ド平凡少年は異世界テンプレを知らない

琴浦まひる

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第2章 空飛ぶ家

魔法のイメージは難しい

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「ここは訓練室よ。何もない空間だから物を壊す心配をする必要はないし、好きなものを持ち込んでもらって構わないわ。」

プリオルがそう言いながら連れてきたのは巨大な体育館のような場所だった。

「お兄さん!私たちはお母様と通信のご用事があるのでまた後で会いましょう。」

タルファちゃん、プリオル、そして何故かテオまでもがセレス城主との通信をするために去っていった。

「よし、じゃあまずはもう一度緑魔法をやりましょうか。そよ風の吹く感覚をイメージして。」

スザンナさんが呪文を唱えるとそよそよと優しい風が頬に当たる。

「なるほど、やってみますね。」

さっきの風を思い浮かべながら、スザンナさんと同じ呪文を唱えると優しい風が……

ビュオオオオオオオ!!!!

「なんで!?」

台風来たかってくらい強すぎなんですけど。

「うわーとーばーさーれーるー」

視界の端でブラッドが楽しそうに吹き飛ばされている。流石上位存在台風レベルの風でも動じないんだ。

「こら、蛇の方見てる場合じゃないわよ」

スザンナさんが呪文で俺の風をかき消す。綺麗な黒髪がボサついてしまっているのを見て少し申し訳なくなる。
こういう時うまく風を扱えたらスマートに髪を整えちゃったりできたりして?
それにしてもなんで弱めの出力にならないんだ?一度魔道書に目を通してみるか。

「えっとなになに……力の調節は使う魔法本体のイメージよりも、別で分かりやすく強弱のイメージを頭に浮かべた方が良い?」

うーんわかりやすく置き換えるとすれば蛇口とか……かな?他にもあるだろうけど1番身近でイメージがしやすそうだ。

「何かいいアイデア見つけたって顔してるわね。」

「あっはい、一度やってみます。」

俺は手を前に出し、目を瞑りながらもう一度風を思い起こし呪文を唱える。

「蛇口チョロチョロを意識して……」

すると、ほんのり風っぽいものが当たる感覚がした。

「おっ、いい感じね。」

「難しいなこれ、吹いてるのか吹いてないのかわからないレベルだ。もう少し蛇口を捻って……」

ビュオオオオオオオ!!!

「またか!!!!!ぐっ、魔力がぁ体から抜けてくぅぅぅう!」

俺は変な叫び声を上げながら風圧で地べたに転がる。その様子を手を叩いて笑いながら見守るスザンナさん。

「これに関してはもう慣れね。私はこれから黄魔法と青魔法が得意な知り合いを呼んでくるから出力調整できるようになるまで休まないでね~。」

「えっ。」

地べたを這いずってる俺にスザンナさんはいつもの笑顔で手を振りながら去っていく。

「うう、これでも結構体力削れてるんだけどこれをノンストップでやれと?」

ぱたりと脱力する俺。スザンナさん優しい顔して案外鬼だ……そんなことをぶつぶつ呟く俺の上に、どかりと座り込む不遜な感触がした。

「前々から思ってたがお前は大雑把なヤツだな。」

じとりとうつ伏せのまま声がした方を睨みつける俺を見て、フッと馬鹿にしたような笑みを浮かべる蛇。

「破壊だ破壊だーってなんでも壊そうとするお前に言われたくねぇ。」

「これだから素人は。いや……そうだな、よし。」

何かに思い至ったのかブラッドはおもむろに立ち上がり俺の目の前に仁王立ちする。

「予定を変更するのじゃ、今から黒魔法の練習をするぞ。」

「はぁぁ!?なんで。」

「黒魔法とは全種類の魔法の中で1番の純粋な力にして最も繊細なコントロールを必要とするからだ。」

黒魔法が繊細?

「ちょっと待ってろ。」

そう言うと、ブラッドは走って部屋を出る。そして1分くらい経ったとき、大量の花を手に掴んで帰ってきた。

「まずこの花を適当な黒魔法で壊す。」

ブラッドは一本の花を俺の前に掲げ、

そしてバラバラに破壊した。

寝そべっている俺の横にはらはらと花びらとみじん切りにされた茎が落ちてくる。

「だが黒魔法の素質があるものならその程度生まれた時からできて当然じゃ。そして、これが本当に黒魔法を使うということだ。」

ブラッドは取り出したもう一つの花をそっと優しく撫でる。

すると花は音もなく萎み、さっきまでの生き生きした美しさが嘘の様に枯れ果てて、最後には茶色い塊になってしまった。

もう花としての面影は存在しない。

「これ、絵本で見たのと同じだ。」

さっきのように美しく散った花とはまるで違う。枯れていても乾燥していても花は花だが、花としての在り方を奪われゴミ同然の姿になったこれはもう……

「与えるのが白魔法なら奪うのが黒魔法。あらゆるものを誰の手も届かないように消し去り、人々がその事実に絶望する様を眺める。これこそ破壊の快楽じゃ。」

目を鋭く細め、あっはっはと声をあげる大蛇。
いつもと同じような傲慢な笑い方なのに何故か背筋が凍りそうな恐怖に襲われている。

「おやぁ?ジョン、ついに俺様の偉大さに気付いたのか。」

笑うのをやめ、俺の頬を両手で包み込み至近距離でじっと見つめてくる。俺の体はまるで蛇に巻き付かれたかのように苦しくなって動けない。

「なんてな、今の俺様はお前の血のせいで許可がなければせいぜい人1人を破壊できるかどうかくらいの力しか出せんのじゃ。そう固くなる必要はない、もっと堂々とせよ。」

ブラッドは、ぱっと手を離し新しい花を引っ掴んで俺に差し出す。

「外側を壊すのではなく、中にある本質を奪い取れ。そのコツを身につけ応用すればきっと大雑把なお前でも他の属性を容易く扱えるだろう。」

なんだかいつもの子供っぽさがなくなって本当に上位存在と話しているみたいだ。俺は静かに頷いて、黒の指輪を抜いてから花を受け取る。

集中して、命を壊すイメージ、吸い取るイメージ、そして容易く失われることへの恐怖……

「少し強すぎだが、悪くない。」

手のひらの花だったものは既に塵となっていた。

「はは、できちゃった。」

他の属性より使いやすかったのは目の前でにやついている蛇の教え方がよかったのかそれとも……





「俺様の教え方が上手いからだが?」

「心読まれた!?」

「いやなんかすごい闇に堕ちそうな表情しておったから。俺様みたいな偉大なヤツならまだしも適当で大雑把なお前に悪の親玉は無理じゃ諦めろ。」

俺に悪役は無理だそうです。
元悪い奴のお墨付きだ!よかった!!
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