ゆずれないモノ

優ちいた

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4話

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ゆずれないモノ 4(校正済)




ギシギシと軋む身体に違和感を覚えて目を覚ます。


いつもと違うシーツの感触に、
ここが山野マンションだということを思い出した。

 腕を横に伸ばしても、山野はすでにいない。



女性とのセックスと違い、体裁とか気遣いとかそんなものは全く無用で、
ただ快楽をむさぼるだけの交わりは、まるで野獣同士の交尾みたいだった。

思い出せばまた身体の芯が火照ってくる。



 時計を見れば、午前10時がすこしまわったところだ。
ふと、バターのいい香りが鼻をかすめる。


 案の定、なかなか足に力が入らないが、
それを叱咤してなんとか立ちあがり、寝室を出ると、
キッチンでは山野が遅めの朝食の支度をしている最中だった。



 「あ、おはよう三条くん。君、朝ごはん・・・食べれる人?」

 昨夜は何度も下の名前で呼んでくれたのに、
またいつもの名字での呼びかけに戻っている。

でもそれを咎めるのもなんだか女々しい気がして、その不満を呑みこむ。

 「何作ってんの?」

 「フレンチトースト」


 「へぇ・・・すげぇな・・・じゃあ、もらおっかな」


そういえば、夕べもつまみも作っていたなと、 手際良く支度を進めていく山野を、
 少しだけ感心しながら見つめた。


おぼつかない足取りで顔を洗ってから席につくと、
 淹れたてのコーヒーをコースターの上に置いてくれた。

テーブルの真ん中に置かれた白い容器には、
コロンとした丸っこい形のブラウンシュガー達が可愛らしく鎮座し、
そこに手の形をしたシュガートングが添えられている。



黒い糸でステッチの効かせてあるダークブラウンの革のランチョンマットの上には、
サラダとフレンチトースト、コーンスープが並べられ、
 洒落た瓶に入ったクルトンとパセリを山野が散らしていく。


どれも、カフェのように真っ白な陶器で統一されていて、
こんな小洒落たことをしているのが山野だと思うと どうにもミスマッチで笑えてくるが、
やっぱりそのセンスをファッションに活かせよ、と、内心つっこんでしまう。


 「あ、うまい!」
 「そう?よかった」


コーヒーもトーストも思っていた以上に美味しい。

 素直に感想を口にすると、いつも亜月の前では無表情の山野が、ふわりと笑った。


コーヒー豆には得にこだわっているらしく、
豆を褒めると、今までに見たことの無いくらい、嬉しそうな表情を見せた。



キッチンカウンターの棚に目をやると、
数種類のコーヒー豆やハーブティ、 オシャレなガラス瓶に収まった
色々な種類の砂糖がずらりと並べられている。

いつでも誰かを「おもてなし」出来るようにスタンバイされているようだ。


ここは、山野の仲間たちが集まる場所なのだろうと容易に想像ができた。


その山野の仲間であろうオタク連中に、 亜月は意識下で嫉妬心が芽生える。




それに対抗するように、 朝食を食べ終わると、
まだ午前中だというのに亜月はまたもやセックスをせがんだ。

(きっとソイツらは、山野とはこんなことはしないだろう)


この快感を知っているのは自分だけ。
誰も羨ましがることはないだろうに、謎の優越感に浸っていく。




 「あっ・・・ああっ・・・!」

 抱き合っている最中に亜月の携帯に、
着信を知らせるメロディが聞こえた気がした。


 (ああ、そういえば・・・今夜、合コンするって、連絡がきてたっけ・・・)



 山野に突き上げられながら、亜月はそんなことを思い出していた。


















 「ねぇ~亜月くぅん、 今年のクリスマスぅ、どう~するの~~?」


あれから数日経ち、クリスマスも間近に迫って来た頃、
一生懸命に盛ったであろう胸を押し当てながら腕を組んでくるのは、
 一度寝たことがある知恵だ。


 間延びした馬鹿丸出しのしゃべり方は、今までは全く気にならなかったのに
今では何故か酷く耳触りでイライラしてくる。


 「あ?少なくともお前とはやんねーよ」
 「あんっ」


 腕を振りほどかれた知恵が、わざとらしく可愛い声で抗議するが、
それでもめげずに、他の女たちと共に亜月を取り囲み、
そして、その女たちに引かれるように男性陣も集まってくる。

あっという間にいつもの光景が広がるが、 最近、この状態は酷くストレスだ。


 「だって~このところ、
亜月くん全然つかまらないんだも~~ん。つまんなぁい~」

 「ねぇ~~~」

ここ最近、コンパにすら顔を出さない亜月に、女たちが一斉に抗議する。

そりゃそうだろう。
このところ亜月は、 山野とのセックスに溺れているのが現状だ。



だけど、クリスマスが近づいてくると、
さすがに女たちも周囲の男連中も黙ってはいないようだ。



 女たちは是が非でもクリスマスを亜月と過ごそうと、
 気を引くためにひっきりなしに構内で亜月に声をかけてくるが、
そんな女たちを軽くあしらう亜月を、
 西川と坂下だけが不思議そうに見つめていた。




 今年の亜月は、なぜか女たちを全く見ていない。



 亜月の視線が、ついつい注がれるのはただ一人だ。








 「ちょうどクリスマスに、サイレントタウン4が発売なんだよね!楽しみだなぁ」

 「クリスマスにホラゲ三昧ですか!それもアリですね~」


ふと、そんな会話が聞こえてきて、
 少し離れた場所でオタク仲間と盛り上がっている山野の姿が目に入った。


 亜月にはまったく未知の世界の話で盛り上がる山野は、 満面の笑みで仲間としゃべっている。


 「やぁだぁ~~なにアレ、きもぉい!」

 「アニメとゲームとかの話ししかしないのよ~あいつら」



オタクトーク炸裂の山野たちに向かって、
 知恵たちがわざと聞こえるように、あからさまに不快感を露わにする。


 「やめとけ・・・ほっといてやれよ」

いつもなら率先して、山野たちを罵る亜月の意外な一言に、
そこにいた誰もが一斉に驚いた。


 「どうしたの?三条くんがあいつらを庇うなんて」

 名前も覚えていない男が不思議そうに呟く。



 「・・・別に庇ったわけじゃねぇよ・・・それよりさ」

 山野たちから話題を反らす。
 山野を馬鹿にされると、どうしようもなく腹が立った。





 当の山野は、知恵の言葉も聞こえていただろうに、
 全く気にせずに楽しそうにおしゃべりしている。


くるくると表情が変わり、大口を開けて笑い、
そこには自分の知らない山野がいる。


 亜月といるときは、
 正直、何を考えているのか分からないくらい表情が読めないのに。


 胸に何とも言えないモヤモヤとしたものが広がり、途端につまらなくなる。







その後も広い構内で山野とすれ違うが、
 山野は少しも亜月と目を合わせようとはしない。



 確かに、山野と関わっているのを知られたくなくて、
 構内ではなるべく接触しないようにしようと言い出したのは亜月だ。



 確かにそうだけど。
でも、見るなとは言ってない。






あまりにも自分の存在を無視されているようで面白くない。
 亜月だけが、山野を目で追う。




ひとまず、自分を避ける山野に一言何か言ってやらないと気が済まない。


 亜月はいつものように、集団から抜け出し、 山野が一人になるのを待った。













 「うわっ!?」

 「しぃっ!!」


いつもの仲間と別行動をとっていた山野を発見し、
 亜月は誰も使っていない教室へと引きずり込んだ。


 「さ、三条くん・・・?」

苗字での呼びかけに、胸がチクりとする。


 「三条くん、どうした・・・んっ・・・」


とにかく黙らせたくて、亜月が山野の唇をキスで塞いだ。
だがすぐに、形勢逆転されて自分の方が食われてしまう。


 相変わらず器用だ。
 回を重ねるごとに上手くなっていっていく。


 「・・・お前さ、なんで俺避けんの・・・?」

 「・・・なんでって・・・学校ではお互い接触しないって言ったの、君だよ?」
 「・・・言ったけど・・・」


クールなトーンでさらりと言われて、
 自分だけががっついているようで惨めになる。








 「・・・今日、おまえんち行くから」

 「・・・そう?分かったよ。じゃ、今夜は何食べる?」

 「・・・からあげ・・・」

 山野の作る料理の中でも一番好きな、からあげをリクエストする。
 何を食べても美味いが、特に山野特性の唐揚げは、亜月の大のお気入りだ。

 「・・・了解」


 一言で簡潔に答えると、山野は亜月の腕からするりと離れて行ってしまった。


あまりにもあっさりとした素っ気ない態度に、
ぐっと歯をかみしめ、亜月は山野が見えなくなるまでその姿を見送っていた。






ぽつんと残された亜月の胸に、
 今までに感じたことのないうら悲しさが過よぎる。



 「なにしてんの?」
 「に、西川!?」


いつの間にかそこに立っていた、西川と坂下に酷く驚いた。


 「なぁ、亜月、お前さ、さっきのアレさ、なんなの?」



 突然、西川にそう言われて、
 今のキスを見られていたのだろうかと冷やりとする。


 「さっき庇ったろ、山野のこと。それにこのところ、やたら山野ばっか見てるだろ」


 坂下から指摘されて嫌な汗をかく。



 「あ、ああ、あいつ、いつもすげぇカッコしてんじゃん?ついつい目がいくんだよ」


 「あー・・・まぁなぁ・・・ありゃないよねぇ・・・」


 今日は、青い髪のツインテールの何かのキャラTに、
ダサい型のジーンズを合わせている。




だが本当は、山野の服のダサさなんてどうでも良かった。


・・・山野は、なぜ自分を見てくれないのか。



 今までの自分の仕打ちを棚に上げ、かつ、
セフレという身勝手な要求までし、
その上、山野が亜月の存在を 構内で等閑なおざりにしていることに腹を立てる。

とことん身勝手だ。
そんなだから、山野からちゃんと向き合ってもらえないのに。





 「でも、こないださ、亜月んちに行こうとしたら、
お前が山野と歩いていること見たよ。どっかのマンションに入っていったけど、
あれって、山野のマンション・・・?」


 坂下の言葉に我に返る。


 「亜月さ、この前から変だよ。なにかあった?
なんかさ、山野の卑怯なやり口に、弱みとか握られてんじゃないのか?」


 半ば当たっているだけにギクリとするが、
 本当のことを言えるはずもなく、亜月はとぼけてみせる。


 「ゆすられて、金とか撒き上げられてんじゃないだろうな!?」

 美人が台無しになってしまうくらい、
ものすごい剣幕で問い詰める坂下に押されるものの、
さっきのキスを見られた訳ではないのだと安心した。


 「まぁ、なんつーか・・・友達ごっこ・・・?
ちょっと優しく声かけてやったらさ、なんかあいつ、真に受けてさぁ」


 「あー・・・たいへんだね、そりゃ・・・」

 以前、孤立しているオタクに、ちょっと気を使って話を振ってあげたら、
どうでもいいマニアックな話を延々聞かされたことのある坂下は、気の毒そうな顔をした。



 「で?最近合コンに来ないのは?」


 「ああ、オタクからかってる方が面白いんだよ。飽きたら、ちゃんとまた参加するって」


 納得しているのかいないのか、腑に落ちないといった表情で
 お前は相変わらず酷い男だと、西川が呟いた。
















 「ん・・・あっあっああっ」

 夜、亜月は山野のマンションに押しかけ、
いつものように山野を求めた。


 「や・・・まのっ・・・そこっ・・・もっと・・・!」
 「なに・・・・?ここ・・・?」
 「ひあっ・・・あんっ」


 山野が動く度に、じわぁっと痺れるような快感が全身を駆け巡る。


 熱い杭が、とろけた襞を掻き分けて、奥深くまで侵入しては出て行く。



 張り出したカリに、前立腺を集中的に擦られる度に腰が淫らに揺れ動き、
甘い嬌声を上げる。


 「んあっ、あっあっ」

 「亜月、すごいよ・・・ぐっちゃぐちゃになってる」

 「いやぁ・・・!」



 山野もまた、とろけた亜月の中を堪能しているようだった。

 






 


 
 行為が終わると、最中のエロさとはうって変わり、山野は淡々と後処理に勤しむ。
甘い甘いピロートークもあったもんじゃない。


 終わったあとはいつもこうで、 身体は拭いて綺麗にしてくれるけど、
 会話は全く無く、そっけなさすぎて拍子抜けするほどだ。



 別に恋人ではないのだから まったりとした甘い時間が欲しいわけではないけれど、
こうもギャップがあると、やっぱり少しだけ虚しくなる。


今までは、気持よければそれでいいし、 暇つぶしでセックスができれば十分だった。

その暇つぶしで、ただただしがみついて、喘いて、
オーガズムを得られれば、それで満足だった。


 満足だったはずなのに、
 身体が満足すればするほど、不安と不満だけがどんどん募ってくる。


 山野が亜月を見てはいない。



注目の的であるはずの亜月を、山野だけが見てくれない。


この状況が、どうしても腑に落ちない。




 自分を見ない山野に、亜月は焦れる。






 焦れて焦れて、 追いかけてほしくて、

いつもの自分を見失い、そしてつい、言ってしまったのだ。






 「・・・なぁ、やっぱさ・・・セフレ、・・・やめようぜ?」

 「・・・え?」

 山野が、手を止める。





 「ん~~やっぱさ、俺もお前も、別にホモじゃねぇし・・・・」


 亜月としては、ただ単に、山野を驚かせたかっただけなのだ。

 押してダメだから、引いてみただけなのに。



それなのに。



 「うん、いいよ」



 「・・・え?」


なのに、驚いたのは亜月の方だった。


 「えっ?・・・いいよって・・・」

 「うん・・・まぁ、しょうがないんじゃない?もともと、君が飽きるまでだろうと思ってたし」

なんてことないようにさらりと答え、 止めていた手を再開し、亜月の身体を拭き始めた。



 嘘・・・。


ちょっと待て、予定と違う。


 俺は、こんな結果を望んではいない。


どうしてそういう返事なんだ。



 衝撃を受けて顔面蒼白なっている亜月に気づきもせず、
 山野はいつものように亜月の足の指を一本一本丁寧に拭いていく。



 「・・・で?今日は帰るの?泊ってくの?それによっては準備するものが変わってくるから」


と、淡々と聞かれたけれど、
 山野の言葉の意味を理解するのに少し時間がかかってしまった。


 「・・・・・・帰る・・・・」



絞り出すようにそれだけ告げると、 青ざめた亜月の顔に、やっと山野が気づいた。



 「え?ちょ・・・三条くん、具合が悪いの?僕、無理させた・・・?大丈夫かい?」


 具合の悪そうな亜月を心配する山野に、なぜか無性に腹が立った。

 「やっぱり、今日までは泊っていった方が・・・明日ゆっくり帰っ」
 「帰るっつってんだろ!!!」


 「三条くん・・・!?」


 思わず怒鳴り、
 心配して顔を覗き込む山野と突き飛ばすと、衣服を身に纏い、
がくがくと崩れ落ちそうな脚を叱咤しながら部屋を飛び出した。


 「今日まで」という言葉と、
 淡々とした山野の言い方が酷く胸に突き刺さった。

 「今日まで」ということは、次はもうないということだ。



違う。

こういう結果を望んでいた訳ではないのに。



ただ、セフレをやめたいと告げた時、山野に動揺してほしかったのだ。

 嫌だ、と、引き留めて欲しかった。


だけどその結果、
山野が亜月になんら執着していないことを思い知らされただけだった。



 「くそっ・・・ちくしょう・・・・!」

 必死で運んでいた脚がガクりと崩れ落ちる。


 (・・・くそっ・・・何で・・・)

 街灯の下に蹲り、涙が出そうになるのをぐっと堪える。



あんなオタク童貞ごときに振り回されるなんて。



 納得できない。

ぎゅうっと、胸が締め付けられる。

 目頭を手で押さえ、こみ上げてくるものを必死で抑える。





 追いすがって欲しくて、わざと相手を試すような真似は、一番嫌いだ。
嫌いなのに。

だけど、山野との付き合いは、
 亜月を自分が一番嫌いなタイプへと変えてしまったようだ。


 女々しい自分が嫌になる。









ふと、亜月の携帯が鳴りだした。


 「・・・坂下・・・・?」



 『亜月、お前、ほんとに今日の飲み会来ないの?今からでも出てくれば?
みんな待ってるよ』

 機械を通してさらに低い坂下の声が、亜月を落ち着かせてくれる。


なにもかも億劫だったけれど、このまま家に帰るのも癪だった。

 今は一人になりたくなくて、
 羽目を外して、なにもかも忘れたい気分になり、
 今から行くと返事をすると、みんなの集まっているダイニングバーへと向かった。








 「・・・亜月、何かあった?」

からあげを頬張る亜月に坂下が声をかける。


「いや、別に・・・なにも」


 結局、食べそびれてしまった山野のからあげと比較して、
また暗い気持ちになってしまう。

(あいつのからあげ・・・食べたかったな・・・)

でも、セフレ解消を淡々を受け入れた山野の顔を思い出し、
だんだん腹が立ってきた。


(この「俺」だぞ・・・!?なんなんだアイツ・・・山野のクセに・・・!)




 むしゃくしゃしてきた亜月は、何がなんでも女とセックスをしないと気がすまなかった。
女をひぃひぃ言わせて、プライドを取り戻したかった。

 参加している女を物色していると、何度か見たことがあるくらいで、
 名前は知らない女が目に留まった。


 胸が大きくて、すこし童顔でかわいらしい女。
まるで、誰かさんの好みのタイプぴったりだ。


 腹いせにその女を抱こうとホテルで部屋をとったが、
どうしたものか、亜月のそれは、全く使い物にならなかった。









 「・・・ごめん・・・」



 「・・・えっ?えっと・・・まぁ・・・そんな日もあるんじゃない?
 今日亜月くん、体調悪そうだったし・・・大丈夫?」

 亜月が失敗したことより、
 謝ったことに対して彼女は心底驚いたようだった。


 背を向けて丸くなった背中を、彼女は気の毒そうに見つめ、
ここは私が払うからと、金を置いて部屋を先に出て行ったが、
それが余計に亜月を惨めにさせた。




こんな時でも、浮かぶのは山野の顔だ。


 (くそっ・・・胸糞悪い・・・・!)


あの不細工な顔が脳裏に焼き付いている。

『亜月』と低く呼ぶ声が耳の奥に残っている。

 
嫌でも 山野とのセックスが思い出される。
すると、さっきまで何の反応も見せなかった亜月自身が、ピンと起き上がった。





 「・・・やまの・・・・」

そ・・・と、滾る自分自身に手を添える。
 数時間前まではこれを、山野に愛撫されていたのに。





 「あっ・・・ん・・・やまのっ・・・」

 彼の手の動きを思い出し、真似てみるがあの手には敵わない。




くちゅくちゅと音をたて、
 張り詰めたモノに指を絡め扱き上げる。


だけど、前だけの刺激ではすでに物足りなくて、
いつも山野の猛りが出入りしていた部分にそっと触れた。

さっきまで山野を受け入れていたそこは
 とても柔らかくて、 自分でも驚くほど、すんなりと指を飲みこんでしまう。


 「あ・・・山野・・・」


 亜月は自分の指で注挿を繰り返し、自らを慰めはじめた。


 一人で、後ろをいじるのは、初めてだ。


 「あっ・・・あっ・・・」


 後ろへ挿入されることを覚えると、
 前だけの刺激では物足りない。


 山野がよくやるように、
広げたりしながら襞を掻き回すが、それでは足りない。



 指を増やしても、それだけではどうしても足りない。





 
 亜月は、室内に大人の玩具の自販機が備えてあるのを思い出した。






どぎついピンクの男根を模した、一番大きなバイブを購入する。
ぶつぶつとした突起のついたそれに、備品のコンドームを被せ、
なんら躊躇することなく自らの秘部に挿入した。




 自分が血迷っていることは重々分かっていた。




 「んっ・・・・」

 (冷たい・・・・)

 山野のあの、滾った猛りが恋しくなる。


それでも、我慢できず抜き差しを開始すれば、
ブツブツとした突起が内壁を擦り上げ、山野のモノとはまた一味違う快楽をもたらす。


 「・・・ん」
 
亜月の熱で、玩具がだんだん温まってくる頃には、もう手を止められなくなっていた。

(気持ちいい・・・)




「あっ、あっ、ああっ・・・」


 虚しさに涙が出るが、止められない。
夢中になって、無機質な男根を出し入れする。


(あれ・・・どこだっけ・・・)

いつも山野に突かれると、一番感じる場所。
そこを亜月は探り当てる。

「あっ・・・」

(ここだ・・・)


そこにバイブの先端を当てたまま、亜月はスイッチを入れる。


 「ああーっ!」



先端が振動しながら回転し、前立腺を容赦なく攻める。

「あっ、あっ、ああっ」



 先端の動きと振動に翻弄され、すぐに絶頂を極め、身体がのけ反った。
それでもバイブを止めることできず、狂ったようにその快感を求める。

 
 「あっ、あっ、あっあっ・・・あっ」


でも、どんなに人間離れした動きに翻弄されようとも、
やっぱり人肌が、山野のそれが欲しくなる。


「あぁっ・・・山野っ・・・」


 でも今は、この無機質な玩具から与えれる快感に縋ることしかできず、
 遠慮を知らない機械の攻めに何度も達して、シーツはびしょびしょだ。

ブーンと体内に響くモーターの音が、
 自分が何に犯されているのかを物語り、どんどん惨めになる。




 何度目かの絶頂を迎えた頃、電池の残量が無くなってきたのか、
 回転のスピードがゆるくなり、
やがてそれは、唸るようなモーターの音がわずかにするだけで、
すっかり動きを止めてしまった。





はぁ、はぁ、と息も上がり、ベッドにぐったりと力なく横たわる。


 無機質なシリコン製の玩具に尻を抉られて、
精液を吐き散らかした己が惨めでたまらなかった。




 「くそ・・・山野・・・お前のせいだ・・・・ちくしょう・・・・!」


 玩具まで使ったマスターベーションに、自己嫌悪に陥る。



 「ぅ・・・ふっ・・・・」

泣くまいと歯を食いしばり堪えようとするが、
こみ上げてくる感情を抑えきれず、涙がぽろぽろと溢れてくる。

 自分の秘部に突き刺さったままの玩具が、
よりいっそう亜月を惨めに貶めた。



 「山野・・・・くそっ!!くそっ・・・!!死ねっ山野!!」

 亜月はそれを引き抜き、
 怒りのままに思い切り壁に叩きつけた。



 激しい音とともにプラスチックでできたのスイッチ部分が破壊され電池が飛び散り、
ペニスを模したシリコン部分は、
 亜月を嘲笑うかのように幾度か跳ねて転がっていく。



やがてコンドームも抜け落ちて、その有様に全身の力が一気に抜けた。


 「ぅ・・・、山野ぉ・・・うっ・・・っ・・・」


山野に関わるようになってからは、
 自分の感情なのに、コントロールできないことが増えてきた。


泣くのは嫌いなのに、どうしても涙を止めることができなかった。


 亜月はベッドに突っ伏し、
ただただ、いいようのない感情を胸に抱えて一人咽び泣いた。



(4話 おわり)2013/01/01ホームページ掲載


【2025/11/09】校正。
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