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***アリア視点***
メリッサを連れて陛下の執務室の前まで来た私は、落ち着く為に深呼吸をした。
「メリッサ、いいわ。引き継いでちょうだい。」
「はい、アリア様。」
入室の許しを得る為に先にメリッサが向かった。
勢いでここまで来たはいいけれど、話をして頂けるのかしら、と不安になってしまう。
けれど、すぐに通されて安堵した。婚礼するという自覚は持っていらっしゃるようだ。
陛下は私が部屋に入ってもお手を止めることなく仕事をなさっていた。少し呆れつつ私は構わず口を開いた。
「ごきげんよう。いきなりで申し訳ないのですが、陛下は細工の新しい技術に興味をお持ちだと伺いました。」
「何処で聞いてきた?」
視線をお上げになる事もなく、質問だけなさった。
「婚礼衣装の準備をしている時に耳に致しました。その技術を買ったとして、陛下はどのように広めるおつもりですか?」
手がピタリと止まった。
「何処まで首を突っ込む気だ。お前に関係ないだろう。」
関係ないなんてとんでもない。その話の為にわざわざ来たのに。王妃となるからにはきちんと存在を示したいと思う。
「陛下、私はもうすぐ王妃となります。関係なくはございません。私はただ、陛下のお役に立ちたいのです。」
「ふん、お前はここにいながら、まだ国の事が忘れられない様だな。衣装にリュヌレアムの色を入れると聞いたぞ。信用できん。」
衣装の事まで口出しされるとは思っていなくて、はっとした。私の失態だ。
「そ、それは、、 っ申し訳ありません。つい、懐かしくて安易な事をしてしまいました。すぐに作り替えさせます。」
「はっ。白々しい。」
だけど、ここで引き下がる訳にはいかない。気持ちを引き締めた。
「けれど陛下、細工の件は、私に考えがございます。各国の要人達が集まる場で、さりげなく見せて、反応を見てはいかがでしょうか? 浅はかな私ですが、陛下の為にと、日々考えを巡らせております。どうか、私をお使い下さい。」
「ふん、どういう意味だ。」
「婚礼の衣装に合わせて作らせるのです。その日は誰もが私に注目致します。」
「、、、」
ちらりと見ると、陛下は顎に手をお当てになって、考え込んでいらっしゃる。
「職人は1人と伺いました。たくさん作らせる事は難しいですが、逸品を作らせるならば可能でしょう。」
「逸品か、、、」
「はい。逸品でございます。」
精一杯の笑顔を作って見せた。
***シン視点***
ついに王宮に踏み入れることが出来た。
思いの外すんなりと事が運び、嬉しい反面、どこかに落とし穴があるのではないかと、不安が伴う。焦ってはいけないと自分に何度も言い聞かせた。
最初に通されたのは国王陛下との婚礼を控えた女の部屋だった。そこには女と、国王陛下と側近、侍女達がいた。
リサさんと俺は多くの目に晒されながら、挨拶をした。
マイクさんから聞いた話によると、この国王陛下がレイラを監禁しているのだ。いかにも偉そうに、ふんぞり返っていた。見ると睨んでしまいそうで、目を伏せた。
女の方は、アリア様と呼ばれていた。感情が表に出る手合いの女で、俺を見て、明らかに落胆の色を浮かべた。
「ねぇリサ、まさかこのお爺さんが職人だなんて言うんじゃないでしょうね?」
「はい、この方が陛下がご興味を示されている細工職人でございます。」
「陛下、このような年寄りで大丈夫でしょうか?。この者に流行を作り出せるか不安です。」
「ふん」
「恐れながら申し上げます。この者は確かに年は重ねていますが、それゆえの技巧がございます。 陛下、シンさんの作った物をお見せしてもいいでしょうか?」
「許す」
「シンさん、お見せして下さい。」
布に包んだ箱を取り戻し、テーブルに乗せた。
緊張のせいで、手が震える。
「ふん、緊張してるのか。」
「申し訳ございません。わしの様な老いぼれが、この様な機会を頂ける事は滅多に無いこと。恐れ多さのあまり手が震える事をお許し下され。」
「ふん、細工する時には震えるなよ。」
「勿論でございます。」
必死に震えを押さえながら、布をめくり、箱の蓋を開けた。中に入ってあるのはブレスレットが1つ。今回は時間が無さすぎた。けれど丹精込めて作り上げた自信作だ。作品の一つ一つが、レイラへと繋がる橋になると思えば、絶対に気は抜けない。
中の物が見えた途端、歓声が上がった、
「まあっ! まぁまぁっ! 凄いわ、素敵。なんて綺麗なの?」
歓声を上げたのは、あんなに難色を示していたアリアという女で俺は呆気に取られてしまった。
「あ、ありがとうございます。」
「凄いわ、手に取ってもいいかしら? なんて華奢で素敵なの? あら? 貴方の耳にも付いているのね。気が付かなかったわ。」
「あ、ああ、そうですじゃ、年寄りには相応しくないでしょうが、これは愛着がある物でして、、」
「見せてちょうだい。」
「こ、この様な老いぼれが付けていた物など、、」
不敬にならないかと、ちらりと国王陛下を見ると、
「構わん。見せてやれ」
と言われ、おそるおそる耳からピアスを外した。レイラが落としていった、片方だけのピアスだ。
「これは、、また、すごく繊細だわ。」
当たり前だ。レイラの為に作った物だから。
「ありがとうございます。」
「さっそく婚礼衣装と一緒にデザインを考えましょう。」
アリアが騒ぎ立ててる横で、国王陛下は退屈してきたのか、そわそわして、立ち上がり、側近に何かを耳打ちし始めた。その後、
「後は任せる。」
と、言い残し退室していった。
すぐに側近がリサさんに何かを伝えている。一瞬、強張って、その後力を抜いた様に見えた。
何かあったのかと不安が広がるが、まずはこのアリアの相手をこなさなければならない。アリアは装身具だけでなく衣装の事まで聞いてくるから面食らった。婚礼衣装など知る筈もない。
長い打ち合わせがやっと終わり、くたびれ果ててリサさんと部屋を出た。この打ち合わせがあと何回あるのかと、うんざりした。
ただ1人、目を輝かせていたアリアの顔が思い出され、失笑してしまった。
不意に、リサさんが申し訳無さそうにこちらを見た。
「あの、シンさん、、お疲れの所、悪いのだけど、、もう1人、いいかしら?」
ごくりと、唾を飲み込んだ。
メリッサを連れて陛下の執務室の前まで来た私は、落ち着く為に深呼吸をした。
「メリッサ、いいわ。引き継いでちょうだい。」
「はい、アリア様。」
入室の許しを得る為に先にメリッサが向かった。
勢いでここまで来たはいいけれど、話をして頂けるのかしら、と不安になってしまう。
けれど、すぐに通されて安堵した。婚礼するという自覚は持っていらっしゃるようだ。
陛下は私が部屋に入ってもお手を止めることなく仕事をなさっていた。少し呆れつつ私は構わず口を開いた。
「ごきげんよう。いきなりで申し訳ないのですが、陛下は細工の新しい技術に興味をお持ちだと伺いました。」
「何処で聞いてきた?」
視線をお上げになる事もなく、質問だけなさった。
「婚礼衣装の準備をしている時に耳に致しました。その技術を買ったとして、陛下はどのように広めるおつもりですか?」
手がピタリと止まった。
「何処まで首を突っ込む気だ。お前に関係ないだろう。」
関係ないなんてとんでもない。その話の為にわざわざ来たのに。王妃となるからにはきちんと存在を示したいと思う。
「陛下、私はもうすぐ王妃となります。関係なくはございません。私はただ、陛下のお役に立ちたいのです。」
「ふん、お前はここにいながら、まだ国の事が忘れられない様だな。衣装にリュヌレアムの色を入れると聞いたぞ。信用できん。」
衣装の事まで口出しされるとは思っていなくて、はっとした。私の失態だ。
「そ、それは、、 っ申し訳ありません。つい、懐かしくて安易な事をしてしまいました。すぐに作り替えさせます。」
「はっ。白々しい。」
だけど、ここで引き下がる訳にはいかない。気持ちを引き締めた。
「けれど陛下、細工の件は、私に考えがございます。各国の要人達が集まる場で、さりげなく見せて、反応を見てはいかがでしょうか? 浅はかな私ですが、陛下の為にと、日々考えを巡らせております。どうか、私をお使い下さい。」
「ふん、どういう意味だ。」
「婚礼の衣装に合わせて作らせるのです。その日は誰もが私に注目致します。」
「、、、」
ちらりと見ると、陛下は顎に手をお当てになって、考え込んでいらっしゃる。
「職人は1人と伺いました。たくさん作らせる事は難しいですが、逸品を作らせるならば可能でしょう。」
「逸品か、、、」
「はい。逸品でございます。」
精一杯の笑顔を作って見せた。
***シン視点***
ついに王宮に踏み入れることが出来た。
思いの外すんなりと事が運び、嬉しい反面、どこかに落とし穴があるのではないかと、不安が伴う。焦ってはいけないと自分に何度も言い聞かせた。
最初に通されたのは国王陛下との婚礼を控えた女の部屋だった。そこには女と、国王陛下と側近、侍女達がいた。
リサさんと俺は多くの目に晒されながら、挨拶をした。
マイクさんから聞いた話によると、この国王陛下がレイラを監禁しているのだ。いかにも偉そうに、ふんぞり返っていた。見ると睨んでしまいそうで、目を伏せた。
女の方は、アリア様と呼ばれていた。感情が表に出る手合いの女で、俺を見て、明らかに落胆の色を浮かべた。
「ねぇリサ、まさかこのお爺さんが職人だなんて言うんじゃないでしょうね?」
「はい、この方が陛下がご興味を示されている細工職人でございます。」
「陛下、このような年寄りで大丈夫でしょうか?。この者に流行を作り出せるか不安です。」
「ふん」
「恐れながら申し上げます。この者は確かに年は重ねていますが、それゆえの技巧がございます。 陛下、シンさんの作った物をお見せしてもいいでしょうか?」
「許す」
「シンさん、お見せして下さい。」
布に包んだ箱を取り戻し、テーブルに乗せた。
緊張のせいで、手が震える。
「ふん、緊張してるのか。」
「申し訳ございません。わしの様な老いぼれが、この様な機会を頂ける事は滅多に無いこと。恐れ多さのあまり手が震える事をお許し下され。」
「ふん、細工する時には震えるなよ。」
「勿論でございます。」
必死に震えを押さえながら、布をめくり、箱の蓋を開けた。中に入ってあるのはブレスレットが1つ。今回は時間が無さすぎた。けれど丹精込めて作り上げた自信作だ。作品の一つ一つが、レイラへと繋がる橋になると思えば、絶対に気は抜けない。
中の物が見えた途端、歓声が上がった、
「まあっ! まぁまぁっ! 凄いわ、素敵。なんて綺麗なの?」
歓声を上げたのは、あんなに難色を示していたアリアという女で俺は呆気に取られてしまった。
「あ、ありがとうございます。」
「凄いわ、手に取ってもいいかしら? なんて華奢で素敵なの? あら? 貴方の耳にも付いているのね。気が付かなかったわ。」
「あ、ああ、そうですじゃ、年寄りには相応しくないでしょうが、これは愛着がある物でして、、」
「見せてちょうだい。」
「こ、この様な老いぼれが付けていた物など、、」
不敬にならないかと、ちらりと国王陛下を見ると、
「構わん。見せてやれ」
と言われ、おそるおそる耳からピアスを外した。レイラが落としていった、片方だけのピアスだ。
「これは、、また、すごく繊細だわ。」
当たり前だ。レイラの為に作った物だから。
「ありがとうございます。」
「さっそく婚礼衣装と一緒にデザインを考えましょう。」
アリアが騒ぎ立ててる横で、国王陛下は退屈してきたのか、そわそわして、立ち上がり、側近に何かを耳打ちし始めた。その後、
「後は任せる。」
と、言い残し退室していった。
すぐに側近がリサさんに何かを伝えている。一瞬、強張って、その後力を抜いた様に見えた。
何かあったのかと不安が広がるが、まずはこのアリアの相手をこなさなければならない。アリアは装身具だけでなく衣装の事まで聞いてくるから面食らった。婚礼衣装など知る筈もない。
長い打ち合わせがやっと終わり、くたびれ果ててリサさんと部屋を出た。この打ち合わせがあと何回あるのかと、うんざりした。
ただ1人、目を輝かせていたアリアの顔が思い出され、失笑してしまった。
不意に、リサさんが申し訳無さそうにこちらを見た。
「あの、シンさん、、お疲れの所、悪いのだけど、、もう1人、いいかしら?」
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