婚約者の教育に完全失敗しました。計画を変更して悪役令嬢を完遂します!

琴浦まひる

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新学期と狂気

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あれから日が経ち、新学期がやってきました。そしてこの時期は例の物語の始まりでもあるのです。

「見て、ルイス様よ。」
「いつ見ても素敵な方ね。」

全校集会で新学期の挨拶する為に登壇したルイスを見て、女子生徒がわっと歓声を上げる。

「本当にあの方なら誰でも選び放題なのにパッとしない伯爵令嬢が婚約者だなんて可哀想。」
「しかもカレンデュラ家といえば、あくまで風の噂ですけども近年特に領地経営がギリギリらしいわよ。」
「まあ、ルイス様もお気の毒……。」

後ろに私がいるというのによく堂々と悪口が言えるわね。確かに彼は私が絡まなければ本当に素晴らしい人格者だもの側から見たらそのような評価になっても当然といえば当然かも。

「それでは僕から最後に一つお知らせをします。この長期休暇の間、この国に数100年ぶりに現れた聖女の話は皆さんご存知だと思います。そして幸運なことに彼女は明日からこの学園で共に学ぶこととなりました。
しかしながら彼女は先日まで平民として生きてきた為、貴族としての振る舞いが不十分です。だからこそもし彼女が困っていれば皆さんが手を差し伸べてください。
我々の新しい学友が充実した学園生活を送れるように僕も力を尽くしたいと思っています。
これで集会を終わります。担任の先生の指示に従って退出するように。」

見事なスピーチとふんわりとしたスマイルに女子だけでなく男子までも真っ赤になってこくこくと頷いている。真面目に生徒会長を遂行している彼と普段の彼が本当に同一人物なのかと疑いたくなる程に今の彼は魅力的だ。




「はぁ、疲れた。何も考えずに赤ちゃんの頃に戻りたい……ううん赤ちゃんよりももっと胎児に……アリスティアの子宮にかえりたい。」

「私あなたを産んだ覚えはありませんが。」

今日のカリキュラムが終わった後、こっそり私の寮の部屋に潜り込んでお腹に頭を擦り付ける彼を見て、悪い意味で本当に同一人物か疑いたくなる。

「それくらいわかってるよ。願望くらいは言っても良いだろう?妄想の中での僕はアリスティアのお腹の中で過ごしていてね、偶にお腹を蹴ったらアリスティアがお腹を撫でてその手の感触に幸せを感じていたんだ。」

怖いわよ!!!確かにテスト疲れから人間やめたいだとか赤ちゃんになりたいとか言ってる友人は居たけれども、存在しない胎児エピソードを語るのは貴方くらいよ。

「生まれた直後の僕は……。」

「それまだ続くのかしら?」

「一応6歳までのエピソードは語れるつもり。」

「ちょうど私と出会う前までね。」

「僕の人生にアリスティアが存在していない瞬間があるという事実がどうしても受け入れられないんだよ。」

駄目だわ、このまま会話を続けていたらきっと8歳までの架空エピソードを夜通し語られる羽目になる。

「そういえば聖女様が学園にくるのでしょう?貴方はもう会ったのよね。色々な噂が飛び交っているけど貴方から見てどんな子だった?」

「勿論会ったよ、他の教会のシスターとはオーラっていうのかな雰囲気が澄んでいて僕達とは全然違う存在なんだと思い知らされたね。普通に他の人と同じように接しないといけないとはわかっているんだけどさ。それに朝早くから怪我をした鳥に治癒魔法をかけていたんだ、とても優しい子なのは間違いないね。」

あら、なかなか好感触じゃない。このまま聖女と関わる機会を増やすよう誘導すればすぐに結ばれるのではないのかしら。

「まあ、聞いているだけで心が浄化されそうなお話ね。私も会うのが楽しみだわ。貴方は生徒会長なのだから生徒のお手本として率先して聖女様に色々と教えてあげてくださいね。」

「勿論だよ。聖女様は優しいだけじゃなくて可愛いから男子生徒が変な気を起こしたり、嫉妬した女子生徒にいじめられないように僕達生徒会が全力で守ることになっているんだ。」

可愛いって!守るって!これはかなりいい流れだわ。この調子なら私が悪役令嬢として振る舞う必要もほとんどなくなるかもしれないわね。でも念のために聖女と接触して彼女がルイスのルートを辿るように誘導しないと。

「そんなに可愛らしい子なのね。私すごく気になるわ。生徒会長権限で特別に会う機会を作ってくれないかしら?」

すると満点の笑顔だったルイスが突然無表情に切り替わる。

「無理だよ。」

「そう、なら仕方ないけれど自分で話しかけるタイミングを伺うしかないようね。」

「それもさせない。アリスティアは聖女様に関わらないで。」

「はい?」

「あと一つ覚えおいて欲しいんだけど、僕は一見なんでもできそうに見えるけどそれは気のせいだから!僕はアリスティアの指示がないと何もできないんだから。」

脈略もなく何を言いだしたかと思えば、嘘おっしゃい。貴方が大抵のことは一度で覚えて仕事のスピードは人の何倍も早くて、テストはどれだけ難易度が高くても毎回95点を切ることはない。加えて休日は父親と共に家の仕事もしていることはあちらの両親との交流とゲームの知識で知っていましてよ。
これのどこに私の指示が必要なのでしょう。

「はいはいわかりましたから今日はもう遅いですからお帰りなさいな。」

「聖女様と会わない?」

「婚約者様からのお願いですもの、向こうから話しかけられれば答えますけれど私からは接触しないようにいたしますわ。」

まあ、嘘ですけど。聖女とのコンタクトは私の計画に必須ですからそれは守れませんわ。

私の心にもない言葉を聞いたルイスはぱっと笑顔を取り戻す。

「そうだね、仕事もあるし戻ることにする。」

生徒会が守る、かぁ。生徒会のメンバーは皆優秀だ。どうやって彼らの目をくぐり抜けて彼女と接触するか、難易度が高すぎて考えるだけで今夜はねむれそうにない。











アリスティアの部屋から去ったルイスは、暗い瞳でぶつぶつと呟きながら光のほとんどない、細い通路を歩く。この学園には生徒会及び教師のみが通れる隠し通路が存在する。本来は寮の生徒が何か違反をしていないかをこっそり確認する為の通路だが、ルイスはアリスティアの様子を隠れて眺めることだけに使用している。

「アリスティアは愛らしくて自分で管理できる子が好きなんだ。僕は自慢じゃないけどほとんどのことは容易に出来てしまうし、もう幼少期と違って可愛い男の子じゃない。あんなに可愛くて、単純そうで、お世話したくなるような子を会わせてもしアリスティアが聖女様を好きになったら僕は、僕は……。」

無意識に咥えて噛み締めていた親指からは血が流れ落ちていたが、脳内をアリスティアで占められている今の彼が気づくことはなかった。



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