碧の海

ともっぴー

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ズンの働き

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***ズン

「あ、菫~。こっちこっち。」

菫さんと待ち合わせをした私は、早く着きすぎた待ち合わせの場所で、周りを見渡しながら待っておりました。しばらくして遠くに菫さんを見つけましたので手を振りますと、すぐに気付いて駆けてきました。

「ごめんなさいっ、遅れてしまったかしら?」

むほ、なんと弱々しい。おそらく黒耀様はこの娘のひ弱な所に庇護欲を掻き立てられるのでしょう。人に弱みを見せたがらない杏奈様には出来ない芸当でございます。杏奈様のために、もっと苦しんで頂かなければ。そこで私はヒョイヒョイと空気をかき混ぜました。むほ。

「いいえ、そんな事ないわ。ただ、私が待ちきれなくって早く来ただけよ。」

ヒィヒィと必死に空気を吸おうとしている姿が堪りませんな。ですが、白目を剥きそうになったので、止めて差し上げました。人間相手にやり過ぎは禁物でございます。菫さんは、やっとありつけた空気を求めてゲホゲホと咳き込んでおりました。

「大丈夫!? 走らせてしまってごめんなさい。」

杏奈様風に言えておりますでしょうか?少し心配しておりましたが、菫さんは疑いもせず、手を横に振って答えました。

「ち、違うの。せっかく誘って下さったのに遅れてしまったかと、私が勝手に慌ててしまっただけです。」

むほほ。全くいい子ですな。全身を見渡すと、ふと彼女の足首に目が吸い寄せられました。

「むほ?踵、怪我してしまったんじゃない?」

そこから血が滲んでおります。

「あ、本当だわ。血が・・あ、でももう大丈夫みたいです。」
「むむ・・大丈夫とは?」
「治ったみたいです。ほら、もう血も出ていないでしょう?」

当然のように言う彼女に、私は戸惑いました。

「何をおっしゃ・・言っているの?そんなにすぐに治るだなんて。」

見せられた踵は、血が止まった、とかではなく、傷自体が、消えておりました。
これは、どういうことでしょうか?

「もしや、人間ではないとか?」
「ぷっ。杏奈先生ったら。人間でなかったらなんだというのですか?」

人間であるならその力はどこからだというのですか?黒耀様がちらつきます。
私の頭の中で、バラバラだったパズルが繋がろうとしております。ですがそんなことが可能なのでしょうか?杏奈様に何と報告したらいいのでしょうか?戸惑った拍子に引っ込めた腹が飛び出そうになり慌てて引き締めました。
怪しまれないよう、微笑みました。

「・・そうよね、でも、怪我がそんなにすぐに治るだなんて、いつもそうなの?」
「いつもではないのよ、小さな怪我の時だけ。だけど、これって、おかしい事なの? 」

菫さんの瞳が、不安そうに揺れております。これはいけない。今、怯えさせてはいけません。まだ聞きたい事はたくさんございます。

「いいえ、そういう訳ではないわ。ただ、珍しいだけよ。それより、早くお店に入りましょうか。実はお腹がぺこぺこなのよ。」

むほ。今日1番のお楽しみございます。何でも好きなものを食べて良いと、許可を得ておりますから。
っとと。本物の杏奈様から呼び出しです。頭の中で声が響いております。困りましたね、とりあえずどこか人目つかない場所へ

「杏奈先生?」
「おっと、失礼。私、ちょっとお手洗いです
の。先に座ってらして。」

大急ぎでお手洗いに入りました。鏡がありますからね、好都合なのです。さっそくコツコツと叩くと杏奈様顔が浮かび上がりました。

「杏奈様、どうなさいましたか?」
「説明はあとよ。記憶を寄越して。早くっ。」
「え?ですが?あ・ぁ・・ぁああ!?」
「ズンは出来るだけ時間を稼ぎなさい。くれぐれもばれないようにね。」
「そんな・・・、ご馳走は・・」

一瞬でした。一瞬のうちに私は、さっきまで鏡の向こうだった杏奈様の部屋で佇んでいるのでした。



***杏奈

海(菫)と碧は事故の時、両親と一緒にいた。そして両親は死亡、碧は重症。海だけが無傷だったのだと。
海とその家族が事故に遭った原因は、容易に想像できた。黒耀は、海のそばに居たいばっかりに、家族に成り代わろうとしたのだ。


菫と別れた後、私は急いでお店に戻り手洗いに駆け込んだ。どうかまだ黒耀がいますように。ズン・・ズン・・と呼び掛けると顔を青くしたズン鏡に現れた。

「どうし・・」
「杏奈様、限界ございます。やはり黒耀様相手に私ではとても・・」
「ええ?とにかく、ご苦労様」
「あわゎっ」

色々を聞く時間が惜しい。ヒョイとズンの首を掴んで引きずり込んだ。代わりに私が部屋へと戻る。

その時、部屋のドアが開いた。

「どういうことだ?」

あ、見つかった。でも、別に悪いなんて思わない。お腹にクッ、と力を入れて振り返った。

「どういうことって?」
「お前、今までどこにいた?」
「どこって、近くのカフェよ。」
「・・っ、海はっっ!?」

あの女のことになると、途端に血相を変える。

「ふっ、質問ばかりね。でも私にも質問させてちょうだい。」
「くそっ、」

黒耀の足が後ろに下がるのを見て、すぐに指を回して鍵を閉めた。私を無視して部屋を飛び出そうなんて許さない。1歩遅く、間に合わなかった取っ手をガチャガチャと鳴らして声を荒げる黒耀を冷めた気持ちで見つめた。本当に無力で、馬鹿みたい。

「ねぇ、事故で海だけが無傷だったのはどうして?」
「・・・なんだよ、急に」
「ねぇ、そもそも本当に無傷だった?」
「・・・」
「ねぇ、もしかして・・」
「ああ!そうだよっ、悪いかっお前の言う通りだよっっ、だから、早く開けてくれっっ」

馬鹿だ。黒耀は本物の馬鹿なんだ。冷静な筈の私の頬を涙が流れ落ちた。

「いいわ。開けてあげる。行きたいなら行けばいい。だけど、あの女はまだあなたを受け入れるかしら?」
「お前まさか・・くそっっ」

現実を見て絶望すればいいんだわ。



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