貴族の次男に転生した俺はこの身分を手放して自由を求めて生きていく

陽花紫

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悪夢再び※

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 俺は昔のように仰向けにされ、衣服を全て剥がされていた。

 この肌を確かめるかのように、兄の大きな手のひらが滑る。
 しかし青いその瞳の奥に、あの頃の欲望とは別の色が滲んでいることに気づく。
 それは何もかもを捨てて、自由を手に入れることができた俺への、歪んだ嫉妬。

「あの男は、お前をどう抱いた」

 分厚い舌が、頬を舐める。
 それでも俺は、決して何も答えはしなかった。
 触れられるたびに、この目を、この心でさえも遠くへ逃がす術を知っていたからだ。

 今はただ心を強く持って、アルのことだけを想っていた。

 ついに兄の手が後ろへと這わされたその時、扉の向こうに気配を感じた。
「レオナルド様、急ぎご報告です!」
 静寂を破ったのは、使用人の声だった。
「なんだ」
「捕らえていた男が、逃げ出しました。いかがいたしましょう」
 それは、アルのことなのだろうか。
 アルもまた、この屋敷に捕らえられていたのだろうか。
 しかし兄の一声によって、再び場が静まり返る。
「放っておけ!」
「……かしこまりました」
 わずかに視線を外せば、兄は意地の悪い歪んだ笑みを浮かべていた。
「あの男は、お前を見捨てて逃げ出したということになる。憐れなものだな」
 ついにその指は俺の中へと突き立てられ、全てを諦めたように目を閉じた。

 ――アルが無事なら、それでいい。

 そう思いながら、俺は兄を拒むことなく受け入れた。
 アルの命に比べれば、この身など少しも惜しくもない。
 そう心を強く保ちながらも、与えられる刺激に俺は息を乱していた。

「リオン、どうだ。いいだろう?」

 しばらく慣らされた後に、この身は激しく犯されていた。
 骨が折れてしまいそうなほどに強く、兄は激しくこの身に滾る熱をぶつけていく。
 それでも俺は、決して声を上げたりはしなかった。

 レオナルドなどに、屈してたまるものか。
 唇に血が滲んでも、この目から涙がこぼれ落ちても、俺はただひたすら静かに息を吐いていた。

 半分は同じ血が流れているというのに、兄はそれさえも厭わず激しく俺の身を貪った。
 あの夜の続きを求めるかのように、太い腕に俺の身を覆い隠して何度も汚らしい欲望を吐き出した。
 内部だけでは飽き足らず、あの頃のように手で、口で、足で。俺はまた玩具のように弄ばれた。

「つまらない男だ、お前は」

 全てを終えたあと、兄は身なりを整えて大きく息を吐いてから部屋の扉を開け放つ。

「そこのお前、……清めてやれ」
 兄の声に促されるまま、入れ替わるようにこの場に現れたのは、あろうことかフレイだった。
 彼は目を見開き、顔色を失っていた。

「……申し訳、ございません……」

 それが何に対しての謝罪なのか、俺にはもう何もわからなかった。
 いや、何も信じたくはなかった。
 アルの予想通り、フレイはこの屋敷と通じていたのか。そして、俺のことを見張っていたのか。
 問いかけようにも、すでにそれは遅かった。
 全身が、痛みに震えていた。身じろぎするだけでも、どろりと、その憎たらしい色が外へとこぼれ落ちていく。

 俺はただ、その手の温もりと清潔な布の感触に静かに涙を流すことしかできないでいた。
 フレイは眉を寄せながら、手早く俺の身を清めていった。

 そして俺が尋ねるより先に、フレイは背後を気にして小さな声でこう告げた。
「まさかレオナルド様の弟君だとは、思いもよりませんでした。……これまでの無礼を、お許しください」
 そして、頭を下げていた。
 その姿が、かつてのフランの姿に重なって俺は何も言えなくなってしまう。
 しかし、呼吸を整えて口を開いた。
「フレイ。アルは……」
「地下に……。ですが、逃げ出されたようです……」
 その言葉に、俺は安堵の息をつく。
 なおもこの身を撫でる細い手を取って、俺はフレイの顔を見上げていた。

「お願いだ、フレイ。……ここから出してくれ」
 
 しかしその願いに、フレイは容易に頷くことはなかった。
「申し訳ありません。私の主は、レオナルド様ただお一人なのです……」
「君の父親をこの屋敷から追い出したのは、兄なんだ」
 フレイの目が、わずかに見開かれた。
「それは、一体……」
 けれどこの話は、再びやってきた兄によって遮られてしまう。
「遅い、何をしている!」
「失礼いたしました。リオン様のご気分が優れぬ様子でしたので……」

 突然、渇いた音が響き渡る。
 フレイの頬に、兄の平手が飛んでいた。
「早くしろ、晩餐を運べ」
「かしこまりました」
 フレイはよろめきながらも、扉の外へと消えていった。

「リオン、これからはここで暮らすといい」
 俺はただ、兄のことを睨みつけていた。
「そう怖い顔をするな、俺は……お前の身を案じていたんだ」
 今しがたフレイを叩いたその手が、ひどく優しく俺の頬を撫でている。
 その手のあたたかさに、吐き気が込み上げてくるようでもあった。

 ――嘘だ。手頃な玩具がいなくなったから、また取り戻しただけなんだろう?

「ありがとうございます、兄上」
 昔のように淡々とそう告げれば、兄はわずかに目を細めた。
「そうだ、それでいい」
 近づく顔に唾を吐きかけてみせれば、仕返しと言わんばかりにこの唇を塞がれた。

 俺は静かに、心の奥で誓う。

 ――必ず、ここから出てみせる。そして、アルの元へ帰るんだ。

 この身に刻まれたすべてを、無意味なものにはしないために。
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