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開店準備
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「上手くいかなかったらいつでも戻ってきていいのよ。私も時々様子を見に行くから」
イライザさんが私を抱きしめながら言い聞かせるように頭を撫でる。
今日は私とレオンさんが銀のうさぎ亭二号店へと異動する日なのだ。
「レオン君も、あんまり無理しすぎちゃ駄目よ?」
イライザさんが目を向けると、レオンさんは声を上げる。
「イライザさん。俺には無いんですか? 別れの抱擁的なやつ」
うわあ。別れの感動シーンにかこつけて図々しい事を言い出した。下心丸出し。
しかしイライザさんは涼しい顔だ。
「あら、レオン君もしてほしいの? ちょっと待ってね……マスター」
傍らでその様子を見ていたマスターが進み出てきた。
「おう、レオン。お前には俺の熱い熱いベアハッグをお見舞いしてやんよ」
「あ、やっぱりいいです。大丈夫です!」
レオンさんはそそくさと距離を取った。
◇◇◇◇◇
その物件は、一階が店舗、二階が住居という造りだった。
食堂として使用に耐えうるよう多少の改装を施した厨房に、カフェ時代に使っていたものをそのまま安く買い取ったというテーブルに椅子。
早速多くない私物を自室に運び込むと、数日後に控えた開店の準備に取り掛かる。
私は一階の床にモップがけをしながら、厨房の様子を確認しているレオンさんに声をかける。
「あの、レオンさん、このお店って、想定していた以上に広くないですか? 正直私一人じゃ素早くお客様の様子を把握できるとは思えないんですけど……」
確かに元祖銀のうさぎ亭に比べるといささかこじんまりとした印象はうけるが、それでも今まで私が担当していた割合よりは多く、色々と助けてくれた人達も今はおらず、私ひとりでホールを切り盛りするというのは不安があった。
「暫くは大丈夫だろ。初日から満席なんてことは流石にないんじゃねえの?」
「そうかなあ。私は新しいお菓子屋さんだとかを見ると、入ってみたくなっちゃいますけどね」
「まあ、そんときゃそんときに考えるさ」
うーん、レオンさんて意外と楽天家だな。それとも私が心配しすぎ?
多少の不安を抱えながらも開店に向けて日々を過ごしていたとき、大事な事を思い出した。
花咲きさんとミーシャくんに、引っ越した事実を伝えていない!
これでは二人は困惑してしまうかも。
特にミーシャくんなんて、スノーダンプの売り上げの一部を持ってきてくれる貴重な存在だというのに。あ、いや、もちろん大事な友達でもあるけれど。
とにかく銀のうさぎ亭2号店の簡単な周辺地図を書いたメモを2枚用意すると、休憩時間を見計らって二人に届けることにした。
◇◇◇◇◇
ミーシャ君の働く工房の扉を開けると、相変わらずの熱気と、金属を叩く賑やかな音が聞こえてくる。
私が入店すると同時にミーシャ君が気づいて駆け寄ってきた。
「ユキさん、今日は何のご用ですか?」
「実はね、うちのお店の2号店ができることになって、私もそっちに移ることになったの。だから知らせておこうと思って。はい、これ簡単な地図」
メモを渡すとミーシャ君は微かに目を見張った。
「ここから結構近いね。これなら僕もお昼に食べに行けるかも」
「ほんと? じゃあ大盛りサービスしちゃおうかな」
一通り話が済んだところで、私は別の話題を切り出す。
「それでね、お仕事のお願いがあるんですけど……スノーダンプをもう一台作ってもらえませんか?」
仕事の話なので敬語モードだ。
「前に作ってもらったのは本店に置いてきちゃったんです。あっちのお店も雪かき大変だろうから。だから、今度は2号店で使うものが欲しくて。あ、もちろん優先して作って欲しいとかじゃなくて、他の人と同じように順番待ちしますから」
「いいですよ。今からなら冬には間に合うだろうし」
今からでも冬に間に合うくらいのレベルなのか。いったいどれくらいの注文がきてるんだろう。考えただけで恐ろしい……。
「それじゃあ、よろしくお願いしますね」
◇◇◇◇◇
ミーシャ君との話を終えて、次に向かった先は花咲きさんの家。
しかし、扉をノックしてみても反応がない。留守なのかな?
仕方なくメモを郵便受けに挟んでおく。これで気づいてくれるといいんだけど。
本当はいつか大量に描いていた「幼子の秘密の宝島」のチョークアートも譲って欲しいけど……あれは引退した画家が描いたという設定にしているからなあ。今更同じようなものを店頭に飾るわけにもいかない。
仕方ないので大人しく帰る事にした。
◇◇◇◇◇
そしてとうとう銀のうさぎ亭二号店開店の日がやってきた。開店時間は本店とは違って12時から。
一晩かけてスープストックを作ったレオンさんが、少しでも休む時間が欲しいからという理由で。確かに調理中に倒れられても困るしね。
はー、それにしても心配。ちゃんと配膳できるかな。
いや、それよりお客さん来るかな……?
どこかから12時を知らせる鐘が鳴った。
お願いします。お客さんがちゃんと来ますように。
そう願いながら扉を開けた。
イライザさんが私を抱きしめながら言い聞かせるように頭を撫でる。
今日は私とレオンさんが銀のうさぎ亭二号店へと異動する日なのだ。
「レオン君も、あんまり無理しすぎちゃ駄目よ?」
イライザさんが目を向けると、レオンさんは声を上げる。
「イライザさん。俺には無いんですか? 別れの抱擁的なやつ」
うわあ。別れの感動シーンにかこつけて図々しい事を言い出した。下心丸出し。
しかしイライザさんは涼しい顔だ。
「あら、レオン君もしてほしいの? ちょっと待ってね……マスター」
傍らでその様子を見ていたマスターが進み出てきた。
「おう、レオン。お前には俺の熱い熱いベアハッグをお見舞いしてやんよ」
「あ、やっぱりいいです。大丈夫です!」
レオンさんはそそくさと距離を取った。
◇◇◇◇◇
その物件は、一階が店舗、二階が住居という造りだった。
食堂として使用に耐えうるよう多少の改装を施した厨房に、カフェ時代に使っていたものをそのまま安く買い取ったというテーブルに椅子。
早速多くない私物を自室に運び込むと、数日後に控えた開店の準備に取り掛かる。
私は一階の床にモップがけをしながら、厨房の様子を確認しているレオンさんに声をかける。
「あの、レオンさん、このお店って、想定していた以上に広くないですか? 正直私一人じゃ素早くお客様の様子を把握できるとは思えないんですけど……」
確かに元祖銀のうさぎ亭に比べるといささかこじんまりとした印象はうけるが、それでも今まで私が担当していた割合よりは多く、色々と助けてくれた人達も今はおらず、私ひとりでホールを切り盛りするというのは不安があった。
「暫くは大丈夫だろ。初日から満席なんてことは流石にないんじゃねえの?」
「そうかなあ。私は新しいお菓子屋さんだとかを見ると、入ってみたくなっちゃいますけどね」
「まあ、そんときゃそんときに考えるさ」
うーん、レオンさんて意外と楽天家だな。それとも私が心配しすぎ?
多少の不安を抱えながらも開店に向けて日々を過ごしていたとき、大事な事を思い出した。
花咲きさんとミーシャくんに、引っ越した事実を伝えていない!
これでは二人は困惑してしまうかも。
特にミーシャくんなんて、スノーダンプの売り上げの一部を持ってきてくれる貴重な存在だというのに。あ、いや、もちろん大事な友達でもあるけれど。
とにかく銀のうさぎ亭2号店の簡単な周辺地図を書いたメモを2枚用意すると、休憩時間を見計らって二人に届けることにした。
◇◇◇◇◇
ミーシャ君の働く工房の扉を開けると、相変わらずの熱気と、金属を叩く賑やかな音が聞こえてくる。
私が入店すると同時にミーシャ君が気づいて駆け寄ってきた。
「ユキさん、今日は何のご用ですか?」
「実はね、うちのお店の2号店ができることになって、私もそっちに移ることになったの。だから知らせておこうと思って。はい、これ簡単な地図」
メモを渡すとミーシャ君は微かに目を見張った。
「ここから結構近いね。これなら僕もお昼に食べに行けるかも」
「ほんと? じゃあ大盛りサービスしちゃおうかな」
一通り話が済んだところで、私は別の話題を切り出す。
「それでね、お仕事のお願いがあるんですけど……スノーダンプをもう一台作ってもらえませんか?」
仕事の話なので敬語モードだ。
「前に作ってもらったのは本店に置いてきちゃったんです。あっちのお店も雪かき大変だろうから。だから、今度は2号店で使うものが欲しくて。あ、もちろん優先して作って欲しいとかじゃなくて、他の人と同じように順番待ちしますから」
「いいですよ。今からなら冬には間に合うだろうし」
今からでも冬に間に合うくらいのレベルなのか。いったいどれくらいの注文がきてるんだろう。考えただけで恐ろしい……。
「それじゃあ、よろしくお願いしますね」
◇◇◇◇◇
ミーシャ君との話を終えて、次に向かった先は花咲きさんの家。
しかし、扉をノックしてみても反応がない。留守なのかな?
仕方なくメモを郵便受けに挟んでおく。これで気づいてくれるといいんだけど。
本当はいつか大量に描いていた「幼子の秘密の宝島」のチョークアートも譲って欲しいけど……あれは引退した画家が描いたという設定にしているからなあ。今更同じようなものを店頭に飾るわけにもいかない。
仕方ないので大人しく帰る事にした。
◇◇◇◇◇
そしてとうとう銀のうさぎ亭二号店開店の日がやってきた。開店時間は本店とは違って12時から。
一晩かけてスープストックを作ったレオンさんが、少しでも休む時間が欲しいからという理由で。確かに調理中に倒れられても困るしね。
はー、それにしても心配。ちゃんと配膳できるかな。
いや、それよりお客さん来るかな……?
どこかから12時を知らせる鐘が鳴った。
お願いします。お客さんがちゃんと来ますように。
そう願いながら扉を開けた。
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