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ボーゲンの最後
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「アーキ様が作ったポーションがこんなに売れるなんてさすがです」
「ありがとう。僕が作ったというよりも値下げしたのもあると思うよ」
「値下げして売れるアーキ様はさすがです」
メアリーさんはいつも褒めてくれる。
同い年の女の子に好かれ褒められるとなんか彼女が出来たような気分。
僕の瞳をじっと見つめてくるメアリーさんと視線が合うと思わず照れてしまう。
雑草ポーションの売り上げは値下げしたこともあって絶好調だ。
効能はほとんど変わらないのに値段が下がってお買い得感が半端ない。
ただ、生産側からすると雑草ポーションはあまりうまみが無い。
雑草ポーションは普通のポーションでいうハイクオリティー品にあたりノーマル品は目覚まし汁となりる。
儲けの大部分を占める更なるハイクオリティー品のハイポーションが出来ないのが商売的につらい。
今現在、ボーゲンによる工作で薬草を使った製品が販売禁止になっているので、クラウスさんが王都から販売再開の連絡をもって帰ってくるまでの応急レシピだったりする。
早く薬草を使った製品の錬金再開をしたい。
ここ何日か止まったエリクサーの生産ノルマを取り戻すには相当頑張らないとダメだろうな。
そんなことを考えながら雑草ポーションを錬金していると王都の錬金術ギルドへ行っていたクラウスさんとリサさんとマイカ姉ちゃんが戻ってきた。
メアリーさんがお父さんに駆け寄ると僕の聞きたかったことを聞いてくれた。
「お父さん、お疲れ様です。薬草製品の販売禁止権の撤回は出来ましたか?」
「ああ、取り下げさせてきた」
僕も続けて聞く。
「今まで通り売れることになりました?」
「ああ、ボーゲンの出した独占販売権は無効になった」
商工会長のクラウスさんが直々に撤回要請に出向いたとはいえ、国の命令がそんなに簡単に覆るわけがないと思うんだけど。
どうやって取り下げさせたんだろうな?
マイカ姉ちゃんとリサさんが教えてくれた。
「まあ、ちょっとゴネられて帰るのが少し遅れたけどね」
「撤回できなければ帰ってくるつもりはなかったよ」
「ボーゲンの嘘がバレた時点で俺たちの勝ちだったな。あいつの嘘に気が付けたリサを連れて行って助かったぜ」
「ボーゲンの嘘?」
「あいつ、給料の未払いがあった代わりに錬金術ギルドを譲り受けたって話になってたんだけど、給料の未払い自体が嘘だったんだ」
やはりそうだったか。
几帳面な父さんが給料の未払いなんてするわけなかったんだ。
「アーキが昔、俺に『父さんが給料の未払いをするわけがない』と訴えてたのを思い出してな。それで調べてみたら案の定よ」
「やったね、アーキ君! ギルドを取り戻せるよ!」
「ボーゲンのギルド長就任に不正があったからあいつももう終わりだ」
すぐにボーゲンは衛兵のゴッサ兄ちゃんに捕縛され、手を縛られ商工会議所の大会議室に連れて来られた。
ボーゲンが捕まったことで町長のワーレンが怒鳴り込んできたが、ゴッサ兄ちゃんに取り押さえられ今は静かにボーゲンの裁判を見守っている。
町のお偉いさんたちが集まり、裁判長兼検事のクラウスさんが執り行う裁判を見届けている。
なぜかそのお偉いさんの中に元アンナ婆さんが交じっていたのは謎だ。
「俺は何も悪いことはしてない!」
ツバキを飛ばしながらボーゲンは容疑を否認する。
それをクラウスさんが論破。
「ボーゲンがギルド長に就任したのは、先代ギルド長のアルタの給料の未払いが有ったということだったがギルド通帳に支払い記録が残っていたんだよ!」
それを聞いたボーゲンは顔を真っ赤にして反論をする。
「そんな訳はない! 古いギルド通帳は既に通帳番号ごと破棄され、ワーレン町長から渡された新しい通帳を……」
絶対に言ってはいけないことを、口から滑らされたボーゲン。
これはアーキの幸運のステータスが引き起こした失言だとは誰も知らない。
「ワーレンがなんだと?」
「いや、なんでもない」
クラウスさんが証拠の取引履歴の書類をボーゲンに叩きつける。
その取引履歴を見てボーゲンは青ざめた。
「ギルド通帳は廃棄されても番号と控えの履歴はギルド本部に残るのを知らなかったお前の敗因さ」
「ぐぬぬぬ」
既に裁判の勝利を確定したクラウスさんは更に別件の追及をする。
「お前の罪はそれだけじゃない。通帳の履歴からわかったんだが、アーキの両親の殺害に加担したな?」
「な、なにを証拠に?」
「暗殺者への振り込み記録が口座情報に残っていた」
それを聞いた町のお偉いさんからは罵るような言葉が聞こえる。
「ダメな奴だとは思っていたが、殺人にまで手を染めていたなんて……」
「銀行振り込みで犯罪行為の証拠を残すとはバカかと」
「どこの馬の骨だかわからない奴だとは思っていたが、犯罪者だったとは」
「アーキに暴力を振るっているのをよく見かけたけど……やはり犯罪者だったのか」
「死刑以外なかろう」
町のお偉いさんたちの総意を決まったようだ。
クラウスさんがボーゲンを断罪する。
「ギルド乗っ取りの詐欺行為と殺人幇助《ほうじょ》で死罪を言い渡したい。処刑方法は……」
町のお偉いさんからは極刑に同意する声しか聞こえない。
ボーゲンは顔を真っ青にして頭を抱えた。
「死にたくねぇ、死にたくねぇ。俺は言われるままにしただけなのに……」
「誰にだ?」
「そんな事わかっているだろ。俺からは言えない」
「真犯人を言えば、お前の命が助かると言ったら?」
「ほ、本当か?」
「奴隷落ちは免《まぬが》れないが、命が助かることだけは保証してやろう」
それを聞いたボーゲンは、藁にもすがる勢いで商工会長に縋《すが》り付いた。
「言う! 真犯人を言う! だから助けてくれ!」
「じゃあ、証言書を書け! リタリフ錬金術ギルド長ボーゲンの最後の仕事としてだ」
真犯人を知る為にボーゲンを死罪にしないのか?
僕の両親を殺したのに死刑にならないのか?
人間を二人も殺しておいて奴隷落ちで済ませるとか、無いだろ。
そんなのは僕が許さない!
僕が殴り込もうとすると、マイカ姉ちゃんが僕の肩を抱きしめ止める。
そして耳元で囁《ささや》いた。
「あんな酷い奴、簡単には死なせはしない。もちろん死ぬよりも酷い目に合わせるから安心して」
死ぬよりもひどい目?
どういう意味なんだ?
僕にはわからない。
「ここはクラウスさんに任せて欲しい」
ボーゲンは『契約の護符』を使い証言書を書いた。
契約の護符とは主に取引の時に使われるもので、嘘をついたり約束を違《たがえ》えた場合は死をもたらせられる魔道具だ。
つまり契約の護符を用いた証言書は真実となる。
「この証言書をもって、ボーゲンは奴隷落ちとする」
すると、クラウスさんは勝利の微笑みを上げた。
「これでボーゲンも終わりだ!」
ボーゲンが死罪から逃れられたのに、クラウスさんはなんでそんなに嬉しそうな顔をしてるの?
もしかしてボーゲン側の人だったりするの?
ボーゲンも、死罪から逃れられたのにクラウスが喜んでいるのを見て首を傾げている。
「死罪にならなかったのに、なんでそんなに喜んでいる?」
「奴隷と言ってもボーゲンがなるのは死と隣り合わせの戦闘奴隷。死ぬまで安全な鉱山で働く労働奴隷とは違う」
ボーゲンは下された判決があまりにも軽くて笑いが止まらない。
戦闘奴隷と言えば普通は冒険者の補助としてサポートをすることになる。
荷物持ちや戦闘補助で仕事としては冒険者と変わらない。
死ぬまで鉱山から出ることを許されない労働奴隷に比べるとありえない自由度。
町を好きに歩けるし、任務で町の外へも行ける。
おまけに20年ほど労働奴隷を続ければ奴隷から解放され二等市民になれるおまけつき。
人を2人殺した罰としては軽すぎる。
これはワーレンさんが裏でクラウスの糸を操っているんだな。
そう思ったんだが……。
*
ボーゲンが労働奴隷として売られた先は冒険者ではなく真剣で斬りあうコロシアムであった。
一日一度の前座試合。
そこで戦闘能力を持たないボーゲンは猛獣代わりに扱われることになった。
生きたまま切り刻まれる試し切りの的。
しかも普及し始めたエリクサーのお陰で死にたてならば蘇生され完全回復。
ボーゲンには心が砕け散るほどの辛い毎日が待っていた。
「ありがとう。僕が作ったというよりも値下げしたのもあると思うよ」
「値下げして売れるアーキ様はさすがです」
メアリーさんはいつも褒めてくれる。
同い年の女の子に好かれ褒められるとなんか彼女が出来たような気分。
僕の瞳をじっと見つめてくるメアリーさんと視線が合うと思わず照れてしまう。
雑草ポーションの売り上げは値下げしたこともあって絶好調だ。
効能はほとんど変わらないのに値段が下がってお買い得感が半端ない。
ただ、生産側からすると雑草ポーションはあまりうまみが無い。
雑草ポーションは普通のポーションでいうハイクオリティー品にあたりノーマル品は目覚まし汁となりる。
儲けの大部分を占める更なるハイクオリティー品のハイポーションが出来ないのが商売的につらい。
今現在、ボーゲンによる工作で薬草を使った製品が販売禁止になっているので、クラウスさんが王都から販売再開の連絡をもって帰ってくるまでの応急レシピだったりする。
早く薬草を使った製品の錬金再開をしたい。
ここ何日か止まったエリクサーの生産ノルマを取り戻すには相当頑張らないとダメだろうな。
そんなことを考えながら雑草ポーションを錬金していると王都の錬金術ギルドへ行っていたクラウスさんとリサさんとマイカ姉ちゃんが戻ってきた。
メアリーさんがお父さんに駆け寄ると僕の聞きたかったことを聞いてくれた。
「お父さん、お疲れ様です。薬草製品の販売禁止権の撤回は出来ましたか?」
「ああ、取り下げさせてきた」
僕も続けて聞く。
「今まで通り売れることになりました?」
「ああ、ボーゲンの出した独占販売権は無効になった」
商工会長のクラウスさんが直々に撤回要請に出向いたとはいえ、国の命令がそんなに簡単に覆るわけがないと思うんだけど。
どうやって取り下げさせたんだろうな?
マイカ姉ちゃんとリサさんが教えてくれた。
「まあ、ちょっとゴネられて帰るのが少し遅れたけどね」
「撤回できなければ帰ってくるつもりはなかったよ」
「ボーゲンの嘘がバレた時点で俺たちの勝ちだったな。あいつの嘘に気が付けたリサを連れて行って助かったぜ」
「ボーゲンの嘘?」
「あいつ、給料の未払いがあった代わりに錬金術ギルドを譲り受けたって話になってたんだけど、給料の未払い自体が嘘だったんだ」
やはりそうだったか。
几帳面な父さんが給料の未払いなんてするわけなかったんだ。
「アーキが昔、俺に『父さんが給料の未払いをするわけがない』と訴えてたのを思い出してな。それで調べてみたら案の定よ」
「やったね、アーキ君! ギルドを取り戻せるよ!」
「ボーゲンのギルド長就任に不正があったからあいつももう終わりだ」
すぐにボーゲンは衛兵のゴッサ兄ちゃんに捕縛され、手を縛られ商工会議所の大会議室に連れて来られた。
ボーゲンが捕まったことで町長のワーレンが怒鳴り込んできたが、ゴッサ兄ちゃんに取り押さえられ今は静かにボーゲンの裁判を見守っている。
町のお偉いさんたちが集まり、裁判長兼検事のクラウスさんが執り行う裁判を見届けている。
なぜかそのお偉いさんの中に元アンナ婆さんが交じっていたのは謎だ。
「俺は何も悪いことはしてない!」
ツバキを飛ばしながらボーゲンは容疑を否認する。
それをクラウスさんが論破。
「ボーゲンがギルド長に就任したのは、先代ギルド長のアルタの給料の未払いが有ったということだったがギルド通帳に支払い記録が残っていたんだよ!」
それを聞いたボーゲンは顔を真っ赤にして反論をする。
「そんな訳はない! 古いギルド通帳は既に通帳番号ごと破棄され、ワーレン町長から渡された新しい通帳を……」
絶対に言ってはいけないことを、口から滑らされたボーゲン。
これはアーキの幸運のステータスが引き起こした失言だとは誰も知らない。
「ワーレンがなんだと?」
「いや、なんでもない」
クラウスさんが証拠の取引履歴の書類をボーゲンに叩きつける。
その取引履歴を見てボーゲンは青ざめた。
「ギルド通帳は廃棄されても番号と控えの履歴はギルド本部に残るのを知らなかったお前の敗因さ」
「ぐぬぬぬ」
既に裁判の勝利を確定したクラウスさんは更に別件の追及をする。
「お前の罪はそれだけじゃない。通帳の履歴からわかったんだが、アーキの両親の殺害に加担したな?」
「な、なにを証拠に?」
「暗殺者への振り込み記録が口座情報に残っていた」
それを聞いた町のお偉いさんからは罵るような言葉が聞こえる。
「ダメな奴だとは思っていたが、殺人にまで手を染めていたなんて……」
「銀行振り込みで犯罪行為の証拠を残すとはバカかと」
「どこの馬の骨だかわからない奴だとは思っていたが、犯罪者だったとは」
「アーキに暴力を振るっているのをよく見かけたけど……やはり犯罪者だったのか」
「死刑以外なかろう」
町のお偉いさんたちの総意を決まったようだ。
クラウスさんがボーゲンを断罪する。
「ギルド乗っ取りの詐欺行為と殺人幇助《ほうじょ》で死罪を言い渡したい。処刑方法は……」
町のお偉いさんからは極刑に同意する声しか聞こえない。
ボーゲンは顔を真っ青にして頭を抱えた。
「死にたくねぇ、死にたくねぇ。俺は言われるままにしただけなのに……」
「誰にだ?」
「そんな事わかっているだろ。俺からは言えない」
「真犯人を言えば、お前の命が助かると言ったら?」
「ほ、本当か?」
「奴隷落ちは免《まぬが》れないが、命が助かることだけは保証してやろう」
それを聞いたボーゲンは、藁にもすがる勢いで商工会長に縋《すが》り付いた。
「言う! 真犯人を言う! だから助けてくれ!」
「じゃあ、証言書を書け! リタリフ錬金術ギルド長ボーゲンの最後の仕事としてだ」
真犯人を知る為にボーゲンを死罪にしないのか?
僕の両親を殺したのに死刑にならないのか?
人間を二人も殺しておいて奴隷落ちで済ませるとか、無いだろ。
そんなのは僕が許さない!
僕が殴り込もうとすると、マイカ姉ちゃんが僕の肩を抱きしめ止める。
そして耳元で囁《ささや》いた。
「あんな酷い奴、簡単には死なせはしない。もちろん死ぬよりも酷い目に合わせるから安心して」
死ぬよりもひどい目?
どういう意味なんだ?
僕にはわからない。
「ここはクラウスさんに任せて欲しい」
ボーゲンは『契約の護符』を使い証言書を書いた。
契約の護符とは主に取引の時に使われるもので、嘘をついたり約束を違《たがえ》えた場合は死をもたらせられる魔道具だ。
つまり契約の護符を用いた証言書は真実となる。
「この証言書をもって、ボーゲンは奴隷落ちとする」
すると、クラウスさんは勝利の微笑みを上げた。
「これでボーゲンも終わりだ!」
ボーゲンが死罪から逃れられたのに、クラウスさんはなんでそんなに嬉しそうな顔をしてるの?
もしかしてボーゲン側の人だったりするの?
ボーゲンも、死罪から逃れられたのにクラウスが喜んでいるのを見て首を傾げている。
「死罪にならなかったのに、なんでそんなに喜んでいる?」
「奴隷と言ってもボーゲンがなるのは死と隣り合わせの戦闘奴隷。死ぬまで安全な鉱山で働く労働奴隷とは違う」
ボーゲンは下された判決があまりにも軽くて笑いが止まらない。
戦闘奴隷と言えば普通は冒険者の補助としてサポートをすることになる。
荷物持ちや戦闘補助で仕事としては冒険者と変わらない。
死ぬまで鉱山から出ることを許されない労働奴隷に比べるとありえない自由度。
町を好きに歩けるし、任務で町の外へも行ける。
おまけに20年ほど労働奴隷を続ければ奴隷から解放され二等市民になれるおまけつき。
人を2人殺した罰としては軽すぎる。
これはワーレンさんが裏でクラウスの糸を操っているんだな。
そう思ったんだが……。
*
ボーゲンが労働奴隷として売られた先は冒険者ではなく真剣で斬りあうコロシアムであった。
一日一度の前座試合。
そこで戦闘能力を持たないボーゲンは猛獣代わりに扱われることになった。
生きたまま切り刻まれる試し切りの的。
しかも普及し始めたエリクサーのお陰で死にたてならば蘇生され完全回復。
ボーゲンには心が砕け散るほどの辛い毎日が待っていた。
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