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たった一つの愛(完)
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それからまた三ヶ月、付き合って半年が経った。
その日は、なぜだかいい雰囲気でもあったんだ。
僕の家で、やけに泣ける映画を見て。僕は思わず涙を流して、ユウトがそれをティッシュで拭いてくれていた。
「そんなに泣ける?」
「泣けるよ……。最後、結ばれてよかった……」
それはありきたりな恋愛映画だったけれど、それでも僕は主人公の男女に僕とユウトの姿を重ねていた。
何度もすれ違いを経て、遠回りをして、それでも互いを想っていて。
気づけば胸が苦しくて、僕はまた涙を流してユウトがそれを拭いていた。
「まあ、俺も……結ばれてよかったと思う……」
ぼそりとユウトが呟いて、僕たちは手を握り合って笑っていた。
その時、何気なくユウトの顔が近づいた。
近づくにつれて、やがて僕たちの呼吸がやけにそばにあるように感じられて、どくんどくんと心臓が脈を打っていた。
「……ユウト、いいの?」
その言葉に、ユウトはこくりと頷いた。
「したことないけど、したくなった……」
その言葉に、胸が強く締め付けられた
そして、ほんの一瞬、この唇が触れていく。
押し付けるわけでもなく、確かめるように唇が触れた。
たったそれだけのことであるというのに、僕の世界が音を失う。
離れたあとで、僕たちはすぐには何も言えずにいた。
ユウトの耳が、みるみるうちに赤くなっていくのが目に入る。
「……どうだった?」
恐る恐るそう聞けば、ユウトは少し困ったような顔をして笑っていた。
「あんまり、よくわからなかった……」
その言葉に、僕の眉が下がる。
けれど、あとに続く言葉がすべてを救っていったんだ。
「でも、なんか……。すごいって思った。手を繋いでいるときよりも、胸が、苦しい」
その表現があまりにもユウトらしくて、僕は思わず笑っていたんだ。
「それで、いいよ……。それで」
僕は思わず、ユウトの手を強く握る。
「僕だって、胸が苦しい。ユウトと一緒だよ……」
そう言えば、ユウトはいつものように笑っていた。
前世では、何度も重ねたキスがあった。
その意味も重さも、すぐに薄れていくような。なんてことのない、挨拶のような。
それでも今世では、たった一度のキスで、こんなにも心が満たされていく。
——僕、本当に……。ユウトのことを……。
欲しいからじゃない、確かめたいからでもない。
ただ隣にいて、同じ速度で進みたい。
愛していると、思った。
そしてこの愛を、大切にしていきたいとも。
ユウトは照れたまま、しばらく黙り込んでいた。
「……ねえ、もう一回……」
「今日は、もういい……」
顔を伏せて放たれたその言葉に、僕は笑って頷いた。
「うん、わかったよ」
そして、今度は僕からキスをした。
「ありがとう、ユウト」
ユウトはただ、こくりと頷くだけだった。
その後は、特別なことは何もなかった。
いつものように夕飯を一緒に食べて、ユウトが撮った写真を何枚か見せてもらって。
他愛のない感想を言い合って、今日がずっと続けばいいのにと僕たちは静かに笑っていた。
***
その日もユウトは、いつものように首から下げた大きなカメラを構えていた。
けれどそのシャッター音は控えめで、一枚一枚、確かめるように慎重に目の前に広がる景色を撮っていく。
「いいの撮れた?」
そう僕がそちらを向けば、ふいにレンズがこっちを向いた。
シャッター音がして、気付けば僕は顔をしかめていた。
「僕のこと、撮ったの……?」
そう尋ねれば、ユウトは少しだけ視線を逸らしてから、誤魔化すように笑っていた。
「たまたま。光が、良かったからさ……」
そのような言い訳をする時点で、たまたまじゃないのは明らだった。
「もう……」
近頃、ユウトは風景だけではなくて、この僕の写真もこうして撮っていたんだ。
それも決まって、僕が気づいていないうちに。
後から写真を見せてもらった時に、それがわかる。
写真の中の僕は、僕ですら知らない表情で笑っていた。とても柔らかくて、ユウトみたいに穏やかな顔をしていた。
嬉しい。確かに、嬉しくもあったんだ。
でもそれと同時に、この胸の奥に小さな棘のような感情が生まれていく。
写真を確認するユウトのその横顔は、あまりにも優しくて、あまりにも満足そうで。
その視線が、被写体としての僕に向けられていることが、なぜだか気に食わないようにも思えていたんだ。
「……僕の写真、そんなに好き?」
半分冗談でそう言えば、ユウトは一瞬だけきょとんとしたような顔をしてから、スマホを操作して、何枚かの写真をスワイプして見せてきた。
「ほら」
その画面に映るのは、少し前に撮った僕の写真と、今この瞬間に、目の前にいる僕の写真。
「こっちのリオが、一番好きかな」
そのような言葉をあまりにもさらりと言うものだから、僕は何も言えずにいた。
まるで僕自身に嫉妬していた僕が馬鹿みたいで、でも、その馬鹿さ加減すら許されているような気がして、わずかに悔しくもあったんだ。
「……そういうの、ずるい」
「どうして?どのリオも、一番好きだけど……」
ユウトはもう、僕のことをわかっていた。
何をどう言えば、僕が安心するのかを。
「僕だって、どのユウトも一番好き」
誰かを愛するということが、こんなにも感情を忙しなくさせるなんて、以前の僕は知らなかった。
前世では、愛は奪うもので、証明し合うもので、急速に進むものでもあった。
触れるのも、キスをするのも、その先も。
気づけば、息つく暇もなく進んでいた。
それに比べて、今世はどうだ。
手を繋ぐだけで胸がいっぱいになって、キスひとつするにも時間がかかった。
最初はもどかしくて、ユウトの淡泊さに悶々としていた夜もあった。
それでも今は、そのような歩幅の違いでさえも、愛おしい。
僕たちは、静かに手を握った。
そして、触れるだけのキスをした。
でも、それでいい。
僕たちは、ようやく同じ場所に辿り着けたような気がしていたのだから。
写真に残るこれまでの僕も、今ここにいる僕も、ユウトにぜんぶ愛されている。
その事実を、僕は疑うようなことはない。
でも、決して完璧ではなかった。
嫉妬もするし、拗ねることもある。
でも、それでも僕はたった一人のユウトを強く深く愛していたんだ。
そしてこれからも、ユウトと共に幸せな日々を過ごしていきたい。
ユウトだけの隣で。
END
その日は、なぜだかいい雰囲気でもあったんだ。
僕の家で、やけに泣ける映画を見て。僕は思わず涙を流して、ユウトがそれをティッシュで拭いてくれていた。
「そんなに泣ける?」
「泣けるよ……。最後、結ばれてよかった……」
それはありきたりな恋愛映画だったけれど、それでも僕は主人公の男女に僕とユウトの姿を重ねていた。
何度もすれ違いを経て、遠回りをして、それでも互いを想っていて。
気づけば胸が苦しくて、僕はまた涙を流してユウトがそれを拭いていた。
「まあ、俺も……結ばれてよかったと思う……」
ぼそりとユウトが呟いて、僕たちは手を握り合って笑っていた。
その時、何気なくユウトの顔が近づいた。
近づくにつれて、やがて僕たちの呼吸がやけにそばにあるように感じられて、どくんどくんと心臓が脈を打っていた。
「……ユウト、いいの?」
その言葉に、ユウトはこくりと頷いた。
「したことないけど、したくなった……」
その言葉に、胸が強く締め付けられた
そして、ほんの一瞬、この唇が触れていく。
押し付けるわけでもなく、確かめるように唇が触れた。
たったそれだけのことであるというのに、僕の世界が音を失う。
離れたあとで、僕たちはすぐには何も言えずにいた。
ユウトの耳が、みるみるうちに赤くなっていくのが目に入る。
「……どうだった?」
恐る恐るそう聞けば、ユウトは少し困ったような顔をして笑っていた。
「あんまり、よくわからなかった……」
その言葉に、僕の眉が下がる。
けれど、あとに続く言葉がすべてを救っていったんだ。
「でも、なんか……。すごいって思った。手を繋いでいるときよりも、胸が、苦しい」
その表現があまりにもユウトらしくて、僕は思わず笑っていたんだ。
「それで、いいよ……。それで」
僕は思わず、ユウトの手を強く握る。
「僕だって、胸が苦しい。ユウトと一緒だよ……」
そう言えば、ユウトはいつものように笑っていた。
前世では、何度も重ねたキスがあった。
その意味も重さも、すぐに薄れていくような。なんてことのない、挨拶のような。
それでも今世では、たった一度のキスで、こんなにも心が満たされていく。
——僕、本当に……。ユウトのことを……。
欲しいからじゃない、確かめたいからでもない。
ただ隣にいて、同じ速度で進みたい。
愛していると、思った。
そしてこの愛を、大切にしていきたいとも。
ユウトは照れたまま、しばらく黙り込んでいた。
「……ねえ、もう一回……」
「今日は、もういい……」
顔を伏せて放たれたその言葉に、僕は笑って頷いた。
「うん、わかったよ」
そして、今度は僕からキスをした。
「ありがとう、ユウト」
ユウトはただ、こくりと頷くだけだった。
その後は、特別なことは何もなかった。
いつものように夕飯を一緒に食べて、ユウトが撮った写真を何枚か見せてもらって。
他愛のない感想を言い合って、今日がずっと続けばいいのにと僕たちは静かに笑っていた。
***
その日もユウトは、いつものように首から下げた大きなカメラを構えていた。
けれどそのシャッター音は控えめで、一枚一枚、確かめるように慎重に目の前に広がる景色を撮っていく。
「いいの撮れた?」
そう僕がそちらを向けば、ふいにレンズがこっちを向いた。
シャッター音がして、気付けば僕は顔をしかめていた。
「僕のこと、撮ったの……?」
そう尋ねれば、ユウトは少しだけ視線を逸らしてから、誤魔化すように笑っていた。
「たまたま。光が、良かったからさ……」
そのような言い訳をする時点で、たまたまじゃないのは明らだった。
「もう……」
近頃、ユウトは風景だけではなくて、この僕の写真もこうして撮っていたんだ。
それも決まって、僕が気づいていないうちに。
後から写真を見せてもらった時に、それがわかる。
写真の中の僕は、僕ですら知らない表情で笑っていた。とても柔らかくて、ユウトみたいに穏やかな顔をしていた。
嬉しい。確かに、嬉しくもあったんだ。
でもそれと同時に、この胸の奥に小さな棘のような感情が生まれていく。
写真を確認するユウトのその横顔は、あまりにも優しくて、あまりにも満足そうで。
その視線が、被写体としての僕に向けられていることが、なぜだか気に食わないようにも思えていたんだ。
「……僕の写真、そんなに好き?」
半分冗談でそう言えば、ユウトは一瞬だけきょとんとしたような顔をしてから、スマホを操作して、何枚かの写真をスワイプして見せてきた。
「ほら」
その画面に映るのは、少し前に撮った僕の写真と、今この瞬間に、目の前にいる僕の写真。
「こっちのリオが、一番好きかな」
そのような言葉をあまりにもさらりと言うものだから、僕は何も言えずにいた。
まるで僕自身に嫉妬していた僕が馬鹿みたいで、でも、その馬鹿さ加減すら許されているような気がして、わずかに悔しくもあったんだ。
「……そういうの、ずるい」
「どうして?どのリオも、一番好きだけど……」
ユウトはもう、僕のことをわかっていた。
何をどう言えば、僕が安心するのかを。
「僕だって、どのユウトも一番好き」
誰かを愛するということが、こんなにも感情を忙しなくさせるなんて、以前の僕は知らなかった。
前世では、愛は奪うもので、証明し合うもので、急速に進むものでもあった。
触れるのも、キスをするのも、その先も。
気づけば、息つく暇もなく進んでいた。
それに比べて、今世はどうだ。
手を繋ぐだけで胸がいっぱいになって、キスひとつするにも時間がかかった。
最初はもどかしくて、ユウトの淡泊さに悶々としていた夜もあった。
それでも今は、そのような歩幅の違いでさえも、愛おしい。
僕たちは、静かに手を握った。
そして、触れるだけのキスをした。
でも、それでいい。
僕たちは、ようやく同じ場所に辿り着けたような気がしていたのだから。
写真に残るこれまでの僕も、今ここにいる僕も、ユウトにぜんぶ愛されている。
その事実を、僕は疑うようなことはない。
でも、決して完璧ではなかった。
嫉妬もするし、拗ねることもある。
でも、それでも僕はたった一人のユウトを強く深く愛していたんだ。
そしてこれからも、ユウトと共に幸せな日々を過ごしていきたい。
ユウトだけの隣で。
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