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43 魔女の騎士①

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「と、言うことは──!」

 なぜかわたしよりエボニーの方が興奮している。

「──ハニティ。此度の試験の結果をもって、貴女を正式に次代の地の大魔女に任命いたします」
「やったー!」
「な、なんでエボニーが喜んでるんだい?」
「えー、嬉しいから?」

 か、かわいいやつめ……。
 リチアナのことはちょっと引っかかるけど、エボニーが癒し枠で本当によかった。

「試験は滞りなく、皆さんの修行の成果を見せてもらえました。……そして、今回ハニティが示してくれた、新しい形。……料理、というのはとても斬新で、素敵なものでした」

 グランローズ様が任命を発表すると、見学魔女も参加した魔女も、みんなどこか納得した様子だった。
 ありがたや……。
 あとはリチアナと、魔力のない人……か。

「継承の儀は、来週。……永遠の樹を前にして、行います」
「は、はい」
「地の大魔女として……貴女が成したいこと。……きっと、料理を作った時の気持ちをもってすれば、叶うと信じていますよ」
「ありがとう、ございます」

 相手のことを考えて。心身ともに、元気になりますように。

 心って意味では、前世の記憶がなくても持っていた志しだけど。
 栄養や、効能の知識がより一層増えたことで、文字通り効果を発揮できるようになった。
 ……ちょっと、出来過ぎ、だよねぇ?

「私は六十歳までは現役でいるつもりなの。……慌てなくても、少しずつでいいのよ」
「善処しますっ」

 ということは、あと二年。
 何事もなければ、あと二年は修行の時間があるのか。
 料理の腕を磨くか。
 うーん。それとも……。

(もっと積極的に、人と関わってみる?)

 地味魔女とはいえ、大魔女になったらきっと魔力で圧は増すかもしれない。
 今のうちに、やれることはやっとくか……?
 医者が少ないところで、炊き出し……とか?
 でも、ツテがないとただの怪しい人だしなぁ。

「では、皆さん。……大魔女であろうとなかろうと。私達は、変わりません。魔法使いとして、これまで以上に精進してくださいね」

 定期試験もお開きの雰囲気。
 見学魔女は、ダオに名残惜しそうな視線を残しつつ退散。
 ユッカちゃんとリネアちゃんは、「頑張ってください!」「美味しかったです!」と声を掛けていただき、エボニーは料理のどういうところが良かったかを熱弁。

(あ、そうだ。ダオ)

 結局、花びら以外にラヴァース様はお見えにならなかったけど、グランローズ様にお話は聞きたいだろうし。
 ダオ、呼んでこなきゃ。

「──グランローズ様」

 料理を食べたあと、休憩がてらハーブティーも提供した。
 今日は朝摘んできた、生のカモミールティーだ。

「ハニティ、久しいわね」
「あ、はい。元気に修行してました」

 参加者と審査員の関係から、一気に師弟へと戻る。
 ほんと、久しぶりというか。
 前世の記憶がもどってからは、はじめまして?

「……私はウルマリンとシークインの真意は分からないのだけれど」
「ウルマリン……様?」

 前代水の大魔女。シークイン様の先輩だ。
 その方すら、一枚噛んでる……?

「貴女の料理は、そうね……。治癒の魔法ともまた違う、……きっと本来のなんだわ」
「……大魔女のみなさんは、本当に謎かけがお上手で……」
「ふふふ。いずれ、分かるわ」

 シークイン様よりも前の水の大魔女が、わたしの前世のことを視ていたのだとしたら。
 それこそ、グランローズ様が五十八歳まで継承の儀を行っていないのも納得だ。

「それで?」
「あ、えっと。……紹介したい人がいて」
「まぁ! あの、一人好きな……貴女が?」
「あははー」

 いや、ほんと。出会いはただの偶然だったんですけどねぇ。
 文字通り、拾ったんです。
 魔法使いじゃなければ、すぐに追い出したとは思うけど。

(まぁ、……なんだかんだ。うまく、やってる?)

 ダオは気遣いができるというか、空気を読むのが上手い。
 本来、わたしが一人好きなのも悟っている模様。
 庭の作業中はモクモクと集中できるよう、用事がなければ話かけてこない。
 依頼した手伝いが終わってからも、自分で掃除や体を鍛えたりとしている。
 ……手が掛からない子?

 料理中はミスター何それと妖怪手伝いクレーを兼業していて、割と話すけど。
 なんというか……、わきまえてる。そんな印象。

「じゃ、お呼びしますね。──ダ」
「ちょっと、よろしいですか?」

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