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9.結果オーライとは、まさに
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「いやーー、さすが坊ちゃんのお連れした方。ミレイちゃん、もしかしてクラス持ちなのかい?」
「えっと、自分でもハッキリと分からなくて……。所々、記憶がないんです」
嘘ではないのだが、毎度こころ苦しい。
「おっと、すまねぇ」
「いえ、お気遣いなく。分からないことがあれば、都度申します」
「おう! 何でも聞いてくれ!」
「ーーそうですね、では。一つおうかがいしても?」
取り急ぎ、聞いておかねばならないことがある。
「女将さんと、エドさんと。……他には従業員の方はいらっしゃらないのでしょうか?」
「あーー、やっぱ気になるよなぁ」
「何かご事情が……」
聞いてはいけないことだったら申し訳ないが、やはり大変な場に遭遇したからには確認しておきたい。
「いや、元々は居たんだ。食堂にも宿にも数人ずつ。……しかし、最近は魔物が増えてなぁ」
「魔物が……ですか」
それは確かに大事である。が、それと従業員との関連性とは……。
「いやね、冒険者に専属契約ってのは中々持掛けれないもんだから、傭兵やフリーのクラス持ちを護衛兼従業員として雇ってたんだよ。それで、居心地が良いってんで、次第にその奥さんや子供も手伝ってくれてね」
「家族ぐるみでお勤めいただいてたんですね」
なるほど、元の世界でいうところの家族経営に近いものだろうか。
「そう、なんだけど。例によって半年前にアルバ・ダスクがあっただろ? そこで一人、怪我をしてしまってね。その看病もあるだろうし、食堂を手伝ってくれていた家族は退職したんだ」
「クラス持ちは義務? ……なんですよね」
「ああ。それで、宿を手伝ってくれていたクラス持ちは、故郷に魔物が増えたってんで帰省したんだ。まぁ、それぞれ理由がある。……仕方ないんだ」
「そう、でしたか」
その帰省した人の故郷は、もしかしたらギルドがないような地かもしれない。
冒険者がケアできない範囲は、フリーのクラス持ちが住民から報酬を得て守っているのだろう。
自警団があるのかもしれない。
魔物、という。元の世界にはない特殊な事情が、この宿の雇用状況に直撃していた。
私は、本当なら。今ここで、今すぐにでも手を挙げたい。
『私を雇っていただけませんか?』
と。
異世界人の私がどれほど役に立つかは知らないが、少なくとも肉体労働という意味では戦力にはなる。
だが、それにはまずラルフに一言伝えてからでないと筋が通らない。
この世界で、最初に助けてもらったのはラルフで。
そのラルフにこそ恩を返さねばならないからだ。
「ーー何かあったか?」
そう、考えているとラルフが帰ってきた。
私たちは受付の前でやり取りしていたので、玄関から曲がってすぐ私たちを視界に映したラルフは驚いていた。
どうしよう。
今すぐに切り出した方が良いのか。
それとも……。
「いやね、この辺じゃ見ない怪しいやつが来たんだが、ミレイちゃんが言葉巧みに追っ払ってくれたんだ!」
「ミレイが?」
そう言いながらラルフはとある女性の手を引いていた。
前掛けを着たまま外へ出たのだろう。
恐らく、宿の女将だ。
「初めまして、ミレイちゃん。あたしはアニス。簡単に、ラルフ様から聞いたよ。記憶がないんだってね?」
「アニスさん、初めまして。……はい、おぼろげに自分のことなら多少覚えているのですが……」
「ラルフ様とも話したんだが、ミレイちゃんさえ良ければ、うちで働かないかい?」
「ええええ!?」
「「「!?」」」
びっくりした。
いや、正確には三人からびっくりされた。
そりゃ、こんだけ大きな声出したら、驚かれるわ。
だって仕方ない。まさか、女将から提案されるとは思っていなかったから。
「女将にミレイのことを話したんだ。曖昧な記憶しかないが、自分のクラスは覚えていて、宿の用心棒をしていたと」
「あ、……えっと……」
デスヨネーー!
「えっと、自分でもハッキリと分からなくて……。所々、記憶がないんです」
嘘ではないのだが、毎度こころ苦しい。
「おっと、すまねぇ」
「いえ、お気遣いなく。分からないことがあれば、都度申します」
「おう! 何でも聞いてくれ!」
「ーーそうですね、では。一つおうかがいしても?」
取り急ぎ、聞いておかねばならないことがある。
「女将さんと、エドさんと。……他には従業員の方はいらっしゃらないのでしょうか?」
「あーー、やっぱ気になるよなぁ」
「何かご事情が……」
聞いてはいけないことだったら申し訳ないが、やはり大変な場に遭遇したからには確認しておきたい。
「いや、元々は居たんだ。食堂にも宿にも数人ずつ。……しかし、最近は魔物が増えてなぁ」
「魔物が……ですか」
それは確かに大事である。が、それと従業員との関連性とは……。
「いやね、冒険者に専属契約ってのは中々持掛けれないもんだから、傭兵やフリーのクラス持ちを護衛兼従業員として雇ってたんだよ。それで、居心地が良いってんで、次第にその奥さんや子供も手伝ってくれてね」
「家族ぐるみでお勤めいただいてたんですね」
なるほど、元の世界でいうところの家族経営に近いものだろうか。
「そう、なんだけど。例によって半年前にアルバ・ダスクがあっただろ? そこで一人、怪我をしてしまってね。その看病もあるだろうし、食堂を手伝ってくれていた家族は退職したんだ」
「クラス持ちは義務? ……なんですよね」
「ああ。それで、宿を手伝ってくれていたクラス持ちは、故郷に魔物が増えたってんで帰省したんだ。まぁ、それぞれ理由がある。……仕方ないんだ」
「そう、でしたか」
その帰省した人の故郷は、もしかしたらギルドがないような地かもしれない。
冒険者がケアできない範囲は、フリーのクラス持ちが住民から報酬を得て守っているのだろう。
自警団があるのかもしれない。
魔物、という。元の世界にはない特殊な事情が、この宿の雇用状況に直撃していた。
私は、本当なら。今ここで、今すぐにでも手を挙げたい。
『私を雇っていただけませんか?』
と。
異世界人の私がどれほど役に立つかは知らないが、少なくとも肉体労働という意味では戦力にはなる。
だが、それにはまずラルフに一言伝えてからでないと筋が通らない。
この世界で、最初に助けてもらったのはラルフで。
そのラルフにこそ恩を返さねばならないからだ。
「ーー何かあったか?」
そう、考えているとラルフが帰ってきた。
私たちは受付の前でやり取りしていたので、玄関から曲がってすぐ私たちを視界に映したラルフは驚いていた。
どうしよう。
今すぐに切り出した方が良いのか。
それとも……。
「いやね、この辺じゃ見ない怪しいやつが来たんだが、ミレイちゃんが言葉巧みに追っ払ってくれたんだ!」
「ミレイが?」
そう言いながらラルフはとある女性の手を引いていた。
前掛けを着たまま外へ出たのだろう。
恐らく、宿の女将だ。
「初めまして、ミレイちゃん。あたしはアニス。簡単に、ラルフ様から聞いたよ。記憶がないんだってね?」
「アニスさん、初めまして。……はい、おぼろげに自分のことなら多少覚えているのですが……」
「ラルフ様とも話したんだが、ミレイちゃんさえ良ければ、うちで働かないかい?」
「ええええ!?」
「「「!?」」」
びっくりした。
いや、正確には三人からびっくりされた。
そりゃ、こんだけ大きな声出したら、驚かれるわ。
だって仕方ない。まさか、女将から提案されるとは思っていなかったから。
「女将にミレイのことを話したんだ。曖昧な記憶しかないが、自分のクラスは覚えていて、宿の用心棒をしていたと」
「あ、……えっと……」
デスヨネーー!
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