99 / 104
学園入学編
つかの間の自由
しおりを挟む
アトレーユ王子の謝罪から一晩経った。
が、翌日彼は登校してこなかった。
悪魔的存在がいない! やっと私の学園ライフに平穏が戻ってきたのだ。
と、思ったら……
「ユキちゃんだよね? よかったら君の国の話を聞かせてもらえないかなあ。今度是非一緒に食事でもしながらさあ」
だとかチャラい見た目の男子に話しかけられたり、
「ユキ様! どうぞ自分をあなた様の家臣にしてくださいませ! これでも自分は魔法だけでなく剣の鍛錬も積んでおります! 必ずやあなた様のお役に立ってみせましょう!」
だとか体格の良い男子に土下座されたり。
一体何なのかと思いつつも
「間に合ってますので」
と、避けてきたのだが……。
「それはユキさんがプリンセスだからですわ」
ミリアンちゃんの答えに私は首を傾げる。プリンセスだから?
そんな私の様子を察して、ミリアンちゃんが話を続ける。
「たとえ他国といえどもプリンセスはプリンセス。相当な権力と財力を有しているに違いない。そう睨んだ者たちが、ユキさんとお近づきになろうとしているのです」
「えっ? 私がプリンセスだって事、そんなに広まってるの?」
プリンセスなのはヴィンセントさんのおかげなんだけど……。
「それはもう。学校中に知れ渡ってますわよ。私の『妹』たちの中でも、ユキさんを紹介して欲しいという者が何名も。まったく浅ましい事ですわ。ユキさんがプリンセスだと知った途端、手のひらを反すなんて。あ、その子達にはちゃんと注意しておきましたから安心なさって」
なにそれこわい。権力とは人をそんなに変えてしまうものなのか。まあ、私も王様の前とかだったら平常心じゃいられないだろうけど……。
そんな中、今まで通り接してくれるミリアンちゃんは癒しだなあ……。
◇◇◇◇◇
そして午前の授業が終わり、お昼休みになった。
さて、今日もジェイド君に魔法を教えて貰いに――
「ユキ様!」
「はい?」
なんだなんだ。と声のした方を見てみれば、そこにはミリアンちゃんの『妹ちゃん』たちが。
「あの、よろしければ今日は、マクシミリアンお姉さまや私達と昼食をご一緒しませんか? 私、当家のシェフに腕を振るわせて作らせた特製ローストビーフを持参いたしましたの。是非ユキ様にも味わっていただきたくて」
ローストビーフ!
私の中での「高級そうな料理ベスト10」に必ずランクインしているに違いないブルジョワ料理!
一瞬心惹かれるが、お昼はいつもジェイド君に魔法を教わる約束をしている。
「ごめんなさい。先約があるので……」
立ち去ろうとした私の前方に、なおも『妹ちゃん』は回り込む。
「それなら、少しだけ。少しだけでもご一緒にいかがです?」
「ううん。遠慮しておくよ。二股はずるい事だもんね」
すると『妹ちゃん』たちの顔が真っ赤に染まった。さすがに自分たちの発言は覚えていたんみたいだ。
と、そこへ
「あなた達、そこで何をしているの?」
凛とした声が飛んできた。
ミリアンちゃんだ。天の助け! ミリアンちゃん力天使!
「そういう事はやめなさいって言ったでしょう? ユキさんだってお約束があるんだから」
「そ、それじゃあせめて『ユキお姉さま』って呼んでも……?」
「だからおやめなさい……!」
ミリアンちゃんが『妹ちゃん』たちを食い止めていてくれる間に、私はこっそりと第三図書準備室へと向かった。
目的の部屋につくと、すでに中にいたジェイド君がはっとした表情で立ち上がる。
「ユキさん。あなたは異国のプリンセスだと仰ってましたね。あれは本当なんですか? それならば、今までのご無礼をお許し――」
「あ、いや、そ、そんな事良いの。どうせ地図にも載ってないような小さな国だし。気にしないで今まで通りに接して」
「ですが……」
渋るジェイド君。真面目だ。真面目すぎるよ。まずいな。面倒なことになってしまった。
でも、ああ言わなければあの場を切り抜けられないと思ったのだ。
「プリンセスだって言っても、お弁当は毎日サンドイッチだし、住んでる場所も集合住宅だし、食堂で働いてたことだってあるんだよ。つまり、その程度のプリンセス。すごいわけじゃ無いんだから」
「プリンセスがそんな事を……!?」
むしろすごいのはヴィンセントさんで、私は虎の威を借る狐。
「わかった?」
「……は、はあ……」
むむむ。まだちょっと硬いな。なんだかジェイド君との間に、見えない壁ができてしまったみたいだ。ちょっと悲しい……。
プリンセスとはかくも辛い存在なのか。
「と、ともかく、今日も魔法教えてね」
「は、はい……」
◇◇◇◇◇
と、そんな事もありながら、1ヶ月がたった。
今まで通り接しているうちにジェイド君との間にあった見えない壁も、いつの間にか消滅し、私は順調に学園ライフを楽しんでいた。
相変わらず「家臣にしてくれ」だとか「話を聞かせてほしい」だとか言ってくる人達もいたが、そこはなんとかスルーしつつ。
だって下手に作り話をしてボロが出たら困るし……。
そんな事もありつつ日々を過ごしていた時、1ヶ月ぶりに戻ってきたのだ。あの男が。
そう。悪魔的存在のアトレーユ王子が。
が、翌日彼は登校してこなかった。
悪魔的存在がいない! やっと私の学園ライフに平穏が戻ってきたのだ。
と、思ったら……
「ユキちゃんだよね? よかったら君の国の話を聞かせてもらえないかなあ。今度是非一緒に食事でもしながらさあ」
だとかチャラい見た目の男子に話しかけられたり、
「ユキ様! どうぞ自分をあなた様の家臣にしてくださいませ! これでも自分は魔法だけでなく剣の鍛錬も積んでおります! 必ずやあなた様のお役に立ってみせましょう!」
だとか体格の良い男子に土下座されたり。
一体何なのかと思いつつも
「間に合ってますので」
と、避けてきたのだが……。
「それはユキさんがプリンセスだからですわ」
ミリアンちゃんの答えに私は首を傾げる。プリンセスだから?
そんな私の様子を察して、ミリアンちゃんが話を続ける。
「たとえ他国といえどもプリンセスはプリンセス。相当な権力と財力を有しているに違いない。そう睨んだ者たちが、ユキさんとお近づきになろうとしているのです」
「えっ? 私がプリンセスだって事、そんなに広まってるの?」
プリンセスなのはヴィンセントさんのおかげなんだけど……。
「それはもう。学校中に知れ渡ってますわよ。私の『妹』たちの中でも、ユキさんを紹介して欲しいという者が何名も。まったく浅ましい事ですわ。ユキさんがプリンセスだと知った途端、手のひらを反すなんて。あ、その子達にはちゃんと注意しておきましたから安心なさって」
なにそれこわい。権力とは人をそんなに変えてしまうものなのか。まあ、私も王様の前とかだったら平常心じゃいられないだろうけど……。
そんな中、今まで通り接してくれるミリアンちゃんは癒しだなあ……。
◇◇◇◇◇
そして午前の授業が終わり、お昼休みになった。
さて、今日もジェイド君に魔法を教えて貰いに――
「ユキ様!」
「はい?」
なんだなんだ。と声のした方を見てみれば、そこにはミリアンちゃんの『妹ちゃん』たちが。
「あの、よろしければ今日は、マクシミリアンお姉さまや私達と昼食をご一緒しませんか? 私、当家のシェフに腕を振るわせて作らせた特製ローストビーフを持参いたしましたの。是非ユキ様にも味わっていただきたくて」
ローストビーフ!
私の中での「高級そうな料理ベスト10」に必ずランクインしているに違いないブルジョワ料理!
一瞬心惹かれるが、お昼はいつもジェイド君に魔法を教わる約束をしている。
「ごめんなさい。先約があるので……」
立ち去ろうとした私の前方に、なおも『妹ちゃん』は回り込む。
「それなら、少しだけ。少しだけでもご一緒にいかがです?」
「ううん。遠慮しておくよ。二股はずるい事だもんね」
すると『妹ちゃん』たちの顔が真っ赤に染まった。さすがに自分たちの発言は覚えていたんみたいだ。
と、そこへ
「あなた達、そこで何をしているの?」
凛とした声が飛んできた。
ミリアンちゃんだ。天の助け! ミリアンちゃん力天使!
「そういう事はやめなさいって言ったでしょう? ユキさんだってお約束があるんだから」
「そ、それじゃあせめて『ユキお姉さま』って呼んでも……?」
「だからおやめなさい……!」
ミリアンちゃんが『妹ちゃん』たちを食い止めていてくれる間に、私はこっそりと第三図書準備室へと向かった。
目的の部屋につくと、すでに中にいたジェイド君がはっとした表情で立ち上がる。
「ユキさん。あなたは異国のプリンセスだと仰ってましたね。あれは本当なんですか? それならば、今までのご無礼をお許し――」
「あ、いや、そ、そんな事良いの。どうせ地図にも載ってないような小さな国だし。気にしないで今まで通りに接して」
「ですが……」
渋るジェイド君。真面目だ。真面目すぎるよ。まずいな。面倒なことになってしまった。
でも、ああ言わなければあの場を切り抜けられないと思ったのだ。
「プリンセスだって言っても、お弁当は毎日サンドイッチだし、住んでる場所も集合住宅だし、食堂で働いてたことだってあるんだよ。つまり、その程度のプリンセス。すごいわけじゃ無いんだから」
「プリンセスがそんな事を……!?」
むしろすごいのはヴィンセントさんで、私は虎の威を借る狐。
「わかった?」
「……は、はあ……」
むむむ。まだちょっと硬いな。なんだかジェイド君との間に、見えない壁ができてしまったみたいだ。ちょっと悲しい……。
プリンセスとはかくも辛い存在なのか。
「と、ともかく、今日も魔法教えてね」
「は、はい……」
◇◇◇◇◇
と、そんな事もありながら、1ヶ月がたった。
今まで通り接しているうちにジェイド君との間にあった見えない壁も、いつの間にか消滅し、私は順調に学園ライフを楽しんでいた。
相変わらず「家臣にしてくれ」だとか「話を聞かせてほしい」だとか言ってくる人達もいたが、そこはなんとかスルーしつつ。
だって下手に作り話をしてボロが出たら困るし……。
そんな事もありつつ日々を過ごしていた時、1ヶ月ぶりに戻ってきたのだ。あの男が。
そう。悪魔的存在のアトレーユ王子が。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
おばさんは、ひっそり暮らしたい
波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜
京
恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。
右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。
そんな乙女ゲームのようなお話。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ
さくら
恋愛
会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。
ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。
けれど、測定された“能力値”は最低。
「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。
そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。
優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。
彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。
人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。
やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。
不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。
追放された薬師は、辺境の地で騎士団長に愛でられる
湊一桜
恋愛
王宮薬師のアンは、国王に毒を盛った罪を着せられて王宮を追放された。幼少期に両親を亡くして王宮に引き取られたアンは、頼れる兄弟や親戚もいなかった。
森を彷徨って数日、倒れている男性を見つける。男性は高熱と怪我で、意識が朦朧としていた。
オオカミの襲撃にも遭いながら、必死で男性を看病すること二日後、とうとう男性が目を覚ました。ジョーという名のこの男性はとても強く、軽々とオオカミを撃退した。そんなジョーの姿に、不覚にもときめいてしまうアン。
行くあてもないアンは、ジョーと彼の故郷オストワル辺境伯領を目指すことになった。
そして辿り着いたオストワル辺境伯領で待っていたのは、ジョーとの甘い甘い時間だった。
※『小説家になろう』様、『ベリーズカフェ』様でも公開中です。
そのご寵愛、理由が分かりません
秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。
幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに——
「君との婚約はなかったことに」
卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り!
え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー!
領地に帰ってスローライフしよう!
そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて——
「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」
……は???
お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!?
刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり——
気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。
でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……?
夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー!
理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。
※毎朝6時、夕方18時更新!
※他のサイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる