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42 試験の結果は……
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「──出来ました~」
気が抜けそうなくらい、ゆるーく手を挙げて申告。
我ながら、緊張しないよう普段通りを心掛けたとはいえ、ゆるい。
「あら、ハニティ。……なんだか、以前より肩の力が抜けたかしら?」
(あわわ……)
さすが師匠、というのか。
多忙な師ゆえに、ふつうの師弟関係よりは過ごした時間は多くない。
けど、さすがは大魔女。
色んな人を見てきたその眼は、さすがに鋭いな。
雰囲気……というのか、『わたし』の変化も見逃さない。
「こちらは?」
「ボア肉の餃子入りスープと、だいこんステーキです」
「まぁ……」
グランローズ様も、さすがにびっくり。
今まで魔女の試験で、薬やハーブ水のような提出はあれど、料理はなかった。
まぁ、現世ほど発達した環境だったらあり得たかもだけどね。
食べ物は体をつくり、栄養のバランス大事!
わたしにとっては当たり前だけど、こちらでは浸透した考えとは限らない。
……おまけに魔力を伴うなら、尚更。
「──お待ちください! グランローズ様!」
(き、キター!)
予想通り、リチアナより待ったがかかる。
「料理、だなんて……! 試験を遊びと勘違いされては、困ります!」
「どうして?」
「……え?」
「どうして、料理は……遊びになるのかしら?」
さ、さすがグランローズ様。
大人の対応がかっこいい。
「そ、それは……! 料理と魔力は、無縁だからで……!」
「そうかしら? ……ハニティも、そう思う?」
「いえ。わたしたちは、地の魔女。慈愛と成長を司るわたし達にとって、体を成長させ、また自浄の素となる料理……、食事という行為は切っても切れないものです」
まぁ、今のところ魔力を使って育てた食材がすごい! って感じで、なんでダオにわたしの料理が効果的なのかは良くわかっていないのだけれど。
「──そんなの! 薬があるじゃない!」
「それは弱ってしまった後の話です。わたし達は毎日、他の生命を口にすることで命を繋いでいます。それをより効果的に、……そして、感謝をもって行うことで、予防できることも多くあるのです」
「感謝……ですか。素敵な考え方ね」
「地の魔女として、修行してきた中で得た知見です」
仮に。
今ここでラヴァース様の魔力が暴走し、すべての大地から植物の命が途絶えたら。
果たしてわたし達は生きていけるのか?
ふつうにご飯を食べれる。
これって、すごく幸せなことなんじゃないのだろうか。
前世の記憶が甦ったことも関係するのかもだけど、なんだか俯瞰してこの世界をみれている気がする。
「とにもかくにも、冷めてしまいます。グランローズ様と──リチアナ。貴女のために、作りました」
「わ、私……?」
「そうね、せっかくだから頂きましょう」
「良ければ、参加者の皆さん分はございます。どうぞ」
一応、土魔法も見せておかねば。ってことで、五人が座れそうなテーブルと、イスも造り出す。
「あいかわらず、早くて正確な魔法ね」
「エボニー、ありがと」
「ふふっ。料理、たのしみ」
「……ふんっ」
あぁ、やはりリチアナはご機嫌ななめ。
どうだろう。
彼女のため、とは言っても。
所詮はわたしの独りよがりかもしれない。
でも、わたしは……地の大魔女。それを目指している。
魔法使いたちの意見からも、逃げることはできない。
向き合うことが、大切だと思う。
「グランローズ様、先にだいこんのステーキをお召し上がりください」
さすがに審査員より先には食べれないので、彼女のあとに続く形で参加者にも食べてもらう。
「──! これは……」
「だいこんは気の巡りを良くしてくれると言います。地の魔力を使って育てただいこんであれば、魔力の巡りも期待できるでしょう」
胃もたれや消化不良の解消には、熱を通さない方がいいらしいけど。
今回は気の巡り効果に期待、だからステーキにしたのだ。
「不思議……、薬、とは違う。なんでしょう? 体と魔力がきちんと機能していると言えばいいのかしら……」
「……にんにくも同様で、血の巡りを良くし、体を温めてくれます」
生にんにくだと効果が強いので、基本熱を通して使っている。
「なるほど。……魔力を使って育てた植物を、更に一工夫して体と魔力の融和を図る、と。……薬とはまた、趣が違うのですね」
「予防、と申し上げたのはそういうことです」
「ハニティ、食べていい?」
「どうぞ。あ、食べ物への感謝も忘れずに」
「え? あ、えっと。ありがとうございます」
「……」
無言で召し上がるリチアナ、怖すぎる。
「……! 魔力が」
「えー!? すっごい、ハニティ! さっき調合で水魔法使ったんだけど、その分の魔力回復した気がする!」
「えええぇ?」
や、やはりというか。
わたしの料理、効果がでるの早すぎないかい?
見学魔女さんたちがざわついている気がする……!
そしてここからは見えないけど、後ろの見学席にいるダオは絶対ドヤ顔だと思う!
「……ハニティ」
「は、はいっ」
グランローズ様が、神妙な面持ちでなにか伝えようとする。
「貴女は、貴女の力をもってして、何を願ったの?」
「え?」
料理を作る時に、なにを願ったかってこと?
「えっと……、元気に。……体も心も、元気になりますように?」
「そう。……これは、貴女の魔力がもたらしたのではないわ。……貴女の、他者への慈しみが、それをもたらしたの。……そして、それが。……それこそが、魔法」
「???」
魔法、とは。
自然の力に寄せて魔力を発動させること。
……じゃないの?
「えーっと、おっしゃる意味が──」
「では、こちらも頂きましょう」
「っあ、はい。どうぞ」
スルーされてしまった。
なんだか、聞いてはいけない話だった気がする。
ともあれ、最初に味の濃いステーキを食べてもらったのにはスープでさっぱり口直しできるから。
「まずは、スープを先にどうぞ」
「……さっぱりしたお味ね、先程の料理のあとにぴったりだわ」
「では、次にそちらの具を半分に割って頂けますか?」
「? こう、かしら」
わたしも見本として、自分で作った料理の食べ方を実演。
あぁ……、餃子のあんからボアの脂か何かが染み出て、おまけににんにくやにら達の風味も出てきて……。
お、おいしそう~。
「で、半分にした具とスープを一緒にすくって、どうぞ」
「……!! スープに、しっかりとした味が……」
「これぞ、一度で二度おいしい! ってやつです!」
「おいしい~!」
「……」
あぁ、また無言のリチアナが怖い。
他二名の魔女ちゃんたちはお互いに美味しいと言い合いながら、食べている。
「わたしも、失礼して……」
もう我慢ならん、食べる!
お、……おーいーしーいー!
元々は薄めのさっぱりスープ。
そこに、しっかりと味をつけ、火を通したことで皮の中でボアの脂とにんにくやにら達の香りが融合。
それがシンプルなスープに溶けだし、見た目は清純派、中身は肉食女子な餃子スープの完成!
……なにを言ってるんだ、わたしは。
「タマネギおいしいね」
「さすがエボニー、タマネギの甘さが鍵なのだよ」
そう。
ボアの脂はたぶん、豚よりこってりしてる気がする。
なので肉自体も分量少な目にして、きゃべつや玉ねぎでの水分と甘さを上回らせる。
そうすることで、脂っこさをカバーするのだ!
「それと、やはり魔力がうまく体に定着する感覚がありますね。……なるほど、料理とは。……よく考えましたね」
「血肉となるのは、なにも魔力だけではありませんから」
そう。たぶん前世の感覚からいうと、わたしは魔力を栄養や気といったもので想像している。
なので、元々のハニティとしての感覚と合わせると、料理っていう選択はすごく自然なのだ。
こちらの人はそうではないようだけど。
「……どうして」
「「え?」」
「どうして、あんたは……いつも」
いつも……なに?
リチアナがそう言いながら、……立ち上がって去って行ってしまった。
ど、どうした……。
「あー、ハニティ。あれは気にしなくていいよ」
「ええぇ? 気になるでしょ普通……」
「ゼノとリチアナって、幼馴染だから」
「……?」
だから、何なんだ。
「──ハニティ」
「は、はいっ」
「目覚めた、のですね?」
「!?」
「?」
やっぱり、シークイン様のお言葉は……。
「やはり、そうでしたか……。時が、きたのですね」
「それは、どういう……」
「……継承の儀。それは、もう間もなく、行われることでしょう」
気が抜けそうなくらい、ゆるーく手を挙げて申告。
我ながら、緊張しないよう普段通りを心掛けたとはいえ、ゆるい。
「あら、ハニティ。……なんだか、以前より肩の力が抜けたかしら?」
(あわわ……)
さすが師匠、というのか。
多忙な師ゆえに、ふつうの師弟関係よりは過ごした時間は多くない。
けど、さすがは大魔女。
色んな人を見てきたその眼は、さすがに鋭いな。
雰囲気……というのか、『わたし』の変化も見逃さない。
「こちらは?」
「ボア肉の餃子入りスープと、だいこんステーキです」
「まぁ……」
グランローズ様も、さすがにびっくり。
今まで魔女の試験で、薬やハーブ水のような提出はあれど、料理はなかった。
まぁ、現世ほど発達した環境だったらあり得たかもだけどね。
食べ物は体をつくり、栄養のバランス大事!
わたしにとっては当たり前だけど、こちらでは浸透した考えとは限らない。
……おまけに魔力を伴うなら、尚更。
「──お待ちください! グランローズ様!」
(き、キター!)
予想通り、リチアナより待ったがかかる。
「料理、だなんて……! 試験を遊びと勘違いされては、困ります!」
「どうして?」
「……え?」
「どうして、料理は……遊びになるのかしら?」
さ、さすがグランローズ様。
大人の対応がかっこいい。
「そ、それは……! 料理と魔力は、無縁だからで……!」
「そうかしら? ……ハニティも、そう思う?」
「いえ。わたしたちは、地の魔女。慈愛と成長を司るわたし達にとって、体を成長させ、また自浄の素となる料理……、食事という行為は切っても切れないものです」
まぁ、今のところ魔力を使って育てた食材がすごい! って感じで、なんでダオにわたしの料理が効果的なのかは良くわかっていないのだけれど。
「──そんなの! 薬があるじゃない!」
「それは弱ってしまった後の話です。わたし達は毎日、他の生命を口にすることで命を繋いでいます。それをより効果的に、……そして、感謝をもって行うことで、予防できることも多くあるのです」
「感謝……ですか。素敵な考え方ね」
「地の魔女として、修行してきた中で得た知見です」
仮に。
今ここでラヴァース様の魔力が暴走し、すべての大地から植物の命が途絶えたら。
果たしてわたし達は生きていけるのか?
ふつうにご飯を食べれる。
これって、すごく幸せなことなんじゃないのだろうか。
前世の記憶が甦ったことも関係するのかもだけど、なんだか俯瞰してこの世界をみれている気がする。
「とにもかくにも、冷めてしまいます。グランローズ様と──リチアナ。貴女のために、作りました」
「わ、私……?」
「そうね、せっかくだから頂きましょう」
「良ければ、参加者の皆さん分はございます。どうぞ」
一応、土魔法も見せておかねば。ってことで、五人が座れそうなテーブルと、イスも造り出す。
「あいかわらず、早くて正確な魔法ね」
「エボニー、ありがと」
「ふふっ。料理、たのしみ」
「……ふんっ」
あぁ、やはりリチアナはご機嫌ななめ。
どうだろう。
彼女のため、とは言っても。
所詮はわたしの独りよがりかもしれない。
でも、わたしは……地の大魔女。それを目指している。
魔法使いたちの意見からも、逃げることはできない。
向き合うことが、大切だと思う。
「グランローズ様、先にだいこんのステーキをお召し上がりください」
さすがに審査員より先には食べれないので、彼女のあとに続く形で参加者にも食べてもらう。
「──! これは……」
「だいこんは気の巡りを良くしてくれると言います。地の魔力を使って育てただいこんであれば、魔力の巡りも期待できるでしょう」
胃もたれや消化不良の解消には、熱を通さない方がいいらしいけど。
今回は気の巡り効果に期待、だからステーキにしたのだ。
「不思議……、薬、とは違う。なんでしょう? 体と魔力がきちんと機能していると言えばいいのかしら……」
「……にんにくも同様で、血の巡りを良くし、体を温めてくれます」
生にんにくだと効果が強いので、基本熱を通して使っている。
「なるほど。……魔力を使って育てた植物を、更に一工夫して体と魔力の融和を図る、と。……薬とはまた、趣が違うのですね」
「予防、と申し上げたのはそういうことです」
「ハニティ、食べていい?」
「どうぞ。あ、食べ物への感謝も忘れずに」
「え? あ、えっと。ありがとうございます」
「……」
無言で召し上がるリチアナ、怖すぎる。
「……! 魔力が」
「えー!? すっごい、ハニティ! さっき調合で水魔法使ったんだけど、その分の魔力回復した気がする!」
「えええぇ?」
や、やはりというか。
わたしの料理、効果がでるの早すぎないかい?
見学魔女さんたちがざわついている気がする……!
そしてここからは見えないけど、後ろの見学席にいるダオは絶対ドヤ顔だと思う!
「……ハニティ」
「は、はいっ」
グランローズ様が、神妙な面持ちでなにか伝えようとする。
「貴女は、貴女の力をもってして、何を願ったの?」
「え?」
料理を作る時に、なにを願ったかってこと?
「えっと……、元気に。……体も心も、元気になりますように?」
「そう。……これは、貴女の魔力がもたらしたのではないわ。……貴女の、他者への慈しみが、それをもたらしたの。……そして、それが。……それこそが、魔法」
「???」
魔法、とは。
自然の力に寄せて魔力を発動させること。
……じゃないの?
「えーっと、おっしゃる意味が──」
「では、こちらも頂きましょう」
「っあ、はい。どうぞ」
スルーされてしまった。
なんだか、聞いてはいけない話だった気がする。
ともあれ、最初に味の濃いステーキを食べてもらったのにはスープでさっぱり口直しできるから。
「まずは、スープを先にどうぞ」
「……さっぱりしたお味ね、先程の料理のあとにぴったりだわ」
「では、次にそちらの具を半分に割って頂けますか?」
「? こう、かしら」
わたしも見本として、自分で作った料理の食べ方を実演。
あぁ……、餃子のあんからボアの脂か何かが染み出て、おまけににんにくやにら達の風味も出てきて……。
お、おいしそう~。
「で、半分にした具とスープを一緒にすくって、どうぞ」
「……!! スープに、しっかりとした味が……」
「これぞ、一度で二度おいしい! ってやつです!」
「おいしい~!」
「……」
あぁ、また無言のリチアナが怖い。
他二名の魔女ちゃんたちはお互いに美味しいと言い合いながら、食べている。
「わたしも、失礼して……」
もう我慢ならん、食べる!
お、……おーいーしーいー!
元々は薄めのさっぱりスープ。
そこに、しっかりと味をつけ、火を通したことで皮の中でボアの脂とにんにくやにら達の香りが融合。
それがシンプルなスープに溶けだし、見た目は清純派、中身は肉食女子な餃子スープの完成!
……なにを言ってるんだ、わたしは。
「タマネギおいしいね」
「さすがエボニー、タマネギの甘さが鍵なのだよ」
そう。
ボアの脂はたぶん、豚よりこってりしてる気がする。
なので肉自体も分量少な目にして、きゃべつや玉ねぎでの水分と甘さを上回らせる。
そうすることで、脂っこさをカバーするのだ!
「それと、やはり魔力がうまく体に定着する感覚がありますね。……なるほど、料理とは。……よく考えましたね」
「血肉となるのは、なにも魔力だけではありませんから」
そう。たぶん前世の感覚からいうと、わたしは魔力を栄養や気といったもので想像している。
なので、元々のハニティとしての感覚と合わせると、料理っていう選択はすごく自然なのだ。
こちらの人はそうではないようだけど。
「……どうして」
「「え?」」
「どうして、あんたは……いつも」
いつも……なに?
リチアナがそう言いながら、……立ち上がって去って行ってしまった。
ど、どうした……。
「あー、ハニティ。あれは気にしなくていいよ」
「ええぇ? 気になるでしょ普通……」
「ゼノとリチアナって、幼馴染だから」
「……?」
だから、何なんだ。
「──ハニティ」
「は、はいっ」
「目覚めた、のですね?」
「!?」
「?」
やっぱり、シークイン様のお言葉は……。
「やはり、そうでしたか……。時が、きたのですね」
「それは、どういう……」
「……継承の儀。それは、もう間もなく、行われることでしょう」
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