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魔術師と剣士
第十四話【別視点】剣士の思惑
しおりを挟む宿を一泊延泊し、ルカと同じ日程での滞在となった。
夕食は宿の食堂で別途料金を支払い、ルカと一緒に食事した。
今日は明らかに働き過ぎだ。
おまけにセネルとやらの言動で、よけいな気疲れもした。
そんなわけでオレとルカは早々と解散し、明日また集合することになっていた。
闇夜。
ルカは恐らく寝ているだろう。
街すら眠る時間に、一人外へと出た。
昼間とは違った顔をのぞかせる夜の世界は、闇そのものだ。
所々街燈やいまだ灯りの点いた家もあるにはあるが、ほぼ寝静まっている。
この世界にまるで一人のような。
取り残されたような感覚に陥る時間帯だ。
闇はやすやすと人を飲み込みそうに、世界に溶け込んでいる。
闇魔法を連想する黒が恐れられるのも無理はない。
そう、感じた。
「────いるんだろ? 出てこいよ」
宿からしばらく歩き、道を横に逸れた。
周りには家というより、物置のような建物が多い。
店が在庫を保管する用に所持している建物だろう。
この時間はほぼ無人。
大通りからかなり外れており、灯りはほとんどなかった。
誰もいないはずの、暗闇へと問い掛ける。
「…………、ヴァルハイト様。お久しゅうございます」
「あぁ、父上の手の者か? この街にもいたとはな」
「お戯れを……。ずっとお気付きでしたでしょう」
「まぁな」
父の配下である男の声が応えた。
オレがこの街へ来てすぐには認知出来ていなかったが、ギルドで目立ったのが役に立ったらしい。
それ以降、街中で視線を寄越していた。
意外と早くに接触出来た。
「それで? 初日はそうでもなかったのに、今日になって着けてきたのは何でだ? 外から帰ってきてからずっとだ」
「はっ。恐れながら貴方様より先行しこの街を探っておりましたが……、今のところ懸念するようなことは無いかと。それをお伝えしたく」
「そうか、大義であった。……オレの連れも街道を沿って旅するようだ。この次の街はオレが探る。お前達は別へ向かえ」
「かしこまりました。……、差し出がましいようですが。御身自らを餌にする必要が、あるのでしょうか」
男はおずおずと進言してきた。
心配せずとも、今のオレは一介の冒険者。
お咎めなどあるわけない。
「奴らはそう簡単に尻尾を掴ませない。──だったら、オレも動くしかないだろう。他国に迷惑かけるわけにもいかんしな。奴らも……馬鹿ではないし、そう手は出してこないはずだ。……これで、冒険者ってのは性に合っているようだ」
少しだけ笑んで返せば、暗闇の存在は説き伏せる答えを失った。
「御身に何かあれば──」
「──それこそ、奴らの狙い通りだろ? 少なくとも自国にいて役に立たたねぇよりは、体動かしてる方がマシさ。お前らもいることだし、普通に冒険者やって、釣れたら御の字くらいに思っておくさ」
「はっ……」
「……本当はさぁ、ソロで街回って、依頼だけパーティー組めば良いやって思ってたんだけどさ。な~~んか、相性良い魔術師、見付けちゃったんだよねぇ。……正直、そいつと旅するのが楽しみなんだ。えっらい魔法のセンスあるしさ」
「あの双黒の……」
「そ。おまけに、ルカ・アステル・グランツって名前らしい。出来過ぎだよなぁ」
ダンジョンへと入場申請をした際、フルネームを初めて聞いた。
まさに、出会いが必然なのかと思わせる名前を持っていた。
「まるで、今宵の空のようですね」
「──あぁ。どんなに希望が見えなくとも……。光は必ずある。お前も、自分の身が危うくなったら、すぐ退けよ?」
「心得ております」
「ならいい、ま。オレは冒険者だからなぁ。そっちはそっちでやってくれたらいいさ」
「御身をお守り出来ないこと、お許しください」
「オレの命はあって無いようなもんだ。気にすんな」
「……、どうぞお気を付けください。御身に、光あれ」
そういうと、暗闇は本当の闇へとなった。
何の存在も無い空間と化す。
「さぁて。あいつは元気でやってるかなっと」
自分の配下は逆ルートでこの国を探っていた。
正確には、『この国で暗躍する自国の闇を』だ。
もうそろそろ王都周辺に到着しているだろう。
「冒険者になった時点で、いつ死んだっておかしくないんだ。……事が起こる前に、奴らの動きを掴めると良いが」
ずっと閉じ込められていた、自分にとっての世界。
どんなに狭く、苦しいものでも。
それは、民にとっては支えであり、救いなのだ。
自分がその対象になることはもうないであろうが。
それでも、この命に利用価値があるのであれば、使わない手はない。
それすら無いなら、死んだように生きているだけだ。
「生きてることを実感出来るのが、命狙われる時なんざ。皮肉なもんだな」
冒険者になったことで、自分の世界はどうなるのだろうか。
「ルカちゃんには、迷惑掛けないようにしないとなぁ」
楽しみでないと言えば、嘘になる。
だが、自分の事情に全く関係のない、旅の仲間と言える存在を巻き込む事だけは避けたかった。
「せめてオレが一人の時、狙ってくれよ」
自分を消したい存在。
それらがルカを、その対象としない事だけを祈った。
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