異世界で目覚めたら猫耳としっぽが生えてたんですけど

金時るるの

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トランプ開発

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「製品化? それはまた大きく出たな。面白い」

 花咲きさんは冗談だとでも思っているのか、笑いながら返してくる。

「あ、信じてませんね? 私は真剣ですよ。お店でみんなで遊んだ時も好評だったし、あのクオリティなら絶対売れると思うんですよね」
「ほう。本気だったのか。だが問題がある。印刷代はどうするのだ? まさか我輩に1枚ずつ書けというのか?」
「それなら問題ありません。私が出します。こう見えても副収入があるんですよ。だから花咲きさんに一組分作って頂ければ、後は印刷屋さんにおまかせで」

 例のスノーダンプのアイディア料。結構な額を貯金してある。それを使えばいいのだ。
 資金の事を聞いて、花咲きさんも私の本気度がわかったようだ。さらなる質問を浴びせかけてくる。

「流通はどうするのだ。まさか店でも始める気か?」
「うーん……それなんですけど……いっその事うちのお店で売っちゃいましょうか?」 
「見通しが甘い」

 呆れる花咲きさんに対して、慌てて胸の前で手を振る。

「そ、それは最終手段ですよ。一応考えてますから!」
「どうだか」
「と、とりあえず作ってみませんか? 花咲きさんの特製トランプを。これは私からのお仕事の依頼です。ちゃんと正規の料金もお支払いしますよ」
「わかった。引き受けようではないか」

 そうして私と花咲きさんによるトランプ作りは始まったのだった。

 と言っても、私には花咲きさんが無理をしないように言い含めたり、毎日の休憩時間に様子を見に行ったり、時には食料を差し入れたりするしかできなかったのだが……。

 一週間後、トランプの元絵が完成した。花咲きさんもこれまでに何度か自分用に作った事があったからか、それほど時間が掛からずに済んだらしい。
 けれど、それぞれのエースの絵柄にちょっとした特徴があった。カードの真ん中に大きく描かれたそれは、中に植物のように複雑に絡み合ったような模様が描かれていたのだ。

「わあ、すごい。細かいですね」
「真ん中にぽつんと小さく描かれても寂しいだろうと思ってな。大きく描くついでに模様も追加しておいた」
「すっごく素敵です!」

 これなら売れそうな気がする。
 よし、次は……と、私は花咲きさんに顔を向ける。

「花咲きさん。この国で一番大きな玩具会社ってどこですか?」
「うん……? それならベル―ネル商会だろうな。我輩も子供の頃、そこの玩具に世話になった。だが、それがどうだというのだ?」
「トランプを売り込みに行くんですよ! そのベル―ネル商会に!」


  ◇◇◇◇◇


 それから一週間後、完成した印刷済みのトランプを一組持って、私と花咲きさんは例のベル―ネル商会にいた。
 飛び込みなので心配だったが、受付のお姉さんに、偉い人に会いたい旨を伝えると、応接室らしき部屋へと案内して貰えた。
 案外私達みたいなアポなし客は多いみたいだ。

「お前は案外大胆だな」

 まさか私が商会と面会の約束すらしていないとは思っていなかったのか、花咲さんは呆れたように出されたお茶を口にする。

「門前払いされなくてよかったです。ここはきっといい会社ですよ。どこの馬の骨ともわからない私達に会ってくれるって言うんですから」

 私はスノーダンプの時と同じような事をしようとしていた。トランプを売る権利と引き換えに、売り上げの何割かを頂こうと考えていたのだ。
 期待を胸にお茶を飲んでいると、やがてドアが開いて一人の人物が部屋に入ってきた。

「いやあ、すみませんね。生憎と社長は予定が詰まっておりまして。代わりに私がお話を伺います」

 中年の人の好さそうな痩せた男性がぺこりと頭を下げる。
 私は慌てて立ち上がると、同じように頭を下げる。

「いえ、こちらこそ、お約束も無しに押しかけてしまい申し訳ありません。でも、どうしても見て頂きたいものがあったので……」

 痩せた男性はアレンと名乗った。堅苦しい挨拶は抜きにして、さっそく話を聞きたいとの事で、私は持参したトランプを机に置く。

「これは……?」
「見ての通りカードゲームです。これ一組で色々なゲームができるんですよ。よろしければ一緒にやってみませんか?」

 そうして花咲きさんを含めて、三人でババ抜き、神経衰弱、ポーカーなど、私の知る限りの遊びを試してゆく。
 そのたびに、アレンさんは

「ほう」

 だとか

「なるほど」

 だとか声を上げ、徐々に顔も上気していくさまがわかる。

「これはすごい。もしかすると革命的ゲームかもしれません!」

 え、そ、そんなに? 玩具のプロからみてもそんなに?
 呆気にとられていると、アレンさんは身を乗り出してくる。

「ユキさんとおっしゃいましたね。このカードゲーム、暫くわが社に預けてはもらえませんか? 上の者にも是非見せたいのです」
「ええ、もちろん構いませんよ。実物があったほうがいいですもんね」
「ありがとうございます」


 ◇◇◇◇◇
 

「予想以上にいい反応でしたね」
「ああ、あれならもしかすると上手くいくかもしれないな」

 私達はベル―ネル商会を後にしながら、期待に胸を膨らませる。

「しかしなぜ吾輩が同行せねばならなかったのだ。お前ひとりで充分だったではないか」
「何を言うんですか。私みたいな子どもも同然のか弱い女の子が、一人で行っても悪戯か何かと思われるかもしれないじゃないですか。そのための花咲きさんですよ。充分役に立ってましたよ」
「保護者代わりという事か……」
「あ、お礼にカツサンド作りますから!」
「そうしてくれ」

 トランプ、無事に採用されると良いなあ。

 ところが、いつまで経っても返事は来なかった。
 もしかして忘れられているのかと思い、再度ベル―ネル商会を訪れるも、アレンさんは忙しいとの事で、受付で門前払いされてしまった……。
 一体どうなっているのか。首をひねりながらも銀のうさぎ亭2号店へと戻ると、クロードさんと共にテーブルについていたレオンさんが声を上げる。

「おう、ネコ子。ちょうどいいところに来たな。トランプやろうぜ。トランプ」
「え? でも、私トランプ持ってませんよ?」
「それが、買い出しに行ったら近くの店で売ってたんだよ」

 え? どういうこと?

 見れば2人の手にはまごう事なきトランプのカードが。
 私はテーブルの上を見回すと、トランプが入っていたらしき箱を取り上げる。
 そこにはしっかりと販売元が書かれていた。
 「ベル―ネル商会」と。
 これって、これってもしかして……

「パクられた……!?」

 

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