上 下
2 / 35

2

しおりを挟む

アトリエのある男性の住居は公園からさほど遠くないらしく、男性の後をぴょこぴょこ付いて歩いた。

「ああ、自己紹介、忘れていたね」

男性が立ち止まり、白い名刺を差し出した。

受け取り、名刺を見ると、長谷部広隆 アトリエ・ブロッサム代表の文字。

「...工房とか、そんな感じですか?」

「ああ、まあ、そうなるかな」

「僕は西垣祐希です」

歩きながら自己紹介をし合った。

「幾つ?」

「22です」

「広隆さん...あ、いや、先生は?」

「僕は31。さ、着いたよ」

真新しいとは言えないが、大きな一軒家だった。

玄関を入り、リビングへ。きょろきょろと辺りを見渡しながら中へと入る。

「アトリエは廊下を隔てた一室だけど。仕事の前に腹ごしらえ、と言いたいところだけど、シルエットに差し障るから...先に仕事にしようか?」

(....シルエット?)

「はい!一週間、勤務していなかったから、体がなまってしまっていますし!楽しみです?」

意気揚々とした僕に先生は笑顔を向けた。

「そうか、助かるよ。ちょっと待っていてくれるかな?」

「はい!」

しばらく待ち、先生から手渡されたのは白いバスローブだった。

「...え?バスローブ?」

「浴室は左奥にあるから」

先生の笑顔を俺は目を丸くし見上げた。

アトリエに着くと、キャンバスと椅子があり、中央の床には薄いマットが敷いてある。

「さて。祐希くん、バスローブ脱いでくれるかな」

椅子を引き、先生は座るとキャンバスに向き合いながら俺を促した。

「ぬ、脱ぐんですか...?」

「ああ、言ってなかったかな?僕は画家でね、ちょうど、いいモデルを探していたところだったんだ」

(...聞いてない!)

...でも、やっとありつけた仕事、しかも、最低三十万、家賃も浮く....。

俺は意を決して、バスローブを脱いだ。

「いい身体、してるね」

「....大して筋肉もありませんが...」

「そこがいいんだよ、ノンケって感じで」

「...ノンケって?」

「ああ、画家の専門用語だから気にしなくていいよ」

「....はい」
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

月城副社長うっかり結婚する 〜仮面夫婦は背中で泣く〜

恋愛 / 完結 24h.ポイント:92pt お気に入り:85

運命の相手は私ではありません~だから断る~

恋愛 / 完結 24h.ポイント:13,887pt お気に入り:985

能力1のテイマー、加護を三つも授かっていました。

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:10,303pt お気に入り:2,215

異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,002pt お気に入り:33

処理中です...