異世界で目覚めたら猫耳としっぽが生えてたんですけど

金時るるの

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学園入学編

恐怖の時間

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 翌日、ヴィンセントさんに送って貰いながら、昨日のことを考える。
 あれでみんな納得してくれたよね? 流石に私が結婚しているとなれば、ラ・プリンセスの件は消滅するに違いない。

「どうしたユキ? 先程からずっと上の空だぞ」

 あれこれ考えていたら、ヴィンセントさんに心配されてしまった。

「いえ、今日は一段と寒いなーと思って。あ、そうだヴィンセントさん、手を繋いで良いですか?」
「勿論だ。ほら、手を貸せ」

 手を繋ぐと身体まで温かい。寒さと一緒に悩みごとも消えて行くような気がした。


◇◇◇◇◇


「それじゃあ行ってきます」
「ああ、さぼるなよ」
「さぼりませんよ!」

 学校の校門前で、しばしの別れを惜しむ。
 最後に私の頭を撫でると、ヴィンセントさんは元来た道を引き返して行った。

 さて私も教室に……と門を通り抜けたところで

「待ってたよ。子猫ちゃん。おはよう」
「ひっ!?」

 見れば、王子様とその取り巻きがずらりと勢揃い。なんだろう。圧を感じる。

「お、おはようございます、アトレーユ様。わたくしめに何かご用でございましょうか?」

 後ずさりつつ尋ねると

「やだなあ。君はラ・プリンセスじゃないか。僕がエスコートするのは当然だろう?」
「いや、でも、私、昨日も言ったように既婚者なので……」
「僕はそれでも構わないって言ったよね。だから君がラ・プリンセスなのも変わらないんだよ」

 えー……なにそれ……これでは体を張って既婚者アピールした昨日の苦労が水の泡ではないか。

 なんて考えていたら、私は王子とその取り巻き達に囲まれて、逃げ場を失っていた。

「さあ、教室までエスコートさせてよ。僕のプリンセス」

 輝くような笑顔で膝を突き出すアトレーユ王子。
 どうでも良いけど、そのセリフ、言ってて恥ずかしくないのかな……。
 私は辺りを見回すが、どの生徒も間に入ってくれる気配もない。好奇心に満ちた瞳を向ける者さえいるほどだ。
 ミリアンちゃんもいないし……。
 仕方ない……ヴィンセントさん、ごめんなさい!
 私は覚悟を決めて、王子の腕に自分の手を重ねたのだった。


◇◇◇◇◇

 
「朝から災難でしたわね」

 教室に着くと、ミリアンちゃんが慰めてくれる。
 幸いにも私達はアトレーユ王子とは違うクラスらしい。教室前まで送ってくれると

「それじゃあまた、お昼にね」

 と、取り巻きとともに去って行ってしまった。
 お昼にまた来るの? もうやだ……。

「まさかのラ・プリンセス継続だなんて……旦那様を裏切ってるみたいで辛いよう……」
「アトレーユ様はそれも楽しんでらっしゃるのかもしれませんわね。まったく、趣味の悪いこと」

 なんとも人ならざる行為。王子様の血は何色だ!

「だいたい私は魔法を学ぶためにこの学校に来たのに、王子様のお守り係じゃないよ……まだ全然魔法も使えないし……授業も何言ってるのかわからないし……」
「それなら、私が初等部の頃に使っていた教科書を譲りましょうか? 初歩的な魔法の使い方が載っているはずですわ」
「ほんと!? ありがとう! ミリアンちゃん優しい! 女神! 天使!」

 私の感謝の言葉に、ミリアンちゃんは「大げさですわよ」と笑った。


◇◇◇◇◇


 さて、ついに訪れたお昼休み。
 私は王子様が来る前に、昨日のようにミリアンちゃんと逃避行するつもりだったのだが……

「マクシミリアンお姉様! 今日こそ、わたくし達とランチをご一緒して頂きますからね!」

 教室を出た途端、例の「妹ちゃん」ならぬミリアンちゃんの親衛隊が、何人も押し寄せてきたのだ。

 ミリアンちゃんは申し訳なさそうに眉尻を下げながら、それでも笑顔で対応する。

「ごめんなさい。今日も先約があって……」

 そう言うと、妹ちゃん達は私をきっと睨みつける。
 な、なんだなんだ。心なしか殺気のようなものを感じる。
 その中の一人が進み出てきた。

「ユキ先輩。あなたはラ・プリンセスなのですよね!?」
「え、ええ、まあ……」

 不本意ですけど。

「お願いです! わたくし達からお姉様を奪わないで! ラ・プリンセスであるあなたなら、アトレーユ様だって独り占めできると言うのに! 二股なんてずるいですわ!」
「え……二股とか、そんなつもりは全くないんだけど……」
「そうですわよ。あなた達、ユキさんは私の大切なお友達ですのよ。侮辱したら許しませんからね」

 おおお、ミリアンちゃんがズバッと言ってくれた。おまけに「大切なお友達」だって。なんとなく照れる。

 と、その時

「やあ、僕のプリンセス。待たせちゃったかな?」

 この恥ずかしいセリフ!
 振り向くとアトレーユ王子と、その取り巻き達が立っていた。
 しまった。初動で躓いたせいで、妹ちゃんと王子に挟まれるような形に……!
 ここは妹ちゃん達を犠牲にしてミリアンちゃんを取るべきか、それとも王子様をスルーして、妹ちゃん達に紛れてミリアンちゃんを取るか……!
 もしくはどちらも存在しないものとしてミリアンちゃんを取るか。

 私はしばし考えたのち結論を出した。

「ミリアンちゃん、気を遣わせちゃってごめんね。今日はアトレーユ様と行くことにする。妹ちゃん達と仲良くね」
「でも、ユキさん……」

 妹ちゃん達に恨まれるのはまっぴらだ。かといって王子様をないがしろにした結果、悪い事が起こるのも耐えられない。
 チキンな私は安全策を選択した。

 ミリアンちゃんには、大丈夫だと言い聞かせるように大きく頷いてみせる。
 ミリアンちゃんは心配そうな顔をしていたが、大量の妹ちゃん達に囲まれ、こちらを振り返りながらも去っていった。
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