引きこもりの魔女の話

ともっぴー

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5最終話

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**ダニエル

城に滞在して10日目、魔女殿は突然、目の前に小瓶を突き付けてきた。

「魔女殿、これは・・・?」

「あげるのよっ。さっさとこれを持って消えてちょうだい!」

魔女殿はそっぽを向いた。

「ええと、つまり・・・?」

「あなたが欲しがってた薬でしょっ!あげるから、何も言わずに消えてちょうだいっ」

薬・・?俺はまだ生きているというのに?目を瞬かせると、魔女殿は俺の手に直接小瓶を握らせた。

「嘘よっ、全部嘘。私、嘘をついてたのっ。薬の材料に生きた人間なんて使わないわ。騙してただけ。どう?嫌な魔女でしょっ、だから、お願いだからさっさと消えてっっ!」

「・・・っ!!ああ、ありがとうございます!」

奇跡だ。本当に薬が手に入った。早く弟に届けなければ。小瓶を握り締め、城から飛び出そうとして、支払いを済ませていないと気付いた。

「何で振り返るのよっっっ!」

「あの、金額は?」

「あなたからは要らないわ。国王陛下が払って下さるそうよ。」

「国王陛下が?なぜ?」

「私が知る訳ないでしょっ!とにかく私はっ、あいつからお金を受け取るんだからっ。」

あいつ・・魔女殿は国王陛下と旧知の仲のようだ。わざわざ、俺の為に掛け合ってくれたのだろうか?

「魔女殿、ありがとう。」

「・・・っく、早く、消えてってばっっっ!!」

ありがとう。心の中でもう1度言って、出口に向かった。ところが、嬉しいはずの足取りは、1歩ずつ踏み出す度に重くなる。・・・魔女殿。
一緒に過ごした日々がよみがえる。これで、本当に最後なのか?

堪らず、城の外に踏み出す前に、振り返った。

「!? 魔女殿・・」

魔女殿が、泣いていた。

駆け寄り、涙を拭いてあげようと手を伸ばしたら、バチッと見えない何かに弾かれた。

「行きなさいってばっっ!」

叫び声が、胸を締め付ける。

「魔女殿・・・、名前は、名前を教えてくれないか?」

「必要ないわ。もう会うことは無いのだから。」

「いや、必ず俺はここに戻って来る。だから、名前を。」


「・・・エルシー」

魔女殿は小さく呟くように言い、後ろを向いて走っていった。1度も振り返らずに。

「エルシー、この恩は決して忘れない。必ず戻ってくるから、どうか待っていてくれ。」

―――――彼女の耳に、届いただろうか。


**エルシー

あの男は、ずかずかと私の内側に入ってきた。私が最も嫌いな表情で私を見て、声をあげて笑い、聞いてもいないのに勝手におしゃべりして、私の厨房だって無断で使って、馬鹿みたいにはしゃいだり・・・。
これ以上は耐えられないから、追い出さなくては、と本気で思った。
耐える・・?ううん、違う。そんなんじゃないわ。私が何に耐えるっていうの?単に、目障りだっただけ。目障りだから、追い出すの。

陛下からの手紙を受け取った日、私は部屋に籠ってその手紙とにらめっこをした。意味が分からない、どうして紹介状なのかしら?裏返してみても同じ。封筒の方をひっくり返してみると、小さな紙切れがひらり、と落ちた。

「ん?『陛下は大変お疲れの様子です。』?」

知ったこっちゃない。だからどうして紹介状なのかを聞きたいのだ。

**

翌日、私は手紙の内容をようやく理解し作業に取りかかった。やっとこれで、清々する。
別に、助けてあげたくて薬を作る訳じゃない。あの意味の分からない紹介状は、これが一番手っ取り早い解決方法だと言いたかったのだ、きっとそうだ。だから、作っているだけ。お金も、陛下に請求すればいいのだから、あの男に感謝される筋合いなんてないし、薬を脚の形にしなかったのは、単に面倒くさくなっただけよ。あの男にはもともと偽物だってばれてるからね。

そうして薬が完成した。
あとは小瓶に入れたら出来上がり、だ。ふん、陛下にも疲れを取るための薬でも作ってやろうかしら。ついでだもの。まぁ、解決策を考えてくれたのだし?
気が向いたから、「3日間、邪魔されずに休める薬」も作ってあげた。永遠の眠り、とはいかないが、3日間はぐっすり眠れる薬だ。クッキーに染み込ませ、食べやすいように工夫した。陛下は薬が嫌いだから。


薬を渡そうと男を探すと、いつものように図々しく食堂で料理をしていた。この料理をする匂いも嫌い。いかにも、食べさせよう、って魂胆が見え見えで腹が立つのだ。
さっさと追い払って、いつもの生活に戻りたい。


**

でも・・・。
名前を聞かれて嬉しくなった。
戻ると言われて、期待した。
馬鹿は私だ。この感情が、気持ち悪い。

―――このご恩は、決して忘れない。―――

はっと目が覚めた時にはもう遅く、うっかり開いてしまった心は柔らかく剥き出しで、身動きする度に傷が付く。痛くて堪らない。

忘れてしまっていたなんて。

男が言ったそれは、かつて私が出会った人々が、揃って言った同じ言葉。大小の怪我や様々な病、治った時には皆喜び、感謝した。
でもそれは、その時だけのこと。いずれ時が経てばみんな忘れてしまうのだ、私のことなんて。

心の傷に効く薬が作れたなら、どんなによかったか。痛む胸を押さえ、身体を引きずるようにして、城中のカーテンを閉めて回った。また目玉ゼリーを作ろう、城の外に転がすのだ。指のビスケットだっていい。いや、もっと恐いのがいいわ。生首ケーキをもう一度作ってみようかしら。あ、ドラゴンなんかも飼ってみようかな。そうしたら誰も近付けない。番で飼育して、繁殖なんかもしてみたりして、ふふふ。魔女の城じゃなくって、ドラゴンの城だわ。

それから半年が経った頃、国王陛下からの手紙が届いた。封筒の端が焦げていて、ドラゴンに火をかけられたのだと分かった。よく燃えずにここまで飛んできたわね。感心しながら封を切った。


**アレク

「ふん、今度こそ間違いなく届くだろう。」

「お手数をお掛けして申し訳ございません。」

「全くだ。何通の手紙を無駄にしたことか、それも手間と費用の掛かった手紙を。」

目の前には、緊張した様子の例の男、ダニエルが跪いている。それにしても、魔女がおっさん、おっさん、と言っていた割には、俺より若そうだ。あいつは若いのが好みだったのか?

「本当に、ここまでして頂いて感謝致します。」

「はん、お前に言っているのではない。あの魔女にだ。俺はお前が訪ねてくる前から手紙を送ろうとしておったのだからな、お前はついでだという事を忘れるな。」

魔女のクッキーを食べて3日間寝込んだ後から、急に手紙が届かなくなり、最初は生きた心地がしなかった。それがいつの間に山に住み着いたドラゴンが、毎回手紙を食べていると判明したのはつい最近の事だった。

「は、はい、申し訳ありません。」

「ふん。・・・・だがこれで魔女が変わるのなら・・、仕方あるまい。」

ぼそりと呟くアレクの声は誰に聞かれる訳でもなく、静かに消えていった。


 
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