眠神/ネムガミ 〜 特殊能力の発動要件は「眠ること」。ひたすら睡眠薬をあおって敵を撃破し、大好きな女の子たちを護り抜け!

翔龍LOVER

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本物の夢の時間

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 全員揃ったので乾杯をし、幸福と緊張が入り混じった大切な時間がスタートする。
 俺は今、この世で一番の幸せ者だという気分でハイボールを飲んでいた。

 どちらかというと俺はまず生中、続いて日本酒なのだが、誰にも言えない手段によって得た極秘情報により、さやがハイボール好きなのは知っていたから、俺は完全にハイボール好きを演じることにした。

「えっ、ネムもハイボール好きぃ? わたしと一緒だぁ」

 トロッとした色っぽい声で言うさやは上機嫌。最高に可愛い彼女を見ながら飲む酒は格別だ。俺も自然と顔の筋肉が緩む。
 ふと横を見ると、ニコニコしているが、何か貼り付けたような笑顔をしたミーが俺へ、

「あれぇ? なんかさっきから、やけに親しげじゃない? したの名前で呼んじゃって」

 すると、同じくニコニコしたさやが、ミーに、

「うん。苗字で呼び合うなんてちょっと他人行儀だから」
「へー」
「でしょ?」
「だよねー」
「ふふふ」
「ふふふふふ」

 なぜ殺気を感じるのだろうか。

 一つも特筆すべきところがない日常会話……のはずが。

 真正面から向かい合い、鏡で映したかのように二人とも両肘をテーブルの上で立てて手を組み、その上にアゴを乗せたまま微笑んで言う。
 言葉の一つ一つに秘められた針の存在を、謎に研ぎ澄まされた第六感で感じ取る俺は、今度は違う意味で冷や汗が首筋を伝った。

 そんな空気感とはまるで無関係と言わんばかりの田中さん。彼女はソフトドリンクを頼んでいた。俺は少しばかり息継ぎをしたくなって、田中さんに話しかける。

「お酒、飲めないの?」
「はい」
「じゃあ、あんまり飲み会なんて行かないのかな」
「そんなことないですよ。私、さやと一緒によく行くから」
「ああ、そうなんだ」
「やだー。あたしそんないっぱい行ってないよん。お酒弱いしぃ」

 少しだけ声が低くなったさやが田中さんの肩をニコニコしたままバシッと叩く。
 飛び上がった田中さんは、肩をすくめてさやのことを見た。

「でも、まゆはすぐに帰らないとなんだぁ。一時間くらいしか居れないんだ」
「そうなんだ。何か用事が?」

 俺が尋ねると、

「うん。弟が入院してて……。だから、行ってあげないといけなくて」

 そう言った田中さんは、うつむき加減に目をそらす。
 俺は、悪いことを聞いちゃったかな、と気になってしまった。

      ◾️ ◾️ ◾️ 

 きっちり一時間経った時点で田中さんは宣言通り帰宅。

 中原は、その外観に似合わず酒は弱くて、まあ全く飲めないわけではないが生中一杯目で顔が真っ赤になっていた。

 ミーはビール好きでもう生中八杯目。
 さやも、ハイボール八杯目。

 コイツら、なんか酒強くないか?
 
「新堂さん、まあまあ飲むよねぇ」
「そういうさやも、まだいけそうやん」

 ニコニコしながらも闘争本能に火がついたような二人の目。
 なんで張り合ってんの?
 と俺は激しさを増していく二人の戦いをヒヤヒヤしながら眺める。

 目で見えない闘志を火花のように散らせた戦争が勃発ぼっぱつする中、さほど酒が強くない俺は早くも観戦に回り。
 次の店にハシゴして、二人のアマゾネスはそのまま戦い続け、どんどんフラフラになり……。
 
「まあ、あらしがかえれらくなったらぁ、ネムがおくってくれるからぁ……」

 ろれつの怪しいさやが、ぐでんぐでんのまま首をかしげ、というか腰からかしげて俺を見る。
 するとミーは、

「それやったらぁ、あらしも。ネムはいえ、ちかいもんれぇ……」
「あり? とおいって、さっき……」
「気のせいです」

 俺は、これを機にしっかり修正しておいた。


 俺以外、誰一人としてまともに歩ける者はおらず。
 歩けたとしてもこの時間では電車がないので、いずれにしてもタクシーを呼ぶ。
 中原は、もう完全にムニャムニャ言っていた。
 
「ねえ。つづきは、ネムのいえで、のもうよう……」

 できればその言葉、ミーに聞こえないように言って欲しかったが、完全に手遅れだった。

「ああーっ!? そんなら、あらしもやよう……」

 何言ってんだこいつ、と思うもすでに人間の理性を持ち合わせていない女性二人。
 ミーがこうなるのはもちろん初めから知っていたが、どうやらさやも同種の人間のようであった。この子、最近痛い目に遭ったばかりなのに、本当、酒の力とは怖いものだ。

 さやを自宅に連れ込むなんてヨダレが出るほど望んだシチュエーションではあったが、こんな状態で何かできそうにも思えず、俺は二人に帰ることを提案する。と……

「「いやら!」」

 酔っているとは思えないほどキッチリ声を揃えて返される。

「いや、そんなこと言ったって……」
「「いやら」」 
 
 目をぱっちり開けて睨んでくる二人。
 俺はこんな状態の女性二人を説得する技量など持ち合わせておらず……
 つまり、このまま俺んちに向かうことになってしまう。
 
 しょうがねえな……ったく、飲んだくれ二人組め。


 中原のことは金だけ渡してタクシーの運ちゃんに丸投げし、俺は二人とともに自宅へ向かった。
 マンションの三階にある俺の部屋まで二人を支えて連れてくるのに、想定外に体力を消耗する。飲む量を控えていたとはいえ、俺だってそこそこは飲んでいるのだ。

 フラフラしながらも何とか玄関へ到着する。
 俺はさやを優しくベッドに寝かせ、ミーは床に転がしておいた。
 
 うーん。この状況でシャワーを浴びるわけにもいかないか。

 ということで、冷蔵庫を開けてペットボトルのお茶で喉を潤した後、一応は掃除してある程度のスペースは確保できる状態になった部屋の中、俺はそこら辺の床に寝っ転がって電気を消した。
  

 暗くした部屋の中に、カーテンの隙間から差し込む月明かりが入る。

 1Kの狭い部屋だから、俺の他に二人もいれば、その動向は容易たやすくわかる。
 女性二人はそれぞれ寝入っているのか、スー、スー、という息の音が聞こえていた。

 酒が入っているはずなのに、やはり眠れない。今日はもうヒュプノスを飲むわけにもいかず、なんとか眠ろうと躍起やっきになる。
 俺は、身体を起こしてベッドをのぞき、さやを視界に入れた。

 外から照らされる一筋の明かりが、芸術的な造形美を映し出す。
 どストライクの可愛い顔と、赤くほてった大きい胸の谷間。

 抵抗しがたいうずきが、身体を勝手に動かした。知らず知らずのうちにベッドに手をつき、俺はさやを上から眺める。

 美人は三日で飽きると言うが、きっとそれは嘘だと思う。

 髪型も。
 俺を見つめる大きくて魅力的な目も。
 柔らかそうでキメ細やかな肌も。
 全身くまなく見渡したところで一つの欠点すら見つけられないスタイルも。
 五秒も近くにいると確実に理性を吹っ飛ばされそうないい匂いも。

 三日くらいで飽きるようには到底思えない、暴力的なほどに魅力的なカラダ。


 と……さやがパチっと目を開ける。

 
 俺は飛び上がった。比喩ひゆではなく、本当に飛び上がったのだった。
 さやは、そんな俺に視線を固定して動かさない。
 俺も、目を離せなかった。

 どういう心境なんだろう?
 いや、心境もクソも、酔っているんだから何も考えちゃいないはず。

 じっと見つめ合っていると、さやが、優しさ以外の何かが含まれた柔らかな笑みを浮かべる。

「おいで」

 両腕を俺のほうへ広げて、抱きしめろと無言で命じる、さや。


 え……。

 今日? なのか? 

 ミーが、そこで寝てるのに?
 
 違う違う違う、何考えてんだ。さやも別にそこまでしようなんて、思っていないはず。でも……

 もう、わけわかんない……
  

 静寂に沈む暗がりの中、ただ一つうるさく響く鼓動。
 据え膳食わぬは……とはまさにこのことだろう。

 だが、そんなことなど特に心配する必要もなく、俺はもう「行く」以外に一パーセントの選択肢も思い浮かべてはいなかった。

 さらば俺の童貞。
 二四年間、片時も離れることなく共に過ごした戦友よ。
 事前通告もなくお前に死を与えることになるとは、こんなに心苦しいことはない。
 だが、祝福しておくれ。俺は、ようやく一人前……「本物のおとこ」となるのだ!

 ゆっくりと、身体をさやの上に落としていく。

 すると、下半身に、誰かが抱きつき……

「なぁにやってんらぁ……」
「ミっ……!」

 バランスを崩した俺は、望んだのと異なる形でまともにさやの上へ落ちる。

「おえっ」
 
 さやは俺のベッドで嘔吐した。

 なんと、それに触発されるようにミーも俺のベッドでもらいゲロする。女たちは二人して、食物と体液の混ざった吐物を俺の部屋で撒き散らす。

「えええぇ…………」

 風船のごとく膨らみに膨らんだ期待がゲロという針で突かれてぱあんと破裂し、思いもよらぬ結末を迎えたことに、こういう一言しか吐き出せなかった俺。

 一通り吐いたあと多少スッキリしたのか、二人はまだ酔いでロレツの回らない口を一生懸命に動かして俺へ謝る。

 仕方がないので酔っ払いを落ち着けて飲み水を与え、部屋を掃除してから寝ることとなったが、これもまた二人して「サービスしてあげる」と謎の言葉を残し、二人は俺を挟んで密着したままベッドの上で川の字に寝始める。

 ……なんだこれ。

 と思いながらも、俺は二人の頭の後ろにそれぞれ手を回し、「女の子に腕枕をする」という一つのささやかな夢を叶えた。
 しかも二人同時だ。まあ、うち一人を女としてカウントするかどうかは今のところ保留するとしよう。

 そして、意外な重さに腕が痺れてすぐに音を上げ、腕枕を解除したあと、二人の間に作られた激せまの間隙かんげきでピタッと気をつけをしながら、俺は、睡眠薬を飲むこともできずに耐え続けることになった。
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