異世界で目覚めたら猫耳としっぽが生えてたんですけど

金時るるの

文字の大きさ
102 / 104
学園入学編

卒業

しおりを挟む

「申し訳ありません。夫が不快感を示すもので、男性とのダンスはお断りしております」

 何度目かのアトレーユ王子からのパートナーの誘い。
 私は堂々とお断りしてみせる。しかもヴィンセントさんはアトレーユ王子の兄でもある。強引な方法も取れないだろうに違いない。

 そんな私の推測が当たったのか、アトレーユ王子は悔しそうに去って行く。
 くくく、完全勝利だ。さらばアトレーユ王子。



 そんなこんなで、あっという間に1ヶ月が過ぎ、卒業式がやってきた。

 大講堂での学院長の長いスピーチ。これはどこの世界も変わらないらしい。
 周りからはすすり泣きの声などが聞こえるが、半年もこの学校で過ごしていない私には、正直特に感慨深い思いもない。
 感謝することと言えば、カレールーを錬成できたことくらいだろうか。
 むしろそれなら、初日から私を助けてくれたミリアンちゃんや、魔法を教えてくれたジェイド君に感謝の意を捧げたい。



 私にとってはある意味退屈であった卒業式を終えて、大講堂を出る。
 すると、外で待機していたであろう下級生たちが押し寄せてきた。ミリアンちゃんなんて、大勢の「妹ちゃん」たちに囲まれて、プレゼント攻撃を受けている。うーん、さすがだ。

「ユキさん」

 名前を呼ばれ振り返ると、ジェイド君がいた。

「ご卒業おめでとうございます。よろしければこれを受け取っていただきたいのですが」

 そう言って差し出してきたのは、白い百合の花束。

「いいの?」
「もちろん。不快でなければ」
「不快だなんて事ないよ! とっても嬉しい! 綺麗な花……」

 私はその中から一本の花を手折ると、ジェイド君の胸ポケットに差し入れる。

「うん、ジェイド君もその花似合ってる」
「……なんだか気恥ずかしいですね」

 顔を見合わせて笑い合う。

「ジェイド君。魔法を教えてくれてほんとにありがとう。ジェイド君がいなかったら、私はとっくに落ちこぼれてたかも……」
「何をいうんですか。ユキさんの才能と努力の賜物ですよ」

 ジェイド君、なんだか初めて会った時よりも、柔らかい雰囲気になったように思える。

「よかったら、『銀のうさぎ亭二号店』に、ご飯食べにきてね。私もそこで働く予定だから」
「ええ、ぜひ。あの「カレーライス」という料理の味は格別でしたからね」
「ほんと? 約束だよ」

 片手を前に出すと、ジェイド君はそれをそっと握り返してくれた。




 一時的な別れの挨拶が終わり、各々一度馬車で家に帰ってゆく。そこで改めて着飾ってから、再度学校に併設されたダンス用ホールに戻ってくるらしい。なんとも手間のかかることだ。

 私はひとり学校の更衣室で、ミリアンちゃんに借りたドレスに着替える。
 姿見の前で髪を整えれば完了だ。なんとも簡単。
 それにしても、どうせならこの学校でヴィンセントさんと踊りたかったな。こんなドレス着る機会なんて滅多にないだろうし。
 なんて悶々と考えていたら、いつのまにかホールへの集合時間になっていた。危ない。


 ホールへ行くと、既にダンスは始まっていた。色とりどりの鮮やかなドレスの花が、そこかしこで咲いている。
 でも、まあ、私は壁際なんですけどね。

 大人しく隅っこで、用意されていた料理でも食べようかと思った時、聞き覚えのある声がした。

「やあ、プリンセス」

 うわ、アトレーユ王子だ。見たところパートナーもいない。着飾ったその姿は、まさにザ・王子様! って感じだ。

「改めて申し込みます。僕と踊っていただけませんか?」
「だからそれは――」

 言いかけて気づいた。ホール中の目が私たちに向いている。
 私がアトレーユ王子の誘いを受けるかどうか確かめようとしているのだ。

 うわあ、気まずい。

「受けてもらえないかなあ? ここで断ったら王族の名に傷がついちゃうかも知れなくてさ。僕はとんだ赤っ恥だよ」
「そんなこと言われましても、無理なものは無理です」
「ね、お願いだからさあ。他にパートナーもいないんでしょ? だったらいいじゃない」

 しつこいな。もう……

「お待ちください」

 と、そこへ凛とした声が響いた。
 見れば、そこにはタキシードで正装した少年。栗色のまっすぐな長い髪を、うなじのあたりで束ねている。

「お嬢さん。よろしければ私と踊っていただけませんか?」

 栗色の髪の人物は私に向かい手を差し出す。

「なんだお前。僕が先に申し込んだんだぞ。邪魔するな」
「それはユキ様が決めること。どちらが先かだなんて関係ないでしょう?」

 その反応で、アトレーユ王子は黙り込む。

「僕と踊ってくれるよね?」
「いいえ、私と踊ってください」

 二人が私に向かい手を差し出す。
 ヴィンセントさんは男の子と踊るのはダメだって言ってたけど……。
 私は暫く考えたのちに、栗色の髪の人物の手を取った。
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ 

さくら
恋愛
 会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。  ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。  けれど、測定された“能力値”は最低。  「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。  そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。  優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。  彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。  人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。  やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。  不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。

追放された薬師は、辺境の地で騎士団長に愛でられる

湊一桜
恋愛
 王宮薬師のアンは、国王に毒を盛った罪を着せられて王宮を追放された。幼少期に両親を亡くして王宮に引き取られたアンは、頼れる兄弟や親戚もいなかった。  森を彷徨って数日、倒れている男性を見つける。男性は高熱と怪我で、意識が朦朧としていた。  オオカミの襲撃にも遭いながら、必死で男性を看病すること二日後、とうとう男性が目を覚ました。ジョーという名のこの男性はとても強く、軽々とオオカミを撃退した。そんなジョーの姿に、不覚にもときめいてしまうアン。  行くあてもないアンは、ジョーと彼の故郷オストワル辺境伯領を目指すことになった。  そして辿り着いたオストワル辺境伯領で待っていたのは、ジョーとの甘い甘い時間だった。 ※『小説家になろう』様、『ベリーズカフェ』様でも公開中です。

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

処理中です...