16 / 40
十六羽 世界樹の枝でレッツ・がじがじ!
しおりを挟む『ハッ。ごしゅじん、ごしゅじん』
「ん? どうした」
鼻先を足にすぽっと入れていたうさぎさんは、突然ハッとして顔をあげる。
『なにかかじるものはありますでしか?』
「かじる?」
『はいでし。なにぶんそうしょくなものでしから。うさぎさんの歯はずっとのびますので、おていれにとおもいまして』
「ほう……」
うさぎさんの歯は生涯伸び続ける。
硬くて繊維質の多い牧草を食べることで歯が自然と削られ、適切な長さに保たれるのだ。
ただ、うさぎさんにも食の好みはある。
健康面なども考慮し、本来うさぎさんにとって最適なお食事を見付けるのは中々大変なのだが、そこは従魔として召喚されたうさぎさん。
食にはうるさくないようで、単純にかじるおもちゃが欲しいだけのようである。
「かじる……ふむ」
『そのへんの枝でかまいませんでし。なにぶんうさぎさんは、そとにでるにはてんてきがおおいものでしから。ごしゅじんにおまかせするでし』
「枝……? なるほど! ならば世界樹の枝でも折ってくるか」
『ミエーーーー!!??』
もちろんうさぎさんは世界樹が何なのかは知らない。
知らないが、ペットショップにいた頃の高級なフードやチモシーを思い描いても、『世界』の名を冠するものは最高品質を意味していた。
とにかく高くて良質なもの。それは間違いないだろう。
そんなものを枝ごと折ってくると簡単に言うのである。
ヤバいに違いないとうさぎさんは感じていた。
余談ではあるが、本来お店で売っているかじり木はうさぎさんが口にしても、食べても安全なものである。
人間が自分で採取した木をあげるとするならば、植物の持つ毒性や害虫を駆除する農薬、化学肥料などを使っていないか……など、気をつけなければならないことを挙げると枚挙にいとまがない。うさぎさんのことを想えば、お店で買うのが無難であろう。
◆
「──というわけだ、枝を譲ってくれ」
「なにが『というわけ』じゃボケェ」
エルフの住まう森の深部。
カルナシオン宅から最も近い、人が住む集落だ。
うさぎさんを下僕二人に任せテリネヴと共にやってきたカルナシオン。
体もすっかり元通りだ。
彼が相対するのは、人間でいうところ六十歳後半ほどに見える男性。
だがその長い耳の先は尖り、高い鼻筋、神秘的で美しい銀の長い髪。
人間とは違う種族だと一目で分かる。
「ケチるなじいさん、ハゲるぞ」
「相も変わらず礼儀のなっとらん奴じゃ……」
時既に遅し……などと言ってはいけない。
広いおでこは彼の個性である。
元々こうなので、安心して欲しい。
「まあ、いんじゃない?」
「て、テリネヴ殿……」
耐花モードに戻ったテリネヴ。
ちょこんとした森人が、まるで長い時を生きるエルフよりも尊い者のように敬意をもって接される。
不思議な光景だ。
「君だってカルナさん帰ってくるの嬉しくて、ドワーフに建材めっちゃ用意してたじゃん」
「っ、うぉっほん!!」
そう。何を隠そう、ここはカルナシオンの故郷なのである。
「ほー?」
カルナシオンは、にやにやとエルフの男を楽しそうに見る。
「っ、と、ともかくだ! 聖域に入ることは許さん!!」
「ちっ。頑固ジジイめ」
「……はー。なぁんでこんな風に育ってしまったか……」
エルフの里の長老エルゲーズ・アーデンハイムは、十八年前うっかり育てることになってしまった義理の息子のことを恨めしい表情で見た。
「ま、いいや。ベムネスラに頼もう」
「!?」
「もうそっちのが早いよね」
「いっ、いかんっ!」
「まぁまぁ、いいじゃん」
「テリネヴ殿はカルナに甘すぎますぞ……」
エルゲーズは「もういや……」と言いたい無力感に襲われた。
「テリー、今度は私が抱えよう」
「お、ラッキー」
再確認だが、テリネヴは省エネ種族である。
基本面倒くさがりな上に、耐花モードで歩くとなるとその歩幅はかなり狭い。
カルナシオンと共に歩けば差が生じるのだ。
「おー。快適快適」
エルフ達の集落から離れ、更に森の奥へと向かう二人。
一般的な人間であれば、鬱蒼とした陰りある森を見て『恐ろしい』と思うのがふつうの感覚だと思うのだが、何しろ魔族の下僕を従える男である。
カルナシオンは意気揚々と歩いていた。
「テリーは相変わらず軽いな」
「風で飛びそうだよね」
自分のことなのにどこか他人事のように返すテリネヴ。
本来の姿ではないからだろう。
「──お」
しばらく歩いていると、二人は見覚えのある場所に来た。
「なつかしー」
二人が初めて会った場所。
森の中にしては低木に囲まれ、日当たりがよい庭のような場所。
エルフの里周辺に住む森人たちの、薬草園の一つだ。
テリネヴは下僕二号ではあるが、実際には一番初めにカルナシオンの下僕となった者である。
当時まだ幼かったカルナシオンとテリネヴのやり取りは、こうだった。
──うっわ。すごい魔力量。
──? はなをもつドリアスか
──いいなー分けてくんないかな
──いいぞ
──いいんだ
これで契約が完了したのだ。
気の置けない仲なのは、元々の出会いがノリで契約したからだろう。
「テリーは下僕たちの中でも貴重な、話の通じるやつだからな」
「それはそう」
そして互いが互いを認め合うほどの仲。
けっこういいコンビなのである。
とある炎竜が嫉妬するのも無理はない。
0
あなたにおすすめの小説
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全16話+後日談5話⭐︎
王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。
……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。
追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。
無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」
騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!
追放されたので田舎でスローライフするはずが、いつの間にか最強領主になっていた件
言諮 アイ
ファンタジー
「お前のような無能はいらない!」
──そう言われ、レオンは王都から盛大に追放された。
だが彼は思った。
「やった!最高のスローライフの始まりだ!!」
そして辺境の村に移住し、畑を耕し、温泉を掘り当て、牧場を開き、ついでに商売を始めたら……
気づけば村が巨大都市になっていた。
農業改革を進めたら周囲の貴族が土下座し、交易を始めたら王国経済をぶっ壊し、温泉を作ったら各国の王族が観光に押し寄せる。
「俺はただ、のんびり暮らしたいだけなんだが……?」
一方、レオンを追放した王国は、バカ王のせいで経済崩壊&敵国に占領寸前!
慌てて「レオン様、助けてください!!」と泣きついてくるが……
「ん? ちょっと待て。俺に無能って言ったの、どこのどいつだっけ?」
もはや世界最強の領主となったレオンは、
「好き勝手やった報い? しらんな」と華麗にスルーし、
今日ものんびり温泉につかるのだった。
ついでに「真の愛」まで手に入れて、レオンの楽園ライフは続く──!
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!
カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。
前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。
全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!
そのご寵愛、理由が分かりません
秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。
幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに——
「君との婚約はなかったことに」
卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り!
え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー!
領地に帰ってスローライフしよう!
そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて——
「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」
……は???
お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!?
刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり——
気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。
でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……?
夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー!
理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。
※毎朝6時、夕方18時更新!
※他のサイトにも掲載しています。
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる