引きこもりの魔女の話

ともっぴー

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***ダニエル

魔女が、笑って、出ていった。
何だったんだ?今のは。ひょい、と頭を出して辺りを見た。もう誰もいない。ここには魔女以外に誰もいないのか?身を屈めながら、1歩踏み出すと、にゅる、何かが足の下で潰れた。

「うっ・・・」

目玉か。目を反らそうとして、あれ、と思い、もう1度よく見てみる。プルプルしてるぞ。潰れた断面は、綺麗な白だ。おそるおそる指でつついてみた。プルンプルン、とふるえる。汁の付いた指を舐めてみると・・・、甘い。立ち上がって、テーブルに置かれたアレを改めて見た。間近まで近寄って、匂いを嗅いだ。甘い匂いだ。皿ごと持ち上げてみると、軽い。ふむ・・・本物の首では、ない。触ってみると、クリームが指に付いた。
ほぅ・・・。指を刺してみると、柔らかい。

「はは、これは菓子だな。」

「なななななっ!?」

突然声がして、驚いて見るとさっきの少女が、顔を真っ赤にして立っていた。

「あっ、こ、これは失礼したっ。あまりに本物そっくりに出来ていたもので、つい。」

「そっくりで悪かったわねっ。ああなたは誰なのよっ!? どこから来たのよっっ!?」

まずい、怒らせてしまったか。

「私はダニエルという者だ。その、気を悪くしたなら本当にすまない。決して悪気があった訳じゃないんだ。・・・その、君が、魔女なのか?」

「そうよ!魔女よっ!私が恐くて冷酷な魔女よっ。命が惜しいなら、さっさと出て行くことねっ。早くっっ!!」

本当に怖くて冷酷な魔女なら、そんなことは言わないのでは、と思ってしまう。

「いや、その、実は魔女殿にお願いが・・」



**エルシー

最悪だ。子供かと思ってたらこんなおっさんで、しかも私の試作品を見抜いてしまったなんて。こんな面倒は早く追い出さなくちゃ、だ。それなのに・・・。

「いや、その、実は魔女殿にお願いが・・」

男は1歩、また1歩と、私に近付いた。

「お願いですって!?この魔女にお願いするってことがどんなことか、知っているのっ!?」

「もも勿論だともっ。分かってて、はるばる訪ねて来たんだ。」

うわぁ、どうしよう、もっと最悪。異常者だ。関わりたくない。じりじりと男が近付いた分だけ後ずさった。

「じゃじゃじゃあ、当然持って来ているんでしょうね?」

どうか、諦めて。

「あ、ああ。材料のことか?勿論持って来ている。」

「ほ、本当に・・? ・・っどこによ?新鮮じゃないと、無理なんだから。」

「新鮮だっ、とても、新鮮だ。」

「・・っい、生きてなきゃ、駄目なんだからっっ!」

「ああ、ああ、生きている。だからお願いだ。」

男は更に近付き、私に手を伸ばしてきた。

「ひっ・・、さ、触らないで。あっあなたは、その者がどうなってもいいと?」

どうしよう、恐い。

「足なんだ。足だけなんだ。だから、お願いします。」

「あああ足だけで済むとは限らないんだからっ。手も、両腕だって失うかもしれないのよっ。」

ほんとお願い早く諦めて。犯罪者なんてごめんだわ。早く帰って欲しい。

「・・・それでもっ、それでもいい。俺を殺したっていい。だから早く・・・」

「殺っ・・・、え!? 誰を、殺すの?」

耳を疑った。今、何て?

「俺です。お願いだ。殺してもいいから、早く薬を作ってくれ。」

男は、崩れるように座り込み、床に頭を擦り付けて懇願してきた。この男、正気?

「自分は死んでもいいっていうの?そこまでして、他人を助けたいの?」

「他人じゃない、弟なんだ。」

それでも他人だわ。それに、

「・・・あなたを殺したら、誰がその薬を、その人に届けるの?」

「・・・ぅ、」

「考えていなかったの?」

「でも、必要なんだ。・・魔女殿が、届けてはくれないだろうか。」


ふと思った。この人は異常者ではなく、本物の馬鹿なのだ。
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