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第1章 風の大都市
明日には明日の風が吹く
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目が覚めると、そこは見慣れた天井だった。
汚れていた体はいつのまにか清められており、着ている服も清潔なシャツになっている。
我ながら短期間に倒れる回数の多さに嫌気が差してくる。
これ以上は絶対に無理しないでおこう、あとは優秀な大人たちに任せて俺はゆっくりとお休みするんだ。
もう一度目を瞑ると、俺の脳内で妹の「おにいそれフラグなんですけど~。」という声が聞こえてくる。
うるせえ!フラグってなんだよ。また恋愛ドラマの話か?
……妹元気かな、久々に家族のことを思い出してしまってなんだかホームシックな気持ちになってきた。
「やめやめ、こんなこと考えてないで俺はどろっどろの泥みたいに寝て元気になるんだい!」
「泥になる前に私に何か言う事ないわけ?」
「え、プリオルいつの間に。今瞬間移動してきたとか?」
「失礼ね、貴方の目が覚める前から居たわよ。」
……今、考え込んでいる時に周りが見えなくなる癖をどうにかしないといけないなと痛感しているところなのでそんなに睨みつけないで泣いちゃう。
会うたびに俺を睨んでいる彼女だが、今回はその目元にあからさまな疲れが浮かんでいた。
「大丈夫?」
「ついさっきまで倒れていたあんたに心配されるなんて私よっぽど酷い顔をしているのかしら。でも休んでいる暇はないの、今母様は仕事でかなり遠方の地に居てとてもじゃないけどすぐには駆けつけられない。だから私が指揮して、探して……。」
彼女の言葉がだんだん弱々しくなってくる。
当然だろう、俺と同じくらいの歳なのに妹が死ぬかもしれない状況で不安になりながらも部下をまとめ、策を巡らせている。いや、俺は前世の16年があるからプリオルの方がよっぽどすごい。
「銀龍様にも恐れ多くもご助力頂いているけれど、ただでさえ妹の魔力は元々強くない上にあちら側が魔力感知の対策をしているからかしらね全く足取りが掴めないの。」
最初は、俺には関係ないと突き放していた彼女が今は息継ぎをする暇もなく言葉を垂れ流し続けている。きっと俺が同じくらいの年齢の少年だからこそ少し安心して気持ちが抑えられなくなっているのだろう。
俺にも何か力になれることはあるだろうか?
……?
…………………???
「あああああああ!」
「それでね……うわ何うるさっ。急に叫ばないでくれるかしら。」
俺はアホなのか?倒れた時に記憶がぶつ切りになったせいで今の今までどうして倒れていたのかすっかりさっぱり抜け落ちていた。
「ちちちがくて、あのそれ森が屋敷が、お前の妹で。」
「はあ?」
「おおおれ走ってお前らにそしたら」
急に色々と思い出したせいで頭が混乱した俺は脳内の映像と言葉が全く結び付かず、奇妙な鳴き声で手をブンブン振り回す怪しいやつに成り果てていた。
「何を訳の……いや待って、もしかして貴方妹のいる場所を見つけたの?……ストップ、詳しく喋らなくて結構よ。はい、かいいえだけで答えて。」
俺はもげそうなほど頭を縦に振る。
それをみたプリオルは疲れきった表情に笑顔を乗せたくしゃくしゃの顔になっていた。
「っ、よかった。今から地図とペンを渡すから屋敷の場所をマークしなさい。」
そうしてペンを手渡す彼女の手は強気な語調とは裏腹に小刻みに震えている。
俺は彼女の手ごとがしっとペンを掴んで取り、恐らくこの辺だろうなと言う場所に丸をつけた。
「嘘、セレスの外なの。でもこんな森に屋敷なんて、」
ペンで地図を叩きながら顎に手を当てて暫く考え込んでいたプリオルの表情が急に青ざめる。
「タルファは……妹は、この屋敷のどこに。」
「地下だって。」
「……っぅううああぁ。」
プリオルはついに涙目になって言葉にならない呻き声を上げながら椅子から崩れ落ちる。
その時、男達が言っていた儀式場という言葉を思い出した。もしかしてそれがまずいのだろうか。
一分ほどの沈黙があった。あまりも気まずくて俺はなんとか言葉を捻り出す。
「でも男達は儀式場の詳細は知らない感じだったよ。」
「……道端で計画についてペラペラと喋る奴らなんて雇われた計画の末端の人間に違いないわ。セレスの人間を攫ってよりにもよってあそこに連れていこうとする人間はもっとこの都市の歴史と魔法に詳しい聡明な人のはずよ。」
いつの間にか立ち上がっていた彼女の顔には恐怖も、怯えも、疲れも、何も映し出されていなかった。
幼さすらも剥ぎ取られた無表情を見て、むしろ俺の方が恐怖を感じていた。
彼女はそのまま俺の方を見ることもなく風の魔力を放出し始める。
「隠密部隊に通達、旧マエベール邸へ潜入調査を。」
「全魔法部隊に通達、それぞれの部隊から代表を集めて、臨時少数精鋭部隊を編成すること。」
「セレスの全教会に通達、全ての白魔法の使い手は聖エメラルディア大教会に即時集合。」
「個人通達、各部隊隊長及び大司教は5分後にセレス城の会議室へ集まること。」
無感情のまま、素人目で見ても並大抵の人間は使えないであろう強力な魔法で指令を下していくプリオルにテオが言っていた当主オフェリアのことを思い出す。
才能と力をただ淡々と使う彼女に、将来のセレス城主の姿を見た気がした。
「私はすぐ城に戻らねばなりません。貴方は幼いながらもこの国の重要人物のために十分健闘してくれました。……また後程伺うわ、今はどうかゆっくり休んでいて。」
なあプリオル、お前だって俺と同じくらい幼いんだよ。無理しないでくれよ。
だなんて、彼女の様子を見たらとてもじゃないけど言えなかった俺は、
「お前もさ、帰ったら一緒にゴロゴロしてお菓子食おうぜ!な?」
と、この緊張感たっぷりの部屋に全くそぐわない返事をしてしまった。
部屋を出ようと俺に背を向けていたプリオルは一瞬、時が止まったように固まって、そしてその直後何事もなく箒を持って扉を閉じた。
「年上らしくキメようと思ったけど予想以上にアホみたいなこと言っちゃったぁ……。」
するとその直後窓の外から初対面の時に聞いた時と同じように気取ったしゃかしゃかした鈴のような声が聞こえてきた。
「お誘いして頂いたところ申し訳ありませんけど、私貴族ですから、ゴロゴロしながらティータイムなんて致しませんわ!」
急いで窓を開けると、箒に乗った少女が城の方へと飛んでいくのが見えた。
その顔は少しだけいつもの笑顔を取り戻していたような気がした。
汚れていた体はいつのまにか清められており、着ている服も清潔なシャツになっている。
我ながら短期間に倒れる回数の多さに嫌気が差してくる。
これ以上は絶対に無理しないでおこう、あとは優秀な大人たちに任せて俺はゆっくりとお休みするんだ。
もう一度目を瞑ると、俺の脳内で妹の「おにいそれフラグなんですけど~。」という声が聞こえてくる。
うるせえ!フラグってなんだよ。また恋愛ドラマの話か?
……妹元気かな、久々に家族のことを思い出してしまってなんだかホームシックな気持ちになってきた。
「やめやめ、こんなこと考えてないで俺はどろっどろの泥みたいに寝て元気になるんだい!」
「泥になる前に私に何か言う事ないわけ?」
「え、プリオルいつの間に。今瞬間移動してきたとか?」
「失礼ね、貴方の目が覚める前から居たわよ。」
……今、考え込んでいる時に周りが見えなくなる癖をどうにかしないといけないなと痛感しているところなのでそんなに睨みつけないで泣いちゃう。
会うたびに俺を睨んでいる彼女だが、今回はその目元にあからさまな疲れが浮かんでいた。
「大丈夫?」
「ついさっきまで倒れていたあんたに心配されるなんて私よっぽど酷い顔をしているのかしら。でも休んでいる暇はないの、今母様は仕事でかなり遠方の地に居てとてもじゃないけどすぐには駆けつけられない。だから私が指揮して、探して……。」
彼女の言葉がだんだん弱々しくなってくる。
当然だろう、俺と同じくらいの歳なのに妹が死ぬかもしれない状況で不安になりながらも部下をまとめ、策を巡らせている。いや、俺は前世の16年があるからプリオルの方がよっぽどすごい。
「銀龍様にも恐れ多くもご助力頂いているけれど、ただでさえ妹の魔力は元々強くない上にあちら側が魔力感知の対策をしているからかしらね全く足取りが掴めないの。」
最初は、俺には関係ないと突き放していた彼女が今は息継ぎをする暇もなく言葉を垂れ流し続けている。きっと俺が同じくらいの年齢の少年だからこそ少し安心して気持ちが抑えられなくなっているのだろう。
俺にも何か力になれることはあるだろうか?
……?
…………………???
「あああああああ!」
「それでね……うわ何うるさっ。急に叫ばないでくれるかしら。」
俺はアホなのか?倒れた時に記憶がぶつ切りになったせいで今の今までどうして倒れていたのかすっかりさっぱり抜け落ちていた。
「ちちちがくて、あのそれ森が屋敷が、お前の妹で。」
「はあ?」
「おおおれ走ってお前らにそしたら」
急に色々と思い出したせいで頭が混乱した俺は脳内の映像と言葉が全く結び付かず、奇妙な鳴き声で手をブンブン振り回す怪しいやつに成り果てていた。
「何を訳の……いや待って、もしかして貴方妹のいる場所を見つけたの?……ストップ、詳しく喋らなくて結構よ。はい、かいいえだけで答えて。」
俺はもげそうなほど頭を縦に振る。
それをみたプリオルは疲れきった表情に笑顔を乗せたくしゃくしゃの顔になっていた。
「っ、よかった。今から地図とペンを渡すから屋敷の場所をマークしなさい。」
そうしてペンを手渡す彼女の手は強気な語調とは裏腹に小刻みに震えている。
俺は彼女の手ごとがしっとペンを掴んで取り、恐らくこの辺だろうなと言う場所に丸をつけた。
「嘘、セレスの外なの。でもこんな森に屋敷なんて、」
ペンで地図を叩きながら顎に手を当てて暫く考え込んでいたプリオルの表情が急に青ざめる。
「タルファは……妹は、この屋敷のどこに。」
「地下だって。」
「……っぅううああぁ。」
プリオルはついに涙目になって言葉にならない呻き声を上げながら椅子から崩れ落ちる。
その時、男達が言っていた儀式場という言葉を思い出した。もしかしてそれがまずいのだろうか。
一分ほどの沈黙があった。あまりも気まずくて俺はなんとか言葉を捻り出す。
「でも男達は儀式場の詳細は知らない感じだったよ。」
「……道端で計画についてペラペラと喋る奴らなんて雇われた計画の末端の人間に違いないわ。セレスの人間を攫ってよりにもよってあそこに連れていこうとする人間はもっとこの都市の歴史と魔法に詳しい聡明な人のはずよ。」
いつの間にか立ち上がっていた彼女の顔には恐怖も、怯えも、疲れも、何も映し出されていなかった。
幼さすらも剥ぎ取られた無表情を見て、むしろ俺の方が恐怖を感じていた。
彼女はそのまま俺の方を見ることもなく風の魔力を放出し始める。
「隠密部隊に通達、旧マエベール邸へ潜入調査を。」
「全魔法部隊に通達、それぞれの部隊から代表を集めて、臨時少数精鋭部隊を編成すること。」
「セレスの全教会に通達、全ての白魔法の使い手は聖エメラルディア大教会に即時集合。」
「個人通達、各部隊隊長及び大司教は5分後にセレス城の会議室へ集まること。」
無感情のまま、素人目で見ても並大抵の人間は使えないであろう強力な魔法で指令を下していくプリオルにテオが言っていた当主オフェリアのことを思い出す。
才能と力をただ淡々と使う彼女に、将来のセレス城主の姿を見た気がした。
「私はすぐ城に戻らねばなりません。貴方は幼いながらもこの国の重要人物のために十分健闘してくれました。……また後程伺うわ、今はどうかゆっくり休んでいて。」
なあプリオル、お前だって俺と同じくらい幼いんだよ。無理しないでくれよ。
だなんて、彼女の様子を見たらとてもじゃないけど言えなかった俺は、
「お前もさ、帰ったら一緒にゴロゴロしてお菓子食おうぜ!な?」
と、この緊張感たっぷりの部屋に全くそぐわない返事をしてしまった。
部屋を出ようと俺に背を向けていたプリオルは一瞬、時が止まったように固まって、そしてその直後何事もなく箒を持って扉を閉じた。
「年上らしくキメようと思ったけど予想以上にアホみたいなこと言っちゃったぁ……。」
するとその直後窓の外から初対面の時に聞いた時と同じように気取ったしゃかしゃかした鈴のような声が聞こえてきた。
「お誘いして頂いたところ申し訳ありませんけど、私貴族ですから、ゴロゴロしながらティータイムなんて致しませんわ!」
急いで窓を開けると、箒に乗った少女が城の方へと飛んでいくのが見えた。
その顔は少しだけいつもの笑顔を取り戻していたような気がした。
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