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三十五羽 汝、うさぎさんを崇めよ
しおりを挟む「──師匠!!」
「「「誰がだ」」」
『ほあー』
あの後マトバはミララクラの、必要もない護衛という名のお目付け役。
エレヴォスは一層のギルクライスに挑んだことで、多少ストレスも解消し現魔王の補佐につくことを約束させた。
残る少年のような姿をした、シルケンタウラはというと──
「だって! そこの森人より強いんだろう? なら、僕の師匠になってくれてもいいよ!」
「やっぱクソガキ苦手……」
「カルナ、こいつはアイドラのところに捨ててくる」
「はぁ!? なんで!」
「くくく……また一段と騒がしくなりますかねぇ」
「……」
カルナシオンはソファに座り、優雅に足を組んでシルケンタウラの言い分を黙って聞く。
と、不意に口を開いた。
「おまえは、何ができる?」
「っ!」
「うさぎさんのために、……何ができる?」
「…………うさぎ?」
シルケンタウラは籠の中でじっと自分を見つめるうさぎさんを見た。
「だいたい、大声でまくしたてるおまえの声は、うさぎさんにとって煩わしいものだ。気をつけろ」
「そっ、それは……」
『でしでし』
うさぎさんは片耳をすい~っと上げて、なんだか肯定しているようだ。
「ギルクライスは雑用ならなんでもこなす」
「……!」
「アルは料理以外の家事全般に、収入源」
「……!?」
「テリネヴはうさぎさんの食事全般」
「……!?!?」
「それで? おまえは何をしてくれるんだ?」
シルケンタウラは改めて思った。
この人間、相当ヤバいと。
魔族十二侯の一層にはあらゆる雑事を押し付け。
炎竜には金を無心し、古き者である森人には従魔の食事の世話をさせる。
どう考えても────ヤバい。
「え、えっと……」
シルケンタウラは、考えた。
自分がうさぎさんとやらのために、何ができるのか。
想像力を働かせ、カルナシオンを師匠と仰ぎ共に過ごす日常を想像してみた。
「その……」
結果、こう答えた。
「……遊び相手?」
「「「帰れ」」」
ひとまず彼の処遇は、後ほど訪問予定のアイドラに任せることとなった。
◆
「おっと」
万が一下僕となった時のために、シルケンタウラにはテリネヴが家の中や森の案内をしているところだ。
すっ、とカルナシオンがソファから立ち上がると、先程改めてじっくり観察していた清麗の実がコロコロと落ちていった。
転がりやすい形状のために、ソファの下まで入り込む。
「しまったな」
──後でしっかり洗わねば
清麗の実はハイネとアルクァイトの分をギルドに納品し、カルナシオンの分をメルティーヌに献上することにした。
元々他二人の女神よりは話の通じるアイドラ。
手土産がなくとも問題ないと判断し、アルクァイトの依頼達成料を半分徴収することを優先した。
「よっと」
床に張り付くように伏せ、ソファの下に手を伸ばす。
薄暗いそこには、カルナシオンの救出を待つ清麗の実が静かに佇んでいた。
「取れ────たッ!?」
カルナシオンは召されかけた。
──うさぎさんに、……お乗りいただいている!?
『♪』
そう。うさぎさんは何を思ったか、カルナシオンが床に伏せている隙にチョコチョコと忍び寄り、その背に飛び乗ったのだ。
うさ飼いにとってご褒美ともいえる、最高の栄誉。
うさぎさんの『踏み台』となる。
それは愛らしいうさぎさんの重さを全身で感じ取ることのできる、唯一無二のコミュニケーション方法なのだ。
むいんと顎を天へと向け、まるで「我、勝者也」とでも言いそうなうさぎさんの誇らしい顔。うさぎさんは飼い主にとって、キング。あるいはクイーンなのである──!
「ありがとうございます!!!!」
『!?』
「何してるんですかねぇ」
「……かっ、かわ……ッッ」
ギルクライスはいつも通り呆れ、下僕三号はうさぎさんが来てからというものカルナシオンとの相乗効果に感激する毎日だ。
「……ぐっっ!」
惜しむらくはその愛らしい姿を下からのアングルで見届けられないことだろう。
身動きのとれないカルナシオンは、それだけを悔やんだ。
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