31文字のうた

金時るるの

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あれ?なんか 目の前にいる女子たちがさっきと雰囲気違うんですが

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 そしてついに訪れた放課後。私は桜坂さん含む六人の女子を引き連れて、化学室へと足を踏み入れたのだった。
 事前のメールのせいもあってか、予想通り小田桐先輩は、大勢の来訪者にも関わらず笑顔で出迎えてくれる。

「森夜さん、その子達が例の……?」
「そうなんです。部活見学希望者なんですよ。同じクラスの――」

 言いかけた私を押しのけて、桜坂さんが前に出る。な、なにごと?

「初めまして。私、桜坂 ことみと言います。先輩方の部活動に興味があって、ぜひ見学させて欲しいなあって思って。あの、ご迷惑でした?」

 いわゆる萌え袖というやつで口元に拳を当てて上目遣いをするその姿は、さすが学年一のおしゃれリア充女子。仕草までも可愛らしく神がかっている。勉強になるなあ。いつか私も真似してみたい。

「いいや。そういうことなら大歓迎だよ。さあ、こっちのテーブルにどうぞ。詳しい話をしよう」

 人当たりのいい小田桐先輩とは対照的に、なぜか日比木先輩は椅子から立ち上がると、ひとり離れたところのテーブルに移動してしまった。面倒くさそうに窓の外を眺めながら頬杖をついて。
 私は焦って後を追う。

「日比木先輩、せっかくの見学者の前なんだから愛想よくしてください。そんなんじゃ女の子達が怖がって逃げちゃいますよ。私の時みたいに!」
「うっせえな。今日は小田桐がいるし、あいつに任せときゃいいんだよ。部長だし上手くやるだろ。それに――」

 日比木先輩は何か言い掛けたが、女子の集団をちらりと見やると何故か口を噤んだ。


「日比木の事は気にしないで。それよりも、せっかくだから、みんな今ここで短歌を作ってみない? 日頃思ってる事とか、今日あった出来事とか、なんでもいいからさ。もちろん嘘でも、妄想でも」

 小田桐先輩は、私を勧誘した時と同じような言葉で女の子達に短冊を差し出す。

「え~、でも、短歌ってなんか難しそうでよくわからないし……あ、それよりも先輩の作った短歌見てみたいなあ。駄目ですか?」

 女の子のひとりがせがむと、小田桐先輩は考えるそぶり見せる。

「確かに、見本があったほうが作りやすいかもしれないな。森夜さん、君が今までに作った短歌も参考として彼女達に見せても構わないかな?」

 わ、私の短歌を!?
 それはちょっと恥ずかしい。けれど、今まで先輩達には散々見せているし、部員獲得のためにもここはひと肌脱ぐべきか……
 それをきっかけに仲良くなれるかもしれないし。

「わかりました。どうぞご覧になってください」

 思い切って愛用のペパーミントグリーンのバインダーを差し出すが、女の子達の関心は小田桐先輩のバインダーに集中している。

「素敵ですね」
「かっこいい」

 といった感想に混じって

「先輩って、休みの日は何して過ごしてるんですか?」

 などという、もはや短歌に関係なさそうな質問まで投げかけたり。
 女の子達の反応に

「僕の休日の話なんて、聞いてもつまらないから」

 などとかわしながら答えていた小田桐先輩だったが、

「僕の短歌だけじゃなく、森夜さんの作った短歌も見てみてよ。同じ女の子の作った短歌のほうが、君達も共感できる部分も多いんじゃないかな?」

 と言い出した。
 女の子達は

「あー……そうですね」

 と、私のバインダーにもその手を伸ばす。何故かしぶしぶといった様子で。
 ところが、表紙をめくって私の短歌を目にした途端、桜坂さん達が顔を見合わせた。それから何故か私の顔をまじまじと見つめる。と、肩を震わせてくすくすと笑い始めた。

「え? な、何? 私の短歌、そんなにおかしかった……?」

 確かに日比木先輩にはアホっぽいと言われた事もあるけれど、そんなに笑顔を誘う内容の短歌ばっかりだったっけ?

「だって、ねえ」

 女の子達は再び顔を寄せ合うと、私の短歌を読み上げ始めた。

「【廻る星 回転木馬従えて もう少しだけ姫でいさせて(*^-^*)】」
「姫。姫だってさ。まさか森夜さんが姫? 馬の絵まで描いてある。これってメリーゴーランド?」
「【今日わざと踵ない靴えらんだの  背の低い子が好みなんでしょ?】」
「これって完全に相手がいる前提だよね。森夜さんて彼氏とかいるの?」
「え? い、いないけど……」
「ええー いないのにこんな事書いちゃうの? 妄想力すごい。これはもう妄想族といっても過言じゃないよねえ。おまけにこの顔文字。うける」

 次々と繰り出される否定的な言葉。私の勘違いでなければ、馬鹿にしたようなからかいを含んだような。
 それを聞いているといたたまれない気持ちになってくる。確かに私は初心者だけれど、それでも一生懸命考えたんだけどな……やっぱり他人から見ればアホっぽいのかな……
 なんだか気まずくなってきて、こみ上げる何かを堪えるように、俯いて両手をぎゅっと握りしめる。
 嫌だな。もう聞きたくない。ここにいたくない。

「いや、あの、さっきも言ったけど、短歌は自由に作って構わないものだから。僕の作った短歌にだって、荒唐無稽なものは沢山あるし」

 小田桐先輩がフォローしてくれるが、女の子達はいまだ私の短歌を指差したりして盛り上がっている。

「だって、森夜さんのイメージと全然違うから、ねえ。この『てへぺろりんこ』とか最高」

 女の子達がくすくすと意味ありげに頷きあっていると

「……おい、お前ら」

 部屋の隅にいた日比木先輩が突然立ち上がった。
 それに素早く反応する女の子たち。

「あ、日比木先輩。先輩の作った短歌も知りたいなあ。見せてくださいよお」
「わたしも見たーい」

 女の子達のお願いを無視するように日比木先輩は続ける。

「さっき小田桐も言ってたろ。嘘でも妄想でもなんでもいいって。森夜はそれに素直に従って短歌を作ってるだけなのに、何がそんなにおかしいんだよ。好き勝手に短歌を作ったら悪いのかよ? イメージと全然違うからなんだってんだ? お前らは推理小説家がみんな殺人鬼か探偵しかいないとでも思ってんのか?」

 言いながら近づいてきた先輩が、私達の集まるテーブルに一枚の短冊をひらりと落とす。

「そんなに見たいなら見せてやるよ。俺の短歌」


【毎年の花火の夜に真っ青な浴衣の君にすいかの赤さ】


「俺だって浴衣の女子と花火見に行ったり、一緒にスイカ食った経験なんて今まで一度もねえよ。それでもこんな短歌作っちまうんだぜ。どうだ、最高におかしいだろ? とんでもない妄想族だろ? ほら、笑えよ。森夜の短歌を笑ったみたいに」

 その静かだが異様な迫力に、部室が一瞬で静まり返った。

「だいたい『素敵ですね』とか、『かっこいい』なんて薄っぺらな感想しか出てこねえ上に、短歌部に来ておきながら短歌を作ろうともしない奴が、真面目に短歌作りに取り組んでる森夜のことをどうこう言える立場かよ。馬鹿じゃねえの」

 日比木先輩が苛立ったように足元の椅子を蹴ると、テーブルにぶつかって派手な音を立てる。
 女の子達の喉から怯えたように引きつった声が漏れた。私も思わず首をすくめる。

「落ち着け日比木」

 小田桐先輩が日比木先輩を押しとどめると、女の子たちのほうを振り返る。なんでもない事のようにひっくり返った椅子を直しながら。

「ごめん、今日はもう引き取ってもらえないかな。日比木の機嫌が悪いみたいだし。普段はこんな奴じゃないんだけどね。これでも正義感の強い奴だから。よかったらまた今度日を改めて見学に来てよ。ちゃんと短歌を作る気になったらさ」

 青ざめた顔で固まっていた女の子達は、小田桐先輩の言葉に救われたようにお互いの顔を見合わせると、逃げるように部室からばたばたと出ていった。




「ああ~……やっちまった……あれじゃ完全に俺がヤバい奴じゃねえか……」

 テーブルに突っ伏しながら日比木先輩がため息を漏らす。さすがにさっきの行為について反省しているみたいだ。
 と、次の瞬間かばりと身体を起こすと私を見据える。

「でも、あいつらもありえないだろ。すげームカつく! おい森夜、あいつらの戯言なんか気にすんなよ。お前は今まで通り自由に短歌を作ってりゃいいんだ。わかったか!?」

 どんっ、とテーブルを叩きながら憤る日比木先輩に、私は

「は、はい……」

 と、答えることしかできなかった。
 乱れた椅子は綺麗に並べなおされ、すっかり元通りになっていたが、私は先ほどの日比木先輩の迫力に、まだ少し胸がどきどきしている。こ、怖かった……

「日比木、さすがにやりすぎだぞ」

 小田桐先輩がたしなめるが、本気で怒っているような様子でもない。

「確かに、僕も気持ちはわかるけどさ。時々いるんだよな。冷やかしで見学に来る人。短歌に興味なさそうな割に、何故か部活動に関係ない僕らのプライベートに関する事ばっかり聞きだそうとする女子とか。さっきの子達なんてまさにそう。おまけに森夜さんに対するあの態度。作品と作り手は別物だって考えた事も無いのかな? できれば多くの人に短歌を楽しんでもらいたいけど、流石にあれはちょっとね……」

 少々うんざりした様子でため息を漏らす。
 そんな女の子が多数存在するのは、やっぱりこの先輩二人とお近づきになりたいがためなのかな。桜坂さん達もそうだったのかな……もしかして、私はそれに利用されたの?

「でも、森夜さんは違った」
「え? 私が何か……?」
「ちゃんと自分の言葉で僕らの短歌に感想をくれて、自分なりに一生懸命短歌も作ってくれた。嬉しかったなあ。だから君に入部して貰いたかったんだよ。な、日比木?」

 同意を求められた日比木先輩は、頬杖をついて顔を背ける。何も言わないまま。
 そんな日比木先輩の様子に小田桐先輩は苦笑する。

「だから余計にさっきの子達が許せなくて、衝動的にあんな事しちゃったんだよ。僕らの短歌を面白いって言ってくれて、一緒に短歌を作ってくれる、いわば仲間である君が傷つくのを見てられなくて。そういうわけで森夜さん、日比木の事、あんまり怖がらないで貰えるかな?」
「おい小田桐、余計な事言うんじゃねえよ」

 小田桐先輩に噛みつきながらも、日比木先輩は否定しなかった。
 それじゃあ、さっきの日比木先輩のあの行動は私のため? 私が嘲笑されてると感じて、桜坂さん達にあんなことを?
 確かに私はあの時みじめな思いをしていた。作った短歌を否定されて馬鹿にされて。あの場から逃げ出したいとも思っていた。それを見かねた先輩が助けてくれたのだ。
 いつの間にか先輩に対する先ほどまでの恐怖心はなくなっていた。ちょっとやり方は乱暴だったけれど、自分のために誰かが怒ってくれたという事実が嬉しい。私には今までそんな友達もいなかったから。

「日比木先輩、ありがとうございます」
「……別に。俺はあいつらにムカついただけだし。ていうかさ森夜、お前も言われっぱなしのままにしとくなよ。ああいうのはほっとくとどんどん調子に乗るんだからな。自分の意見をはっきり言え」
「……ええと、善処します」
「大体、お前がそんなだからあいつらに舐められてんじゃねえの? ムカついたら思いっきり暴れていいんだぜ。机ひっくり返したり、椅子投げ飛ばしたり――」
「日比木、そんな事したら余計引かれるから。さっきの反省はなんだったんだよ。舌の根も乾かないうちに暴力行為を推奨するなよ。ともかく、さっきの事は早く忘れてさ、あらためて部活動を始めようじゃないか。森夜さん、今日も面白い短歌期待してるよ」

 小田桐先輩の笑顔に、その場にいつもの空気が戻ったような気がした。
 私達はぽつりぽつりとたわいのない雑談を交わしつつ、各々短冊を手に取った。
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