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誓約
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**杏奈
どうしよう。何て言えばいい?
急な事で頭がごちゃごちゃする。それに私が勝手に誓約なんてしたら、黒耀にどう思われるか。あ・・・心がないなら怒ったりしないのかしら。それに、さっきズンいったようにあの娘の魂が消えてくれればもう今後一切煩わされることはないのだわ。心がないとはいえ、万が一ということもあるから。
と、とりあえず、様子を見ないことには何も始まらないわよね・・
私は名前を書かせるだけ、それだけよ。
自分に言い聞かせ、もう一度双眼鏡を覗いた。
あれ?黒耀・・?何が起きたのか、床に横たわる黒耀を、菫が取り乱した様子で引っ張っている様子が見えた。もしかして黒耀はもう、碧の身体から出て行ったのかしら?ズンが連れて行った?・・・もしそうなら、あれはただの死体ってことよね。
いけるかも、と思った。
**
急いで菫の元へ向かうと、菫は覗いた時と同様に酷く取り乱していて、ベッドのすぐ横の床の上には布団を掛けられた碧が横たわっていた。きっと、最初はベッドに寝かせようとしたのだと思う。
泣きじゃくる菫を落ち着かせ、私は、時間をかけて何が起きたかを尋ねた。
「碧に、出て行ってと言ったのね。そうしたら、突然倒れたの?」
「いいえ、いいえ、違います。碧じゃなかった、だから怖くなってそう言ったんです。」
「碧じゃなかった?」
「ええ、やっぱりそうだったんです。あれは碧じゃなかったわ。きっと碧に乗り移った恐ろしいものだったんです。でも、どうしよう。出て行ったのは良かったのですけど、碧の目が覚めないんです。」
簡単に済ませようと思っていたけのだけど、ワァワァとまるで被害者の様に泣く菫を前にして気が変わった。この女は、もっと苦しむべきなのだ。
「ねぇ、菫、碧って、誰の事を言っているの?」
「えっ?碧は碧です。ここにいる、碧のことです。」
「あら。じゃあ、この状態が正解だと思うわよ。」
菫は間抜けな顔で私を見つめた。
「杏奈先生?正解ってなんですか?碧は目が覚めないんです。」
「ええ、だから。碧ならずっとこうだったでしょう?」
菫の、混乱する様が面白い。
「違います先生っ!先生もこの前、碧と買い物して、おしゃべりだってしたじゃないですかっ」
「ぷっ。なぁんだ、菫の言う碧って、あの人の事だったのね。」
「・・・あの人って、何ですか?碧は・・」
菫の目が、大きく見開かれた。
「あのねぇ、あなたの双子の碧なら、もうとっくの昔に死んでいるわ、事故の時にね。」
「え・・・?碧は、碧は、ずっと・・いました・・よね?」
つくづく馬鹿な女だと思う。
「その碧なら、あなたが追い出したのでしょう? だからほら見て。あの身体はもう、ただの死体よ。あなたがあの人を追い出したから、身体だけが返されたのよ。」
「え?え?そんなこと・・・あ、杏奈先生はいったい・・ 追い出すって何ですか?碧は、今どこに?」
黒耀がいなくなった今なら、菫に全てを話してあげられる。菫がどちらの碧を想ったとして、どちらもいないのだから。詳しく理解すれば理解する程に、罪悪感で苦しむしかないのだから。
私は丁寧に、丁寧に、時間をかけて説明してやった。
「碧が死んでいたなんて、悲しい?」
最後の仕上げに、揺さぶりをかける。目的は誓約書だ。
「あ、当たり前なこと、聞かないで下さい。」
「そうよね。死んだことさえ知らず、今まで笑ってたんだものね。」
罪悪感でいっぱいにさせてあげる。
そして・・・。
「でももし、碧を取り戻せるとしたら、どうする?」
菫はパッと、弾かれたように顔を上げた。
「どういう事ですか!?さっき、死んでるって。」
「ええ、死んでいるの。だけどね、方法が無いわけじゃない。」
「どうしたらいいですかっ!?」
「方法は簡単よ。あの人にね、力を返せばいいの。」
「返す、ですか?」
あぁ、あと少しだったのに、説明が足りていなかった。うんざりしながら教えてあげる。事故で死ぬところだった菫は、彼の力を分けてもらって生き延びたのだと。
「私・・・その人に、助けられたんですか?」
おっと。感謝の気持ちは余計だったわ。慌てて、不本意の出来事だったと付け加えた。黒耀が菫をどれ程想っていたかなんて、知る必要はない。
「あの、その人は、今どこに?」
「聞いてどうするのよ。」
「だって・・・、言わないと・・」
「お礼でも言うつもり? ほんっと、ばっかねぇ。あのね、彼は、あんたのせいで、心を失ったのよ。だから今さら、そんなの何の意味もないわ。あんたは、ただ、碧の事を願いながら力を返してくれればいいのっ!」
「私のせいで、心を?」
「・・・っ。」
頭に血が昇って余計な事を言い過ぎた。
「とにかくっ! 誓約するのっ?しないのっっ?」
「誓約・・・?」
あぁ、もうグダグダ。落ち着く為に、大きく深呼吸をした。
「そう、これは誓約なのよ。誓約すれば、願いが叶うわ。」
「どんな願いでもですか?」
「ええ。」
「あの・・」
「何?」
「もし・・もしもですけど、碧が、もし、今、息を吹き返したとしたら、それは碧ですか?それとも、その人なのでしょうか?」
突然何を言い出すかと思えば、まだ私の話を信じていないのかしら。
「どっちもないわ。事故の時に奇跡が起きていない限り息なんて吹き返さないし、あの人は今別の場所にいるの。まだ夢を見ているようだけど、あなたが誓約をしなければ碧の身体は腐っていくだけだなのよ!」
菫は少し戸惑いつつも、最後には、誓約に同意した。力を返すことが死を意味することは、教えてやらなかった。だって、自業自得でしょう?
署名し終えると、菫の身体呆気なく崩れ落ちた。こんなのに今まで苦労していただなんて。後ろめたさはない、寧ろ清々していた。これで黒耀も完全に戻れるし、私はついに彼の・・・。その時、背後からごそごそと人の動く気配がした。碧の身体に魂が戻ってきたのだ。
「う・・み・・・?」
誓約は、間違いなく結ばれた。それを確認し、私は静かに部屋を出た。
どうしよう。何て言えばいい?
急な事で頭がごちゃごちゃする。それに私が勝手に誓約なんてしたら、黒耀にどう思われるか。あ・・・心がないなら怒ったりしないのかしら。それに、さっきズンいったようにあの娘の魂が消えてくれればもう今後一切煩わされることはないのだわ。心がないとはいえ、万が一ということもあるから。
と、とりあえず、様子を見ないことには何も始まらないわよね・・
私は名前を書かせるだけ、それだけよ。
自分に言い聞かせ、もう一度双眼鏡を覗いた。
あれ?黒耀・・?何が起きたのか、床に横たわる黒耀を、菫が取り乱した様子で引っ張っている様子が見えた。もしかして黒耀はもう、碧の身体から出て行ったのかしら?ズンが連れて行った?・・・もしそうなら、あれはただの死体ってことよね。
いけるかも、と思った。
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急いで菫の元へ向かうと、菫は覗いた時と同様に酷く取り乱していて、ベッドのすぐ横の床の上には布団を掛けられた碧が横たわっていた。きっと、最初はベッドに寝かせようとしたのだと思う。
泣きじゃくる菫を落ち着かせ、私は、時間をかけて何が起きたかを尋ねた。
「碧に、出て行ってと言ったのね。そうしたら、突然倒れたの?」
「いいえ、いいえ、違います。碧じゃなかった、だから怖くなってそう言ったんです。」
「碧じゃなかった?」
「ええ、やっぱりそうだったんです。あれは碧じゃなかったわ。きっと碧に乗り移った恐ろしいものだったんです。でも、どうしよう。出て行ったのは良かったのですけど、碧の目が覚めないんです。」
簡単に済ませようと思っていたけのだけど、ワァワァとまるで被害者の様に泣く菫を前にして気が変わった。この女は、もっと苦しむべきなのだ。
「ねぇ、菫、碧って、誰の事を言っているの?」
「えっ?碧は碧です。ここにいる、碧のことです。」
「あら。じゃあ、この状態が正解だと思うわよ。」
菫は間抜けな顔で私を見つめた。
「杏奈先生?正解ってなんですか?碧は目が覚めないんです。」
「ええ、だから。碧ならずっとこうだったでしょう?」
菫の、混乱する様が面白い。
「違います先生っ!先生もこの前、碧と買い物して、おしゃべりだってしたじゃないですかっ」
「ぷっ。なぁんだ、菫の言う碧って、あの人の事だったのね。」
「・・・あの人って、何ですか?碧は・・」
菫の目が、大きく見開かれた。
「あのねぇ、あなたの双子の碧なら、もうとっくの昔に死んでいるわ、事故の時にね。」
「え・・・?碧は、碧は、ずっと・・いました・・よね?」
つくづく馬鹿な女だと思う。
「その碧なら、あなたが追い出したのでしょう? だからほら見て。あの身体はもう、ただの死体よ。あなたがあの人を追い出したから、身体だけが返されたのよ。」
「え?え?そんなこと・・・あ、杏奈先生はいったい・・ 追い出すって何ですか?碧は、今どこに?」
黒耀がいなくなった今なら、菫に全てを話してあげられる。菫がどちらの碧を想ったとして、どちらもいないのだから。詳しく理解すれば理解する程に、罪悪感で苦しむしかないのだから。
私は丁寧に、丁寧に、時間をかけて説明してやった。
「碧が死んでいたなんて、悲しい?」
最後の仕上げに、揺さぶりをかける。目的は誓約書だ。
「あ、当たり前なこと、聞かないで下さい。」
「そうよね。死んだことさえ知らず、今まで笑ってたんだものね。」
罪悪感でいっぱいにさせてあげる。
そして・・・。
「でももし、碧を取り戻せるとしたら、どうする?」
菫はパッと、弾かれたように顔を上げた。
「どういう事ですか!?さっき、死んでるって。」
「ええ、死んでいるの。だけどね、方法が無いわけじゃない。」
「どうしたらいいですかっ!?」
「方法は簡単よ。あの人にね、力を返せばいいの。」
「返す、ですか?」
あぁ、あと少しだったのに、説明が足りていなかった。うんざりしながら教えてあげる。事故で死ぬところだった菫は、彼の力を分けてもらって生き延びたのだと。
「私・・・その人に、助けられたんですか?」
おっと。感謝の気持ちは余計だったわ。慌てて、不本意の出来事だったと付け加えた。黒耀が菫をどれ程想っていたかなんて、知る必要はない。
「あの、その人は、今どこに?」
「聞いてどうするのよ。」
「だって・・・、言わないと・・」
「お礼でも言うつもり? ほんっと、ばっかねぇ。あのね、彼は、あんたのせいで、心を失ったのよ。だから今さら、そんなの何の意味もないわ。あんたは、ただ、碧の事を願いながら力を返してくれればいいのっ!」
「私のせいで、心を?」
「・・・っ。」
頭に血が昇って余計な事を言い過ぎた。
「とにかくっ! 誓約するのっ?しないのっっ?」
「誓約・・・?」
あぁ、もうグダグダ。落ち着く為に、大きく深呼吸をした。
「そう、これは誓約なのよ。誓約すれば、願いが叶うわ。」
「どんな願いでもですか?」
「ええ。」
「あの・・」
「何?」
「もし・・もしもですけど、碧が、もし、今、息を吹き返したとしたら、それは碧ですか?それとも、その人なのでしょうか?」
突然何を言い出すかと思えば、まだ私の話を信じていないのかしら。
「どっちもないわ。事故の時に奇跡が起きていない限り息なんて吹き返さないし、あの人は今別の場所にいるの。まだ夢を見ているようだけど、あなたが誓約をしなければ碧の身体は腐っていくだけだなのよ!」
菫は少し戸惑いつつも、最後には、誓約に同意した。力を返すことが死を意味することは、教えてやらなかった。だって、自業自得でしょう?
署名し終えると、菫の身体呆気なく崩れ落ちた。こんなのに今まで苦労していただなんて。後ろめたさはない、寧ろ清々していた。これで黒耀も完全に戻れるし、私はついに彼の・・・。その時、背後からごそごそと人の動く気配がした。碧の身体に魂が戻ってきたのだ。
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