誰か俺をケアしてくれよ

陽花紫

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このままずっとここにいたい

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 あれから、レンは何度かスイと体を重ねていた。
 そのたびにレンは幸福に包まれ、ローブの色も本来の色を取り戻していくようだった。

 ある夜、レンは眠りにつく前に、そっとスイの手を握った。
 その手のぬくもりは、いつもレンの心を震わせた。スイもまた、同じように握り返しては柔らかに指を絡めていた。
「このままずっと、ここにいたい」
 心から、あふれ出た言葉だった。
 スイは微笑み、ただ静かに頷いた。


 現代に帰る日が決まっているというのに、この夢のような時間が終わらないでほしいとレンは強く願っていた。
 スイの温もり、すべてを包み込むような声、愛おしい笑顔。今となっては、そのすべてがレンの疲れた心を癒していたのだ。

***

 ある日、レンは施設の小さな庭を歩いていた。
 緑の草と花の香りに包まれ、まるで時間がゆっくり流れるかのようだった。
 ふと、スイが隣に並んで歩きながら言った。

「レン様、焦らなくてもいいのです。ここでは、あなたさまのために全ての時間が動いているのですから」

 彼の言葉は優しく、しかしどこか甘く、心を震わせる力を持っていた。
 レンは思わず足を止め、スイの顔を見上げる。

 スイの目は深く澄んでいて、柔らかな光を宿していた。その視線に、レンの心はじんわりと溶けていくようだった。

「……ありがとう、スイ」


 夜になり、レンは窓の外に広がる星空を眺めていた。
 先ほどまで愛されていたその身をゆるく抱きしめながら、レンは静かに息を吐いた。
「幸せだな」
 その呟きを耳にして、スイもまた微笑んだ。
「私も、幸せにございます」
 遠くで、一つ星が瞬いた。
 その様子を目にしたレンは、覚悟を決めなくてはとスイの手を取った。
「スイ」
 スイもまた、レンの言わんとすることを察したかのように、いつものように微笑んだ。
「残りの時間も、すべて私に預けてください」
「もちろんだよ」
「あなたさまの幸せが、私の喜びにございます」


 翌朝、レンのローブの色はスイが身に着けているものと変わらぬ色合いになっていた。
 スイは目覚めたばかりのレンの額に、そっと唇を寄せた。
「おはようございます。レン様」
「おはよう、スイ」
 レンもまた、スイの頬に唇を押し当てた。
 そして、ローブの色を目に入れる。
「なんか、あっという間だったな」

***

 衣服を着替えて、レンは部屋を後にした。
 この施設に初めて足を踏み入れた時のように、スイの案内で建物の外へと移動した。
 外の空気は変わらず、レンを優しく包み込んでいた。

 スイが手早く魔法陣を描き、レンに向かって微笑む。
 レンは最後にスイを強く抱きしめてから、迷いなくその上へと立つ。その顔は、とても晴れやかなものだった。
「スイ、ありがとう」
「こちらこそ、ありがとうございました。レン様、あなたさまの幸せを私はいつまでも願っています」
 光に包まれ、空間が歪む。
 体が宙に浮かぶような感覚とともに、レンは現代へと戻った。


 目を開けると、そこには見慣れた天井が広がっていた。
 あの時のまま時間が止まっていたのか、床にはノートが落ちている。

 ノートを拾い上げてページをめくるものの、そこには魔法陣がなくなっていた。
 何事も、なかったかのように。

 しかしレンの胸には、忘れられない温もりと美しい記憶が残っていた。
 スイの手の温もり、その声、そして全身で受け取った深い愛——それは、どんな現実よりも確かな幸福の証だった。

 レンは静かに目を閉じ、深く息をつく。
 短いような時間だったが、心の奥底で確実に癒され、満たされている自分を感じた。
「スイ」
 その名を心の中で何度も繰り返し、レンは現実の世界でまた新たな一歩を踏み出すのだった。

****


 魔法陣を前にして、スイは静かに立っていた。
 レンが消え去った後、その姿は徐々に変化していく。
 柔らかな笑みは崩れ、その髪の金色もくすんでいく。白い肌は見る影もなく淀み、やがて人の形を失ってしまう。
 泥の形をしたそれは、いつまでもその場に残っていた。
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