異世界で目覚めたら猫耳としっぽが生えてたんですけど

金時るるの

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思わぬ提案

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「…………え?」

 出て行く? 聞き間違いじゃないよね?
 唖然として言葉が出ない私の代わりにレオンさんが声を上げた。

「待ってくださいマスター。出て行けってどういう事ですか!? まさか、俺達にこの店を辞めろって意味ですか!?」
 
 その声には焦りと戸惑いが溢れている。私も突然のマスターの言葉に動けずにいた。
 どうしてそんな、今になって? お店だって上手くいってるみたいなのに。まさか、私とレオンさんが邪魔になったとか……?

 戸惑う私達を見て、イライザさんが慌てたようにマスターの袖を引っ張った。

「マスター。そんな言い方じゃ駄目よ。二人とも誤解しちゃってるみたいじゃないの。レオン君、ユキちゃん、ごめんなさいね」

 イライザさんが諫めると、マスターは頭をかきながら少々申し訳なさそうな表情を見せる。

「言葉が悪かったみてえだな。すまねえ。俺は別にお前らに辞めて欲しいって言ってるわけじゃねえ」

 その言葉に更に戸惑う。辞めて欲しいわけじゃない。でも出て行って欲しいという。どういう事なんだろう。
 私の疑問に答えるようにマスターが続ける。

「お前らもわかってると思うが、ここしばらく店は繁盛してる。それこそ俺の理想としてたような、料理を求めて行列ができるような店にな。けど、ちっとばかり繁盛しすぎなんだよな。そのせいで客が捌ききれねえ。贅沢な悩みだとはわかってるが。で、考えたってわけだ。この機に『銀のうさぎ亭』の二号店を開店させようかって。それでな、その店をお前ら二人に任せようかと思ってんだ」
「え?」

 私とレオンさんは顔を見合わせる。
 二号店? そんな余裕があるほどにこのお店が繁盛していた事も想定外だったが、それを私とレオンさんが任されるだなんて。
 何も言えない私たちにマスターは問う。

「なあレオン、お前、この店に来て何年経つ?」
「ええと……5年です」
「その間に色々学んだだろ? スープストック作りだって任せられるようになった。お前も料理人だ。そろそろ自分の腕だけでどこまで通用するか試してみてえと思わねえか?」
「それは、まあ……」

 レオンさんはなんだか自信なさげだ。気持ちはわかる。急にそんな重大な事を任されて、戸惑うなというのが無理な話なんだろう。
 私だって困惑していた。思わず声を上げる。

「あ、あの、それなら私はどうして……? まだ経験も浅いのに」
「ユキ、お前は確かにまだ未熟なところがあるが、その代わりに俺達には思いつかないような色々なアイディアを出してこの店を立て直してくれた。それを新しい店でも発揮して貰いてえんだ」
「そ、そんな、買い被りすぎですよ……」

 でも、そうして誰かに認められる事は嬉しい。たとえ元が地球の知識の応用だとしても。
 マスターは改めて私達の顔を見回す。

「な、頼む。もう二号店の場所の目星は付けてあるんだ。以前はカフェだったとかで、必要なものもそのまま残ってる。すぐにでも開店できる状況だ」
「ええ!?」

 そこまでお膳立てされたら断りづらいじゃないか。思わず隣のイライザさんを見るも、にこにこと微笑んでいる。
 まさかイライザさんの入れ知恵……?
 しばらくの沈黙ののち、レオンさんが身を乗り出した。

「わかりました。俺も料理人です。そこまでして貰っておいていまさら引き返せません。是非やらせてください!」

 覚悟を決めたようなその真剣な表情。

「よく言ってくれた。あとは……」

 全員の視線がこちらに向く。
 まずい。この状況では私以外みんな敵だ。
 確かに今まで私の知識は役に立ったこともあるが、それだって偶然うまくいっただけなのだ。これから役立つかどうかはわからない。
 でも、ここで「無理です」なんて言える雰囲気じゃない。
 変な汗をかきながら、私は目を伏せると

「わ、私もやります……お役に立てるかわかりませんけど」

 と一応の予防線を張りながら告げたのだった。

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