魔性の悪役令嬢らしいですが、男性が苦手なのでご期待にそえません!

蒼乃ロゼ

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五十 正義の在り処②

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(まったく……何がなんだか!)

 呼び出しをくらい、謎の魔力を見せ付けられ。
 かと思えば魅了にかかったと思われる知り合いに襲われる。

 散々だ。

 広い屋敷のなか、元来た道を走る。
 それほど複雑ではない造りがありがたい。
 赤いカーペットを沿うように外へと続く道に、終わりが見えた。
 そのまま駆け抜けると、ほとんどの魔物が横たわっている。

(……さすがは王国騎士団ね)

 出席者の多くは、今回の主役である騎士。
 加えて、ユールやアストンも居るだろうし、大きな被害がないのは事実だろう。

「ーー! ユール様!」

 右前方。
 
 アストンと共に魔物を倒し終えた彼が、次に倒すべき相手を探している。

「! リュミ!」
「よかった、ご無事でなによりですわ」

 その銀の美しい髪には汗が滴っているが、それ以外に変わりはないようだ。
 アストンもユールティアスに怪我がないことを確認し、側に控えた。

「いったい、どうなってますの……?」

 屋敷の中に居た自分にはまったく状況が読めない。
 戦えない者の避難は終わっているようで、目に見える範囲には帯剣する者、魔法を使える者しかいない。
 花で飾られたテーブルや、数々の料理は散々な様子だ。

「いや、それが……私にも分からなーー」
「ユールティアス様! 少し、よろしいか!」
「「「!」」」

(騎士団長!)

 突然の大声に、当然のように周りの注目が集まる。
 彼自身戦ったのだろう。
 その剣を抜身のままに、こちらへ向かってくる。
 ……まさかとは思うが。
 嫌な予感。

「ご無事でなにより。だが……魔物とは本来、人が多く集まるところを勝算なく狙ったりはしない。そうですな?」
「? ええ、そうですね」

(まずい)

 アイゼン公爵ーーアレム騎士団長の言いたいことが分かってしまう。

「いつかの如く、あの魔物たちは我を忘れた様子でした……。そう、まるで魅了されたように」
「! ……まさか、私を疑っておいでか?」
「とんでもないことです、ただ私は。可能性の話をしたまで」

 そう言えば、周りの騎士たちからも疑いの声があがる。

(私みたいに魔族の事情を知る者ばかりじゃない……、まして反感を持っている者が大半)

「お心当たりがあるなら、ご教授願いたいと思ったまで」
「知らないな、現に私も襲われているのだから」
「それはそうでしょうな。貴方だけ無傷であれば、怪しまれてしまう」

 アレム騎士団長がそう言うと、アストンの表情が一気にこわばる。
 我慢だ、今は我慢してくれ!

「……お言葉ですが、アレム騎士団長」
「何かな、リュミネーヴァ嬢?」

 これ以上黙ってはいられない。

「もし仮に、貴方の思っているとおりの事が成されましたら、わたくし以外の全ての者が魅了にかかっていると存じますが……いかがでしょう?」
「! ……それは、一理あるな」

(ん!? あれ?)

 てっきり、色んな状況を見る限り今回の催しはこれが目的かと思った。
 そう。魔族に罪をなすりつけること。

 シンシア……もしくはあの謎の魔力で魔物の欲求を利用し、魅了をかける。
 魔族を良く知る私のことはウルムで足止めして、弁解のチャンスを与えない。
 その罪を、この場で唯一の魔族であるユールティアスとアストンに着せるのかと思ったが。

(この反応……、アレム騎士団長は関わってない?)

「ーーそれに、……ご子息は魅了にかかってリュミネーヴァ嬢を襲ったようですが?」
「な!?」

(メーアス!)

「ちょうど彼を探していたので、私が間に合い事なきを得ました。……ですが、最悪を想定すると今頃リュミネーヴァ嬢が……どうなっていたことか」
「……!」

 騎士団の皆さんがざわつく。
 それはそうだ。

 疑惑の魔族の近くにいた、魅了のかかりやすい騎士は無事なのに。
 いつも光の魔法の使い手と共に居る、騎士の中でも魔力がある方の彼がかかったのだ。

 シンシアの裏の顔を知らなくても、この世で精神に直接的に作用する魔法は闇と光。
 そのことは、誰もが知っている。

「……証拠がない中、議論すべきではなかった。それは、謝罪する」
「いえ。疑われるのは慣れていますから」
「ーー!」
「あなた方の気持ちも分かる。……だが、私には理由がない」
「それは……」
「ひとまず、被害状況の整理。けが人の手当て。それを優先しましょう。私はやましいことは何もない。いくらでも議論には応じますよ」
「……大変、失礼を」

 珍しく、騎士団長が押されている。
 というか、勢いがなくなったというべきか。

(まぁ、いくら反感があるとはいえ、次期魔皇帝どのに濡れ衣着せたとなったら大変よね)

「……メーアス殿、リュミを守ってくれたとか」
「ええ。……どうも、レイセル殿下に呼び出されていたようです」
「彼か……」
「あの、ユール様……」

 一応、抵抗は試みたものの、なにも言わずに一人になったのは事実。
 いや、でもちゃんと伝えようと努力はしたよ?
 したけど……!

(はぁ、怒られるかな)

「リュミ」

 危うく、魔族に不利な状況を作り出すところだった。
 メーアスが居なかったどうなったことか。

「はい……」

 失望、させただろうか。

「ーー貴女が無事で、本当に……よかった」
「!」

(この期に及んでまで、私の心配……)

 やはり、彼はやさしい。
 でも。

(頭では分かっているのに、どうしても信じきれない自分もいる)
 
 強者とは、支配者とは相手を欺くことに長ける。
 今回はたしかに、彼の仕業ではない。
 それは間違いない。

 だが、今後ーー。
 レイセルの言葉が思考を駆け巡る。

(それが今後。絶対ない、とは言えない)


「ーーユール様!」

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