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婚約の条件
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**杏奈
う~ん、声が聞こえない。だけど、上手くいってるみたいね。
窓から覗いた部屋の中、つまり目玉の映す景色には、菫の取り乱した姿と呆然と立ち竦む黒耀の姿があった。
「杏奈さまぁ~」
「ぎゃっ」
ズンだ。さっき行ったばかりだというのに。驚いて双眼鏡を床に落としそうになった。
「何?忘れ物?」
テーブルにそっと置いて、睨み付ける。
「むほっ!?とんでもない、超特急で行って帰って参りましたとも。」
「早すぎない?」
「むほほ、事前にいろいろと準備しておりましたから。ところでご様子は?」
準備って何かしら?そう思いつつ、現状を説明した。
「むほほ。それは何よりです。さすがに家族を殺されたと知っては許すことは出来ませんね。」
「ん?」
「むほ?違うのですか?杏奈様は菫さんにあのことはお教えにならなかったのですか?」
「あのことって?」
「黒耀様が両親と碧本人を殺した話ですよ。」
死亡する原因を起こしたのが黒耀って話ね。
「ああ、そこまでは言わなかったの。だって私、黒耀とあの女の間にどのくらいの信頼関係があったか知らないんですもの。幼い頃ずっと一緒にいたのが黒耀だったなんて知ったら、呆気なく許しちゃうかもしれないでしょ?」
私の言葉に、ズンはキョトンとした。
「殺されたのは家族ですが、そんなものでしょうか?人間の家族愛は強いと聞きますが・・」
「う~ん、分からないけれど、記憶の曖昧な家族と、そばにいて心から信頼している人物だったら、どうなるか想像できないでしょ。」
「ははぁ、なるほど。」
私が知っているのは、施設で黒耀を見付けた時からだ。
「菫は、丁度黒耀が弱っている姿が恐かったみたいで、変なものが碧にとりついてるって言ったら簡単に信じたわ。それにね、ふふっ、黒耀は黒耀で私がどこまで喋ったか分からなくて身動きが出来ない筈よ。」
そう言い切って、笑いが込み上げてきた。なんて馬鹿な黒耀・・馬鹿みたい、本当に馬鹿みたい。黒耀なんて菫に拒絶されて苦しめばいいのだ。
だけど、私も・・馬鹿みたい。
いつの間にか笑いは、涙に変わっていた。悲しくて、悔しくて、惨めで、憎い。
「杏奈様・・・」
ズンが小さな声で言い、ハンカチ差し出してきた。かける言葉が思いつかないのだろうなと思う。受け取ったハンカチで涙を拭い、思いきり鼻をかんだ。高ぶった気持ちを落ち着ける。
「さぁ、ズン・・・」
私はこれからどうすればいいの?と言いかけて目を瞬いた。ズンはうずうずと堪えきれない様子で嬉しそうに私を見ていたのだ。
「な、なによ?その顔は」
「むほ、むほほ。杏奈様、ご安心下さい。全て上手くいきますよ。もう今後は、黒耀様がその女に惑わされる事はございません。」
「?」
ニマニマと微笑んで言うけれど、私は全く意味が分からず首を傾げた。そんな私をみて、安心させるような落ち着いた声で、話を続ける。
「元凶となった黒耀様のお心は、もうじき魔王様によって取り除かれますので。」
「えっ・・・!?」
「安心なさいましたか?」
「あ、安心? 冗談でしょう? そんな・・」
心がない黒耀だなんて・・・
「しかし、黒耀様のお心が他の女性に向いたまままのご結婚などお辛いでしょう?」
「けけ結婚?あ・・・私・・黒耀と、結婚・・出来るの?」
「私は先程、杏奈様のお気に召すようにいたしますと申しました。結婚はお気に召しませんか?」
「いいえ、いいえ・・そうではないけれど・・」
ズンが誇らしそうに頷いた。
「では話を進めましょう。魔王様は正式な婚約を約束されました。」
「あっ、ええと、待って。その、結婚って、嬉しいけど、黒耀は大丈夫なの?その、体調というか・・」
「ご心配なさっているのですね、ですが問題ありません。これから杏奈様が解決いたしますから。」
「え?えええ?どうやって?」
「はい、菫さんから黒耀様に力を返して頂くのです。つまりそれが、魔王様が出された婚約の条件ですので。」
菫から、力を、返す・?
「えっと・・よくわからないわ。つまり、具体的には、どうしたらいいの?」
「誓約を結べばいいのです。魂を代償にした、絶対の誓約を。」
ひゅ、と喉が鳴った。魂を代償にした誓約とはつまり、その者の願いと引き換えに魂を差し出させること。
「それ・・する必要がある?他に方法は・・」
私は、菫は憎いけど死んで欲しい訳じゃない。それに、人間の魂なんて、食べた事がない。怖じ気づいて一歩後ずさった。
「杏奈様、出来るだけきれいな状態で黒耀様にお返ししなければなりません。無理やりですとこれ以上に壊れてしまいます。それに、今魂を消滅させておいた方が杏奈様もご安心でしょうし。」
「で、でも私、そんな大きな誓約、したことがなくて。」
「杏奈様と、ではありませんよ。黒耀様と菫さんとの誓約です。杏奈様は上手く誘導して誓約書を書かせてくださればいいのです。」
あ、そう・・よね。黒耀に力を返すのが目的なのだから。だけど、恐い。それに命と引き換える程の願いなんて、私に引きだせるのかどうか。
「そんなこと、私・・どうやったらいいか」
「それは、杏奈様お任せいたします。あ、力を使った誓約は無効でございます。それから、必ず本人がそれを望んでいることが条件でありますので。」
「え?・・・あ・・・。」
「では、私は魔王様のサポートに行ってまいります。あ、これは勿論、杏奈様の将来の為に私が努力した結果ですので、くれぐれもお忘れなきようお願いいたします。」
「あっ、まって、まだ・・・」
呼び止めようと手を伸ばしたけれど、もう姿は消えていた。
・・・どうすればいいのよ。
う~ん、声が聞こえない。だけど、上手くいってるみたいね。
窓から覗いた部屋の中、つまり目玉の映す景色には、菫の取り乱した姿と呆然と立ち竦む黒耀の姿があった。
「杏奈さまぁ~」
「ぎゃっ」
ズンだ。さっき行ったばかりだというのに。驚いて双眼鏡を床に落としそうになった。
「何?忘れ物?」
テーブルにそっと置いて、睨み付ける。
「むほっ!?とんでもない、超特急で行って帰って参りましたとも。」
「早すぎない?」
「むほほ、事前にいろいろと準備しておりましたから。ところでご様子は?」
準備って何かしら?そう思いつつ、現状を説明した。
「むほほ。それは何よりです。さすがに家族を殺されたと知っては許すことは出来ませんね。」
「ん?」
「むほ?違うのですか?杏奈様は菫さんにあのことはお教えにならなかったのですか?」
「あのことって?」
「黒耀様が両親と碧本人を殺した話ですよ。」
死亡する原因を起こしたのが黒耀って話ね。
「ああ、そこまでは言わなかったの。だって私、黒耀とあの女の間にどのくらいの信頼関係があったか知らないんですもの。幼い頃ずっと一緒にいたのが黒耀だったなんて知ったら、呆気なく許しちゃうかもしれないでしょ?」
私の言葉に、ズンはキョトンとした。
「殺されたのは家族ですが、そんなものでしょうか?人間の家族愛は強いと聞きますが・・」
「う~ん、分からないけれど、記憶の曖昧な家族と、そばにいて心から信頼している人物だったら、どうなるか想像できないでしょ。」
「ははぁ、なるほど。」
私が知っているのは、施設で黒耀を見付けた時からだ。
「菫は、丁度黒耀が弱っている姿が恐かったみたいで、変なものが碧にとりついてるって言ったら簡単に信じたわ。それにね、ふふっ、黒耀は黒耀で私がどこまで喋ったか分からなくて身動きが出来ない筈よ。」
そう言い切って、笑いが込み上げてきた。なんて馬鹿な黒耀・・馬鹿みたい、本当に馬鹿みたい。黒耀なんて菫に拒絶されて苦しめばいいのだ。
だけど、私も・・馬鹿みたい。
いつの間にか笑いは、涙に変わっていた。悲しくて、悔しくて、惨めで、憎い。
「杏奈様・・・」
ズンが小さな声で言い、ハンカチ差し出してきた。かける言葉が思いつかないのだろうなと思う。受け取ったハンカチで涙を拭い、思いきり鼻をかんだ。高ぶった気持ちを落ち着ける。
「さぁ、ズン・・・」
私はこれからどうすればいいの?と言いかけて目を瞬いた。ズンはうずうずと堪えきれない様子で嬉しそうに私を見ていたのだ。
「な、なによ?その顔は」
「むほ、むほほ。杏奈様、ご安心下さい。全て上手くいきますよ。もう今後は、黒耀様がその女に惑わされる事はございません。」
「?」
ニマニマと微笑んで言うけれど、私は全く意味が分からず首を傾げた。そんな私をみて、安心させるような落ち着いた声で、話を続ける。
「元凶となった黒耀様のお心は、もうじき魔王様によって取り除かれますので。」
「えっ・・・!?」
「安心なさいましたか?」
「あ、安心? 冗談でしょう? そんな・・」
心がない黒耀だなんて・・・
「しかし、黒耀様のお心が他の女性に向いたまままのご結婚などお辛いでしょう?」
「けけ結婚?あ・・・私・・黒耀と、結婚・・出来るの?」
「私は先程、杏奈様のお気に召すようにいたしますと申しました。結婚はお気に召しませんか?」
「いいえ、いいえ・・そうではないけれど・・」
ズンが誇らしそうに頷いた。
「では話を進めましょう。魔王様は正式な婚約を約束されました。」
「あっ、ええと、待って。その、結婚って、嬉しいけど、黒耀は大丈夫なの?その、体調というか・・」
「ご心配なさっているのですね、ですが問題ありません。これから杏奈様が解決いたしますから。」
「え?えええ?どうやって?」
「はい、菫さんから黒耀様に力を返して頂くのです。つまりそれが、魔王様が出された婚約の条件ですので。」
菫から、力を、返す・?
「えっと・・よくわからないわ。つまり、具体的には、どうしたらいいの?」
「誓約を結べばいいのです。魂を代償にした、絶対の誓約を。」
ひゅ、と喉が鳴った。魂を代償にした誓約とはつまり、その者の願いと引き換えに魂を差し出させること。
「それ・・する必要がある?他に方法は・・」
私は、菫は憎いけど死んで欲しい訳じゃない。それに、人間の魂なんて、食べた事がない。怖じ気づいて一歩後ずさった。
「杏奈様、出来るだけきれいな状態で黒耀様にお返ししなければなりません。無理やりですとこれ以上に壊れてしまいます。それに、今魂を消滅させておいた方が杏奈様もご安心でしょうし。」
「で、でも私、そんな大きな誓約、したことがなくて。」
「杏奈様と、ではありませんよ。黒耀様と菫さんとの誓約です。杏奈様は上手く誘導して誓約書を書かせてくださればいいのです。」
あ、そう・・よね。黒耀に力を返すのが目的なのだから。だけど、恐い。それに命と引き換える程の願いなんて、私に引きだせるのかどうか。
「そんなこと、私・・どうやったらいいか」
「それは、杏奈様お任せいたします。あ、力を使った誓約は無効でございます。それから、必ず本人がそれを望んでいることが条件でありますので。」
「え?・・・あ・・・。」
「では、私は魔王様のサポートに行ってまいります。あ、これは勿論、杏奈様の将来の為に私が努力した結果ですので、くれぐれもお忘れなきようお願いいたします。」
「あっ、まって、まだ・・・」
呼び止めようと手を伸ばしたけれど、もう姿は消えていた。
・・・どうすればいいのよ。
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