、ぜひお願いします!」
「じゃあ、いただきます」
領主様には美味しいと言っていただけたが、チャットさんのお眼鏡にはかなうだろうか……。
ゴクゴクと、小気味よく喉を通っていく音が聞こえる。
「ぷはぁーっ。……これはすごいね! シュワシュワとした軽やかな刺激と、甘味と酸味のバランスが絶妙なハーモニーを奏でている。よくこんなもの思いついたね!」
「い、いやぁ……俺が考えたんじゃないんですけどね……」
「なら、コボルトさんたちの特製かい?」
「……まぁ、そんな感じです」
違うんです、女神様から教わったんです! なんて言える訳がなかった。
でも、コボルト特製という謳い文句は、ありだなと思った。
「また僕にできることがあれば、いつでも言ってね」
「はい! これからも、よろしくお願いします!」
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