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1章 冒険の幕開け

6話 闇

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神獣の誓約しんじゅうのせいやく
このギルドはこの街で一、二を争うほどの
強豪ギルド
このギルドを知らないものはまずいないだろう
そんな上級ギルドのメンバーに話しかける命知らずの下級ギルドの少年

「クレア、彼はと知り合いなのかい?」

「あ、はい昨日会ったばかりですけど」

「僕は新人の誓約しんじゅうのせいやく団長のカルロス・グレイだ」

カルロスはそう言うと
正義の前に手を差し出す
握手しようと言う意味だろう

「クロサキ・セイギだ!よろしく!カルロス!」

いきなりタメ口で上級ギルドの団長に自己紹介をする正義
酒場の空気が一瞬で重くなる
静まり返った酒場で一人の冒険者が声を上げた

「おいおい!お前団長に向かってタメ口とはいいご身分してんな?しかもクレアとも中良さげにしやがって!あぁ?」

「ロゼル落ち着きなさい」

ロゼルと言われたこの男
赤い髪で目が鋭く所々に傷がある
ロゼルは正義とクレアが話していることが気に食わなかったのか
間に立って正義の顔を覗き込む

「いや、別に話してるだけじゃん」

「お前下級ギルドの分際でクレアに話しかけてんじゃねぇって言ってんだよ!」

「下級とか上級とか関係ないだろ?」

煽られる挑発をスルリとクールに交わす正義
その態度はロゼルの怒りを更に増加させるものだった

「おいテメェ!「やめろロゼル口を慎め」ぐっ!」

団長の一声で静まるロゼル

「すまないねうちのメンバーが失礼なことを言ってしまって」

「いえ、セイギくんの態度も悪かったです…こんな無礼なことをしてしまって申し訳ありません」

「こんなギルドに謝るこたぁねぇよミスティア。久しぶりだなカルロス」

「久しぶりだねグラン
少しは腕を上げたかい?」

「………………」

カルロスとグランは昔からの犬猿の仲
子供の頃から共に育ち
共に冒険者になった、しかしカルロスは冒険者になると共にギルドを立ち上げグランはソロでダンジョンに挑み続けた
ギルドとソロでは圧倒的な差があった
グランがギルドを立ち上げた頃にはカルロスは街では名を知らない者はいない程有名になっていた
カルロスはグランの強さを知っている

「カルロスと団長って知り合いなの?」

「まぁ、そうだな………」

歯切れの悪い返答
違和感を感じた正義

「ん?おいテメェもしかして駆け出し冒険者か?」

突然ロゼルが正義に言った

「そうだよ…なんか文句あるのか?」

「まだランク底辺のお前がこのランクBの俺になんて態度とってんだ!!雑魚は雑魚らしく底辺の奴らとお話しでもしとけ!!」

「雑魚雑魚うるせぇんだよ!」

さすがの正義ももう我慢の限界だ
気がつけば思い切りロゼルに向かって殴りかかっていた
だがこれがレベルの差というものだろう
繰り出した右フックをスルリと交わされる

「何ダァ?そのカスみたいなパンチは?本物のパンチはこんな感じだ!!」

次にロゼルが右フックを繰り出す
正義は俊敏に長けているがすべてのステータスが劣っていた
ロゼルの拳を交わせるはずもなく直撃した

「うぶっ!」

「セイギくん!」

鼻が折れ曲がったかと思うくらい重たいパンチ血が床に垂れる

「辞めないか!ロゼル!」

ハーフエルフのギルドメンバーと思える女性がロゼルを止めに行く

「いやぁーすまないね」

「いや別に構わんがあまりセイギを舐めない方がいいぞ」

グランのその言葉に神獣の誓約しんじゅうのせいやくのメンバーは顔をしかめた

「さぁーもっとやろう………」

この時カルロス、ロゼル、クレアにはセイギから感じる
威圧、背筋から寒気が襲ってきた

(なんだこの寒気はイヤな予感がする」

「チッ!まだまだ行くぜ!」

イヤな予感がするも気のせいだと言い聞かせ
また殴りかかるロゼル
しかしそのパンチは正義に当たることはなかった

「ったく酒場で暴れるなよ…」

グランによって止められていたからだ
正義はすでに意識を失っていた

「チッ!弱ぇくせに!」

ロゼルはそう言うと酒場を出て行く

「いいんですか?追いかけなくても」

ミスティアがクレアに聞く

「ほっといてもまたすぐ戻ってくるわ」

「全くせっかく飲みにきたのにこれじゃあ飲む空気じゃないね……今日は帰ろうか…でも良いものが見れた」

カルロスは少し残念そうに言う
最後に言った言葉は誰にも聞き取られることはなかった

「またどこかで会おうグラン」

「お前とはあまり会いたくねぇが…」

「まぁそんなこと言わないでさ
帰るよ!みんな!」

「ロゼルがごめんなさいと目を覚ましたら伝えておいてくれる?」

「はい!」


神獣の誓約しんじゅうのせいやく
酒場から立ち去っていった
まだ酒場の中にいた冒険者達もとても飲める状況じゃない

「あの駆け出し冒険者ロゼルと喧嘩するなんて……」

「命知らずだな…あの団長がいなかったら死んでるぞ」

そんな声がちらほらと聞こえてくる

「もう出るか…今日はこの辺で」

「いえ!また来てください!」

「ミスティア行くぞ」

「は、はい」

グランは正義を担いでミスティアと
この酒場を後にした


周りが見えない暗闇の中
正義は一人立っていた

「どこだ…ここ?」

今この状況を理解できずその場に座り込んで腕を組み考えた

ー来たか……

突然脳から直接何かに話しかけられた

「脳内直接!誰!?」

ー私はデスタお前の中の化身

正義は何を言っているのかわからず
返答に困ってしまう

「?厨二病ですか?」

そう答えたがよくよく考えてみれば
ソードスキルにある龍の咆哮ドラゴンロアも十分厨二病だったことに気づいた

「あ、俺のソードスキルも厨二病だった…で、俺の中にいる闇?」

ーそうだ……

「なぁ…そんなの良いから早く姿見せてくれない?」

ーそれはできない…お前が真の力を発揮する時私は現れるだろう…

「えぇ…結構マジっぽい…ずっと脳内で話しかけてくる点」

ーお前にあるSPスキルは私が存在する限り持続する

「えぇ!?俺にSPスキルなんてあるの!?」

ーまだお前達には見えないがいつかは出てくる

「マジか…俺にもSPスキルあったのか!これじゃああの野郎にも!」

ー一つだけ忠告しておく決して自分の力に溺れてはならないわかったな?

「?よく分からんけど分かった」

ーお前の成長をこの体で見届けさせてもらおう!


正義とデスタの会話はそこで途切れた
次に見えたのはギルドの天井だった

「いつつ……」

「あ!セイギくん目を覚ましたのね!」

「目ぇ覚めたか…全くランクBの奴に素手で挑むなんてバカな奴だぜ…」

「!そういえば!冒険者カード!」

正義は慌てて冒険者カードを出す
さっきの夢に出て来たデスタのSPスキルという言葉を思い出し確認した

「………ない…SPスキル…」

「前も言ったでしょSPスキルは元々備わってる者しかないの」

「…………………」

正義の不自然な行動を静かに見ていたグラン
正義のSPスキルの存在に気づいている唯一の人物だ

「まぁそんなに落ち込むなよSPスキルが無くても強ぇ奴は強ぇんだ。お前が強くなれば良いだけの話だ」

グランにしては珍しい励ましの言葉
しかし正義はここで疑問に思ったことがあった

「団長はSPスキルとかってないんですか?」

グランのSPスキルの存在だ
まだ会って数日しか経ってないが
ここまでの強さならばあってもおかしくはないだろう

「ん?俺か俺はあるぞ」

「やっぱり!どんなスキルなんですか?」

「ほらよ」

グランは自分の冒険者カードを正義に見せる

グラン・リューク

冒険者ランク    A
使用武器          火龍の大剣
力     1000        S
耐久  850         A
俊敏  900         S
体力  800         A
技術  700         B
魔力  700         B

ソードスキル
火龍の息吹

使用魔法
ファイアボール

SPスキル
鬼神の守護
戦闘時全能力が大上昇する
ピンチになれば覚醒状態に陥る

「強すぎだろ!?しかもファイアボールとかカッコ良すぎ!」

正義はグランのステータスと自分のステータスを見比べている

「そんなに良い魔法じゃねぇけどな」

どうやらグランの魔法は使用魔法の中でも
下に位置する魔法らしい
戦闘では魔法をあまりというより滅多に使わないグランには魔法など必要なかった

「俺も魔法使いてーていうか俺にもSPスキルをー」

「まぁお前ならSPスキルが途中で出てくるかもな」

「えっ?」

「どういう意味ですか?団長」

「さぁな………」


この時グランが発した言葉の意味は
この場にいる二人には理解できなかった
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