碧の海

ともっぴー

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**杏奈

「いらっしゃい。」
「何をたくらんでるんだ?」
「・・・」

2人きりにはなれたけど、開口一番の言葉がこれではがっかりだ。

「べっつに。ただ、あなたの事が知りたいだけよ。数十年ぶりに会えたっていうのに、何も教えてくれないから。」
「何が聞きたいんだよ?」

ソファーを勧めながら黒耀をチラリと見て、すぐにそらした。どうせ・・

「やっぱりいい。あなたが正直に答えてくれるか分からないから、後で菫に聞くわ。疲れていない時なら、いいんでしょう?」
「また会うつもりなのか?」
「ええ、当然。私達って、仲がいいのよ。」

会うつもり、という発想に笑いが込み上げた。菫との接触を妨げるのは黒耀の存在だ。その黒耀が私と一緒ならば、菫はどうしているだろう。

「仲がいい・・か。」

ぼそりと呟くような声が聞こえてハッとした。

「お前さ、いつの間にそんなに仲良くなったんだ?」
「え?ええっと、ち、違うわよっ、たまたま、たまたま懐かれちゃってっ」
「ふぅん・・・」
「それにっ、仲良くなっていてよかったでしょ。今の菫にとって、私みたいな存在は大事でしょう?力になれるわ。」

黒耀はしばらく腕組みをして考え込み、ゆっくり顔をあげた。

「力になってくれるのは助かる。だが何を聞きたいのかは今、教えてくれ。ちゃんと答えるから。」
「本当に?」
「ああ。」
「嘘ついたら、許さないわよ。」

本気で許さないから。

「ああ。」
「じゃあ、あなたのことを聞くわね。私、知っているの。あなたの名前が壊れていること。それはいったいどうして?」
「は!?」

黒耀が目を見開いた。
その驚きようは・・・まさか本人も知らなかったの? だけど、すぐに思い当たることがあったのか、視線を漂わせた後、考え込み、ぽつりと言った。

「道理で・・・。」
「何が?」
「てか、お前、どうやって知ったんだ?俺のこと調べたってことか?あいつを使ったのか?あ・・・それで」

黒耀が冷めた目で私を見た。全て納得、といったような顔で。

「あのねぇっ!確かにズンは色々教えてくれるわよっ、でも、別に私はあなたが王子だから一緒にいるんじゃないからね!知るよりずっと前から一緒にいるじゃないっっっ!それにっっっ、今は私が聞いているのっ。」

ポカン・・とした後、吹き出した。

「くく・・悪い。そうだよな、知ってたらあんな態度はあり得ないよな。悪い、一瞬考えた。」
「分かってくれたならいいけど。」

不意打ちの笑顔にやられた。よくよく考えたら謝り方もかなり失礼なのに、可愛い笑顔がずるい。

「はは・・、ほんと悪かった。それで、名前のことだけど、俺も今初めて知ったんだ。だから分からない。」

全身が凍りつく。分からない、と言った。本当に?さっき、道理でって、言わなかった?
私はずっと不安だったけど心のどこかで、きちんと原因があって何でもないことなのだと言われるのを信じてた。だって黒耀だから。
それなのに、知らないですって?心臓がドクドクと鳴っている。
だとしたら、問題でしょう?

「ねぇ、本当に分からないの?それなら今すぐにでも魔界に帰って調べるべきでだわ。」

いった途端、可愛かった笑顔は消え固い表情に変わった。

「いや、それは出来ない。海が生きている限り、帰るつもりはないから。」
「どうして?ズンが言っていたわ、少しずつだけど、弱っていっているって。原因が分からないと安心出来ないでしょう?もしたいへんなことになったらどうするの?あの女の為に危険な目に合うのは許せないわ。もう、十分でしょう?ねぇお願い、今すぐにでも、一緒に帰りましょう。」

お願い、お願いだから。

「お前は先に帰れよ。俺はいる。」

必死にすがり付く私を、黒耀は振り払った。

「あ、あなた今、なんて言ったの・・・?約束は・・・」

手が、足が 震えた。

「何度も言われなくてもわかっている。だから、帰れよ。煩く言う奴は必要ない。」
「なんてこと・・あなた、よくもそんな事が言えたわね。」

この私に、帰れ、ですって?
必要ないですって?

「・・・悪い。だけどもう、構わないで欲しい。」

ねぇ、それは・・・手遅れだわ。

彼は私の心を踏みにじった。それが、どういう事なのか、思い知ればいい・・・。


頭が痛いから薬を飲んで来ると嘘をつき、私は一旦自室に戻った。もっと黒耀と2人きりの時間を過ごしたかったけれど、仕方がない。鏡を前にして頭の中でズンの名を呼んだ。私は今、黒耀には気付かれないよう、ズンと菫を接触させているのだ。名前が壊れて力が弱っている今の彼は、無様にも好都合で、悲しいけど滑稽に思えた。

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