眠神/ネムガミ 〜 特殊能力の発動要件は「眠ること」。ひたすら睡眠薬をあおって敵を撃破し、大好きな女の子たちを護り抜け!

翔龍LOVER

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 リョウマの位置情報は、「神モード中」の俺でも取得できなかった。すなわち、これで奴がグリムリーパーであることが確定する。
 
 病院の監視カメラ映像は、どうやら「敵情報の秘匿」の範囲に入らないらしい。この病院の監視カメラに関しては、俺は「グリムリーパー」に照準を合わせて情報取得していない。あくまで、病院内の映像を、すべて取得しているだけなのだ。

「このまま、ここから出なかったら、いつまで見つからないでいられるかな」

 さやは、か細い声で言った。相当、消耗しているのだろう。
 当然だ。殺人鬼から、必死で逃げている最中なのだから。
 
 さやの声を聞きながらも監視カメラを注視していた俺は、リョウマの行き先を把握した。

「……奴は、雪人くんの部屋へ向かってる」
「え?」
「もし、奴が雪人くんを護ろうとしていなくて、しかも殺すことに躊躇ちゅうちょがないのだとすると……雪人くんを大事に思ってるさやをおびき寄せるには、人質として使うのが一番いいよね」
「……さっきまでお人好しだったのに、急にエグい想定し始めるの、ヤメテ」
「映ってるんだよ。監視カメラに、奴が。やっぱり、ミーと中原が着くのを待つべきだ。どちらかが囮になって奴を雪人くんから引き離し、十分な距離をとってからもう一人が奴を仕留め……」
「待って!」

 さやが、俺を制止する。

「あいつから、電話が」

 リョウマが、さやとゼウスの連絡先を交換していたのを思い出す。
 俺はノアとルナに、さやの通話を盗み聞くよう指示した。
 が、回答は、

「できない」

 グリムリーパーが行う通話。許可なく盗聴するのは、まあ、不可能だとは思ったが。
 仕方がないので、俺は黙って待っていた。どうせ、さやから聞けばいいのだし。
 
 さやは、電話を終えたようだった。
 
「さや。奴は、なんて?」
「…………」
「さや?」
「あいつからの警告を、そのまま伝えるね」
「……え?」
「今後、さやかがゼウスへログインすることを一切禁止する。破れば、雪人を殺す」
「…………」
「ネム。追いかけてこないで」
「助けに行く! 必ず、俺が奴を、」
「ダメ! 絶対に、ダメ! 雪人が殺されちゃう」
「さや」
「お願い」

 プツン、とゼウスの通信が途絶する。

「さや。……さやっ!!!」

 何度も呼んだ。
 やがて叫びを止め、無音になった俺の意識に、速くなった吐息と鼓動の音だけがこだました。


 今すぐに。
 すぐにでも、エレクトロ・マスターでリョウマの心臓を止めてやる。
 そうすれば、さやは奴のところへなんて行かなくていい。雪人くんは、人質になんてならなくていい!


 俺は、願いを込め始める。

「ネム! まだ早い。みんなが着くまで待つんだ!」
「そんなことやってる場合じゃない! このままじゃ、さやが──」
「すぐには殺されない。奴は、さやちゃんに執着してる。まだ猶予はある! 機を待つんだ、今はまだ──」
「すぐには殺されないだって?」


 ──何の保証があって言ってんだ、お前……


 胸の奥に疼く怒り。
 それは瞬間的に脳へと噴き上がり、思考は端に追いやられた。 

「ネム。落ち着け」
「……うるさい」
「ネム、」
「お前らに、わかるわけがない。機械のお前らに、大事なものが失われる気持ちが」
「…………」
「俺に文句だけ言ってりゃいい、お気楽なご身分だからなぁっ! いつもいつもクソ冷静な声で言いやがって、お前らだってミスってんだ、責任がないわけじゃねえ! お前らにとっては、さやはどうでもいいかもしれねえけど、……っ」

 止められなかった。
 二人は何も言わず、ただ黙って俺を見ていた。

 身体が震えて動かない。
 目のあたりが勝手にじわっとなって、俺のアバターの目から、何かが出たような感覚だ。

 ……わかってる。
 冷静にならなけりゃ、こいつらグリムリーパーには勝てないんだ。ずっとそうだった。だから……さやと雪人くんが生きるか死ぬか、今、まさに俺の判断にかかってるんだ。

 でも、ダメなんだ。居ても立ってもいられない。大事な命を敵の手中に収められ、それでも冷静でいるなんて俺にはできそうにないよ。
 
 もっと文句を言ってくれ。
 でないと、俺がミジメじゃねえか。
 みんな頑張ってんのに、
 肝心な時に、俺だけこんなふうに取り乱して、動くことすらできなくて、

 これじゃ、
 こんなにがんばってきても、
 俺、やっぱり、クズ

 
 ぎゅ

 
「…………?」

 意識の中に映る、一つのスクリーン。
 何が映っているか、一瞬わからなかった。
 すぐに視点が引いて、そこに映ってるのが俺だとわかる。
 スクリーンの中にいる俺は、眠ったまま、涙の筋を落としていた。

「大丈夫。大丈夫だよ、ネム」
「…………」
「ほら、見て。ミーちゃんが、もう着いた。たっちゃんも、すぐに着くよ。心強い仲間がいる」

 リオは、俺の顔を掴んで、また抱きしめる。

「でも、人質が二人もいるから、きっとキツイよ。だから、ネム、」

 それから、また、俺の顔を見て。

「君の出番だよ。助けるんだ。女の子が、好きな男に『追ってこないで』なんて、本気で言うと思ってんの?」

 現場に到着した仲間たちから電話が届く。
 俺たちの会話に割り込み、雷鳴のような声で叫ぶ、元気なミーの声。

「ネム! おら、着いたで! ボサっとすんな、はよ案内せんかいっ!」
「はあ、はあ、着っきましたぁ! 速すぎっすわミミさん。さあ、センパイ早く!」
「ああ……」

 そうだ。何を俺は……

「ノア。ルナ。ごめん。俺、」
「気にすんな。さあ、」

 ノアとルナは、ニヤッとしながら、紅に煌めく四つの瞳を光らせる。

「さやが捕まった。雪人くんと一緒に、絶対助けんぞ」
「あったりめーだ、何言ってんの」
「今さらっすねー」
「いっけーっ、ネムネムっ!」

 はは。なんか、なんとかなる気がしてきたわ。

 知らないうちに、こんなにいい仲間がいた。
 俺は、ガキどもと同じようにちょっとだけニヤッとして、それから、意識のスクリーンに集中した。
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