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突然の申し込み
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「目安箱を作る事にした」
「は?」
食べかけのいちごチョコカスタードクレープから、いちごがひとつぽろりと落ちて、地面にべしゃりと着地した。
あっ、せっかくのいちごが!
などと一瞬思ったものの、その前に発されたユージーンさんの言葉に意識を引き戻される。
私達は今日もまた、屋台の並ぶ通りで、木陰のベンチに座りながらジャンクなフードを食していた。今回は無事に割り勘で。
その最中に冒頭の言葉がユージーンさんの口から出て来て、思わずいちごを落としてしまったのだ。
「目安箱と言いますと、まさか、私の小説に出て来た、あの目安箱でしょうか?」
いちごの事は諦めて、ユージーンさんに問うと、頷きが返ってくる。
「うむ。正確には『要望箱』だな。どうだ。素晴らしいネーミングだろう」
「はあ……」
「あの小説に出て来た『目安箱』には大変感銘を受けた。普段触れることのない民の心を知ることができる。素晴らしいアイディアだ。だから父上に進言したのだ。『要望箱』を作ってはどうかと」
そんなに……? 将軍様の政策は、異世界でも十分通用するみたいだ。
「でも、国王陛下に『要望箱』が『目安箱』の真似だってばれたら……?」
「父上はあのような低俗な小説は読まないからな。まずばれないだろう」
低俗とか言われた。さっきから褒められてるのか貶されてるのかわからない。
「ユージーンさん、この屋台通りの食べ歩きに関してもそうですけど、庶民の生活や要望を知ってどうするつもりなんですか?」
「将来王位につく者として、民の心理を学んでおかねばな。人心の掌握にも役立つかもしれぬ。将来的に障害になるであろう悪の排除もその一環だ」
その割には民に対する態度に問題あるような気がするんだよなあ。少し……いや、かなり強引だし。
でも、ユージーンさんなりにちゃんと将来の事を考えてるんだな。ちょっと意外。
なんて考えながら、その顔を見つめていると、目が合った。
「なんだ? 俺の顔に何かついてるか?」
「ええ、クリームが」
「なっ!?」
ユージーンさんの鼻の頭に白いクリームが付いている。
「ちょっとそのままでいてくださいね」
私はハンカチを取り出すと、そのクリームを拭き取る。
「な、なんという失態……! 俺は鼻にクリームをつけたままで、民がどうのと力説してしまったというのか! 間抜け以外の何者でもない……!」
なんだかダメージを受けている。そこまで恥じること? 王子様のダメージ基準が謎だ。
「間抜けだなんて、そんな事ありませんよ。正直見直しました。こんなこと言ったら失礼ですけど、悪人退治も、お忍びでの街へのお出掛けも、てっきり王子様の道楽かと思っていたもので……」
「まことに失礼極まりないな」
「すみません……」
「いや、まあ、当たらずとも遠からずだ。前にも言ったように、悪を倒すことで英雄になりたいという願望も含まれているからな」
意外にも怒られなかった。ユージーンさんは続ける。
「しかし、目安箱などというアイディアは思いつかなかった。民が何を考えているのかが直接わかる。素晴らしい発想だ」
そ、そこまで? 元は私が考えたんじゃないんだけどな……。
「猫娘。その素晴らしい発想力を俺の元で活かしてみないか?」
「それって、引き抜きのお話ですか? 私にユージーンさんの元でお仕事しろと?」
「似ているが違う」
それじゃあどういう事?
首をかしげていると、不意にユージーンさんが私の両手をとる。クレープがまるごと地面に落ちる。
けれど、私は声を上げられなかった。ユージーンさんの瞳がいつになく真剣な光を帯びていたから。
「俺の妃になってくれ」
「…………はい?」
「は?」
食べかけのいちごチョコカスタードクレープから、いちごがひとつぽろりと落ちて、地面にべしゃりと着地した。
あっ、せっかくのいちごが!
などと一瞬思ったものの、その前に発されたユージーンさんの言葉に意識を引き戻される。
私達は今日もまた、屋台の並ぶ通りで、木陰のベンチに座りながらジャンクなフードを食していた。今回は無事に割り勘で。
その最中に冒頭の言葉がユージーンさんの口から出て来て、思わずいちごを落としてしまったのだ。
「目安箱と言いますと、まさか、私の小説に出て来た、あの目安箱でしょうか?」
いちごの事は諦めて、ユージーンさんに問うと、頷きが返ってくる。
「うむ。正確には『要望箱』だな。どうだ。素晴らしいネーミングだろう」
「はあ……」
「あの小説に出て来た『目安箱』には大変感銘を受けた。普段触れることのない民の心を知ることができる。素晴らしいアイディアだ。だから父上に進言したのだ。『要望箱』を作ってはどうかと」
そんなに……? 将軍様の政策は、異世界でも十分通用するみたいだ。
「でも、国王陛下に『要望箱』が『目安箱』の真似だってばれたら……?」
「父上はあのような低俗な小説は読まないからな。まずばれないだろう」
低俗とか言われた。さっきから褒められてるのか貶されてるのかわからない。
「ユージーンさん、この屋台通りの食べ歩きに関してもそうですけど、庶民の生活や要望を知ってどうするつもりなんですか?」
「将来王位につく者として、民の心理を学んでおかねばな。人心の掌握にも役立つかもしれぬ。将来的に障害になるであろう悪の排除もその一環だ」
その割には民に対する態度に問題あるような気がするんだよなあ。少し……いや、かなり強引だし。
でも、ユージーンさんなりにちゃんと将来の事を考えてるんだな。ちょっと意外。
なんて考えながら、その顔を見つめていると、目が合った。
「なんだ? 俺の顔に何かついてるか?」
「ええ、クリームが」
「なっ!?」
ユージーンさんの鼻の頭に白いクリームが付いている。
「ちょっとそのままでいてくださいね」
私はハンカチを取り出すと、そのクリームを拭き取る。
「な、なんという失態……! 俺は鼻にクリームをつけたままで、民がどうのと力説してしまったというのか! 間抜け以外の何者でもない……!」
なんだかダメージを受けている。そこまで恥じること? 王子様のダメージ基準が謎だ。
「間抜けだなんて、そんな事ありませんよ。正直見直しました。こんなこと言ったら失礼ですけど、悪人退治も、お忍びでの街へのお出掛けも、てっきり王子様の道楽かと思っていたもので……」
「まことに失礼極まりないな」
「すみません……」
「いや、まあ、当たらずとも遠からずだ。前にも言ったように、悪を倒すことで英雄になりたいという願望も含まれているからな」
意外にも怒られなかった。ユージーンさんは続ける。
「しかし、目安箱などというアイディアは思いつかなかった。民が何を考えているのかが直接わかる。素晴らしい発想だ」
そ、そこまで? 元は私が考えたんじゃないんだけどな……。
「猫娘。その素晴らしい発想力を俺の元で活かしてみないか?」
「それって、引き抜きのお話ですか? 私にユージーンさんの元でお仕事しろと?」
「似ているが違う」
それじゃあどういう事?
首をかしげていると、不意にユージーンさんが私の両手をとる。クレープがまるごと地面に落ちる。
けれど、私は声を上げられなかった。ユージーンさんの瞳がいつになく真剣な光を帯びていたから。
「俺の妃になってくれ」
「…………はい?」
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