貴族の次男に転生した俺はこの身分を手放して自由を求めて生きていく

陽花紫

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セドリック

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 セドリックとは、何かと社交界で顔を合わせる仲だった。

 物静かな性格で、幼い頃から本の感想をよく語りあったものだった。
 特徴的な丸眼鏡はそのままに、短く切り揃えられた銀の髪。
 それでも幼い頃の影はもうなくなって、今はひどく大人びているように見えていた。

「リオ、どうしてこんなところに?」
「君の方こそ、家はどうしたんだ?」
 セドリック相手に、もはや遠慮はいらなかった。

 相部屋になった夜。
 俺たちは、これまでのことを語り合っていた。

 愛称、セド。
 セドリックもまた、名家の次男だった。
 その地位とかつての俺と同じくらいで、しかしその頭脳のおかげで次期当主候補でもあると噂をされていたほどでもあった。
 けれど社交よりも本に集中したいからと、わざとその地位を手放したとセドは語っていた。
 正直なことを言えば、セドは少し変わった性格をしていたんだ。
 でもそこが、俺が気楽に話せる部分でもあった。

「リオも、大変だったんだな」
「ああ、迷惑をかけるかもしれないけれど……。これからよろしく」
「迷惑じゃないよ。またリオンに会えて、俺は嬉しい」
「セド、名前」
「悪い、リオ……」

 仕事は、順調に覚えていった。
 セドをはじめとした他の人も、俺に対して気安く接してくれていた。
 そして、必要以上に踏み込むようなこともしなかった。
 それがかえって、ありがたかった。

「ここは、生きる場所を無くした男たちの墓場さ」

 セドはそう言って、静かに笑った。
 わずかに眼鏡を押し上げて、帳簿に丸をつけていく。
「セドも?」
 思わずそう尋ねれば、セドは目を細めていた。

 そして、衝撃の事実を知る。
 驚くべきことに、その視力は光を失いかけているとのことだった。
「……今はもう、愛する本を読むことさえできないんだ」
 その言葉に、俺は胸を痛めた。
 無意識のうちに、その手を取っていた。
 セドの手は、俺よりもひどく柔らかい手でもあった。
「それなら、俺が本を読み上げるよ」
「リオ……」
「そうすれば、一緒に読めるだろう?」
 そう笑いかければ、セドは灰色の瞳に涙を浮かべていた。

 やがて眼鏡を外して、ぐいとその目を手元で拭った。
「ありがとう、リオ」
 その声は、ひどく優しかった。

 ――俺はまだ、生きていける。

 そう、初めて思えた瞬間でもあったんだ。
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