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クレア
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**クレア
ノアが信じられないくらい優しく彼女の手を取ったから、心の中がざわついた。慌てておばさんの方を見たら、おばさんも戸惑っている。
私の目の前でノアの関心を当然のように独占する彼女に、つい魔が差したのだ。
ほんの少しの出来心。
「おいっっっ!!」
突然ノアが怒鳴った。穏やかだった部屋の空気がビリビリと震える。どうしよう、ノアを怒らせてしまった。
嫌だ、違うの・・誤解しないで欲しい。
言い訳しようと頑張ったけど、ノアが私を見る目は冷たいままで、私は必死になっていた。
アリーさんの機嫌を損ねないように。ノアに私の事を告げ口されてしまわないように。笑顔だって浮かべた。愛想良く・・。
「よろしくね。私は少し、外の空気を吸ってくるわ。」
「え・・・!?」
耳を疑った。確かにここを勧めた私が悪いけど、使うのはあなたなのに?
振り返りもせずさっさと出ていってしまったアリーさんの後ろ姿を恨めしく思った。
**
着ている服まで黒く汚れて、ようやくベッドと、ベッドの周りが使えるくらいになった。何度もバケツを運んだし、何度も膝をついて床を拭いた。肌寒い季節なのに汗だってたくさんかいた。まだ終わってないけど、今日はこれでいいいよね、これ以上時間をかけると夕御飯が食べられなくなっちゃうから。明日なら誰かが手伝ってくれるかもしれないし。
「よいしょ」
と、そんな気持ちでバケツを持って立ち上がったのだけど、ドアに向かう途中で零れていた水を踏んでしまい、危うく転びそうになって、
「あ、あ、あ・・・」
・・・ガンッッ!!ガラガラ・・ッ
手から滑り落ちてしまったバケツが、水を散らしながら、大きな音をたてて床に転がった。
「最悪。」
急に惨めな気持ちになった。再び膝をついて床を拭く。拭いて、絞って、拭いて、絞って、拭いて・・。アリーさんは私を1人にして、いったい外で何をしてるんだろう。考えてしまうとお腹の奥がじりじりと重たくなった。
・・・・・・・・・・・・・っ
「なによっっ!どいつもこいつもっっ!!」
思い切り雑巾を投げると壁に当たって張り付き、落ちた。少しだけすっとする。
もう一度、拾って投げてみた。
「ははっ、」
面白い。壁に打ち付けられる雑巾が、なんだかいい気味。気持ちが晴れるまで何度も繰り返した。
「ははっ、あははっ、・・あーぁ、 片付けよう。」
気にしたってしょうがないわ。アリーさんはどうせよそ者なんだから。
***アリー
「ノア、そろそろ戻らないと。」
「ん、ああ、そうだよね、戻らないと。」
ノアが自然に、離した手を腰に回してきた。触れる部分がじわりと暖かくなっていく。安心感を得られるのは、殺されそうな私を助けてくれた腕だから。
「ノア」
「うん?」
「ありがとう。」
「・・・・」
返事の代わりに、ノアはほんの少し力を込めた。
「そういえばアリー、部屋に布団はなかったよね?持ってくるよ。っと、荷物、持って行ける?」
「え、ええ。ありがとう。自分の荷物くらい持てるわよ。」
「うん。じゃあ足元に気をつけて、暗いから。」
「ふふ。分かっているわ。」
荷物を受け取り、階段に足をかけた。ノアはもう走って行ってしまっている。
半分くらい登ったところで、ふと、部屋の中から笑い声がすることに気が付いた。気でも狂ったのかしら?笑い声と共に、バシッ、バシッ、と、変な音も聞こえる。私、入っていいのかしら?
1人で入って行くのも恐い気がして躊躇していると、布団を持ったノアが戻ってきた。
「アリー?どうしたの?」
「あ・・、ええと、は、入っていいのか分からなくって。」
「はは、もうアリーの部屋だよ。」
ノアは階段を登ってきて、2段手前で立ち止まった。
「ごめん、開けてくれる?手が無理だ。」
「え、ええ。」
よかった、もう笑い声は止んだみたい。さっきと同じように、ドアの下の方を思い切り蹴飛ばした。
「開いたわよ、どうぞ。」
「今の、何?」
ギーッ、と開いたドアから明かりがこぼれ、ノアの驚いた顔が見えた。
「何のって?」
ちょうどその時、視界の横の方ではバケツを持ったクレアが、目を見開いて立ち竦んでいた。
「・・・まぁ、後で。とりあえず入ろう。」
「ノノノノアッ!?」
ノアが入ると、クレアが叫んだ。赤面し、慌てる様を見て、あら?と思った。なるほど、合点がいくわ。
「布団を持ってきたんだ。置いていい?」
「ももも勿論よっ、綺麗にしたわっ!」
綺麗、かしら?ぐるりと部屋を見渡して、ため息が洩れた。
「まぁ、眠れるならそれでいいわ。」
一瞬、クレアの顔が歪んで見えた。だけどすぐに元に戻って、今度は申し訳なさそうな顔をする。
「あの、ごめんなさい。だけど、1人ではとても大変で。」
ちらちらと窺ってくるのは、同情を期待しているのかしら?見逃してあげようと思っていたのに、カチンとくる。
「あのね、・・」
「アリー、今日はもう休もう?それで、明日、俺と一緒に続きをしよう。自分の部屋だから、自分でやった方がきっと楽しいよ。」
「楽しいですって?」
「ああ、カーテンや、敷物も買いに行こう。そうだ、椅子も作ってあげるよ。」
「ノアは、椅子を作れるの?」
「ああ、アリーはどんな椅子がいい?」
「・・・」
なにそれ・・・少し・・楽しそうだわ。
「クレア、母さんが待ってるから、夕御飯を食べてから家に帰りな。」
考え込んでいる間にノアはさっさとクレアを部屋から出していて、後からはっとした。ノアは、逃がしたんだわ。
ノアが信じられないくらい優しく彼女の手を取ったから、心の中がざわついた。慌てておばさんの方を見たら、おばさんも戸惑っている。
私の目の前でノアの関心を当然のように独占する彼女に、つい魔が差したのだ。
ほんの少しの出来心。
「おいっっっ!!」
突然ノアが怒鳴った。穏やかだった部屋の空気がビリビリと震える。どうしよう、ノアを怒らせてしまった。
嫌だ、違うの・・誤解しないで欲しい。
言い訳しようと頑張ったけど、ノアが私を見る目は冷たいままで、私は必死になっていた。
アリーさんの機嫌を損ねないように。ノアに私の事を告げ口されてしまわないように。笑顔だって浮かべた。愛想良く・・。
「よろしくね。私は少し、外の空気を吸ってくるわ。」
「え・・・!?」
耳を疑った。確かにここを勧めた私が悪いけど、使うのはあなたなのに?
振り返りもせずさっさと出ていってしまったアリーさんの後ろ姿を恨めしく思った。
**
着ている服まで黒く汚れて、ようやくベッドと、ベッドの周りが使えるくらいになった。何度もバケツを運んだし、何度も膝をついて床を拭いた。肌寒い季節なのに汗だってたくさんかいた。まだ終わってないけど、今日はこれでいいいよね、これ以上時間をかけると夕御飯が食べられなくなっちゃうから。明日なら誰かが手伝ってくれるかもしれないし。
「よいしょ」
と、そんな気持ちでバケツを持って立ち上がったのだけど、ドアに向かう途中で零れていた水を踏んでしまい、危うく転びそうになって、
「あ、あ、あ・・・」
・・・ガンッッ!!ガラガラ・・ッ
手から滑り落ちてしまったバケツが、水を散らしながら、大きな音をたてて床に転がった。
「最悪。」
急に惨めな気持ちになった。再び膝をついて床を拭く。拭いて、絞って、拭いて、絞って、拭いて・・。アリーさんは私を1人にして、いったい外で何をしてるんだろう。考えてしまうとお腹の奥がじりじりと重たくなった。
・・・・・・・・・・・・・っ
「なによっっ!どいつもこいつもっっ!!」
思い切り雑巾を投げると壁に当たって張り付き、落ちた。少しだけすっとする。
もう一度、拾って投げてみた。
「ははっ、」
面白い。壁に打ち付けられる雑巾が、なんだかいい気味。気持ちが晴れるまで何度も繰り返した。
「ははっ、あははっ、・・あーぁ、 片付けよう。」
気にしたってしょうがないわ。アリーさんはどうせよそ者なんだから。
***アリー
「ノア、そろそろ戻らないと。」
「ん、ああ、そうだよね、戻らないと。」
ノアが自然に、離した手を腰に回してきた。触れる部分がじわりと暖かくなっていく。安心感を得られるのは、殺されそうな私を助けてくれた腕だから。
「ノア」
「うん?」
「ありがとう。」
「・・・・」
返事の代わりに、ノアはほんの少し力を込めた。
「そういえばアリー、部屋に布団はなかったよね?持ってくるよ。っと、荷物、持って行ける?」
「え、ええ。ありがとう。自分の荷物くらい持てるわよ。」
「うん。じゃあ足元に気をつけて、暗いから。」
「ふふ。分かっているわ。」
荷物を受け取り、階段に足をかけた。ノアはもう走って行ってしまっている。
半分くらい登ったところで、ふと、部屋の中から笑い声がすることに気が付いた。気でも狂ったのかしら?笑い声と共に、バシッ、バシッ、と、変な音も聞こえる。私、入っていいのかしら?
1人で入って行くのも恐い気がして躊躇していると、布団を持ったノアが戻ってきた。
「アリー?どうしたの?」
「あ・・、ええと、は、入っていいのか分からなくって。」
「はは、もうアリーの部屋だよ。」
ノアは階段を登ってきて、2段手前で立ち止まった。
「ごめん、開けてくれる?手が無理だ。」
「え、ええ。」
よかった、もう笑い声は止んだみたい。さっきと同じように、ドアの下の方を思い切り蹴飛ばした。
「開いたわよ、どうぞ。」
「今の、何?」
ギーッ、と開いたドアから明かりがこぼれ、ノアの驚いた顔が見えた。
「何のって?」
ちょうどその時、視界の横の方ではバケツを持ったクレアが、目を見開いて立ち竦んでいた。
「・・・まぁ、後で。とりあえず入ろう。」
「ノノノノアッ!?」
ノアが入ると、クレアが叫んだ。赤面し、慌てる様を見て、あら?と思った。なるほど、合点がいくわ。
「布団を持ってきたんだ。置いていい?」
「ももも勿論よっ、綺麗にしたわっ!」
綺麗、かしら?ぐるりと部屋を見渡して、ため息が洩れた。
「まぁ、眠れるならそれでいいわ。」
一瞬、クレアの顔が歪んで見えた。だけどすぐに元に戻って、今度は申し訳なさそうな顔をする。
「あの、ごめんなさい。だけど、1人ではとても大変で。」
ちらちらと窺ってくるのは、同情を期待しているのかしら?見逃してあげようと思っていたのに、カチンとくる。
「あのね、・・」
「アリー、今日はもう休もう?それで、明日、俺と一緒に続きをしよう。自分の部屋だから、自分でやった方がきっと楽しいよ。」
「楽しいですって?」
「ああ、カーテンや、敷物も買いに行こう。そうだ、椅子も作ってあげるよ。」
「ノアは、椅子を作れるの?」
「ああ、アリーはどんな椅子がいい?」
「・・・」
なにそれ・・・少し・・楽しそうだわ。
「クレア、母さんが待ってるから、夕御飯を食べてから家に帰りな。」
考え込んでいる間にノアはさっさとクレアを部屋から出していて、後からはっとした。ノアは、逃がしたんだわ。
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