34 / 37
第三十四夜 誰が為に道を行く
しおりを挟む
第三十四夜 誰が為に道を行く
翌朝、食事のお呼び出しで食堂に集合した俺達だが、王子君の姿が無かった。
王族で家族ご飯かな?
「おはようございます。本日も色々予定が詰まっておりますが頑張ってまいりましょう。」
食事が終わる頃に宰相がやってきて、今日の予定を話し始めた。
今日は昨日話していた活躍報告会からスタートし、国内の協力者さんとの面通しがメインになるみたいだ。
「ちなみに王子は本日別行動となります。御用の際は侍従に申し付けてください。」
「え、面通しに王子は来れないのですか?」
自国内ネタにこの国の王子君が居ないって微妙じゃ?
「そこはジェラルドがカバーするので大丈夫です。本日王子は国外向けの書状制作があるので、王と私と一緒に一日中びっちり執務室にいますからお気になさらず。」
メガネを光らせながらニッコリと宰相さんがビジネススマイルを浮かべた。
…うわぁ、宰相さんとびっちりカンヅメかぁ。会議三昧よりしんどそう。どんまい…。
朝食後はそのまま会議室に案内され、広報部と言う名の諜報部の方々に根掘り葉掘りインタビューもどきをお見舞いされ、勇者君達はノリノリで応えてしまっていた。
途中から諜報部の人達もノリにノってバラエティー番組かって勢いでちょっと笑った。動画配信サービスがこの世界にあったら、絶対ウケたと思うね!
インタビューの後は休憩を挟んで面談…と思ったら、俺とエル、ジェラルドさんは王妃様(男)のガーデンティーパーティーにご招待された。
「ようこそ、我が庭へ。茶くらいしかないがゆっくりしていってくれ。」
美しい花々が咲き誇る庭園に佇む可愛らしいガゼボで待ち構えていたのは、黒の眼帯をした歴戦の猛者たる風格のイケオジ。清楚な白シャツの大きく開いた襟元から豊満な胸筋が溢れパツンパツンになってるイケオジ。白磁の美しいティーカップを持つのはゴリゴリに鍛え上げられた戦士のような拳のイケオジ。
ええ、王妃様は元騎士様でございます。
白刃が絶えず降り注ぐ戦場で片目を失いつつも最後まで王の背中を守り、死闘の末王国を勝利に導いた英雄のひとり。後にその剣の強さを讃え剣聖と呼ばれる。しかし、片目を失った彼は王の騎士としては役目を果たせず、その戦いを最後に剣を置いた…。
が、実は出来ちゃった寿退社でしたー! 英雄王妃爆誕!…って、どんな設定だよッ!! つーか王様、英雄孕ませてんじゃねえーーーッ!!
…はっ?!ガバガバBL設定で取り乱してしまったぜ(脳内で)…。
とりあえずどうやら面通しのお一人目のようで。
「やっと会えたな。何やら面白そうな事を始めるらしいと聞いたぞ。」
ニヤリと悪戯っ子っぽく笑った王妃様に、顔馴染みのジェラルドさん(実は英雄仲間)が同じように笑いながらプレゼンし始めた。
「はっ、あの魔王がそんな面白い事を? しかもこの短期で決めろとは随分な電撃戦じゃないか。」
「面白いだろ? 久しぶりにカード仲間でも呼んで大博打に繰り出そうと思ってな。」
「おいジェラルド、お前が総取りは許さんぞ?」
「まだあん時の事根に持ってんのかよ。安心しろ、剣聖サマ。今回はお前んちの息子に花を持たせてやるのが俺の仕事さ。」
…この人達の会話だけ聞いてると、軍人なのかギャンブラーなのか全くわからんな。
「尻の毛まで引っこ抜く業突く張りのお前がウチの息子に箔をつけるってか。世の中変わったモンだ。」
「はっ、ジジイがいつまでもあぶく銭握りっぱなしじゃ、賭場が冷めちまうだろ。」
王妃様が洋風のキセルを咥え、側付きの筋骨隆々な侍従さんが火を着ける。対面に座ってたジェラルドさんも煙草を咥え、同じように火を着けて貰っていた。
…完全に場が裏社会の会合みたいなんだが。ここ、城の庭園だよな…?
「さて、ジェラルドよ。お前が考える盤面に俺の何が必要だ? 金か? 権力か?」
おおっと、単刀直入にぶっ込んできましたよ?!
お茶会の雰囲気ゼロなんですけど!
「どちらも、と言いてえが…お前には狸と狐を任せたい。俺の手に余るんだ、アイツらは。」
「…あー、狸と狐。それは俺の手にも余るんだが…。」
狸と狐…。神官君と魔法使い君の上司かな…?
「あのクソジジイ共はいまだにお前にぞっこんじゃねえか。執務室に絵姿飾ってたぞ?」
ジェラルドさんが煙草の煙を吐き出しながらクヒヒと笑った。
「…ジジイ共、あの絵まだ飾ってるのか。教会と魔術塔は燃やすしかねえな。」
思いっきり眉をしかめた王妃様からなんか黒いオーラ出てますけど…。
「燃やすな、燃やすな。なあに、ちょっと茶でもてなして、お前の手作り菓子でも食わしとけば上機嫌で自らケツの毛までむしって差し出すさ。」
「いらねえよ、ジジイの尻の毛なんぞ。」
王妃様はオエーと言いながら王妃様にあるまじき下品なジェスチャーを繰り出し、後ろに控えていた侍従さんが堪えきれずブフーッと吹き出していた。
…確かにいらねえな、ジジイのケツ毛は。
「まあケツ毛までは毟り取らなくていいが、ウチの若いモンに協力しろって誘導してくれ。」
「ふん、若いモンね…。おいそこの若造、ちょっと手合わせするぞ。サイモン、お前が相手しろ。」
突然こちらに矛先が向けられた。
筋骨隆々な侍従さんがスッとガゼボから出る。彼がサイモンさんのようだ。
「金髪のヤツ、…ええとエルと言ったか? お前の得物は剣か?」
エルがご指名のようだ。エルも席から立ち上がり、ガゼボの外に出る。
「素手だ。」
「ほう、珍しいスタイルだな。サイモン、お前組み手はイケる口だったか?」
「程々には。」
サイモンさんが帯剣していた剣を外そうとしたが、エルはニヤリと笑いそれを止めた。
「いや俺に合わせなくて大丈夫だ。サイモンさん、アンタは得意な武器を使ってくれ。」
「…自信たっぷりだな。」
サイモンさんもニヤリと笑う。
「では、俺が取り仕切ってやる。」
ジェラルドさんも笑いながらガゼボから出て、二人にルールを告げ間合いを取らせた。
サイモンさんがスラリと剣を抜く。
無骨なロングソードを正眼に構えたサイモンさん。対してエルは手を前に突き出す空手の構えをとる。
全て押し殺した静かな緊迫感が二人を包む。
「始めっ!!」
パァァンとジェラルドさんが手を打ち鳴らした瞬間ーーー、
サイモンさんががっくり膝をついた。
エルは構えを解いてただ立っていた。
「…参りました。」
「は?」「えっ?」
王妃様とジェラルドさんが目を丸くして、サイモンさんを凝視していた。
…よく見るとサイモンさんの剣は、何故か鞘に収まっていた。
「…は、ははは。おい、嘘だろ? いまどうやった? サイモン、お前一体何された?」
王妃様はサイモンさんに駆け寄り、背中をバンバン叩いた。サイモンさんは王妃様の攻撃に大ダメージを負った!
おおふ、クリティカルかな…?
「…一瞬エル殿の姿が消えたと思ったら手に衝撃が走り、気づいたら剣が鞘に収まっていました。顔をあげたらエル殿は元の場所に…。魔法ですか…?」
サイモンさんは未だに理解がついていかないと呆然としていた。
「魔法は使ってない。ただ近くに行ってその厳つい剣をしまってやっただけさ。」
勿論エルはドヤァ顔で説明しました。
「…勝負あり。狼の兄さんの勝ちだ。…おい、今のどこまで見えた?」
「…全く。一瞬動いた気配はしたが…。言葉のあやでなく本当に瞬きの間で相手の剣を奪って鞘におさめるなんて…、ありえんぞ。まさかエルは伝説のニンジャなのか…?」
OH!NINJA!!
ここで忍者かよー。外国人(ここでは異世界人か)、忍者好きだよなー。
でもエルって体術系のスキル取りたくてサブ職に忍者経験してるからあながち間違いではないと思う。
…しっかし、マジでエルの素早さやべえな。見えないどころの話しじゃねえよ…。
「…狼の兄さん、アンタ一体…。」
「勇者なんで。」
エル、ドヤァァァ顔再び。
しかし王妃様を始め皆、うんうんと頷き納得顔である。
ま、勇者アピールだからいっか!
「勇者エル、その強さに敬意を。…よし、腹は決まった。サイモン、俺の顔をたっぷり売りに行くぞ。ジェラルド、狸と狐、あと西のバーサーカーは任せろ。」
「おお、西方か。そう言えばお前はアイツとも仲良かったな。またぶん殴ってくんのか?」
…え、バーサーカー? ぶん殴って?
やたら不穏な言葉しかないが?
西方は確か荒野の民族国家群の設定だった気はするけど。
「…客人の前で人聞きが悪い事言うな。ドーズとはちょっと肉体言語でお話し合いしてくるだけさ。」
「「肉体言語。」」
突然のパワーワードにエルとハモってしまった。
「はっ、脳筋め。…あー、兄さん方、良かったらパレードが終わった後にでも西方までコチラの王妃様の供してくれないか? 流石に西方は遠いし、一応こんなんでもウチの大事な大事な国母サマだから、アンタらの転移と実力がありゃ安心なんだが。」
「問題ないです。新米の方の勇者君も同行していいですか? 彼にも顔を売って欲しいので。」
実は今回西方に魔王退治のクエストがなかったので、勇者パーティーはあちらには行かなかったんだな。故に知名度は無いに等しい、はず。
「むしろ歓迎だ。」
ジェラルドさんはいい笑顔でビシッとサムズアップした。
「ふむ、あの仔犬勇者か。アレは少しは強くなったか? 足手纏いならごめん被るぞ?」
対して王妃様はあまりいい顔していない。
「そちらも問題ないです。さすがにエル程の実力はないですけど、魔王幹部を倒せるくらいには力をつけてますよ。」
「そうか、あの仔犬も成長したか。…ん? ちょっと待て。仔犬が幹部クラスと言うと、勇者エルの実力は…魔王を倒せるレベルでは?! 何故力があるのに戦わん?!」
王妃様がカッと目を見開いた。
あっやべ、墓穴掘った。
「……ええと、その…、ただ倒すだけが正義ではない、と思い、ええと、」「…負の連鎖。敗者がいる限り敗者の報復は止まらない。魔王を倒しても新たな魔王が立ち、再び攻めてくる。勇者も同じだ。倒れたらまた新しくただ戦う為に勇者が選ばれる。…なあ、もし今の勇者が死んで、次代の勇者としてアンタの息子が、孫がその連鎖に巻き込まれたら、ーーー親として嬉しいか?」
「……親として、だと?」
王妃様が視線だけで射殺しそうな殺気を俺達に向ける。
「勇者だから黙って礎になれって言うか?」
エルは地面をサムズダウンで指差して卑屈な笑顔を浮かべた。
「…狼の兄さん、その辺で。余計な事を口走って悪かったな。…おい、伝わったろ? この人達は本気だ。俺達ロートルは若いモンに新しい道を拓いてやるのが役目よ。みっともねえ屍晒してんじゃねえ。」
ジェラルドさんが王妃様の肩をポンと叩く。
「…勇者エル、ひとつ聞きたい。お前は何故ここまで俺達に尽くす?」
王妃様がボソリと呟く。
「アンタらに尽くしてないさ。俺が望む道をただ歩いてるだけだ。」
あー! ちょっ! それは東方義王の腹心である影の台詞ー!! ひとり死地に赴く時言ったヤツー!!エルさん、その台詞チョイスはナイミリオタクに響くぅ!!
「…己の道を歩む、か。」
王妃様は突然バチーンッと自分で両頬を叩いた。お、王妃様?!
「腹が決まるどころか腑抜けてた。ジェラルド、俺も本気でいく。西方に出向くまでに策を寄越せ。平らげてやる。」
王妃様は歴戦の英雄の顔で、言葉にのせペロリと口端を舐めた。まるでそれは血に飢えた獰猛な獣のようだった。
…えっと王妃様は話し合いに行くんだよね? 戦さをしに行くんじゃないよね?
「任せろ。腹いっぱいにしてやるよ。」
ジェラルドさんもギラギラした笑顔で応えた。
…いや、マジで話し合いだよね?
めちゃくちゃに不穏しかない茶会は終わりを迎えた…。平和って何だろう…。
<次回予告>
過去の英雄にも信念はあった。揺るぎない想いだ。
再びその手に想いをのせる。後に続く者達に賭けて。
次回、巡る。「第三十五夜 高らかに鳴らせ」
お楽しみに。
「ボーナスある限り、戦いましょう!」
※次回予告はあんまり本編に関係ありません。
翌朝、食事のお呼び出しで食堂に集合した俺達だが、王子君の姿が無かった。
王族で家族ご飯かな?
「おはようございます。本日も色々予定が詰まっておりますが頑張ってまいりましょう。」
食事が終わる頃に宰相がやってきて、今日の予定を話し始めた。
今日は昨日話していた活躍報告会からスタートし、国内の協力者さんとの面通しがメインになるみたいだ。
「ちなみに王子は本日別行動となります。御用の際は侍従に申し付けてください。」
「え、面通しに王子は来れないのですか?」
自国内ネタにこの国の王子君が居ないって微妙じゃ?
「そこはジェラルドがカバーするので大丈夫です。本日王子は国外向けの書状制作があるので、王と私と一緒に一日中びっちり執務室にいますからお気になさらず。」
メガネを光らせながらニッコリと宰相さんがビジネススマイルを浮かべた。
…うわぁ、宰相さんとびっちりカンヅメかぁ。会議三昧よりしんどそう。どんまい…。
朝食後はそのまま会議室に案内され、広報部と言う名の諜報部の方々に根掘り葉掘りインタビューもどきをお見舞いされ、勇者君達はノリノリで応えてしまっていた。
途中から諜報部の人達もノリにノってバラエティー番組かって勢いでちょっと笑った。動画配信サービスがこの世界にあったら、絶対ウケたと思うね!
インタビューの後は休憩を挟んで面談…と思ったら、俺とエル、ジェラルドさんは王妃様(男)のガーデンティーパーティーにご招待された。
「ようこそ、我が庭へ。茶くらいしかないがゆっくりしていってくれ。」
美しい花々が咲き誇る庭園に佇む可愛らしいガゼボで待ち構えていたのは、黒の眼帯をした歴戦の猛者たる風格のイケオジ。清楚な白シャツの大きく開いた襟元から豊満な胸筋が溢れパツンパツンになってるイケオジ。白磁の美しいティーカップを持つのはゴリゴリに鍛え上げられた戦士のような拳のイケオジ。
ええ、王妃様は元騎士様でございます。
白刃が絶えず降り注ぐ戦場で片目を失いつつも最後まで王の背中を守り、死闘の末王国を勝利に導いた英雄のひとり。後にその剣の強さを讃え剣聖と呼ばれる。しかし、片目を失った彼は王の騎士としては役目を果たせず、その戦いを最後に剣を置いた…。
が、実は出来ちゃった寿退社でしたー! 英雄王妃爆誕!…って、どんな設定だよッ!! つーか王様、英雄孕ませてんじゃねえーーーッ!!
…はっ?!ガバガバBL設定で取り乱してしまったぜ(脳内で)…。
とりあえずどうやら面通しのお一人目のようで。
「やっと会えたな。何やら面白そうな事を始めるらしいと聞いたぞ。」
ニヤリと悪戯っ子っぽく笑った王妃様に、顔馴染みのジェラルドさん(実は英雄仲間)が同じように笑いながらプレゼンし始めた。
「はっ、あの魔王がそんな面白い事を? しかもこの短期で決めろとは随分な電撃戦じゃないか。」
「面白いだろ? 久しぶりにカード仲間でも呼んで大博打に繰り出そうと思ってな。」
「おいジェラルド、お前が総取りは許さんぞ?」
「まだあん時の事根に持ってんのかよ。安心しろ、剣聖サマ。今回はお前んちの息子に花を持たせてやるのが俺の仕事さ。」
…この人達の会話だけ聞いてると、軍人なのかギャンブラーなのか全くわからんな。
「尻の毛まで引っこ抜く業突く張りのお前がウチの息子に箔をつけるってか。世の中変わったモンだ。」
「はっ、ジジイがいつまでもあぶく銭握りっぱなしじゃ、賭場が冷めちまうだろ。」
王妃様が洋風のキセルを咥え、側付きの筋骨隆々な侍従さんが火を着ける。対面に座ってたジェラルドさんも煙草を咥え、同じように火を着けて貰っていた。
…完全に場が裏社会の会合みたいなんだが。ここ、城の庭園だよな…?
「さて、ジェラルドよ。お前が考える盤面に俺の何が必要だ? 金か? 権力か?」
おおっと、単刀直入にぶっ込んできましたよ?!
お茶会の雰囲気ゼロなんですけど!
「どちらも、と言いてえが…お前には狸と狐を任せたい。俺の手に余るんだ、アイツらは。」
「…あー、狸と狐。それは俺の手にも余るんだが…。」
狸と狐…。神官君と魔法使い君の上司かな…?
「あのクソジジイ共はいまだにお前にぞっこんじゃねえか。執務室に絵姿飾ってたぞ?」
ジェラルドさんが煙草の煙を吐き出しながらクヒヒと笑った。
「…ジジイ共、あの絵まだ飾ってるのか。教会と魔術塔は燃やすしかねえな。」
思いっきり眉をしかめた王妃様からなんか黒いオーラ出てますけど…。
「燃やすな、燃やすな。なあに、ちょっと茶でもてなして、お前の手作り菓子でも食わしとけば上機嫌で自らケツの毛までむしって差し出すさ。」
「いらねえよ、ジジイの尻の毛なんぞ。」
王妃様はオエーと言いながら王妃様にあるまじき下品なジェスチャーを繰り出し、後ろに控えていた侍従さんが堪えきれずブフーッと吹き出していた。
…確かにいらねえな、ジジイのケツ毛は。
「まあケツ毛までは毟り取らなくていいが、ウチの若いモンに協力しろって誘導してくれ。」
「ふん、若いモンね…。おいそこの若造、ちょっと手合わせするぞ。サイモン、お前が相手しろ。」
突然こちらに矛先が向けられた。
筋骨隆々な侍従さんがスッとガゼボから出る。彼がサイモンさんのようだ。
「金髪のヤツ、…ええとエルと言ったか? お前の得物は剣か?」
エルがご指名のようだ。エルも席から立ち上がり、ガゼボの外に出る。
「素手だ。」
「ほう、珍しいスタイルだな。サイモン、お前組み手はイケる口だったか?」
「程々には。」
サイモンさんが帯剣していた剣を外そうとしたが、エルはニヤリと笑いそれを止めた。
「いや俺に合わせなくて大丈夫だ。サイモンさん、アンタは得意な武器を使ってくれ。」
「…自信たっぷりだな。」
サイモンさんもニヤリと笑う。
「では、俺が取り仕切ってやる。」
ジェラルドさんも笑いながらガゼボから出て、二人にルールを告げ間合いを取らせた。
サイモンさんがスラリと剣を抜く。
無骨なロングソードを正眼に構えたサイモンさん。対してエルは手を前に突き出す空手の構えをとる。
全て押し殺した静かな緊迫感が二人を包む。
「始めっ!!」
パァァンとジェラルドさんが手を打ち鳴らした瞬間ーーー、
サイモンさんががっくり膝をついた。
エルは構えを解いてただ立っていた。
「…参りました。」
「は?」「えっ?」
王妃様とジェラルドさんが目を丸くして、サイモンさんを凝視していた。
…よく見るとサイモンさんの剣は、何故か鞘に収まっていた。
「…は、ははは。おい、嘘だろ? いまどうやった? サイモン、お前一体何された?」
王妃様はサイモンさんに駆け寄り、背中をバンバン叩いた。サイモンさんは王妃様の攻撃に大ダメージを負った!
おおふ、クリティカルかな…?
「…一瞬エル殿の姿が消えたと思ったら手に衝撃が走り、気づいたら剣が鞘に収まっていました。顔をあげたらエル殿は元の場所に…。魔法ですか…?」
サイモンさんは未だに理解がついていかないと呆然としていた。
「魔法は使ってない。ただ近くに行ってその厳つい剣をしまってやっただけさ。」
勿論エルはドヤァ顔で説明しました。
「…勝負あり。狼の兄さんの勝ちだ。…おい、今のどこまで見えた?」
「…全く。一瞬動いた気配はしたが…。言葉のあやでなく本当に瞬きの間で相手の剣を奪って鞘におさめるなんて…、ありえんぞ。まさかエルは伝説のニンジャなのか…?」
OH!NINJA!!
ここで忍者かよー。外国人(ここでは異世界人か)、忍者好きだよなー。
でもエルって体術系のスキル取りたくてサブ職に忍者経験してるからあながち間違いではないと思う。
…しっかし、マジでエルの素早さやべえな。見えないどころの話しじゃねえよ…。
「…狼の兄さん、アンタ一体…。」
「勇者なんで。」
エル、ドヤァァァ顔再び。
しかし王妃様を始め皆、うんうんと頷き納得顔である。
ま、勇者アピールだからいっか!
「勇者エル、その強さに敬意を。…よし、腹は決まった。サイモン、俺の顔をたっぷり売りに行くぞ。ジェラルド、狸と狐、あと西のバーサーカーは任せろ。」
「おお、西方か。そう言えばお前はアイツとも仲良かったな。またぶん殴ってくんのか?」
…え、バーサーカー? ぶん殴って?
やたら不穏な言葉しかないが?
西方は確か荒野の民族国家群の設定だった気はするけど。
「…客人の前で人聞きが悪い事言うな。ドーズとはちょっと肉体言語でお話し合いしてくるだけさ。」
「「肉体言語。」」
突然のパワーワードにエルとハモってしまった。
「はっ、脳筋め。…あー、兄さん方、良かったらパレードが終わった後にでも西方までコチラの王妃様の供してくれないか? 流石に西方は遠いし、一応こんなんでもウチの大事な大事な国母サマだから、アンタらの転移と実力がありゃ安心なんだが。」
「問題ないです。新米の方の勇者君も同行していいですか? 彼にも顔を売って欲しいので。」
実は今回西方に魔王退治のクエストがなかったので、勇者パーティーはあちらには行かなかったんだな。故に知名度は無いに等しい、はず。
「むしろ歓迎だ。」
ジェラルドさんはいい笑顔でビシッとサムズアップした。
「ふむ、あの仔犬勇者か。アレは少しは強くなったか? 足手纏いならごめん被るぞ?」
対して王妃様はあまりいい顔していない。
「そちらも問題ないです。さすがにエル程の実力はないですけど、魔王幹部を倒せるくらいには力をつけてますよ。」
「そうか、あの仔犬も成長したか。…ん? ちょっと待て。仔犬が幹部クラスと言うと、勇者エルの実力は…魔王を倒せるレベルでは?! 何故力があるのに戦わん?!」
王妃様がカッと目を見開いた。
あっやべ、墓穴掘った。
「……ええと、その…、ただ倒すだけが正義ではない、と思い、ええと、」「…負の連鎖。敗者がいる限り敗者の報復は止まらない。魔王を倒しても新たな魔王が立ち、再び攻めてくる。勇者も同じだ。倒れたらまた新しくただ戦う為に勇者が選ばれる。…なあ、もし今の勇者が死んで、次代の勇者としてアンタの息子が、孫がその連鎖に巻き込まれたら、ーーー親として嬉しいか?」
「……親として、だと?」
王妃様が視線だけで射殺しそうな殺気を俺達に向ける。
「勇者だから黙って礎になれって言うか?」
エルは地面をサムズダウンで指差して卑屈な笑顔を浮かべた。
「…狼の兄さん、その辺で。余計な事を口走って悪かったな。…おい、伝わったろ? この人達は本気だ。俺達ロートルは若いモンに新しい道を拓いてやるのが役目よ。みっともねえ屍晒してんじゃねえ。」
ジェラルドさんが王妃様の肩をポンと叩く。
「…勇者エル、ひとつ聞きたい。お前は何故ここまで俺達に尽くす?」
王妃様がボソリと呟く。
「アンタらに尽くしてないさ。俺が望む道をただ歩いてるだけだ。」
あー! ちょっ! それは東方義王の腹心である影の台詞ー!! ひとり死地に赴く時言ったヤツー!!エルさん、その台詞チョイスはナイミリオタクに響くぅ!!
「…己の道を歩む、か。」
王妃様は突然バチーンッと自分で両頬を叩いた。お、王妃様?!
「腹が決まるどころか腑抜けてた。ジェラルド、俺も本気でいく。西方に出向くまでに策を寄越せ。平らげてやる。」
王妃様は歴戦の英雄の顔で、言葉にのせペロリと口端を舐めた。まるでそれは血に飢えた獰猛な獣のようだった。
…えっと王妃様は話し合いに行くんだよね? 戦さをしに行くんじゃないよね?
「任せろ。腹いっぱいにしてやるよ。」
ジェラルドさんもギラギラした笑顔で応えた。
…いや、マジで話し合いだよね?
めちゃくちゃに不穏しかない茶会は終わりを迎えた…。平和って何だろう…。
<次回予告>
過去の英雄にも信念はあった。揺るぎない想いだ。
再びその手に想いをのせる。後に続く者達に賭けて。
次回、巡る。「第三十五夜 高らかに鳴らせ」
お楽しみに。
「ボーナスある限り、戦いましょう!」
※次回予告はあんまり本編に関係ありません。
0
あなたにおすすめの小説
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました
ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載
異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話
深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?
転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…
月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた…
転生したと気づいてそう思った。
今世は周りの人も優しく友達もできた。
それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。
前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。
前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。
しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。
俺はこの幸せをなくならせたくない。
そう思っていた…
獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果
ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。
そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。
2023/04/06 後日談追加
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる