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2 八乙女林檎
しおりを挟む八乙女家、それは旧華族家系であり財あり、地位ありと言った名家なのだ。
そんな由緒ある家に生まれた私、八乙女 桜子は春から高校入学を備える新入生。そして、妹の 八乙女 林檎。彼女もピカピカの新入生。え?なぜ同じ学年なのですかって?それは、あれよ。ちょっとドロドロした事情なので後々…
私と林檎が入学するのはお金持ちの子息子女が集まる華月鳳鳴学園高校。上手くやっていけるか心配だ。ずっとエスカレーター式だったので友達の心配はしていない…いや、友達ぜんぜんいないけど…まぁ、それは置いといて、小説の舞台であり、人生の山場となるであろう学園生活は不安しかない。
で、今は春休み。あと二週間ほどで物語がスタートし始める。なのに私ときたら特に対策も練ることなく惰眠を貪っている。しかし私は悪くない。毛布が悪いのだ。なんでこんなにヌクヌクふかふかしてんのか…
「お嬢様ー、何時だと思ってんですかー?」
私が惰眠を貪っていると、なかなか起きないことにしびれを切らした春雄が部屋にやって来てしまった。
「……おねがい、もうすこしだけ」
「ダメです」
「…めいれいよ、はるお」
ゴロンと寝返りをうち、毛布を頭までずっぽり被ってしまうと、上から小さなため息が聞こえ、遂に布団が引き剥がされた。
「──っっ!!!!う、うわっ!!」
ものすごい勢いで飛び退く気配が…
ん?それにしてもなんかいつもより寒いな…こう、脚がスースーして…
「お、オレ!なんも見てませんから!!!お嬢様の白い柔肌とか細い腕とか生脚とか、ほんと見てませんから!」
「え?あ、ちょっ…」
毛布を剥がすだけ剥がして私の部屋をドタバタ出て行く春雄に寝ぼけながらもようやく合点がついた。
「これは、、恥ずかしいわね…」
上はキャミソール一枚、下はパンツだけ…私ったらなんてはしたない格好を。
思い返せば昨日、お稽古疲れでフラフラ自分の部屋に戻ってきて、部屋に設置してある風呂に入り、寝間着を着る元気もなくキャミとパンツはいてベッドに潜ったような…
春雄の慌て様も分かるというもの。ちょっと顔合わせ辛くなったじゃない。
まだ重たい身体を無理やり動かして、よたよたとクローゼットの前まで行き服を着た。
一通り身だしなみを整えると、コンコンと部屋をノックする音が響いた。多分はるおだ。
「どうぞ、入ってちょうだいな」
「し、失礼します…あの、さっきのことは…」
「ああ、気にしないで。あんな格好で寝た私が悪いんだから」
「ここまで意識されないなんて…。さすがお嬢様、鈍感の頂点に君臨なさるお方」
「なんか馬鹿にされてる気がするんだけど。ま、いいわ。今日の予定言いに来たんでしょ?」
「はい、えーっと、今日の予定は午後からピアノ、英会話だけなんですけど…その、午前は…」
「なによ歯切れ悪いわね。ちゃんと答えなさいよ」
「旦那様が改めて妹さんをお嬢様に紹介したいと…」
「そう、分かったわ」
「随分あっさりしてますね…私の気遣い返して下さい」
春雄は可愛くもないのに口を尖らせてジト目を見せる。
「お嬢様、変に気強いんですから、妹さん泣かせないでくださいよー」
「泣かせないわよ!」
私だってなにも思うところがないわけじゃない。ただ、純ラヴァの内容知ってるだけに死にたくないって意識が強くて、他の問題が小さく見えるっていうか…
私は主人に向かって失礼な従者をジロリと睨みつけ、身を大きく翻して部屋を出た。
その後ろを春雄が慌てて追ってくる。
「…お嬢様、なんかあったら私が旦那様に…」
「ホホホ、春雄がお父様に盾突くの?きっと身ぐるみ引っぺがされて全裸で道端に放置されるわよ」
「やっぱ怖いんでやめときます」
「そうね、そうして頂戴」
その後はいつもの調子で軽口を叩き合いながら私達は居間まで来た。
私は一呼吸おき、意を決してそっと扉を開く。
「おはようございます…」
「随分と朝は遅いんだね桜子。八乙女家の長女としての自覚早く持ってほしーなお父さん。時間厳守だよ、五分遅れてる。それに家族団欒の場に従者くん連れてくるの感心しないなー」
何が団欒よ…ふざけた頭してるわ
顔は見えないけど春雄が渋い顔をしてるのが眼に浮かぶ。
「御免なさい。でも、一緒に過ごした時間で言えばお父様より春雄の方が長いから、私にとっての家族は春雄なの」
チクリと嫌味をこぼすが動じることもなく、お父様は春雄くんと桜子は本当に仲良いねぇ~なんて言ってる。
相変わらず飄々とした態度をみせる父親の八乙女 叡司郎はニコニコと私に笑いかけ、座るようにすすめた。
何歳か分かんない顔…たしか今年四十歳よね。ほんとに年取ってるのかしら…童顔っていうか、なんというか。
純ラヴァではちょっとしか出てこなかったけど、その性格は私の知ってる父と純ラヴァの父とでは大きく違う。
純ラヴァじゃフレンドリーで優しく、娘思いの父として登場してた。
あ、でも林檎に対しては優しいはずだから原作通りっちゃあそうなのかも…
私はすすめられたように向かいの椅子に腰かけた。父と向かい合って話すのは今年に入って初めてで多少、居心地の悪さを感じた。
まぁ、そんな事よりさっきから俯きがちで空気になってる、父の横に腰かけた妹の方が気になってそれどころではないけど。
「桜子、紹介するね。妹の林檎だ。お前とは同い年なんだよ。林檎の誕生日は二月で桜子は、何月だっけ?九月?十月?まぁいいや。ほら林檎、あいさつ、あいさつ」
同い年…やっぱ原作通りの設定なのね…やっと現実味を帯びてきたわ。
てか、お父様、私の誕生日覚えてないのね。四月よ四月。
「…林檎です」
声ちっちゃ!って、原作の雰囲気と全然違くない!?
純ラヴァのヒロインである八乙女林檎は底抜けに明るく、ちょいとドジで、屈強にも負けないいじらしい性格の、いかにもなヒロインキャラだった。
しかし今私の目の前にいる八乙女林檎はどうだ。俯きがちの顔に暗い表情を貼り付け、更にその暗さに拍車をかけるように、分厚い眼鏡をかけている。腰まであるはずの髪の毛も肩口で揃えられていて、とにかく純ラヴァヒロイン、八乙女林檎の面影がない。
どういう事…?高校デビューして入学同時にキャラ変わるの??いや、全然そんな雰囲気じゃないし。口癖である、私負けないっ!なんて彼女の口から到底聞けそうにもない。
「桜子、仲良くするんだよ。お前がお父さんの事大好きなことは知ってるけど、嫉妬してイジメたら家から追い出しちゃうから」
飄々とした先程の雰囲気とは打って変わってお父様の目は鋭い。
しっかし、お父様は私、八乙女桜子が自分に対して執着してる事は知ってそうだ。その上でこの言葉をかける辺り、血も涙もないけど。
前世の記憶思い出さなかったら、多分私、嫉妬で林檎虐めてたよ…
「私が虐める?聞き捨てならないわ。誰がそのような貧相な子虐めるものですか。それこそ八乙女家の格が下がるというもの」
ありゃ!?口から強めの言葉が!記憶思い出してから気を付けようと思ってたのに!これが強制力というものなの!?いや、日頃の私と言ったら私なんだけれど
「はは、そうかいそうかい。安心したよ。じゃあ後は二人で姉妹の仲を深めるといい」
バタン
お父様、本当に林檎愛してるの?私が虐めるんじゃないかと分かって、一緒に放置したらダメじゃない?まぁ、もともとお父様は自由勝手で楽観的だからこんな事態になってもおかしくはなかったけど。
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