異世界弓師~作るおっさんと、射るエルフ~

蒼乃ロゼ

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異世界と弓作り

三十二話 理想を征く弓師

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「そんなに弓作りに興味があるのかい?」
「ええ。ご迷惑にならない範囲でぜひ、教えてください」

 家で皆と昼食を食べたあと、ルナリアとミラウッドは長老方のところへ。
 その間、俺はいつものエルフの弓師──ウィンハックの元へと来ていた。

 ミラウッドより少し年上……人間でいうところの二十代後半に見える青年。
 もれなくイケメンだ。
 ざっくばらんに切られた銀髪を、バンダナで前髪だけを上げている。
 真面目なミラウッドと比較したらいくらか砕けた印象ではあるものの、セローがいる手前、お調子者と言えるほどのノリではない。

「セロー様もご興味がおありですか?」
『まぁまぁだな』
「セローは人のことならなんでも興味あるだろ?」

 呆れながら言えば、セローはぷいっと顔を反らした。

「良ければ、引いてみますかね? あっちに的あるんで」
「っ」

 工房で作業中に訪ねたにもかかわらず、ウィンハックは何も気にしていない様子で接してくれる。
 彼は厚意の元にずいっと弓と矢を差し出してくれるのだが……俺の身体は反射的にびくりと跳ねた。

「?」
『おいおい。風の者たるオレの主が、そんなんでどうする』
「いや……その……」

 俺だって、できることなら異世界の弓と堂々と向き合いたい。
 ただ体は正直で、異世界の弓は別物だと認識していても、いざそれを『引く』となると早気はやけによる過去の失敗や苦い思い出が次々にフラッシュバックし、震えだす。


 怖い。


 恐い。


 別の誰かが引く弓を作ることを使命だと思っているのに……自分がいざそれを引くとなると、途端に不安に支配されてしまう。

「? ……あ、もしかして弓を引くのは初めてか。失礼失礼、エルフ基準で考えてしまった。そんなコーヤにちょうど良さそうなのが──」

 そう言って工房奥に引っ込んだウィンハックが、かなり小さめの弓を持ってきてくれた。

「これは……?」
「エルフの者はみな、幼い頃これで練習するんだよ」

 なるほど。超初心者向けの弓。
 俺の作っていた和弓も、エルフ達が普段使う弓も、左腕を真っ直ぐ伸ばし右腕はひじを背中に引くようにして、両腕が水平になるように矢を保持する。

 ただこの小さな弓は子供用なのか、それこそ手の内だけで引くようなもので、飛距離も威力もそう無いだろう。

「バカにしているわけじゃないぞ? 誰でも最初は、小さなことから始めるもんさ」
「……!」
『ほー。弓の名手も、はじめはこういう弓を使うんだな~』

 小さな一歩……か。

 ウィンハックも俺と同じ弓師。
 しかも、スマホのように便利なものが無いここでは、俺や祖父が心に抱いていた『引き手の『射』を見て弓を打つ』をまさに実践している人だ。

 彼がこれを選んでくれたのなら……きっと大丈夫。
 弓師は弓の声だって聞くが、引き手のことだって常に想う。

 いつか聞いたような、張り詰めた空気の中に響き渡る的を射る音は聞こえないかもしれないが、俺にとってはまずこの弓で異世界の弓のことを知る。

 それが大事だと思う。

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