【完結】転生魔女の気まぐれ食卓~プレ大魔女のゆる薬膳コースは効果がすごい模様~

蒼乃ロゼ

文字の大きさ
60 / 61

59 反目するもの

しおりを挟む
「────そうして幾年の時を経て、神の啓示か、人の願いか。魂のかがやきを視たウルマリンは大魔女たちに告げ、シークインはその命の巡りを引き寄せた……そう。貴女を、ね」

「……!」
「なるほど……そういうことだったか」
「ふん」

 わたしの料理がとんでもない効果を発揮するのは……。
 この世界の先祖は全員なんらかの呪いを大昔に受けていて、わたしだけが違う世界で生まれた魂だから……ってこと?

 それに、地属性というのは……闇の魔女がもっとも欲しかった、大魔導師の愛の心だから?
 この世の大地には、少なからずラヴァース様の恩恵があるもの。
 
「ハニティ。貴女はずっと怠らず修行を続けてくれたけれど、どちらの貴女が欠けてもきっとダメだったと思うの」
「グランローズ様……」
「ラヴァースには原初の魔女の力が二人分、じゃからのぉ。大変じゃ」
「わたくしたちの魔力も、魔力を持たない者たちも、……みな呪いを受けしもの。特に大魔女であるわたくしたちは、魔力がこの身を離れてはじめてヴィダに許される。……でも、考えてみて? 魔力を持たない者は、魔力を持つ者へ『嫉妬』の感情を向けることになるの」
「それを引き起こさないための、修行。定期試験もそのひとつ、という訳ね」
「時代を築くというのは……、命を繋ぐだけでは足りないのかもしれませんね」

 すべてに。
 すべてに、意味があったんだ……。

「……というワケじゃ、そこの二人」
「「!」」
「リチアナ、落ち着いたかしら?」
「っ。……は、はい……」
「ここはわたくしとラヴァースの庭。多少の呪いくらいは……、修行にきちんと取り組んでいれば未然に防げたと思うのだけれど。きっと貴女のなかでたくさんの葛藤があったのね」
ヴィダの祝福呪術は人の内にある徳をひとつ、反転させる魔法じゃからのぉ」
「おおかた、ハニティに差し入れしようとこっそり着いてきたところを狙われたのね」
「あ……、やっぱり。作ってくれたんだ」

 たぶん本来はゼノに着いてきたかったんだとは思うけど。
 ローズコーディアルを用意してくれたぐらいだし、わたしを認めてくれた気持ちも絶対あったと思う。

 あのコニファーの精霊に捕まってる男が居なかったら……。
 ふつうに、毒なんか入れずに差し入れしてくれたのかな?

「……ありがとう、リチアナ」
「!? いいえ、……いいえ……」
「リチアナ……」
「わたくし、ハニティが……ずっと羨ましかった」
「大魔女候補だったから?」
「もちろん、それもありますけれど……。貴女は、わたくしにないものを沢山持っているから……」
「……そうなの、かな。自分では分からないけど。……少なくてもゼノに関しては、心配しなくていいと思うよ」
「──え!?」
「ハ、ハニティ殿!? な、なにをおっしゃって」
「だって、わたしよりリチアナが大事だから、自然と体が動いたんだよね? もし。貴方がリチアナをなんとも思っていない魔女の騎士だったら、切り捨ててると思うけど」
「……ふんっ、甘い女だ」

「ゼ、ゼノ……」
「リチアナ……えっと……」

「なーーにを見せつけられておるんじゃか!」
「あら、アトラに構ってもらったらどう?」
「うるさいわ!」

 テオレムの継承してきた呪術は、人の徳を一つ反転させる魔法……か。
 そして、魔力のない人は魔力を持つ者に『嫉妬』の感情を否応にもつ。

(もしかして、王様って本当は……)

 いい王であろうとすればするほど、歯痒かったんだろうか。
 いい親であろうとすればするほど、苦しかったんだろうか。
 本当は、ダオのこともレトくんのことも……はじめは自慢の息子のように思っていて。
 それが、その感情が魔力に感化されてどんどん変わっていくのかな。

 だから、魔法使いたちは……反乱を起こそうともしないのかな。

 本人たちにしか分からないけど、いくら影響があるからと言って。
 やってしまった悪意は、元にもどらない。

 人間同士の争いも、他国の領土や富をうらやむ気持ちからだったとしたら──

「ラヴァース」
『……ここに』
「ハニティの前に、姿を現してあげて」
『……はい』

 思考に沈んでいると、周囲に花びらが舞い始める。
 いつか見た、幻想的な光景。

 その花びらの舞から現れたのは、優しげな精霊。
 人間でいう髪の部分は植物の蔦、あるいは蔓。
 ところどころに綺麗な花が咲き、服のように葉が重なっている。

 ……言わなきゃ。

「ラヴァース様、……わたしは、魔法使いにとっての『ふつう』を変えたいんです」

 それが、すべて過去の出来事からくる呪いだと知ったなら、なおさら。

「人と人との交流の末、人が他者に負の感情をもつことは……絶対ないとは言い切れません。……でも、存在すら認められない、関わり合いをもつ間もなく理不尽に貶められるのは……ちがうと思うんです」
『……』
「だから、わたしは地の大魔女として……。自分の魔力を使って育てた植物、それと相手を想って作る料理。……自分にしかできないことで、少しずつでも変えていきたいです」
『……貴女の役目は、促進。働きかけること』
「え?」
『最後に解くのは、己の心。……それでも貴女は、ゆきますか?』

 呪いのことを……言っているのだろうか。

「──もちろんです。だって……、ここまで大魔女のみなさまは、諦めなかったじゃないですか」

 今、目の前にいる精霊たちだってきっと例外じゃない。
 ヴィダの授かった闇の魔法は、神の力。
 もし、大魔女たちが一度でもその役割を放棄すれば……。

 奪われる魔力が上回って、四大精霊たちも存在はしていなかったはず。

「それに、……」

 テオレム。

 ダオとレトくんの故郷。

 わたしは、どうしても放っておくことができない。

『……ハニティ、貴女を次代の大魔女として。……我が主として、認めます』
「……! ありがとう、ございます!」
「なら、わたくし達も」

 周りで見守っていた大魔女のみなさまも、ラヴァース様にならって声をあげる。

「──破炎の魔女がメイラフラン、次代の恵土の魔女を見届けん。我が勇気と希望の心をイグリースに託すまで、共に在ろう」
「彩風の魔女がエルドナ。同じく見届けた。我が自由と彩の心をアヴラに託すまで、共に尽くそう」
「…………蒼水の魔女、シークイン。同意、了承。調和の心と運命の水鏡をイフェイオンに託すまで、共にゆく」

 そして、……我が師匠。
 幼い頃に両親が亡くなって以来、わたしに愛を授けてくださった方。

「恵土の魔女がグランローズ。次代の継承を見届けました。……我が慈愛の心をラヴァースに託すまで、全ういたします」

 グランローズ様がそう言うと同時。
 右腕にまるでシロツメ草の花冠みたいな、可愛らしい草花でできた腕輪が現れた。

『……いずれ、その時が来るまで。その証をみて、己を見つめなおし続けるよう』


 あとはもう、やるしかない。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

追放された薬師は、辺境の地で騎士団長に愛でられる

湊一桜
恋愛
 王宮薬師のアンは、国王に毒を盛った罪を着せられて王宮を追放された。幼少期に両親を亡くして王宮に引き取られたアンは、頼れる兄弟や親戚もいなかった。  森を彷徨って数日、倒れている男性を見つける。男性は高熱と怪我で、意識が朦朧としていた。  オオカミの襲撃にも遭いながら、必死で男性を看病すること二日後、とうとう男性が目を覚ました。ジョーという名のこの男性はとても強く、軽々とオオカミを撃退した。そんなジョーの姿に、不覚にもときめいてしまうアン。  行くあてもないアンは、ジョーと彼の故郷オストワル辺境伯領を目指すことになった。  そして辿り着いたオストワル辺境伯領で待っていたのは、ジョーとの甘い甘い時間だった。 ※『小説家になろう』様、『ベリーズカフェ』様でも公開中です。

竜帝に捨てられ病気で死んで転生したのに、生まれ変わっても竜帝に気に入られそうです

みゅー
恋愛
シーディは前世の記憶を持っていた。前世では奉公に出された家で竜帝に気に入られ寵姫となるが、竜帝は豪族と婚約すると噂され同時にシーディの部屋へ通うことが減っていった。そんな時に病気になり、シーディは後宮を出ると一人寂しく息を引き取った。 時は流れ、シーディはある村外れの貧しいながらも優しい両親の元に生まれ変わっていた。そんなある日村に竜帝が訪れ、竜帝に見つかるがシーディの生まれ変わりだと気づかれずにすむ。 数日後、運命の乙女を探すためにの同じ年、同じ日に生まれた数人の乙女たちが後宮に召集され、シーディも後宮に呼ばれてしまう。 自分が運命の乙女ではないとわかっているシーディは、とにかく何事もなく村へ帰ることだけを目標に過ごすが……。 はたして本当にシーディは運命の乙女ではないのか、今度の人生で幸せをつかむことができるのか。 短編:竜帝の花嫁 誰にも愛されずに死んだと思ってたのに、生まれ変わったら溺愛されてました を長編にしたものです。

転生したら悪役令嬢になりかけてました!〜まだ5歳だからやり直せる!〜

具なっしー
恋愛
5歳のベアトリーチェは、苦いピーマンを食べて気絶した拍子に、 前世の記憶を取り戻す。 前世は日本の女子学生。 家でも学校でも「空気を読む」ことばかりで、誰にも本音を言えず、 息苦しい毎日を過ごしていた。 ただ、本を読んでいるときだけは心が自由になれた――。 転生したこの世界は、女性が希少で、男性しか魔法を使えない世界。 女性は「守られるだけの存在」とされ、社会の中で特別に甘やかされている。 だがそのせいで、女性たちはみな我儘で傲慢になり、 横暴さを誇るのが「普通」だった。 けれどベアトリーチェは違う。 前世で身につけた「空気を読む力」と、 本を愛する静かな心を持っていた。 そんな彼女には二人の婚約者がいる。 ――父違いの、血を分けた兄たち。 彼らは溺愛どころではなく、 「彼女のためなら国を滅ぼしても構わない」とまで思っている危険な兄たちだった。 ベアトリーチェは戸惑いながらも、 この異世界で「ただ愛されるだけの人生」を歩んでいくことになる。 ※表紙はAI画像です

処理中です...