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学園入学編
キスの方法
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別れのキス? なに言ってるのこの人。
困惑している私に向かって、アトレーユ王子は微笑む。
「僕ね、一度見てみたかったんだ。目の前で妻が夫以外の男にキスしたら、夫はどんな顔するんだろうってね」
な、なんて悪趣味な……!
絶句する私に王子は続ける。
「あ、もちろんキスは唇にね」
そんな事できるわけないじゃないか! 頬だって無理!
「そ、それはまたいつか。私、急いでおりますので、失礼させていただきます!」
逃げだそうとするも、アトレーユ王子は私の左手首を掴んだまま離してくれない。
「駄目だよ。今ここでしてくれないと、いつまでも帰さないよ?」
な、なんなのこの人。頭おかしいの?
しばらく腕を引っ張っては引き戻されるという攻防を繰り返していたが、
「君も頑固だね。いい加減言うこと聞いたら?」
王子の取り巻きたちも、薄笑いを浮かべながら、こちらの様子を見ている。趣味悪い。
「わかりました。言う事を聞くので手を離してください」
「それはできないな。手を離した途端逃げられる可能性もあるからね」
ぐぬぬ。最後の手段まで見透かされてる。
も、もうだめ……我慢できない。ミリアンちゃん、ジェイド君、ごめん……!
「……仕方ありませんね」
「あ、やっとキスしてくれる気になった?」
「ええ」
私は右手を握りしめると、自分の拳に口付ける。そのまま大きく振りかぶると、王子の口元を思い切り殴りつけた。
打撃を受けたアトレーユ王子は、私の手を離すと後方へと吹っ飛ぶ。
「大サービス! 唇への間接キッスだコノヤローー! これで満足したか変態王子!!」
叫んだ私はくるりと踵を返すと、ヴィンセントさんの元へ。そのまま彼の腕をとって走り出す。
「お、おいユキ、今のはなにごとだ?」
「後で話します! だから今は走って!」
走りながら、自分のしでかしたことを考える。
ど、どうしよう……いくら腹が立っていたとはいえ、王子様を殴ってしまった……! 今になって焦りと恐れが生じる。
ミリアンちゃんにジェイド君、大丈夫かな……何かされたりしないよね……?
◇◇◇◇◇
「急にあの弟を殴りつけるから、何事かと思ったら……そんな事情があったのか」
「や、やっぱりまずかったですか? 王子様に手をあげたりなんかして、縛り首にでもなったらどうしよう……」
急に不安になってきた。
そんな私を安心させるように、ヴィンセントさんは頭を撫でてくれる。
「まさか。その程度のことでそんな重い刑罰は受けまい。わかった。明日は我輩が直接、あの愚弟に一言言ってやろうではないか」
「ほんとですか? そんな事して大丈夫なんですか?」
「ああ、あいつがまともなら、我輩の言葉を聞けば大人しくなるだろう」
一体何を話す気なんだろう。気にはなったが、とりあえずヴィンセントさんに任せることにして、私は夕食の支度へと取り掛かった。
◇◇◇◇◇
翌日、どこか張り切って私の腕を引くヴィンセントさんとは対照に、私の足は重くなる。
またあのアトレーユ王子と顔を合わせないといけないのか。しかもおそらく私のせいで怪我をしているであろう彼と。ものすごく怖い。何かされないといいけど。などと考えれば足が重くなるのも当然といえよう。
うだうだと考えているうちに、とうとう学校に着いてしまった。
が、なんだか様子がおかしい。
見れば、当のアトレーユ王子が校門の前に立っている。取り巻きをひきつれて。まるで誰かを待っているように。いや、もしかしなくとも私を待ってたんだろうな……。
王子はこちらに目を向けると、にっこりと微笑む。口のあたりに貼ってある絆創膏のせいで、いつもの太陽のような笑顔は何割か間抜けに見えるような気がするが。
「やあ、待ってたよ」
やっぱり私を待ってた。どうしよう。もう一回殴って逃げる……?
そんな私の不安をよそに、ヴィンセントさんはアトレーユ王子にずんずんと近づく。
「お前がアトレーユか。話がある。少し付き合って貰おうか」
「それは丁度いいな。僕もあなたに用事があったんだ」
言うなりアトレーユ王子は、指先で宙に何かを描くような仕草をする。
「変化」
その途端ヴィンセントさんの姿が消えた。
「え? あれ? ヴィンセントさん? どこ?」
辺りを見回してもどこにもいない。
え? ヴィンセントさんが消えちゃった? うそ。そんな……。
おろおろとする私をアトレーユ王子は何も言わず微笑みを浮かべて見ているだけ。
「ユキさん! 動かないで!」
その時、鋭い声が飛んできた。見ればジェイド君が駆け寄ってくる。
「ユキさん、気を付けて。ヴィンセントさんはあなたの足元にいます」
「足元……?」
訳も分からず足元を見下ろすも、石畳が敷き詰められているばかり……いや、よく見れば緑色の何かがうごめいている。
ジェイド君はそれを大切そうに両手で拾い上げる。
「ユキさん。先程アトレーユ様が使ったのは、人間や動物を好きなものに変化させる魔法。平常時では使うのを禁じられている禁忌魔法です。アトレーユ様はそれをヴィンセントさんに使ったんです。そして、これがヴィンセントさんの今の姿です」
そう言って差し出してきたのは、一匹の小さなとかげ。左頭部に白い花が咲いている。
え……? ヴィンセントさん、とかげにされちゃったの……?
困惑している私に向かって、アトレーユ王子は微笑む。
「僕ね、一度見てみたかったんだ。目の前で妻が夫以外の男にキスしたら、夫はどんな顔するんだろうってね」
な、なんて悪趣味な……!
絶句する私に王子は続ける。
「あ、もちろんキスは唇にね」
そんな事できるわけないじゃないか! 頬だって無理!
「そ、それはまたいつか。私、急いでおりますので、失礼させていただきます!」
逃げだそうとするも、アトレーユ王子は私の左手首を掴んだまま離してくれない。
「駄目だよ。今ここでしてくれないと、いつまでも帰さないよ?」
な、なんなのこの人。頭おかしいの?
しばらく腕を引っ張っては引き戻されるという攻防を繰り返していたが、
「君も頑固だね。いい加減言うこと聞いたら?」
王子の取り巻きたちも、薄笑いを浮かべながら、こちらの様子を見ている。趣味悪い。
「わかりました。言う事を聞くので手を離してください」
「それはできないな。手を離した途端逃げられる可能性もあるからね」
ぐぬぬ。最後の手段まで見透かされてる。
も、もうだめ……我慢できない。ミリアンちゃん、ジェイド君、ごめん……!
「……仕方ありませんね」
「あ、やっとキスしてくれる気になった?」
「ええ」
私は右手を握りしめると、自分の拳に口付ける。そのまま大きく振りかぶると、王子の口元を思い切り殴りつけた。
打撃を受けたアトレーユ王子は、私の手を離すと後方へと吹っ飛ぶ。
「大サービス! 唇への間接キッスだコノヤローー! これで満足したか変態王子!!」
叫んだ私はくるりと踵を返すと、ヴィンセントさんの元へ。そのまま彼の腕をとって走り出す。
「お、おいユキ、今のはなにごとだ?」
「後で話します! だから今は走って!」
走りながら、自分のしでかしたことを考える。
ど、どうしよう……いくら腹が立っていたとはいえ、王子様を殴ってしまった……! 今になって焦りと恐れが生じる。
ミリアンちゃんにジェイド君、大丈夫かな……何かされたりしないよね……?
◇◇◇◇◇
「急にあの弟を殴りつけるから、何事かと思ったら……そんな事情があったのか」
「や、やっぱりまずかったですか? 王子様に手をあげたりなんかして、縛り首にでもなったらどうしよう……」
急に不安になってきた。
そんな私を安心させるように、ヴィンセントさんは頭を撫でてくれる。
「まさか。その程度のことでそんな重い刑罰は受けまい。わかった。明日は我輩が直接、あの愚弟に一言言ってやろうではないか」
「ほんとですか? そんな事して大丈夫なんですか?」
「ああ、あいつがまともなら、我輩の言葉を聞けば大人しくなるだろう」
一体何を話す気なんだろう。気にはなったが、とりあえずヴィンセントさんに任せることにして、私は夕食の支度へと取り掛かった。
◇◇◇◇◇
翌日、どこか張り切って私の腕を引くヴィンセントさんとは対照に、私の足は重くなる。
またあのアトレーユ王子と顔を合わせないといけないのか。しかもおそらく私のせいで怪我をしているであろう彼と。ものすごく怖い。何かされないといいけど。などと考えれば足が重くなるのも当然といえよう。
うだうだと考えているうちに、とうとう学校に着いてしまった。
が、なんだか様子がおかしい。
見れば、当のアトレーユ王子が校門の前に立っている。取り巻きをひきつれて。まるで誰かを待っているように。いや、もしかしなくとも私を待ってたんだろうな……。
王子はこちらに目を向けると、にっこりと微笑む。口のあたりに貼ってある絆創膏のせいで、いつもの太陽のような笑顔は何割か間抜けに見えるような気がするが。
「やあ、待ってたよ」
やっぱり私を待ってた。どうしよう。もう一回殴って逃げる……?
そんな私の不安をよそに、ヴィンセントさんはアトレーユ王子にずんずんと近づく。
「お前がアトレーユか。話がある。少し付き合って貰おうか」
「それは丁度いいな。僕もあなたに用事があったんだ」
言うなりアトレーユ王子は、指先で宙に何かを描くような仕草をする。
「変化」
その途端ヴィンセントさんの姿が消えた。
「え? あれ? ヴィンセントさん? どこ?」
辺りを見回してもどこにもいない。
え? ヴィンセントさんが消えちゃった? うそ。そんな……。
おろおろとする私をアトレーユ王子は何も言わず微笑みを浮かべて見ているだけ。
「ユキさん! 動かないで!」
その時、鋭い声が飛んできた。見ればジェイド君が駆け寄ってくる。
「ユキさん、気を付けて。ヴィンセントさんはあなたの足元にいます」
「足元……?」
訳も分からず足元を見下ろすも、石畳が敷き詰められているばかり……いや、よく見れば緑色の何かがうごめいている。
ジェイド君はそれを大切そうに両手で拾い上げる。
「ユキさん。先程アトレーユ様が使ったのは、人間や動物を好きなものに変化させる魔法。平常時では使うのを禁じられている禁忌魔法です。アトレーユ様はそれをヴィンセントさんに使ったんです。そして、これがヴィンセントさんの今の姿です」
そう言って差し出してきたのは、一匹の小さなとかげ。左頭部に白い花が咲いている。
え……? ヴィンセントさん、とかげにされちゃったの……?
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