異世界で目覚めたら猫耳としっぽが生えてたんですけど

金時るるの

文字の大きさ
61 / 104

メガネの準備

しおりを挟む
 翌朝も、花咲きさんは

「送ってやる」

 と言いながら私についてこようとした。
 その心遣いは嬉しい。嬉しいけれど、寝不足であろう花咲きさんを、太陽ギラギラな場所へ連れ出すのは気がひける。

「だ、大丈夫ですよ。朝は大勢の人目もありますし。それより花咲きさんこそ寝不足なんでしょ? 休まないとお仕事に支障が出ちゃいますよ。私なら平気ですから」

 断腸の思いでなだめると、花咲きさんも渋々納得したようだ。

「それならこれを持っていけ」

 と、花咲きさんが持ってきたのは白い日傘。フリルがついていてかわいい。

「外は陽射しが強いからな」

 まさか昨日の会話の流れで買っていた?
 でも、この日傘って、どう見ても女性向けのデザインだ。
 もしかして、もしかして、私のために……? 
 うわー、どうしよう。嬉しい。

「ありがとうございます、花咲きさん。使うのが惜しいくらい嬉しいです」
「大袈裟だな」
「そんなことありませんよ。大事に使いますね」

 私は感謝の念とともに「いってきますのはぐはぐ」のため、花咲きさんの背中に手を回した。

 
 ◇◇◇◇◇


「いやー、似合いますよ。良い! とても良い!」
「そ、そうですか。それならこの商品で――」
「次はこれをかけてみましょう!」
「…………」

 ランチタイム後の休憩時間。私とクロードさんはメガネ店にいた。
 ノノンちゃんは兄(偽)であるユージーンさんと過ごすという大義名分があるので一緒ではない。ずるい。

 この世界には亜人用のメガネもあるようで、猫耳の私にもかけられるメガネが揃っている。
 ささっと選んで帰る予定でいたのだが、クロードさんが粘る粘る。
 あるメガネを試着したと思ったら、別のメガネを勧めてくる。それを先程から繰り返しているのだ。まるで着せ替え人形のメガネバージョンみたい。

 なんだろう。彼女の買い物に付き合わされる彼氏ってこんな心境なのかな……とりあえず早く終わって欲しい……。

「いやー、そのメガネも似合ってらっしゃる。これは迷いますねえ」

 結局どれも似合ってるの? それじゃあなおさらどれでも良いじゃん。

 なんて、心の中で呟く。

 この世界には、金属製のフレームのメガネしか無いようで、おのずと選択肢も限られてくる。くるはずなのに、これはいったいどういうことだ。

 業を煮やした私は、次にクロードさんが

「良いですねえ。似合ってますよ」

 との言葉に被せるように

「それじゃあこれにしましょう! 店員さーん、お会計よろしくお願いしまーす!」

 と、無理矢理お会計へと持ち込んだのだった。
 クロードさんは

「他のメガネも試したかったのに……」

 などと呟いていた。
 気を取り直してメガネ代を払おうかとお財布を出すと、クロードさんが間に入ってきた。

「ここは私に出させてください。元々メガネデーを提案したのは私なんですから」

 な
 なんという紳士。そういう事ならもう少し試着に付き合っても良かったかなあ。

「レンズはどうされますか?」

 店員さんの問いにクロードさんは

「度の入っていないものでお願いします。レンズなんてただの飾りですからね」

 などと答えていた。


 ◇◇◇◇◇
 

「すみません。メガネ代を出して頂いちゃって……」
「いえ、お気になさらず。これでメガネ人口が増えるのなら何よりです」

 メガネデーしかメガネをかけない予定の私は、はたしてメガネ人口に含まれるのだろうか。

 そんなことを考えながらお店へ戻ると、ユージーンさんが来ていた。

「猫娘、どこへ行っていたのだ」

 なんで私に振るの? 見るからに有能そうなクロードさんに振ってよ……!

 しかし、王子様を無視するわけにもいかず

「ええと、メガネを買ってきたんです。『メガネデー』のために」
「メガネデー?」

 趣旨を説明すると、ユージーンさんは首を傾げてノノンちゃんに目を向ける。

「妙だな。ノノンはそんなこと言ってなかったぞ。もうメガネは用意してあるのか?」

 ノノンちゃんはびくりと肩を震わせる。

「そ、それは、わたしにとってはお兄様と過ごす時間の方が大切だったものですから……」

 明らかに狼狽えている。それはそうだろうなあ。建前上は兄という事になっているが、ユージーンさんはノノンちゃんの上司的存在なんだろうから。
 しかもその部下が、潜入先で店の方針に従わないとなれば問題だ。

「良いかノノン。お前はここで世話になっている身なのだぞ。我儘を通せる立場ではないのだ」
「……ごめんなさい」
「わかったのならば良い。それでは我らもメガネを買いにゆくぞ」
「はい……」

 そうしてユージーンさん達もメガネを買うためにお店を出て行った。
 どうやらノノンちゃんもメガネの呪縛からは逃れられないようだ。


 ◇◇◇◇◇


 そして訪れた『メガネ執事&メガネメイドデー』の日。
 どうしてメガネと執事&メイドが合体しているのかというと、

「そのほうが良いに決まっています!」

 との、クロードさんの謎の主張でそうなってしまったのだ。
 真偽はともかく、以前にクロードさんが主張していた三つ編みお下げ姿にしてからメガネをかけると

「素晴らしい! 完璧ですよユキさん!」

 という賛辞のお言葉を頂いた。
 少し良い気分でいると、クロードさんはメガネをかけたノノンちゃんにも

「素晴らしい! 完璧ですよノノンさん!」

 だとか言っていた。もうメガネならなんでも良いんじゃないの? この人は。

 ともあれ、慣れないメガネ姿で接客してゆくと、ミーシャ君がやってきた。

「あれ? ユキさんメガネにしたの? 髪型も変わっていつもと雰囲気が違うね」
「ええと、変ですかにゃん?」
「ううん。すごく似合ってるよ! いつもとはまた違う良さがあって」

 おお、褒められた。
 クロードさんの案は意外と好評みたいだ。

 そういうわけで、意外な好評を得た結果、週に2日あった執事&メイドデーのうち、1日はメガネ執事&メガネメイドデーとなったのだった。

 それはそれとして、褒められると花咲きさんにも見てもらいたくなる。

 閉店後、雑務を終えてお店を出ると、今日も花咲きさんが店先で待っ ていてくれた。

「花咲きさん」

 声をかけると花咲きさんは何度か瞬きをした後で

「ああ、お前か。暗いから別人かと思ったぞ。紛らわしいからいつも通りの格好でいてくれ」

 ……そうですか。

しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ 

さくら
恋愛
 会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。  ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。  けれど、測定された“能力値”は最低。  「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。  そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。  優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。  彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。  人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。  やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。  不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。

追放された薬師は、辺境の地で騎士団長に愛でられる

湊一桜
恋愛
 王宮薬師のアンは、国王に毒を盛った罪を着せられて王宮を追放された。幼少期に両親を亡くして王宮に引き取られたアンは、頼れる兄弟や親戚もいなかった。  森を彷徨って数日、倒れている男性を見つける。男性は高熱と怪我で、意識が朦朧としていた。  オオカミの襲撃にも遭いながら、必死で男性を看病すること二日後、とうとう男性が目を覚ました。ジョーという名のこの男性はとても強く、軽々とオオカミを撃退した。そんなジョーの姿に、不覚にもときめいてしまうアン。  行くあてもないアンは、ジョーと彼の故郷オストワル辺境伯領を目指すことになった。  そして辿り着いたオストワル辺境伯領で待っていたのは、ジョーとの甘い甘い時間だった。 ※『小説家になろう』様、『ベリーズカフェ』様でも公開中です。

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

処理中です...