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ノアのせい

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**アリー

「アリー、ベッドが出来た。座ってみてよ。」

「ふん」

馬鹿にされたようで腹が立つ。だけど促されてしぶしぶ腰かけた。

「どう?」

「・・・悪くないわ。」

「だろ。ほら、かけ布団も軽くて暖かだ。」

「まぁ・・、そうね。」

「枕もふかふかだよ。」

確かにかけ布団は軽くて、柔らかで暖かく、枕もふかふかしている。
一式、全面に刺繍なんかも施されていて、この村には似合わず良い品のように感じた。でも、腹が立つ。

「機嫌を直してよ。」

ノアがベッドの前で膝をついた。情けない顔で見上げてくる様は・・・。

「犬みたいだわ。」

「はは、俺が?そうかな?」

「誰にでもいい顔して。」

「・・・それで怒ってるの?俺に?」

ノアが目を瞬いた。

「ちっ、違うわよっ!あの娘っ・・クレアがっ!」

「うん、」

じっと見詰められ、何もかも見透かされているような気持ちになった。

「へ、部屋が・・」

「うん、」

「みんなが・・・」

「うん、」

おかしい、どうしてこんなに何も言えなくなるのかしら。皆が無礼な態度で私を追い出し、汚い部屋をあてがわれ、掃除すらも適当に・・・。

「や、やっぱり、あなたが悪いのよっっ、あなたがっっ!!」

考えると頭がぐちゃぐちゃして気持ち悪くなる。だから全てノアが悪いのだ。

「はは、俺かぁ。」

「だって、私が悪かったの?私が何か間違えた?」

「いいや、アリーは悪くない。間違えた訳でもないよ。」

「そうでしょう、私は悪くない。」

当然だわ。私には、どうしようも出来なかったもの。だけど・・・。

ノアを見詰め返すと、そっと手を握られた。

「アリーはさ、慣れていないんだ。」

「え?何に?」

「人。他人とさ、一緒に・・、うーん、同じ目線で、話したり、楽しんだりさ、そういうのに慣れてないんだ。」

「何の話?そんなのっ、あなたには分からないわ。」

出会って間もないノアにそんなこと。

「分かるよ。」

確信しているような目。

「そんな筈ないわ。」

「分かるよ。少なくとも、アリーよりは知っている。自分の事は、他人から見た方がよく分かるんだ。」

「そんなの、おかしいわよ。・・・絶対。おかしいから。」

「うん、アリーがそういうなら、そうかもね。」

「えっ?あなたが言ったのに?」

ノアはいたずらっぽく笑った。本当に犬みたいだわ。

「はは。そうだったらいいなと思ってさ。あ、お腹空いてるよね?冷えてしまったけど、食べる?」

なんだか上手く誤魔化されてしまったみたい。でも今、少しも嫌な感じがしないのは・・悪くない。

「食べるわ。勿論。」

大きなパンを頬張った。


**マーサとベンの会話(ノアの両親。ほぼ会話だけです)

やれやれ、今日は1日忙しかった。全ての後片付けを済ませて寝室へ行き、ぐっすり眠っているロパを覗きこんだ。

「寝顔だけは癒しだね。」

さっき乳を飲ませたばかりだから、しばらくは大丈夫そうだ。寛いだ服に着替えてベットに腰を下ろした。向かいのベットではベンが、うつらうつらした様子で寝転んでいる。

「ねぇ、あんた、クレアのところ、もうすぐ妹が15になるんだって。」

「んー?・・・・あぁ、クレアの妹がな。それがどうしたかね?」

「ほら、前に言ったでしょう。15になったら相手が来るってさ。」

「相手?相手相手・・・、ああ、結婚するんだったな。」

「結婚は16になってからだよ、でもその前にこっちに来て一緒に生活するんだってさ。」

「へぇ。それで、それがどうかしたかい?」

「クレアの事だよ、あんた、可哀想じゃないかね?」

「別に、今まで通りに一緒に暮らしたっていいんだろう?」

「そりゃそうだけどさ、でもどうしたって・・」

「マーサ、気持ちは分かるがどうにも出来んだろう。」

「・・・まぁ、そうなんだけどね・・・。
・・・ところで、あんたさぁ、あの娘は、どう思った?」

「・・・あぁ、ノアの連れてきた娘の事か?」

「どう思った?」

「んー、堂々としてる娘だったね。」

「歳はいくつに見えたかい?」

「聞いてないから、分からないさ。」

「他には?それだけかい?」

「それだけも何も、たいして喋っとらんだろう。」

「そりゃそうだけどね。でもあんた、ノアはどう思っているように見えたかい?」

「そんなこたぁ、もっと分からんよ。」

「ねぇあんた、今日、あの子がどの布団を持って行ったと思う?婚礼用に作っていた1番上等な布団だよ。『すぐには使わないだろ、代わりに別のを買っておくからさ』だって。」

「他に人様に出せるようなものがなかったんだろうさ。」

「それにしたって・・・」

「なんだ?気に入らんのか?クレアでもあの娘でも、ノアが決める事だろうに。」

「そりゃ、そうだけどさ。」

「分かってるなら、何も言うな。もう寝る。」

ベンはそう言うと、布団を頭まですっぽりかぶってしまった。

「・・・」

・・・本当、そうなんだけどさ。あの娘は、どこか普通の娘じゃないように感じたんだよ。甘ったるい匂いなんかもさせてさ。歳だって、かなり上じゃないのかね。

あーあ、どうしたもんかねぇ。
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